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五話 決心の話

最後作者割り込んですみません。


「わたしっ、決心しました!」

「………………」


 嫌な予感がする、と隠しもせず顔に出す騎士に少女は次のことを言い放った。


「旦那様っ、わたしと勝負してくださいっ」

「絶対に嫌だ」


 伯爵家邸宅にて同じ部屋の同じソファに隣り合って座る彼らは方や強情に突っ張り、方や必死に言い募る様を周囲を取り巻く使用人たちは微笑ましげに眺めていた。


「…………だいたいっ何故俺の家に他人のお前がいるんだっ!!不法侵入で捕まえるぞ」

「まぁ?!わたしは旦那様の現婚約者で未来の新妻ですよ?不法じゃありません!」


 そして毎度繰り返されるこの応答もまた周囲の者は微笑ましげに────以下略。


「旦那様っ勝負してください!!」

「………………」

「もしもわたしが負けた際には、わたしのことを旦那様の好きにしてくれて構いませんっ!!それはもうどんな屈辱でも恥辱でも受け入れてみせますっ!!侯爵の娘の名にかけ」

「かけるな!」


 ここで男が待ったをかけると、少女は一つ深呼吸を繰り返して次のことを言った。


「なので勝負してください!!」

「………………」


 それに、男である騎士は心底めんどくさそうにその美しい顔を顰めさせた。


「………………お前が勝ったらどうする気だ」


 どうにかその言葉を繰り出した彼に、少女はチャンスとばかりに言い募る。

 その姿は大人が遊びに付き合ってくれた幼子のままである。

 しかし、彼女が次に繰り出す言葉は到底その幼子のものであるとは言えなかった。


「旦那様と共寝して既成事実を作ります」

「………………あ゛ぁ??」

「そうしたら旦那様がなんと言おうと結婚するしかなくなりますねっ!」


 このとき、この確信に満ちた彼女の言葉に彼は一つの思いあたりをつけた。


(…………姉貴の入れ知恵だ)


 と。


 少女がどれほどその言葉の意味を理解して口にしているのかは今はおいておくとして、問題はこの話題の提供主が自身の姉であると言うことだった。

 つまり、彼女の言う勝負の内容もろくでもないものに違いない。

 普段は脳筋な彼も、姉が関わっているとなると警戒心を抱かずにはいられない。

 特にあの姉はこの見た目ロリな少女を気に入っているのだから。


「………………勝負内容は?」


 聞きたくはないもの聞かざるを得ない。あの姉が関わっているのだから絶対にろくでもない。それがわかっていても、聞いてしまうのは自分が勝てる可能性をはらんでいるからだ。

