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なのじゃ!!  作者: デト
第1章
9/53

王女、アクゼマーサ

「あれは、王族の馬車!?」


 皆で荷台から覗き込み、カリアが慌てたように草原の地面へ降りる。

 マカハーンやアシュレイ、エルフ男のフェツェルもゆっくりと荷台から身を降ろし、相手の馬車と騎士の列が通り過ぎるのを待った。


 馬車は全部で4台。

 先頭を進む王族が乗っているだろう馬車、侍女達が乗っている馬車、服や野営道具を収納した馬車、食べ物を収納した馬車だろう。

 それらを囲むようにして30人近くの騎士が並行して歩き、10人の騎士がバイフォンに跨がり乗馬していた。


「ミレシェルア。君もこっちへ」


 銀髪の少年に呼ばれ、ミレシェルアも地に降りる。

 隣に立っていたマカハーンが、白髪の少女に聴こえる小声で呟いた。


「あの馬車の中にはアルタイル王国が姫君、アクゼマーサ様が居りますの。数週間前に王都から出発していたので、今はお帰りの途中だと思いますわ。通り過ぎる時に御辞儀もお忘れなく」


 なるほどのぅ。と考えながら、人間の国の礼儀に従う。


 先頭の騎士が目の前を歩くタイミングでフェツェルが「お勤め、ご苦労様です」と言葉を贈り、御辞儀を始めた。

 他の3人もそれに合わせて頭を下げ始めたので、ミレシェルアも御辞儀をしておく。


 騎士の者達が通り際に「そちらもお気をつけて」と返事をし、先へ歩きだす。

 丁度、アクゼマーサ姫が乗っていると想われる馬車が前を素通りした時に、ミレシェルアは違和感を感じた。


 ──なんじゃ? 今のビビビっとくる感覚は。


 不意に頭を上げて、傾げるように馬車を眺める。

 呆然としながら、手のひらを閉じたり開いたりする。害はない。

 今の違和感は身体に来たものではないと、直感もした。

 何故か懐かしさすらも感じるが、少女は離れていく馬車を眺め続けた。


 この違和感を覚えたのは、ミレシェルアだけではない。


「──今のは?」


 アルタイル王国の国旗を掲げた、馬車の中。

 今年で8歳になった王女、アクゼマーサ姫が声を漏らす。

 ミレシェルアの感じた気持ちと同じく。その少女も、懐かしさを心の中で認識していた。


 この心が痺れるような感覚を感じたのは、2人のみ。

 お互いに謎の現象を理解出来ぬまま、馬車の群れは離れていく。

 不快感はなかった。感じるのは懐かしさ、ただそれだけ。









「アシュレイ殿。それは何なのじゃ?」


 馬車に乗り込み、移動を再開。

 皆がさっきと同じ位置に腰掛け、寛いでいた時。

 アシュレイが自分の荷物を確認して1つの道具を取り出した。

 それは、手のひらサイズの薄い板状の道具。


「ん? 見るのは初めてなのかい? これは、ルナフォンだよ」


 そう答え、薄い板状の端にあるボタンを押すアシュレイ。

 ミレシェルアが前世で見たことのある道具と同じく、画面が起動した。


「暇だからね。ロンティナまでの、情報収集をしようと思ってさ」


 画面に指を滑らせては、ギルド何とかページなんて書かれた画面を、余すことなく真剣な表情で見ている。

 ふおおおおお。と小声で感動していた白髪少女の、もう隣に座るマカハーンも荷物からルナフォンを取り出した。


「アシュレイさん。同じ班な事ですし、この先で別れてしまった場合も想定して。お互いの番号を登録しておきましょう」

「そうだね。うん、わかった」


 どうやらルナフォンを使って、離れた位置からも会話が可能らしい。

 使い魔契約で刻まれた月光陣でも似た事が出来るので、そこは不思議に想わない。

 前の世界と違い、圏外は気にしなくて良いようだ。

 名前からして月光(ルナ)の力を利用しているのだろう。


