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猟奇×哲学:ヴェリタスの最終定理5ニーア・ヴェリタス  作者: LIU
●第21章:私は前に進む

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真理3:悲壮!最後の力!

地下施設から解き放たれた自己増殖型生物兵器「ヴェリタス」は、市街地を無差別に蹂躙し、建造物を粉砕し、逃げ惑う人々の命を貪り喰っていた。かつてニーアが泥に塗れて守り抜こうとした街並みは、一瞬にして地獄の底へと転落していた。

その凄惨な惨劇に追い打ちをかけるように、街中に設置された大型の魔導スクリーンや街頭スピーカーから、新王都政府と魔導規制局による醜悪な緊急プロパガンダが響き渡った。画面に映し出された為政者たちは、自らの失政と裏での兵器開発を隠蔽するため、必死の面持ちで怒声を張り上げていた。


「市民の皆様!現在、新王都を襲っている惨劇は、指名手配犯であるニーア・ヴェル・リータスが引き起こした未曾有のテロ攻撃である!彼女はヴェリタスの名を騙り、禁忌の魔導を暴走させた!政府はこの危険生物の正式名称を『新王都生物』と改称し、全域の完全封鎖を行う!」


「繰り返す!ニーア・ヴェル・リータスは人道に対する悪魔であり、彼女を支援する者は無論、同罪とみなす! あの悪魔の獣人こそが、すべての絶望の元凶である!」


他責!


その歪んだ宣伝工作は、死の恐怖に狂乱していた市民たちの心に、あまりにも容易く毒を注ぎ込んだ。避難所に身を寄せる者、瓦礫の下で震える者たちは、自分たちを救うために戦ってきたニーアへと一斉に矛先を向けた。


「あの女のせいで……!あの悪魔のせいでこんなことになったのか!?」


「探偵気取りがまた、でしゃばった真似をするから!」


「助けに来るな!こっちに来たら俺たちまで襲われる!」


人々の憎悪と恐怖の叫びが街に充満し、冷たい雨とともに地上へ降り注ぐ。誰もが彼女をはっきりと非難し、誰もが彼女の死をぼんやりと望んでいた。命を賭して最前線に立ち続けていたニーア・ヴェル・リータスの誠意は、踏みにじられ、汚物のように扱われていた。


だが。


その絶望の底から、夜空を破るようにして高らかな声が響き渡った。


「ハーッハッハッハ!まーったく、随分と威勢のいいこと言ってくれるじゃないの!」


雲を突き破り、新王都議事堂の上空に姿を現したのは、黄金の毛並みを躍動させる一匹の狐獣人だった。ニーアは高層ビルの頂に立ち、胸を張って高笑いを上げていた。その高笑いは、かつて歴史を揺るがした天才エラーラ・ヴェリタスそのものの不敵さと絶対的な自信に満ちあふれていた。


「いいこと!?私はニーア・ヴェル・リータス!誰がなんと言おうと、この街で、この歴史で、一番強く格好良い女よ!さあ!アンタたちのくだらない言い訳も、おぞましい化け物も、全部まとめて叩き潰してあげるわ!」


ニーアは自身の胸元に刻まれたナンバーに手を掲げた。


「着装!」


眩い光が彼女の全身を包み込んだ。武器など持たない。剣も、銃も、魔法の杖すら不要だった。エラーラが開発した最高峰の魔導技術であるナンバーが展開され、彼女の肉体と完璧に同調する光の装甲が構築されていく。そして次の瞬間、彼女の背中から、激しい光の粒子で形成された巨大な輝く羽が広がった。それはかつて彼女が心から愛し、憧れ続けた竜人アスナ・クライフォルトが背負っていた、美しくも威厳に満ちた光の翼そのものであった。


「行くわよ!」


光の羽を激しく羽ばたかせ、ニーアは議事堂前で群がる数千の生体兵器の群れに向かって、垂直落下を開始した。流星と化した彼女は、空気を切り裂く爆音とともに地上へと激突した。


ドゴォォォォン!


衝撃波が地表を浚い、周囲のヴェリタスが数十体まとめて肉片となって吹き飛んだ。煙が晴れると、そこには着装を完了し、圧倒的な存在感を放つニーアが立ち上がっていた。


「来なさいよ、肉塊ども!さあ!私を満足させられる奴はいるのかしら!?」


アリシア・ヴェリタスを思わせる挑発的な言葉と不敵な笑みを浮かべ、ニーアは敵の渦中へと足を踏み入れた。

一頭の巨大なヴェリタスが、数条の触手を振りかざして襲いかかる。ニーアの武器は、鍛え上げられた自身の肉体のみである。接近してくる触手の軌道を見切ると、ナラティブ・ヴェリタスが得意とした極限の接近戦スタイルを解き放った。敵の懐へと滑り込み、攻撃の威力をそのまま受け流して反転させるカウンターの掌打を放つ。

衝撃はヴェリタスの外皮を突き抜け、内部の核を正確に粉砕した。間髪入れずに襲いかかる二頭目の突進に対し、ニーアは破壊された議事堂の巨大な石柱を蹴りつけ、その反動で宙を舞った。地形と構造物を極限まで活かす機転。崩落する瓦礫を足場にして空間を縦横無尽に疾走し、空中で旋回しながら放つ重力加速度を乗せた飛び蹴りが、三頭の頭部を同時に叩き割る。


「どうしたの!?まさか。その程度の群れで私を止められると思って?」


背中の光の羽を煌めかせ、地上と空を自在に往復しながら、ニーアは圧倒的な無双劇を繰り広げた。拳を打ち込み、足技を叩き込み、敵の攻撃を最小限の動作で回避しては鋭い反撃を見舞う。その動きの一つひとつに、かつてゼランディアと新王都の歴史を駆け抜けた偉大なる者たちの面影が宿っていた。

ニーアは戦いの中で、激しく胸を打つ確信に満たされていた。


そうだ!私は知っている!私は……覚えているんだ!

