30 誕生日パーティ
それからもマリッサは以前と変わらず稽古を行う日々を過ごしていく。
剣技に至っては実戦で成果を出したので以前より一層力を入れて稽古に励むようになった。
俺は早朝の廊下を歩きながら、ここ数日のマリッサの動向を振り返っていた。
「……それにしても、今日は朝から慌ただしいな」
廊下ではメイド達が慌ただしく走り回っていたので声をかけてみる。
「そんなに急いでどうしたの?」
「アモン様! おはようございます! 今日はお嬢様のお誕生日パーティの日ですから、朝から来賓される方たちのおもてなしの準備をしているんです!」
「あ……そうか。今日はマリッサの誕生日パーティがあるんだね」
「はい! それでは準備がありますので失礼しますね」
「うん。転ばないように気を付けてね」
「ありがとうございます! それではアモン様、失礼致します」
再び再び駆け出すメイドを見送った後、しばらく歩くと稽古着のマリッサと出くわす。
「あら、アモンじゃない! おはよう!」
「おはようマリッサ。朝の稽古が終わったところ?」
「えぇそうよ! 今日もボルティガからいろいろ教わったわ! また前みたいに戦ってみたいわね!」
意気揚々と話すマリッサを俺は微笑ましく眺めていると、後ろから付き添っていたマイトが言葉を挟む。
「……その剣技の意欲をもっとダンスの稽古で発揮して頂ければいいのですが」
「う……そ、それはそうだけど! 苦手なものは苦手なのよ。こう……ステップとかいろいろ覚えることだらけで投げ出したくなるの!」
マリッサはその場で踊りながら説明する。
「あ、そうだ! 誕生日おめでとうマリッサ!」
「……え? あ、ありがとうアモン!」
「今日は誕生日パーティだったよね? ダンスとかいろいろ頑張ってね」
誕生日パーティと聞いた途端に見てわかるようにシュンとなるマリッサ。
「はぁ……気が重いわ。逃げ出したい気分よ」
「……それはお嬢様がダンスの稽古を熱心にしていなかったからではありませんか?」
「いいのよマイト! ダンスなんてそんな日常的にする事じゃないし!」
「はは、でもアリシアから教えて貰っていた事を思い出しながらやれば大丈夫だよマリッサ」
「そうかしら……」
自信なく俯くマリッサと話しているとミダルマンが通路の奥から歩いてくる。
「お嬢様、お食事の用意が出来ております。大広間へお越しください」
「わかったわミダルマン。行きましょマイト。それにアモンも!」
「畏まりましたお嬢様」
「うん、わかった」
大広間に移動すると机の上には既に料理が用意されており、ライフォードとエアリア達も既に座っていた。
俺は皆に挨拶をするとエアリアの隣に座る。
「おはようマリッサ」
「おはようございますお父様」
マリッサもライフォードと挨拶を交わすと近くの席に着く。
「今日のパーティ会場ではしっかり成長した姿を皆に見せるようにな」
「……早速だけどお父様、今日の誕生日パーティは欠席させて貰って良いかしら」
「何を言っておる! お前が主役のパーティなのだぞ? ダメに決まっているだろう」
「はぁ……そうよね……」
「まだ少し時間に余裕はあるが……まもなく会場にはマリッサの誕生日を祝いに来て頂く来賓の方々がお越し頂く予定となっておる。他の者から見られても恥ずかしくない姿を見せるようにするのだぞ?」
「わかっているわ! それよりお父様、早く食べましょう!」
「……本当にこの娘は……おっと、申し訳ないアモン殿。さ、気にせずに食べて頂けますかな」
「はは、マリッサも稽古頑張っていたので大丈夫だと思いますよ」
それから俺達は朝食を済ませると、マリッサの周りに複数人のメイドたちが囲う。
「お嬢様、失礼致します!」
「わわっ! な、何よ」
ライフォードはマリッサを拘束したメイドたちに話しかける。
「お前達、マリッサが逃げ出さないようにその稽古着からパーティ用のドレスに着替えさせてくれるかな」
「分かりましたライフォード様! それではお嬢様、行きましょう!」
「ちょ、ま、待ちなさいよ! マイト、助けなさい!」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「は、薄情者! ……もう、放してったら―!!」
