表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮風が運んだ言葉  作者: 蒼狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/8

第2話 灯台の記憶

再会から三日が経った。


俺は毎朝、父のリハビリを手伝った後、なんとなく「潮音」の前を通るようになった。

遥はいつもカウンターの奥で微笑んで手を振ってくれる。言葉は少ないけど、その微笑みが不思議と心を軽くした。


その日、店が閉まる少し前に、遥からメッセージが来た。


「よかったら、灯台まで散歩しない?」


俺は自転車を飛ばして店に行き、閉店作業を手伝った。

遥はエプロンを外しながら、少し照れたように言った。


「昔、よく行ったよね。あそこ」


海沿いの道を二人で歩く。

夏の終わりを告げる風が、潮の匂いを運んでくる。遥の横顔を時々盗み見ながら、俺は15年前のことを思い出していた。


当時、俺は23歳。東京の大学に進学することが決まっていた。

遥は地元で母親の介護をしながら、将来を模索していた。

最後の夜、灯台の下で俺は彼女に言った。


「待っててくれ。必ず迎えに来るから」


遥は泣きながら頷いた。


でも俺は、約束を果たせなかった。

東京での生活に飲み込まれ、電話も次第に減り、三年目に彼女から届いた「もう待てない」というメッセージに、俺はただ「ごめん」とだけ返した。


「あのとき、すごく傷ついたよ」


灯台に着き、柵にもたれながら遥が静かに言った。

声に怒りはなかった。ただ、穏やかな諦めのようなものが混じっていた。


「俺は……本当に最低だった」


「ううん。今は責めていない。ただ、ちゃんと話したかっただけ。」


遥は海を見つめたまま続けた。


「母さんが倒れてからは、自分のことで精一杯で……拓也くんのことを考える余裕もなくなった。

でも、時々、この灯台に来ると、ふと思うの。

『もしあのとき、違う選択をしていたら』って」


俺の胸が痛んだ。

15年という時間は、二人から多くのものを奪い、また多くのものを与えていた。


しばらく無言で波の音を聞いていた。

遥が小さく息を吐いて、俺の方を向いた。


「でもね、今はこうして拓也くんとまたここにいられる。

それが、なんだか不思議で……少し嬉しい。」


その言葉が、胸の奥にじんわりと染み込んだ。


帰り道、俺は遥の横をゆっくり歩きながら思った。

もう若くない。

取り戻せない時間はたくさんある。

でも、まだ残されている時間もあるのかもしれない。


家に帰る直前、遥が振り返って言った。


「おやすみ、拓也くん。

また、ゆっくり話しましょう」


彼女の後ろ姿を見送りながら、俺は灯台の灯が遠くで瞬いているのを見上げた。


潮風が、優しく、でも少し冷たく頰を撫でた。

15年分の想いが、まだ胸のどこかに温かく残っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