 俺に勝ち目のない、と思わせるような勝負内容なはずはない。

 その確信が、騎士には確かにあったからだ。


「んふふ、勝負内容は────」



 そもそも、勝負を受けなければいい、という考えは彼にもあった。しかし、彼には自身が勝負に勝ったあとで得られる権利にこそ狙いがあった。

 彼女を好きにしていい、とそのままな表現であればアラサー目前の彼からは犯罪臭が漂うことになるが、これを言い換えれば、彼女に何でも命令できるということになる。

 それすなわち、二度とここに来るな、俺に関わるな、婚約者を名乗るな、と日頃から溜まった鬱憤を吐き出す口実になる。

 その程度であの少女が粛々と下がるとは思えないが、少なくとも普段流されている言葉を真正面から叩きつけることができる。

 これは大きなチャンスだと男は思ったわけだ。

 そしてその考えもまた姉に読まれた上のことも承知で。


「…………で、もう探していいのか?」

「ええ。好きなところから探しに行けばいいわ」


 そんな彼は自宅にて『宝探し』をすることになった。

 彼が勝つ条件は宝を探し当て、触れること。

 宝を隠すのはこの勝負の持ちかけた本人である。

 そして、その勝負の行く末をジャッジするのは彼の姉。

 もちろん姉は宝が何であるかを知っており、どこにあるのかは知らない。

 そしてこの勝負には何故か屋敷中が総出で協力し、彼がゲームクリアかゲームオーバーになるまで一切動かないし話さない。当然、宝そのものに触れることは絶対にない。

 これは伯爵、つまりは彼の父も承知としている。

 無駄に大掛かりなのは、勝負の結末で騎士の将来が決まるからだろうか。

 なにしろ彼が負ければ既成事実を作り上げられ、結婚を決めなくてはならない。

 提案者が姉とはいえ、一応王国騎士として国民人気の高い騎士の婚姻だ。いくら世論が彼らの噂を知っていようと、婚姻は大事なのだ。


「…………そもそも、何で突然こんな勝負を持ちかけたんだよ」

「あら、アラサーに足を突っ込んでる弟が婚姻になかなか踏み込まないから、優しい姉が背中を押してやってるんじゃない」

「……鏡見たことあるのか」


 彼がため息を付きつつ疑問をこぼせば、ここぞとばかりに彼の姉は自身の弟を心配するような慈愛の笑みを持って答えた。

 それに当然というか条件反射というか、婚約者の実家で花嫁修業をしつつも彼と同様?に婚姻に踏み切れていない姉に返してしまう。そう、彼の姉もまたまだ独身である。

 この言葉に珍しくも彼女は慌てて戸惑い、や次に言い募る。


「そっ、それはしょうがないのよっ!彼は今仕事がいちばん大事な時期だし、それが落ち着くまで結婚も子供も無理ってわかっているしっ!!それにっ!貴方と違ってあの人はわたしと会うとすごく嬉しそうにして、まるで犬のしっぽが付いてるのかって思えるくらいはしゃぐしっ!会うたびにイチャイチャラブラブなんだから!!貴方と違ってっ!!!!」

「………………」


 そして、何も言わなければよかった、と後悔する騎士をおいて姉は次々と言い訳がましく言葉を続ける。

 付き合ってはいられないので彼は言い訳めいた言葉の羅列を組む姉をおいて、さっさと屋敷を歩き回ることにした。

 と言っても、彼は宝の在り処に何となく検討はつけている。



「………………お前、せめてもう少し捻れなかったのか?」


 数分後、彼は早くも宝を見つけた。

 そこはいつもの客室、彼が彼女をあしらうために仕方無しに座るソファの上だった。


「…………まだわたしがお宝だなんて言ってませんよ」


 少し拗ねたような声を出すのはこの勝負を言い出した一人の少女である。

 侯爵の娘らしくもなく、ソファの上で膝を抱えて座っていた。

 彼もこの部屋にあるだろうとは思っていたがまさか隠しもせず、そのままあるとは思っていなかった。


「ガキの考えることなんてお見通しなんだよ」

「………………」


 彼は疲れたようにため息を吐いて、普段と同じように彼女の隣にドサッと乱雑に腰を下ろした。

 普段と違うところを上げるなら、彼らの座る順番とローテーブルに使用人が用意した茶器がないところだろうか。


「…………旦那様にとって、わたしはいつまでガキですか?」

「あ?」


 普段の彼女であれば、自分という宝が見つかった喜びか、勝負に負けたという悲しみを惜しげもなく見せるはずなのに、何故かこのときの少女からはそれとは違う哀愁が漂っていた。


「わたし、14歳になってもうしばらく経ちます。結婚もできますし、子供だって産めます」

「…………おい」

「背はまだ小さいですが、いつか背伸びをすれば騎士様のお顔に届くくらいにはなります。幼児体型ですが、最近はずっと栄養価の高いものをたくさん食べて、運動して、魅力的な女性になれるよう努力もしています。まだ騎士様を魅了できるほどではありませんが、いつか騎士様をメロメロにして、結婚してよかったと思わせる自信もあります」

「……おい」

「ま、まだ年の差が気になりますが、わたしが20歳になる頃には騎士様は35歳でまだまだ現役だと思いますし、わたしが35歳になる頃には騎士様も50歳ですがきっと世間でもダンディだと噂の的になりますし、」

「おい」

「騎士様がお祖父様になられてもわたしはきっとまだ若くて騎士様の介護もできますっ!今は確かにガキですが、きっと今はこれぐらい若いほうが騎士様にとっても困るものではなくむしろお買い得というか先行投資というか。だから、……だからっ」

