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ヴェリタスの最終定理5:復讐者ヘレナ・ヴェリタスの和解【2位】  作者: .
●第13章:私には帰る家がある

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終局2:激突する家族たち!

その日。王都の上空を覆い尽くした秘密結社「ノヴァ」の巨大飛行要塞から、無数の戦闘員と量産型機械兵が雨あられと地上へ降り注いでいた。

その要塞のシルエットや、無機質で暴力的な兵器群のデザインは、かつて世界を地獄に陥れた100年前の大戦で使われたものと酷似していた。


「なんたる無骨で非効率な物量戦だ!だがね!嫌いではないよ!」


ヴェリタス探偵事務所の庭先で、エラーラは片手で新型の魔力測定器をいじりながら、空を見上げて高笑いしていた。


「お姉ちゃん、来るよ!」


「ああ、分かっているとも!」


先陣を切ったのは、王都での買い物を切り上げて駆けつけたエラーラの妻の竜人のアスナ・ヴェリタスと、エラーラの下の妹のヘレナ・ヴェリタスだった。

アスナは背中から巨大な翼を広げ、その肉体に纏った竜の炎を一気に爆発させた。


「我が愛する家族と、この夏の平和を壊す奴らに……容赦なんてしない!」


ヘレナが両手を翳す。


「まったく、せっかくのバカンスを邪魔する不躾な輩ね!私の愛と魔力の重み、その頭のてっぺんから爪先まで刻み込んであげるわ!」


二人の圧倒的な魔力が空を焦がし、無数の敵を灰に変えていく。

しかし、要塞の最上階から、ノヴァの首領・機械帝王デウスの冷酷な合成音声が響き渡った。


『ヴェリタスノ残党共メ。貴様等ノ心ノ奥底ニ眠ル「恐怖」ヲ呼ビ覚マシテクレヨウ』


デウスの指令と共に、要塞のスピーカーから、不快な特定の周波数のノイズと、大戦時に響き渡っていた空襲警報のサイレンが鳴り響いた。さらに、投下される爆弾から散布されたのは、幻覚作用を伴う特殊な神経ガスだった。


「なっ……この音、この匂い……!」


アスナの青い瞳が、極度の緊張に見開かれた。


「う、嘘でしょ……やめなさい、やめなさいよ……!」


ヘレナもまた、頭を抱えて高度を下げた。

それは、「過去のトラウマ」を強制的にフラッシュバックさせる、極めて卑劣な精神攻撃だった。炎に焼かれる街、泣き叫ぶ人々、血の海。平和な現代の風景が、一瞬にして地獄の記憶へと塗り替えられていく。


『脆イモノダ。……全砲門、市街地ト標的ノ少年ニ向ケテ発射!』


デウスの要塞から、無数のミサイルがレオや避難する市民たちに向かって降り注ぐ。


「やめろおおおおっ!」


アスナとヘレナは、恐怖で震える身体を無理やり動かした。自分たちの心は壊れかけていても、この街と、あの子だけは絶対に守らなければならない。

二人は巨大な魔力の盾となり、ミサイルの雨をその身一つで受け止めた。


ドゴォォォォン!!


