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ヴェリタスの最終定理Ⅲ 野狐の偽証  作者: 王牌リウ
●第20章:野狐の偽証

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真理1:そして時は流れ、空白の地獄へ!

新暦145年。

空は鉛色から濁った朱色へと変貌し、禍々しくも美しい落日の情景を描き出していた……


かつて新王都と呼ばれたこの「場所」において、治安維持を名目として駐留している警察組織の正式名称は、ゼランディア新領土暫定警察という。

その名が示す通り、彼らはこの土地の住民を守る意思など、はなから持ち合わせていない。

そもそも、あの空間破壊爆弾が投下された日、本来の新王都人は一人残らず灰と化し、完全に死に絶えたとされている。

現在この場所に巣食っているのは、ゼランディアから流れ着いた元新王都人の犯罪者や日雇い労働者、そして、絶望の泥濘の中で這いずる蛆虫のような、ゼランディアから追い出されたならず者たちだ。

暫定警察とは、そうした掃き溜めを監視し、ゼランディア本国への体面を保つためだけに存在している暴力装置に過ぎなかった。彼らは形式上こそかつての新王都警察を再編したという体裁をとっていたが、その実態は、新王都という概念そのものを迫害するために組織された鬼畜の集団であった。

しかし、その腐敗しきった組織の中に、たった一人だけ、本物の新王都人が混じっていた。


ダイモン刑事である。


彼はあの破滅の日、新王都警察の熱血刑事として、たまたまゼランディア本国へ向かう要人の護衛任務に就いていた。通常であれば、そのような重要な任務は専門の要人警護班が担当すべきものであったが、政治的な混乱と組織内の不手際により、どういうわけか……現場の叩き上げに過ぎないダイモンに白羽の矢が立ったのだ。そして、彼がゼランディアの土を踏んでいたまさにその瞬間、彼の故郷である新王都は、巨大な光と熱の波に飲み込まれ、地図上から完全に消滅した。


運が悪いのか、あるいは運が良いのか。


とにかく、ダイモンは生き延びた。

だが、彼が拾った二度目の命は、彼にとって耐え難いほどの重圧と苦痛を伴う呪いであった。新王都が消滅した後、彼はゼランディア側の都合により、新設された新領土暫定警察へと編入された。ダイモンが愛し、命を懸けて守ろうとした新王都の仲間たちは既にこの世にはなく、残されたのは、故郷の残骸を土足で踏み躙り、弱者を踏みにじる、悪意の結晶の新たなる同僚たちだけだった。

ダイモンは、自分のアイデンティティそのものを否定する組織に身を置き、自らの故郷の土を汚す行為に加担し続けなければならなかった。

彼の心は、爆弾が投下されたあの日に既に死んでいた。

命を失っていたほうが、よほど、人間としての尊厳を保ったまま全うできていたはずだ。ダイモンは毎日、鏡に映る自分の顔を見るたびに、そう確信していた。


その日の夕暮れ時、ダイモンは警察署の薄暗いトイレの個室で、ただ一人、神に懺悔の祈りを捧げていた。

暫定警察の上層部が、新王都系暴力団の「銀竜会」を完全に殲滅するための計画を立案し、本日、その大規模な武力弾圧が実行されるという極秘情報を耳にしたからだ。それは治安維持などという生易しいものではなく、明確な虐殺であった。ダイモンにはそれを止める勇気は、残されてはいなかった。


一方その頃、銀竜会の本部である廃ビルの最上階では、重苦しい沈黙が場を支配していた。

銀竜会若頭補佐のレン・オータムは、組長であるガゼルの前に直立不動で立っていた。

ガゼルは、自身のデスクの下から一つの黒いアタッシュケースを取り出し、それをレンの前に無言で押し出した。

ケースは分厚い金属で覆われており、相当な重量があることがその金属音から推測できた。レンは疑問の視線を向けたが、ガゼルは首を横に振った。

レンはアタッシュケースの取っ手を握った。冷たい金属の感触が、掌から全身へと伝わっていく。中身を開けて確認しようとするレンの手を、ガゼルの杖が軽く制した。時が来るまで、ただ、待つのだ。ガゼルのその無言の圧力に、レンは深く頷き、ケースをしっかりと脇に抱えた。それが、彼らが交わした最後のやり取りとなった。


