第4話 思い出の巡礼
再会から二週間が経ったある朝、遥から珍しく早い時間にメッセージが届いた。
「今日、店がお休みなんだけど……
昔よく行ったところ、一緒に回らない?」
俺は迷わず「行く」と返事した。
朝9時に「潮音」の前で待ち合わせをし、俺の車で出発した。
最初に向かったのは、高校時代に何度もデートした小さな岬の展望台。
15年前は自転車で必死に登った道を、今は車で軽々と上がっていく。
展望台に着くと、遥はフェンスにもたれながら遠くの海を見た。
「ここ、拓也くんと来たの、最後が大学受験の直前だったよね。
『絶対に合格するから待ってて』って、めちゃくちゃ強がってた。」
俺は苦笑いした。
あの頃の自分は、まだ何も知らなかった。
その後、俺たちがよく勉強した海辺の図書館、初デートで食べた古いパスタ屋、告白した砂浜……と、俺たちは15年前の足跡をたどっていった。
夕方近く、俺たちは最後の場所——あの灯台に来た。
前回とは違い、夕陽が海を真っ赤に染めていた。
遥が静かに言った。
「ここに来ると、いつも思うの。
もしあのとき、私が『行かないで』って強く言っていたら……
拓也くんは残ってくれたのかなって。」
俺は喉が詰まった。
「遥……俺は、結局自分の夢を優先した。
君を置いて東京に行って、約束を破った。
それは、どんな理由があっても、俺の弱さだ。」
遥はゆっくり首を振った。
「私も、母親の看取りが終わった後に東京に行こうと思った時期があったの。
でも、怖かった。
拓也くんに会って、拒絶されたらどうしようって……
結局、この町から出られなかった。」
風が強くなってきた。
遥の髪が乱れ、彼女はそれを手で押さえながら、寂しげに微笑んだ。
「ねえ、拓也くん。
私たち、15年遅すぎたのかもしれないね。」
その言葉が、胸に深く突き刺さった。
俺は思わず彼女の手を握った。
遥の手は細くて、少し冷たかった。
「遅すぎたかどうかは、まだわからない。
……少なくとも、今はここにいる。」
遥は俺の手をそっと握り返し、夕陽に向かって目を細めた。
「うん。今は、ここにいるね。」
帰りの車の中で、遥は助手席で静かに眠ってしまった。
横顔を見ながら、俺は思う。
この切ない再会は、幸せへの始まりなのか、それとももう一度の別れへの序章なのか。
海の向こうに沈む夕陽は、答えをくれなかった。
ただ、赤く、静かに、俺たちのこれからを照らしているだけだった。