「きゃああっ!?」


「ぐっ……!」


すさまじい爆炎が上がり、アスナとヘレナは地上へと墜落し、動かなくなった。


「お姉ちゃん!」


レオの悲鳴が響き渡る。


「くっ、卑劣な真似を!」


後方で防衛線を張っていたニーアが、結界を展開しながら叫んだ。


「ちょっと!人のトラウマをえぐるなんて、歴史への冒涜よ!」


リウが巨大な鉄柱を振り回し、迫り来る敵を次々と粉砕する。


「あらあら……このトラウマ屋さんたちは万死に値しますわよ!」


だが、敵の物量は圧倒的だった。

その時だった。


「お待たせしました、皆様。わたくしが、最適な方法で皆様をお守りしますわ!」


瓦礫を跳び越え、エラーラの上の妹で武闘派探偵のナラティブ・ヴェリタスとアリシアが合流する。


「あんたたちのその雑な犯罪計画……この私がすべて暴いて、叩き潰してあげるわ!」


ナラティブの拳と、アリシアの空間把握能力によるサポートの連携攻撃が炸裂し、敵を次々と沈めていく。

しかし、デウスはさらに冷酷な手を打った。

要塞から放たれた特殊なパルスが、空間の物理現象を完全に遮断した。


「なっ……力が急激に……!?」


ナラティブとアリシアの動きがピタリと止まり、二人は体勢を崩した。そこへ敵の集中砲火が浴びせられ、最強のコンビもついに膝をついてしまった。


「ナラティブさんっ……!」


縁側でハッキングを続けていたルルの指が止まる。ジャミングの影響で、彼女のシステムも限界を迎えつつあった。

味方の主力であるアスナ、ヘレナ、そしてナラティブが次々と倒れ、地上は絶望の沈黙に包まれかけた。


「過去ノ恐怖ニ縛ラレ、力ヲ失ッタ人間ナド、我々ノ歯車ニナルシカナイノダ!」


デウスの嘲笑が響き渡る。

仲間たちが倒れ、街が蹂躙されていく。

その光景は、エラーラの心の一番深い場所に封じ込めていた、真っ暗なトラウマを強烈に刺激した。


(また、失うのか?私の計算が甘かったから……私に力が足りないから、また、家族が傷つくのか!?)


エラーラの息が荒くなる。彼女の手は震えていた。


(違う!そうならないために、私は一人で戦える力を求めたのだ!誰にも頼らず……そう!私がすべてを支配すれば、もう誰も失わずに済む!)


静寂の中、ガシッ、と足音が響いた。

エラーラは、手にした新型デバイス──自ら開発した魔力増強装置『ナンバー』を、不敵な笑みを浮かべながら掲げた。


「……トラウマだと?そんな非論理的なバグに、この私の頭脳が屈するとでも思ったか!」


エラーラの身体が、眩い虹色の光に包まれた。

彼女が自身で開発した、最強形態……『フルバースト・ヴェリタス』への変身である。

全身が最新鋭の虹色の重装甲と、無数の重火器、そして神々しい魔力の翼で覆われ、エラーラの周囲の空間が歪むほどのエネルギーが噴き出した。


「お待たせしたねえ!……これぞ、一人の天才が極限まで計算し尽くした、至高の防衛システムだ!」


ジャミング領域を強引に突破するほどの、規格外の出力。

エラーラが両手を突き出すと、彼女の周囲に展開された無数の魔導キャノンから、一斉に超高威力のエネルギー光線が放たれた。


ドオオオオオッ!!


世界が揺らぐほどのすさまじい大爆発が、ノヴァの軍勢を呑み込む。

圧倒的な火力。個人の力だけで戦場を完全に制圧する、まさに「最強の科学者」の独壇場だった。

エラーラは単騎で空へと舞い上がり、要塞の砲台を次々と物理的に粉砕していく。


「見たまえ!計算通り!……とは、まさにこのことさ!」


彼女は確かに敵を撃退し、要塞を後退させていた。

しかし、地上からその姿を見上げるリウやニーアの目には、その虹色の最強フォームが、どこか孤独で、危ういものに映っていた。


・・・・・・・・・・


「……答え合わせ、完了しちゃいました……」


王都の上空を覆う巨大要塞が不気味な駆動音を響かせる中。

ヴェリタス探偵事務所の薄暗い一室で、ルルは端末の画面を見つめながら、かつてなく低い、しかし、震える声で呟いた。彼女の虚ろな黒目に、要塞のメインフレームから引きずり出した真実のデータが羅列されている。


「ノヴァの連中が狙っている少年の力とは……100年前の、『新暦8年の大戦』で死んでいった『兵士たちの魂の集合体』……そのものです」


ルルの言葉に、縁側で身構えていたリウの赤い瞳が見開かれた。


「魂……?……新暦8年?……待って。そもそも『新暦』って、旧暦時代の悲惨な戦争を反省して、『もう二度と血は流さない、永遠の平和を築く』って人類が誓って制定した希望の暦じゃなかったかしら?」