「………………」


 話しているうちに、少女の言葉は段々と必死なものになっていく。それでもどこか弱さを持つその言葉に呼び止めようとしていた騎士も黙り込んだ。

 少女は最初無表情を保とうとしていたようだが、今ではそのつぶらな瞳に涙を溜め込み、それをどうにか流すまいと必死になっている。

 泣いてはいけない、泣いたら終わり。

 彼女が言葉にせずとも、そう考えていることが周囲にはダダ漏れであった。

 部屋に控える使用人一同もまた彼女の言葉と涙につられ、その眦を歪めている。

 そのことに気がついたのか、騎士はうんざりしたように片手で彼らが外に出るよう指示を出した。それに抵抗できるものはこの場にはいなく、部屋に残されたのは騎士とまだ小さな少女だけであった。


「わたし、まだ若いです!」

「………………」

「騎士様の隣に並ぶにはまだ幼いのは確かですっ。それでもいつかっ、いつか!貴方の隣に並ぶに相応しい女性となりますっ!なってみせます!!だからっ、……だから」

「………………」


 彼女の宣言を、決心を男はただ黙って聞いていた。

 その男を何度も見上げては言葉を続けるたびに俯きかけそれでも何度も顔を上げていた彼女も、次の言葉だけは力強く口にすることもできず弱まるのは必至だった。

 口にした途端、宝を見つけ出した彼はそれを自分に求めるかもしれないから。

 あぁそうだ、そうしよう。とそう言われることが怖くて、悲しくて、…………寂しくて仕方がないから。

 それでも、ここで投げ出せない。逃げ出せない。最後まで言い切らなくてはならない。

 それが、自分の願いだから。

 宝を見つけた彼がいつ自分に触れてくるかわからない。終わりを宣言される前に、と少女はお願いをしなくてはならない。

 この勝負をすると決心したときに、決めたことだから。

 彼の優しさを信じて、甘えたくて、それでも必死に彼女は願った。願ったそれを、口にした。


「…………追い、出さないで。……あ、貴方の中から、わたしを、追い出さないでっ…………!」


 子供のように、幼子のように、彼女はそう願った。

 この邸から、彼の生活から、彼の領域から。

 もうここには来るな、俺に近づくな。

 そう言われることが、彼女は心底怖かった。

 彼が好きで、好きでたまらなくて。それは尊敬と憧景の重ね合わせで。

 それでも、彼の乱暴な態度に、言葉に、優しさを感じてしまうときがあったから。

 たとえそれが幼子に対してのものであったとしても、彼女にとってそれは彼が自分のことを思ってのことだと感じたから。

 これまで、一度だって彼は自分の存在に肯定しなかった。けれど、拒絶もまたしなかった。

 その優しさに縋りついて、さんざん甘えてきた彼女は、いつか機会に恵まれたら自分はあっという間に切り捨てられるのではないか。

 そんな恐怖もあった。


 けれど、彼女が本当に恐ろしく思ったものはそれだけではない。

 彼女が最も恐れたのは──────


「…………これまで散々俺の家に入り浸って何言ってるんだ?」

「………………っ」


 そう、彼女はこれまで外堀を埋めるように周囲から囲い込んでいた。

 「騎士様の新妻になる」と。

 幼いながらに、どうにかして彼と結ばれる未来へ近づくために行動してきた。そこに後悔はない。

 けれど、もし外堀から埋めてきたことによって彼がそのことに気がついたとき。

 ただでさえも年の差のある自分を異性と見る前に敵とみなしたら。

 少女に対して失望を抱いたら。諦観を抱いたら。

 なし崩し的に、彼女を娶ることを諦めと同時に受け入れたら。

 そうすれば二度と、彼は自分を女としては見てくれなくなる。

 自分を、好きになってもらうことができなくなる。

 うまく外堀を埋め、己の願望通り婚姻を果たしても。触れることも、近づくこともなく、白い結婚のまま家族としての愛も向けられることもなく、生活していくことになる。


 自分がどんなに愛しても、きっと受け入れられることはなく流される。

 彼が好きで好きでたまらない彼女は、それがわかっていた。

 普段はどんなに粗い扱いを受けても、明るく振る舞ってきた彼女は、ずっと心の奥底で怯えていた。

 もし彼の優しさが冷めてしまったら。

 もし彼が諦めの気持ちで自分受けいれるふりをしたら。