エラーラの不屈の高笑い、アスナの孤高の光、ナラティブの熱き拳、アリシアの折れぬ矜持。それらすべての想いと魂が、今、ニーアという一人の存在を通してこの戦場に具現化している。


「私は……あんたたちが遺した意志を、この命の全てを使って、いま!ここで!……示してやるわ!」


光の羽が眩しく輝き、ニーアは光の軌跡を描きながら、迫り来るヴェリタスの群れを次々と屠っていった。それはまさしく、絶望の地獄に舞い降りた唯一無二の英雄の姿であった。


しかし!


世界は、どこまでも……ひたすらに……残酷であった!


新王都政府が開発した生物兵器「ヴェリタス」の真の恐ろしさは、単なる数や力ではなかった。それは、交戦した相手の戦闘データをリアルタイムで共有し、物理法則すら歪めて進化する、呪われた適応能力にあった。

死体の山の中から、数百のヴェリタスが互いの肉体を融合させ、おぞましい巨大な異形の姿へと変化を始めた。その全身から生えた無数の赤い眼球が、一斉にニーアを捕捉する。次の瞬間、彼女の動きを予測した空間歪曲の檻が形成され、ニーアの四肢を激しい重力波が束縛した。


「くっ……!? 光が……!?」


光の羽の羽ばたきが殺され、空中へ縫い付けられる。そこへ、捕食の本能を剥き出しにしたヴェリタスの大群が一斉に飛びかかってきた。

ズバァッ!


「あぐっ……!?」


一本の太い骨状の棘が、ニーアの左肩の装甲を貫き、生身の肉体を深く穿った。鮮血が夜空に飛び散る。激痛に耐えて一撃を叩き込もうとするが、敵はニーアの拳が届かない間合いから、無数の細い爪を全方位から浴びせかけてきた。

装甲が悲鳴を上げ、亀裂が入る。痛々しい破砕音が連続して響き渡る。無数の爪が黄金の毛並みを切り裂き、血と脂が撒き散らされる。


「ハッ……ぁ……まだ……!まだ……!」


ニーアは必死に光の羽を爆発させ、拘束を強引に引きちぎって地上へと落下の軌道を取った。しかし、地面で待っていたのは、口を大きく開けた無数の化け物たちの顎であった。


「あ……!?」


着地の瞬間に右足の関節が異常な方向へと折り曲げられ、ニーアは泥水の中を激しく転がった。全身を苛む激痛と、失血による猛烈な眩暈。それでも彼女は、折れた足を庇いながら、震える腕で立ち上がろうとした。


「私は……負け、ない……!」


だが、化け物たちは彼女に反撃の隙すら与えなかった。それは、あまりにもいやらしく、痛々しく、残忍な集団暴行であった!

一頭のヴェリタスがニーアの左腕に噛みつき、鋭い歯を骨にまで喰い込ませて引きちぎらんばかりに振り回す!


「ギャぁぁぁぁぁっ!?」


悲鳴が夜の空に引き裂かれた。別の個体がニーアの背後に回り込み、彼女の誇りである極太の黄金の尻尾を力任せに踏みつけ、強引に引き抜くような衝撃を与える。背中に生えていたアスナの光の羽は、化け物たちの群がる手によって、まるで鳥の羽を毟り取るかのように、メキメキと音を立てて引きちぎられて散解していった。

装甲の隙間から溢れ出る血が、冷たい泥水を赤く染めていく。肉が削られ、骨が砕かれ、誇り高き英雄の体が、醜い怪物たちの群れに貪り食われていく。その痛々しく悲惨な光景は、観る者の正気を奪うほどに残虐極まりないものであった。

そして、その凄惨な光景を間近で見つめていたのは、避難所に隠れている市民たちであった。


誰も……誰ひとり、彼女を助けようとしなかった!


「……ぁ……」


ニーアの視界が、血と涙で赤く濁っていく。

全身の骨が砕け、肉は引き裂かれ、もはや指一本動かすことすら叶わない。その凄惨な破滅の限界点において、彼女の胸元に輝いていたナンバーが、最後の悲鳴を上げるように激しいパルスを発した。


パツン……!


ガラスが割れるような儚い音が、雨音の中に消えた。

全身を包んでいた光の装甲が完全に消失し、着装が解除された。光の羽も、不敵な装甲もすべて消え去り、そこに残されたのは、泥と血に塗れ、骨を折られ、ピクピクと身を震わせるだけの一匹の無力な狐獣人の少女の姿であった。


「……あ……」


ニーアは冷たい泥の中に顔を伏せたまま、かすかな息を吐いた。

背後では、肉の塊となったヴェリタスたちが、最後の一撃を与えようと巨大な爪を振り上げている。

どれほどまっすぐに生きようとも。

どれほど英雄たちの想いを背負って、がむしゃらに駆け抜けようとも。

結局、自分の声は誰にも届いていなかったのか。

誰の心にも、希望の灯火を点すことなんてできていなかったのか。


「……まただ……また、誰にも……見捨てられたまま……」


溢れ出る涙が、頬の血を洗う。


「……ごめんなさい……」


冷たい雨が、動かなくなった彼女の小さな背中に降り注ぎ続ける。

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