「ええ。でも……人類は愚かでした。平和の誓いからたった8年で、再び、世界は、殺し合いを始めたんです」


ルルの端末に、当時の暗号化された記録が、滝のように流れ込んでくる。

ルルは、そこに記された「歴史の闇」に一瞬だけ息を呑んだ。

それは、文字通りの地獄だった。

平和を誓ったはずの人類は、新暦の技術発展をすべて「最適化された殺戮」へと転用した。

命をただの『燃料』として消費し、名前も持たない少年少女たちを使い捨ての部品として、汚泥の戦場へと放り込んだ。空を黒く染める毒の雨、大地を削り取る魔導兵器。あまりにも命の価値が軽く、あまりにも凄惨にすり潰されていったため、後世の歴史書からすら詳細な記録が抹消されたほどの、極限の狂気。


「ノヴァは……その狂気の大戦で生まれた莫大な負の感情と残留魔力を抽出して、この世界を、再び戦火に沈めるための永久機関にしようとしているんです。……あのデウスとかいう悪魔も、その絶望の泥から生まれた過去の亡霊です」


その重苦しい真実に、一瞬だけ場が凍りつく。

100年前の愚かな歴史の闇。それが、目の前で震える少年の小さな背中にすべて乗せられていたのだ。

しかし。

その息の詰まるような沈黙を破ったのは、リウの力強い舌打ちだった。


「……チッ。本当に、人間ってのは、いつの時代も救いようのない大馬鹿野郎の集まりですわね」


リウは極太の尻尾をバンッと床に叩きつけ、筋肉質な褐色の脚で地面を力強く蹴り飛ばした。彼女の瞳には闇に呑まれるような絶望はなく、燃え盛るような『怒り』と『生気』が宿っていた。


「過去の連中がどれだけ愚かで残忍だろうと、そんな、カビの生えた絶望の歴史を、私たちが生きる『今』の時代に持ち込むことは、絶対に許しませんわ!!」


リウの力強い咆哮に、空気が一気に浄化される。

ルルも、虚ろだった瞳に強い光を取り戻し、力強く頷いた。


「……はい。過去の致命的なバグは、私たちがここで完全にデバッグします」


その時だった。

過去の暗い歴史を吹き飛ばすような彼女たちの決意を嘲笑うかのように、空間そのものが削り取られるような轟音と共に、探偵事務所の屋根が完全に吹き飛ばされた。

舞い散る瓦礫と土煙の中から、黄金の機械装甲に身を包んだ巨体・機械帝王デウスが、ゆっくりと降下してくる。


『優秀ナ情報屋ダ。ダガ、知ルノガ遅スギタナ』


「きゃああっ!?」


ルルの端末が、デウスの放った電磁波によって火花を散らしてショートする。


「させませんわよ!!」


リウが極太の尻尾を逆立て、地面を蹴り飛ばした。


「あなたのような思い出泥棒は、この私が肉団子にして差し上げますわ!!」


リウの渾身の拳が、デウスの黄金の装甲に叩き込まれる。

しかし、激しい金属音と共に、リウの拳の骨が砕けるような鈍い音が響いた。

デウスの巨大な腕がリウの腹部を薙ぎ払い、彼女は壁に叩きつけられた。


「お姉ちゃんっ!」


ルルが駆け寄ろうとするが、デウスの目から放たれた重力光線によって、姉妹は地面に縫い付けられるように拘束されてしまう。


「やめろ……!お姉ちゃんたちをいじめるな!」


レオが、小さな身体を震わせながらデウスの前に立ちはだかった。その瞳には、悲痛な決意が宿っていた。


「僕が……僕の力が欲しいなら、僕を連れて行け!その代わり、この人たちには手を出さないでくれ!」


デウスの手から放たれた光の檻がレオを包み込む。


「少年!?……ダメですわ……行っちゃ……!」


リウが血を流しながら手を伸ばすが、デウスは冷酷に嗤い、レオとヴァンクロフト姉妹を要塞へと引きずり上げていった。

残されたのは、半壊した探偵事務所と、焼け焦げた夏の匂いだけだった。

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