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第六話 フランクな国王陛下ではない

ついにやってきた城。これから王の謁見が始まる。おそらくだが。

 大理石のような白い壁、床に囲まれた一室に僕らは案内された。その先には、王の座に座る白髪のおじいさんがいた。あれが国王陛下か。それは異世界人でもなんとなくわかる風格をお持ちだった。だが、残念なことに僕には語彙力も礼儀作法もなにもない。今ここで国王陛下と話せと言われても母音しか出ないだろう。「あ」とか「え」とか。


 みんなは慣れたように跪いたので、僕も同じタイミングで跪く。お偉いさんにお辞儀をするよりも大げさに感じるが、まぁ……そういう世界なのでそれに従うよ。


「顔をあげよ。」


 低く、野太い国王の声が聞こえた。ああ、雰囲気バチバチで好き。時々思うんだよね。異世界転移したのにフランクな国王陛下って世界観的にどうかなって。僕個人の考え方だし、別にいいかなって。ま、フランクな人でもいいけどさ。


 皆そろって顔を上げると、国王は立ち上がっていた。オーラがすごい。流石陛下。


「貴様らが、噂の”勇者”か。」


 やばい、僕が書いていたシナリオの何千倍も辻褄があっている。あいつ、意外にやるなと思いながら、会話に耳を傾けた。


「噂?伝承とかあるんですか?」


 聞きなれないレオンの敬語は意外と彼にあっていて、しんみりとしたこの空間に溶けていく。


「ああ。」


 国王は部下に目配せすると、一枚の布が出てきた。よくある”伝記”というやつだろう。めちゃ本格的だ。助かる。


 そこから、部下のナレーターのような声とともに、新たなシナリオが始まった。




 魔王が現れし時。世界は混沌と化す。


 魔物は地を這い、人里を襲う。


 作物は枯れ、嵐が訪れる。


 人類が終わる危機が近づいてくるのだ。


 しかし、一人の勇敢な戦士があらわれる。四人の仲間を連れて、魔王を打ち倒す力を持つ。彼の名を勇者レオン。


 彼はこの地の平和を再び戻してくれるだろう。




「――以上だ。」


 ざっくりと、とてもシンプルな伝記である。これもバグっていたらうけるな。はあ、とりあえずレオンが勇者だという決定が国王の部下によって確定づけられた。僕の前の設定だと、既にレオンは知っている状態だったからこちらの方が自然だろう。


 シンプルだがわかりやすいものだった。


 部下が言い終わると、国王は言う。


「勇者レオン。魔王討伐に行かれるにあたって、国よりなにか援助できないかと考えた。何か困っていることはないか?」


 口調はかなり厳しめだが、話している内容はまるでお父さんみたいだ。困っていることはないか?何か言えばかなえてくれるのだろうか。僕の視線、みんなの視線は自然とレオンに向く。


 レオンはまっすぐ青い瞳を国王に向ける。


「……魔王城への地図をください。」


 僕ら四人は同時にレオンを見た。ええっと、地図?お金とか装備ではなく地図???困惑していると、国王は言う。


「分かった用意しよう。他には?」


 流石国王。太っ腹。アンナが小声でレオンに言う。二人は謎に、このチームのまとめ役に回る。


「レオン。正直に、お金か装備をいいな。私たち、ただでさえかつかつなんだから。」


「だが、いくらぐらいだ?」


「それは国王陛下の判断による。」


 アンナが諭すように言うと、レオンは迷った末、再度国王を見た。


「資金を……いただきたく。」


「ほう。なるほどな。わかった。用意しよう。それ以外は?」


 何だこの国王。次から次へと援助してくれるじゃないか。レオンは小さく首を振る。これ以上はさすがにと遠慮しているらしい。


「……そうか。遅くに悪かった。資金と、地図に関しては今週中に用意する。しばらくはこの町の宿で待機してくれ。宿代はこちらが出す。」


「ありがとうございます。国王陛下。期待に応えられるよう、魔王を討伐してまいります。」


「――よろしい。では、去れ。案内をつけている。宿屋で今日は休みなさい。」


 そういうなり、口を閉ざした。レオンをはじめとして、アンナ、ケイル、ルマ。そして僕は丁寧にお辞儀をした。


 ああ、なんも喋ってないのに緊張した。それもとてもいい機会だった。現実なら絶対会うことがない立場の人だろう。みんなについて去ろうとした時だ。


 国王陛下がそっと僕を留めた。


「まて、異世界の子よ。」


「……はい。」


 僕の足が、釘に打たれたみたいに動けなくなった。振り向くと、国王陛下が立ち上がり、こちらに歩いてくるではないか。やばいやばい。僕が何話せると思ってる?


「異世界から来た若者……で間違いないな?」


「あ……はい、そうです。」


 ああ、もう、ここにいるのが陽キャだったら普通の進行できたのだろうけど!そう自分に苛立ちながら、言葉の続きをうかがう。


「この世界は、常に危険と隣り合わせだ。迷い込んでしまったと上、それ相当の覚悟を持ちなさい。それと、こまったことがあれば仲間を信じなさい。……以上だ。」


「承知しました。」


 小さくお辞儀をして、僕は立ち去る。はあ、緊張した。何だったんだろ。そんな文句を垂れ流しながら、歩く。ようやく魔王城への手掛かりがつかめた気がする。


 僕らの冒険はまだ始まったばかりだった。

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