直後、耳をつんざくような爆音とともに、廃ビルの下層階から凄まじい衝撃波が突き上げてきた。

暫定警察の実働部隊による、予告なき強襲であった。彼らは装甲車で正面のバリケードを吹き飛ばし、重機関銃で武装した部隊を次々とビル内へ突入させてきた。法も手続きも存在しない、ただの暇を持て余した権力者たちによる、娯楽としての虐殺劇の始まりだった。

窓ガラスが粉々に吹き飛び、夕暮れの乾いた風とともに、濃密な硝煙の匂いと悲鳴が最上階にまで到達した。蓮は即座に拳銃を引き抜き、白川を庇うように前に出た。だが、圧倒的な火力の差は歴然としていた。階段を駆け上がってくる多数の軍靴の音が、死神の足音のように響き渡る。


「組長!ここは俺が!裏口から……」


レンが叫んだその時、扉が内側へ向かって勢いよく吹き飛んだ。土煙の中から現れたのは、黒塗りの防弾装甲に身を包んだ暫定警察の特殊部隊だった。彼らは一切の警告を発することなく、部屋の中央に立つガゼルに向けてライフルの引き金を引いた。

銃声が連射され、空薬莢が床に跳ねる甲高い音が室内に響き渡る。

ガゼルの身体は無数の銃弾を浴びて大きく弾け、大量の血を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

レンの絶叫が木霊する。だが、ガゼルの身体は床に叩きつけられたまま、二度と動くことはなかった。

レンに、この地獄を生き抜くための学と理を叩き込んでくれた組長──父、ガゼル・オータム──は、一切の反撃の機会すら与えられず、あっけなくその生涯を閉じたのだ。

レンの脳裏に、凄まじい怒りと悲しみが沸き上がった。銃を乱射して敵と刺し違えようとする衝動が全身を駆け巡る。しかし、同時に彼の耳の奥で、ガゼルの冷徹な教えが響いた。


腐りかけた肉は、躊躇いなく切り捨てろ。


そうだ。

ここで自分が死ねば、ガゼルが自分に託したこのアタッシュケースも、銀竜会という組織の存在証明も、すべてが水泡に帰す。命を守ることが最優先だ。ガゼルが生きていたなら、必ずそう言ったはずだ。

レンは奥歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、白川の骸に一瞥もくれることなく、背面の窓枠を蹴り破って隣のビルの屋上へと跳躍した。背後で無数の弾丸が空を切る音が聞こえたが、レンは振り返らずに走り続けた。


一方その頃、街の別の場所でも、血みどろの逃走劇が繰り広げられていた。

ダイモン刑事である。彼は暫定警察による銀竜会掃討作戦の混乱に乗じて、身内の警察官たちから命を狙われていた。

ダイモンは銀竜会と内通していたわけでも、警察の致命的な汚職の証拠を握っていたわけでもない。

理由はもっと単純で、そしておぞましいものだったかもしれない。


純粋な新王都人であるダイモンという存在が、暫定警察に巣食うレイシストたちにとって許せなかったのだろう。そして今日、この無秩序な虐殺作戦のどさくさに紛れてダイモンを背後から撃ち殺し、銀竜会の抵抗による殉職という筋書きをでっち上げるつもりだったのだろう。


路地裏を泥まみれになりながら走るダイモンの耳を、味方が放つ銃弾が掠めていく。自分の所属する組織から殺意を向けられるという不条理。

足を引きずり、息を乱しながら、ダイモンはスラムの最下層に位置する廃棄区画へと逃げ込んだ。ダイモンは、一つの空き家へと転がり込んだ。

ここはかつて、新王都の貧しい人々が身を寄せ合って生きていた場所だ。今では完全に放棄され、ただの掃き溜めとなっている。ダイモンは壁に背を預け、ずるずると床に座り込んだ。腹部からは血が流れ出し、意識が遠のきかけていた。


