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第三話 バグ修正は早めに

僕が思うように動けない原因が判明した。それは、あの物語を書いたら現実になる……ノートを渡した天音風馬が触れたらバグったらしい。さっさと修正してほしいものだ。

 僕らは、フウマが宣言したようにしばらく待つことにした。その間、僕の待機モーションを観察している。いやいや、見世物ではないんだが。


 フウマはどうにか、僕を戻そうと試行錯誤しているようで、独り言が脳に直接届いてくる。最難な日とは思わなかったが、別にいいだろう。それよりも、待機モーションのバリエーションが増えていて困惑している。


 腰に手を当てるのはまぁ、ありがちだが、いきなりその場で足踏みするのはやめろ。謎に体力を使って疲れてしまう。それに、更に最悪なのはみんなが一言も話さなくなったということだ。意味がわからない。せめて会話しろ。


 しばらくそんな地獄が続いた。


 数分後。何も怒らないと思っていたときだった。ぐらりと視界が揺れ、僕は前のめりに倒れかかったのだ。

 あ、死ぬーー。そう思ったが痛みは来なかった。代わりに体を支えてくれるケイルが不安そうにこちらを見ている。


「大丈夫か、リヒト。疲れたか?」


 僕は声を出せないとはわかりつつも話しかけた。


「いえ、まだ問題ないです。ありが……」


 感謝を述べようとして気づいた。……あれ、戻ってる?


 僕は手始めに目をぱちくりした。動く。

 次に手を開いたり、閉じたりしてみた。問題ない。


 うっそ、あいつ解除できたのか。


「戻りました!」

「……おぉ、そう?じゃあ、自己紹介してみろ。それで判断するぜ。」


 ケイルはにこやかにそう言ったが、僕は若干眉をひそめた。いや、それって陰キャの僕にはテストで一位を取るより難しい話である。


 新しい環境に来たときに、名前と好きなことを自由に話せって言われて困惑するしかないだろう。……それか僕である。


 だが、沈黙しても怪しまれると思い声を出す。


「あ、えと……り……理人です。」


 はい、思いっきりきょどりましたとさ。残念だな、フウマ。僕は確かに主役ではあるが俺つえー系の主役では決してない。つまり、成長価値はほぼプラマイ零に等しい。


 しかし、そのキョドり具合がやはり僕っぽそうだったのか、みんな安堵の表情を浮かべていた。


「おかえり、リヒトくん。具合はどう?」


 いつも文句ばかりのアンナさんが、こういうときに心配してくれるの。めっちゃいいよな。謎にね。


 僕が小さく頷くとさらに、安心しているようだった。それにしても一日も過ぎていないのに、まるで一週間過ぎたかのような経験をしたな。金縛りとも違う、この世界のプレイヤーとして動かされるコマになった気分だった。


 しばらく自分の体を確かめていると、またあの声が聞こえてきた。


『もしもーし。治ったっぽいな?』

「はい。元気いっぱいです。」 


 適当に挨拶をすると、バレてしまったのかフウマに、クスクスと笑われた。妙に感がいいのが癪に障るとはここだけの秘密にしておこう。


『よし、ならしばらくもこれからも問題ないと思うぞ。』


 フウマは自信満々に言い放つと、ペラリとあのノートを進めた。あの数日、一ヶ月ほどの進捗は残念ながら消えてしまったようだ。くそ、せっかく投げナイフのやり方覚えたというのに。


 とりあえず、ここから先は僕が動かせる……おそらく。いや、多分。木々が生い茂る分かれ道に僕らは突っ立っている。




 しばらく、様子をうかがっていた僕ら。リーダーであるレオンが言う。


「ひとまず、フウマと言うやつの腕前を知りたい。この先に何があるか、この目で確かめてみないか?」


「おお、いいと思うよ。」


 ルマも賛成気味、ケイルもアンナもどちらでもいいと言わんばかりにレオンを見ていた。レオンは小さくため息をつくと、コクリと頷く。


「決まりだな。荷物まとめろ。」


 よく見れば、僕の調子を見るためにと荷物が散乱していた。……うん、めちゃ雑である。


 各々の荷物を背負い、点呼を取る。謎システムたが、おそらく信頼性が高まるものだろう。もちろん、僕の分もありました。


 レオンは周囲を見渡して確認し終えると合図もなしに歩き出す。アンナやケイル、ルマも文句一つ言わずについていく。手慣れているものだ。


 いつもの並びになりながら、僕らは続いていく。この先にあるのは街なのだろうか。いきなり、ダンジョンなのだろうか。僕はあまり、フウマと一対一で話す機会は多くはない。だから、内面をあまり知らない。完全にシークレット、あるいは隠しキャラである。それはおそらくあっちも思っていることである。陽キャは誰とでも、フレンドリーに接せるくせして、中身まで知ろうとするやつはほとんどいない。


 もしいるとしたら、それは例外中の例外。もしくは、理想的な陽キャあるいふ陰キャの部類ではないだろうか……そんなよくわからん考察は今はいい。ひとまず、みんなに迷惑をかけないようについていき、困ったら誰かを盾にすればいい。冗談ではあるが、可能性としては一理あるものである。


「何があるかな〜?」


 戦闘付近にいるアンナがごきげんそうに尋ねた。誰も知る由もない話を。流れる沈黙。でもそれはとても心地が良く、まるでふるさとに帰ってきたときのような孤独を埋める安心感でもあった。

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