 そんな言いしれぬ恐怖が、彼女の奥底でくすぶっていた。

 周囲を巻き込むたびに、彼が疲れたようにため息を流すたびに。

 幼子のように怖がってしまえば、弱気になってしまえばそれこそ彼に嫌われる要因となり得るから。

 それがわかってしまっているから、彼女はずっと明るく強く、意地を張るようにしがみつくしかなかった。

 そうするしか、道がなかった。


「………………もう、ダメですか?わたし、騎士様のお嫁さんにはなれませんか」


 いつの間にか、普段の「旦那様」呼びではなく、かつての「騎士様」呼びに戻っている。


「…………もう、わたしのこと好きに、なれませんか?」

「………………」


 怖くて、怖くて。

 それでも期待したくて、諦めたくなくて。彼女はどうにか言葉を続ける。


「……わたしは、ガキのままですか…………っ?」


 もう、こぼれた涙も拭うこともできず、どんどんその奥からあふれるそれを止めることもできず。

 彼女は彼に問いかけた。

 彼の答えを待った。

 そして、それまで黙って彼女の言葉を聞いていた彼は──────。


「────ガキだな」

「っ〜…………っ!」


 そう、言い放った。

 彼の答えに少女は耐えきれずその目を強く瞑り、顔を俯かせた。

 これ以上、彼に自分の汚い顔を見られたくなかったから。

 これ以上、嫌われたくないから。


「“待て”もできず、すぐに結果を求めるのはガキの証拠だ」

「…………っ………………?」


 ソファの上で、いつの間にか両足で乗り上げ彼の方へと体ごと向けていた少女に、男は力強くその肩に触れ、押した。彼に強く押された少女は抗うことも敵わず、背中ごとその柔らかいソファの中に沈み込む。

 そして、ゆっくりと自分の上に覆いかぶさる影を涙の溜め込んだその瞳で見上げた。


「俺は確かに言ったはずだ。『せいぜいイイオンナになってから出直してこい』ってな」

「…………っ……?!」

「俺はロリ専じゃねぇし、小せぇ女には興味ない」

「っ〜………………!」

「……けど」


 そこで男は一つ言葉を区切ると更に顔を近づけてきて言い放つ。

 そのどこまでも麗しい顔を、酷く意地悪な形に歪めて。


「お前みたいな後先考えず強気で意地っ張りな女は、存外悪くない」

「っ!?!!」


 その顔を押し付けるように、彼女の耳元で囁くその声はどこまでも意地悪く歪んでおり、それでも決して嘘を響かせてはいなかった。


「…………まぁ、確かに今更俺から逃げ出そうなんて考えられるのも面倒だ。ひとまず婚約関係だけは認めてやる」

「……!?!?」

「だが、結婚はまだだ。何度も言うが俺はロリ専じゃねぇ。俺がお前に興奮するぐらいになったら、その時は考えてやるよ」

「…………!!??」


 ただただ彼の言葉に驚くだけの彼女に、それを上から眺めていた男は嘲笑の笑みを浮かべる。


「…………だが、あんまり待たせるなよ?俺はまだまだ現役だが、この面だ。女に不足はしないからな」


 いい女は他にもいる。それでもお前を選んでやるんだから、期待させろよ。


 言外にそう告げる彼の言葉に、今度は違う意味涙腺が決壊した。

 そんな彼女にまるで飴を与えるかのように騎士は一つ含んだ笑いを見せて、彼女を呼んだ。


「…………なぁニーナ?」

「……っ!?」



 さて、これまで明かされなかった彼女の名が何故今この場で出てきたのか。

 何故、これまで語られなかった彼女の名を彼が知っていたのかは後日また別の機会に語ることとしよう。

 今はただ、晴れて憧れの人と婚約関係を結ぶことができた一人の少女に祝の言葉を捧げる。

 「おめでとう」と。


「言っとくが結婚はまだしないからな」


 だ、そうです。

 改めて新妻ちゃん、おめでとう!

初名前呼びおめでとう新妻ちゃん!

最初名前無しで進めようと思ってたけど、コッチのほうが騎士様らしいから。あ、騎士様の名前登場できなかったね。いつか番外編でお呼ばれしましょう。

本編無事完結!

あとは番外編をチビチビ投稿する予定なので

最後までお付き合いくださりありがとうございます。




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