その少し前、逃亡の果てに満身創痍となったレンもまた、偶然にも同じ廃棄区画へと足を踏み入れていた。追っ手を撒き、体力の限界を迎えていた蓮は、泥濘に足を取られながら、目前にあった崩れかけの小屋へと逃げ込んだのだ。

小屋の中は薄暗く、床には得体の知れないゴミが散乱していた。蓮は壁にもたれかかり、荒い呼吸を整えた。脇に抱えたアタッシュケースだけは、決して手放さなかった。

しばらくして呼吸が落ち着くと、レンは震える手でポケットから煙草の箱を取り出した。中には折れ曲がった煙草が一本だけ残っていた。レンはそれを咥え、ライターのフリントを擦った。しかし、火花が散るだけで、一向に火はつかなかった。何度擦っても、乾いた金属音が虚しく響くだけだった。


その時である。

小屋の立て付けの悪い扉が、激しい音を立てて蹴り開けられた。夕陽の逆光を背に受けて、ボロボロになった一人の男が飛び込んできた。

レンは反射的に拳銃を抜き、男の眉間に銃口を向けた。

男は血まみれだった。そしてその身に纏っているのは、見間違えようもない、暫定警察の防弾ベストであった。銀竜会を地獄の底へと突き落とした憎悪すべき敵の制服。


「……誰だ」


レンの声は、極限の疲労と殺意が入り混じり、氷のように冷たかった。警察の人間であることは自明であったが、レンは引き金を引く前の最後の確認として、あえて一言だけ尋ねた。

銃口を向けられた男は、恐怖に顔を引きつらせることもなく、ただ疲れ切った目で蓮を見た。そして、掠れた声で答えた。


「新領土暫定警察の者だ」


その声には、権力を笠に着た傲慢さも、暴力を行使する者の狂気もなかった。あるのはただ、深い虚無と、自己を嫌悪する果てしない悲しみだけだった。レンはその男の眼差しに、この街で嫌というほど見てきたレイシストたちとは違う、何か異質なものを感じ取った。この男もまた、この狂った場所で何かを失い、追われている側なのだ、と。

レンは数秒の沈黙の後、ゆっくりと銃口を下げた。

名乗らぬその刑事を、レンは無言のまま小屋の奥へと招き入れた。

刑事は壁伝いにずるずると座り込み、荒い息を吐いた。そして、不意に視線を上げた時、彼の目はレンの背中へと釘付けになった。

レンの革のコートは逃走中の戦闘で激しく裂け、その隙間から、背中に彫り込まれた見事な刺青が覗いていた。激しい炎の中で咆哮する、一匹の唐獅子。その刺青の構図、そして独特な墨の入れ方には、ダイモンにとって決して忘れられない、強烈な見覚えがあった。

記憶の底に封印していた感情が、激しい勢いでダイモンの脳裏に蘇ってくる。

レンは再び、咥えっぱなしだった煙草に火をつけようとした。ライターを擦るが、やはり火はつかない。


その時、横から差し出された手があった。

ダイモンが、血に汚れた手で銀色のライターを握り、蓋を開けた。そして、親指でフリントを弾く。

オレンジ色の小さな炎が、薄暗い小屋の中に灯った。

レンは一瞬だけダイモンの顔を見つめ、無言のままその炎に顔を近づけた。煙草の先端が赤く燃え上がり、紫色の煙が静かに立ち上った。レンは深く煙を吸い込むと、ゆっくりと天井に向かって煙を吐き出した。

煙草の煙が漂う中、ダイモンは震える声で、目の前に立つ男に向かって、絞り出すように言葉を紡いだ。


「兄さん、でしょ……?」

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