嵐が去る様にマリッサは大広間から連れ去られてしまった。
「……騒がしくて申し訳ないアモン殿」
「あ、いえ! 気にしてないですよ」
「ありがたい。……さて、アモン殿達にも今日の誕生日パーティ用の衣装を用意しているのだ。お前達、アモン殿に衣装室へ案内して頂けるかな?」
「畏まりましたライフォード様。さ、こちらへアモン様」
マイトと控えていたメイド達が返事を返す。
「衣装ですか……わかりました」
「……あの、私たちもドレスとかを着る事が出来るんですか?」
エアリアはライフォードに恐る恐る尋ねる。
「あぁ、種類は豊富だからな、好みに合うドレスを選ぶと良い」
ライフォードが答えると、エアリアの表情がぱぁっと明るくなる。
「わかりました! アモンさん、それではまた後でお会いしましょう!」
「うん。それじゃ皆、また後でね」
エアリア達がメイド達と大広間から出ていくのを見送る。
「……それではアモン様、私たちも衣装室へと向かいましょう」
「そうだね。行こうか」
俺とマイトも大広間から出て衣装室へと案内してもらう。
「へぇ……マイトが着ているような服がいっぱいだね」
「そうですね。アモン様のサイズに合う服をいくつか着てみましょうか」
「お願いするよ」
それからマイトのサポートをしてもらいながらピシっとしたスーツに着替える事ができた。
「とてもお似合いですよアモン様!」
「そうかな? あまり実感はないけどね」
俺は姿見で自身のスーツ姿を見ながら返答を返す。
「それでは会場に向かいましょう。既に様々な方が来賓されていると思います」
「そうだね。それじゃ行こっか」
着替えを済ませた俺達は、その足でパーティ会場へと向かった。
「こちらになります」
俺はマイトの案内でパーティ会場へと入る。
「……うわぁ、広いな」
会場は先ほど食事をした大広間より何倍も広い大きな部屋となっており、小さなテーブルが何個も配置され様々な料理がテーブルの上に置かれていた。
既に様々な気品ある人たちが大勢来ており、俺は場違い感を抱いているとエアリアがメイドと一緒に会場に姿を現した。
「あ、アモンさん!」
エアリアが俺に気付くと声をかけてくる。
続けざまにエレナやキャスティ、ディアマトもドレス姿で会場に入ってくる。
「エアリア! そのドレス、とても似合ってるよ! それに皆も!」
「ありがとうございますアモンさん! ……なんだか照れますね」
エレナがスカートの端を持ちながら呟く。
「あたし……あまりこういったヒラヒラするのって苦手なのよね」
「いやいや! ドレス姿のエレナもとても素敵だと思うよ。いつも着ている軽装とはまた違ったエレナみたいでとても新鮮な気持ちになるよ」
「……そう? ならいいけど」
「アモンさんアモンさん! 私はどうかにゃ!」
キャスティがピョンピョン跳ねながら尋ねてくる。
「うん! キャスティもとても似合ってるよ! でも、借り物だからあまり乱暴に扱わないようにね?」
「ありがとうアモンさん! 大事に着るにゃ!」
「主様……我はどうじゃろうか……? こういうのは初めて着るのじゃ」
ディアマトは照れつつも聞いてくる。
「へぇ……ディアマトはドレスは初めて着るんだね。でも、すごく似合ってるから心配しないでいいと思うよ?」
「そうかの?」
「うん!」
「……主様がそう言うなら気にしないで過ごすかの!」
ディアマトは腰に手を突いて吹っ切れたように笑う。
「アモン様。私はマリッサ様の所へ向かいます。始まりましたらお静かにお願い致しますね」
「わかったよマイト。でも、会場に刺客がいるかもしれないから警戒はしておくね」
「はい。私もマリッサ様のお傍で注意を払っておきます。それでは」
マイトが会場から去っていくのを見送った後、俺は会場に視界を戻す。
会場を見渡しながらマリッサの誕生日パーティが始まるワクワク感と、刺客がいるかもしれないというハラハラ感に苛まれながら誕生日パーティが始まるのを待ち続けるのであった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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