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婚約者発言

多分、婚約前。新妻ちゃんが勝手に婚約者を名乗ってる頃。


「キャー、騎士様助けて〜!!」


 まるでママゴトのようにふざけた声色で叫ぶ見た目完全ロリの少女に、一人の騎士はため息を吐いた。


「なに馬鹿言ってる。それぐらい一人でどうにかしやがれ」

「ひどいっ!?」


 真面目に吐かれた言葉に流石の少女も傷ついた様子だったが、仕方無しと肩を竦め眼の前の相手に向き直る。


「ということでウィルさん。お付き合いありがとうございました」

「いやいや、可愛い新妻ちゃんの頼みなら喜んで応えるよ。……相変わらずそいつは素直じゃないんだな。俺なんてこの前領地で俺の帰りを待ってる婚約者が出掛け先で……」


 今回の茶番に突き合わせてしまった騎士様の同僚に頭を下げれば、その相手も軽く応じてくれた。

 珍しく騎士様が自宅に連れて帰ってきたのは彼の同僚兼友人だった。なんとも見た目がものすごく軽い印象だがこう見えて領地に残した婚約者様にメロメロの溺愛らしい。一途なのが肌に感じられて少し羨ましくもなってくる。

 新妻ちゃん、と呼ばれた少女がそんなことを考えていると満足するまで実家の婚約者の話を語り終えたウィルはそれに気がついた。

 そもそもなぜ序盤の発言に至ったかといえば、突然初対面のウィルを前に「騎士様に友達?!」と戸惑うばかりだった新妻ちゃんに「怪しいやつだったら食べられる前に叫ばなきゃ」と入れ知恵を与えたからだった。

 特に騎士の妻にもなれば狙われる頻度も高まる。もしものときはしっかりと助けを求めるように助言すれば、少女も素直にそれに頷いた。そして冒頭に至る。


「…………まぁ、いざというときは全力で逃げるのがいいな。叫ぶ方が早いが、身近に味方がいなければ背を見せてでも逃げろ」


 無難な対処法だけをを告げ「警備兵がいるところに駆け込め」とウィルが教えれば、少女も苦笑して頷いた。

 言外にあの男だけを頼りにしなくていいと言われ、少女が答えられることは何もなかった。




 ある日、騎士様と城下を歩いていると気になる露店があり、少女はつい足を止めてしまった。

 騎士様と逸れる前に、と慌てて足を踏み出したが後ろから何かがぶつかってきた。


「おいっこんなところで立ち止まって何してやがる!!」

「……っご、ごめんなさいっ!!」


 人通りの多い城下とはいえ、人がいれば避けて歩けるだけの余裕はある。それでも後ろからぶつかったのは相手の不注意か、「当たり屋」という言葉が少女の頭を過る。

 しかし慌てて謝ったとはいえ相手が満足するはずもなく、更に足止めを食らう。


「謝って済むと思ってんのかガキっ!!怪我したらどうしてくれんだっ!!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!!」


 相手が怒ってることから、まさか逃げることもできず少女は頭を下げる。頭が熱くなり勢い余ったその相手も、少女の肩を掴もうと手を伸ばしてくるのが視界に映った。


「医者にかかる費用でも払ってくれんのかガキが!」

「…………っ!!」


 大の男に腕を伸ばされ身構える少女は次の衝撃に耐えるため目を閉じる。

 しかし、いつになっても衝撃どころか接触もないことから少女が薄く瞼を開ければ、そこには信じられない光景があった。

 少女の目の前には大きな背中が広がっていた。


「…………俺のっ、婚約者に、何か?」


 その背中が次に動いたかと思えば、背中の向こうから低い呻き声と同時に彼の声が聞こえた。

 騎士様が助けてくれた。そのことに気がついた少女は…………!


「わたしを婚約者って認めてくださるんですかっ!?」

「黙ってろ!ややこしくなるだろうが!?」


 先程まで怯えていたとは思えないほど元気な声を上げた少女に、騎士も声を荒げる。

 そして「行くぞっ」と少女の腕を引き無理やり歩き始めれば、彼女も素直にそれに従った。


「…………ったく、あんなのに絡まれやがって」


 不機嫌な声を漏らし舌打ちをする騎士らしからぬ彼に、少女はその背に隠れ己の鼓動がそれ以上速まるのを抑えた。


『俺の婚約者』


 思わず聞いてしまった騎士の声が、彼女はどうしても忘れられなかった。

 少なくとも自分を庇い、守るための言葉にそれを使われたことは、普段から彼の『新妻』を名乗る彼女には十分の衝撃と感動だった。


 騎士がそばを離れていたときとは違って元気な様子の少女に、彼もまた苛立ちが募る。


(んで、俺がいねーときはあんなに塩らしいんだ)


 これまで一度として見たことのなかった少女の様子に、男は胸の内だけで首をひねった。

婚約後、でもいいかな。

まぁ、番外編だし詳しいことは考えずゆっくりと……。

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