第七話 休憩タイムはちょっぴり豪華に
国王陛下と会話を済ませた僕ら。宿屋を取ってくれているようなのでそちらに向かっている。流石に、普通の宿には止めさせてもらえないだろう。
僕ら四人と、一人の門番は暗くなった城下町をまっすぐ進んでいる。日本で言う、都会のように前訪れた村よりも明るい印象を受けた。街灯が、遅くまで点灯している。
どこに向かっているかはわからないが、場所は泊るところだと把握しているみんなは、先ほどの不機嫌さを吹き飛ばすほどご機嫌だった。
「絶対高級旅館よ、勝ち組ね。」
そんな確信は一切ないが、そうとは疑わないアンナ。それに無言でうなずくのは、意外にもケイルだった。
「できれば、露天風呂が欲しい。」
「分かる!」
謎に共感している中、悪いとは思うが……この世界”露天風呂”存在したんだ。作品によってはあれだが、露天風呂が無い場合もある。冷たい湖はあっても、横になれたりする温泉は難しいだろう。
個々にはあるんだと思うとほっとする。てか、この世界にきてから湯船につかってない。軽く水浴びをすることはあったが。シャンプーやリンスが恋しいと思いつつさらに足を進めた。
数分後。ついたのは、アンナが予言していた、確信づいていた大きな館だった。お出迎えするのは、スーツに身を包む男性スタッフ。この世界にきてスーツを見るのも、その人が初めてだった。
「お待ちしておりました。”勇者様方”。ようこそ、旅館オウランヘ。」
そこに広がっていたのは、またしても赤い絨毯。金色の装飾が施された家具がそこら中に置かれている。どれも僕は生まれて初めて見るものだった。一か月以上いるはずなのに、まだまだ知らないことの方が多そうだ。
スタッフに案内されるがまま、僕らは客室についた。それは、語彙力が消えるほど大きな客室だった。
ベットが人数分。一部屋借りるとはいえ、ほぼシェアハウス並みの広さだ。
「おお……」
流石のレオンも、感嘆の息を漏らしベッドに触れている。僕も近づいてみる。うん。つやつやの絹製と思わしき布団。ふかふかのクッション。ここは本当に異世界かと思うほど質感がガラッと変わった。
旅館という何ふさわしい外観と中身。そして、さらっとスタッフに言われた。
温泉があるらしい。
女性陣も男性陣もとても嬉しそう。僕ももちろん嬉しかった。ガッツポーズをする勢いで、ケイルが荷解きを始めるし、アンナやルマは薬草を取り出して何かを作っている。本当に、彼らは自由な人たちだ。
「よーし、そろそろ風呂行くか!」
ケイルはそういうと、なぜか僕の背中に手を添えて歩き出した。ええっと、拒否権ない感じ?おなかすいたんですけど。そう訴えるように上を見上げていると、ケイルはにこっと笑った。
「風呂入ったら、ご飯だってよ。」
「あ、そうなんですね。」
そんな話をしていただろうかと、困惑しながらも男子と女子に分かれて風呂に向かう。異世界なのかと疑うほど、のんびりできる時間だった。
風呂。いや、温泉はなぜか人が出払っており、ほぼ貸し切り状態だった。僕はどちらかというと、ホテルに行っても個室に備えつきのシャワーを浴びる。だから、温泉自体かなり久しぶりだった。一見、変わりがないように思えたが少しだけ目を疑うものがある。
ええと、桶とかないんだ。
よく銭湯に置かれている木製のあれ。それから、椅子もない。レオンとケイルは腰にタオルを巻き、シャワーも浴びずに温泉につかっていく。そもそもシャワーもなかった。流石にいきなり入るほど、この世界の文化に慣れておらず、適当に水をすくって自分にかけた。
「リヒト~気持ちいぞ!」
ケイルがぶんぶんと手を振り、早くは行って来いといわんばかりにせかしてくる。ちょっと待ってくれ。一応形上でも体を洗いたいんだ。
満足がいくまで、洗い終えた僕はケイルとレオンのそばに座る。体感、一か月以上入っていないお湯。それはもう、極楽だった。指先から、頭のてっぺんまで温まるようなそんな感覚がする。見上げると、露天風呂だからこそ見える星々が僕らを静かに見守っていた。
「なんだか疲れましたね。」
ふと、そんなセリフが自分の口からこぼれていた。今日はなんだかおかしい。そりゃそうか。つい先ほどまで、システムのバグで体の自由を奪われていたのだから。
それから、シナリオがガラッと変わり国王とも顔を合わせた。百年ほど生きる時代における、イベントを一日で攻略した気分だ。
僕のぽつりとした言葉に、レオンがそっと答える。
「ああ。疲れた。」
素直過ぎた。裏表という概念はなく、表しかない。流石、主人公。そういうのがやっぱりいいとか悪いとか。よくわからないが、隣のケイルも負けていない。ゲラゲラと笑いながら、僕らを見て言う。
「お前ら、疲れてんな~」
溜めた割には全く面白みもないものである。レオンはため息をつき、壁によりかかった。
「疲れるだろ。リヒトはおかしくなるし、国に入るのに待たされたし。挙句の果て、国王陛下とあいさつしなきゃいけなくなったし。」
「まあな。リヒトはどうだ?これからやっていけそうか?」
ケイルはそういうとこちらを見てきた。まあ、実をいうと、かなり難しい。だが、ここでしかできないことがあるとするならせっかくの機会だ。体験したい。誰かは言う、失敗は成功のもとだと。物語をとめてしまった失敗。それを成功にするには動かなければならない。
そう、自分は思うことにした。だから、答えは決まっている。
「はい。頑張ります。」
義務感とかじゃない。ただ僕がやりたいと思うからやるのだ。