「儂も欲しいのぅ」


 テレビと言い、ルナフォンと言い。人間の国は技術力がすばらしい。

 カリアを育てながら、クロスディア大陸の金を集めて購入しようか。

 ミレシェルアの中では、切り裂き犯の報酬をカリアに渡そうと考えていた。

 無駄遣いはさせず、食べ物を沢山食べてもらわなくては。


 白髪の少女と同じく、ルナフォンを羨ましそうに眺めているカリアを観察する。

 何時も身体を鍛えているらしいから引き締まっている。しかし、細い。

 失礼だけど、イケメンではあるが頼りない。


 非力で体力の無い自分は棚に上げて、思ってしまう。










 馬車に乗り続け。しかし、時間も掛かるのでミレシェルアは魔界に帰った。


 それから数時間、モンスターに襲われる事はなく草原を進み。

 馬車はアッカドと呼ばれる街にたどり着いた。時刻は夜の19時ほど。


「フェツェルさんは今回、付きっきりで馬車に乗せてくれる話になっているんだ。だから宿屋も2部屋借りて、カリア君とフェツェルさんで同じ部屋に泊まってもらうんだけど」


 大丈夫だよね?と、頭を傾げるアシュレイ。


「うん。俺は問題ないよ」

「あっしも大丈夫っす」


 仲良くしましょう!そう笑顔で話しながら、カリアの肩に手を乗せるエルフ男。

 バイフォンと荷台をフェツェルの知人らしい者が経営する馬小屋に預けた後、4人は街の中を進んだ。


 王都アルタイルに近い街だけあり、アッカドも人で賑わい景気も良さそう。

 四角い建物が並び、建物と建物に挟まれた人通りの多い道の上空には、逆三角のカラフルな旗が沢山飾られたロープを吊るしてあった。


「ここの宿屋は、良さそうですわ」


 マカハーンが顔を向ける先は、4階建ての宿屋。

 扉の上に飾られた横看板には『宿屋ミスティ』と書かれている。

 とりあえず、部屋が空いているかを確認しなくてはいけない。


「ごめんください。宿屋に泊まりたいのですが」


 カリアが最初に扉を潜り、カウンターに腰掛けたおばちゃんへ話し掛ける。

 流石は宿屋で生活して数年の男。慣れた動きだ。


「はいよーう。部屋は沢山空いているよ。飯は別料金さ。部屋の方は1部屋1泊3000ディア。ベッド2つ付きは4階の部屋だね、そちらは5000ディアだよ。飯は一人前500ディア」


 食堂はあそこ、トイレはあそこ、風呂も予約を入れてくれれば順番で入っておくれ。

 指であちらこちらと差し、おばちゃんが説明は終わりだよ。と静かになる。


「4階の部屋を2つ、どちらも1泊で。ご飯は4人分、この後直ぐにと、明日の朝の分をお願いするよ」

「りょーかい」


 カウンターの上にある紙にメモをして、おばちゃんは1万4000ディアをアシュレイから受け取り、2つのカギを渡してきた。

 風呂は女性陣から先に入り、男性陣は後。


 とりあえず、荷物を部屋に置いてから食堂で合流と言う流れに。


 4階の部屋でマカハーン、アシュレイの2人と別れ。カリアはフェツェルと自分達の部屋に入っていく。

 ベッドが2つ横に並び、灯りのランプを乗せた小さな棚がベッドの間に置かれていた。

 掃除もしっかりされており、素朴ながら綺麗な宿屋だ。








「うわぁ! 美味しそう」


 食堂で4人が集まり、木で作られた1つの丸テーブルを囲んで座る。

 テーブルの上にはおばちゃんの旦那さんだろう人が作った、美味しそうな料理でいっぱい。

 チーズが乗った大きなソフトステーキに、十字に切れ目が入った丸いパンが2つ。

 野菜がたっぷりのスープと、果物のプップルが一口サイズに切られて盛り付けられたデザート。


 皆がそれぞれ飲み物を頼み、男性2人はコップを手に持つ。


「カンパイっす!」

「うん」


 カリアとフェツェルが2人で飲み物をカンパイし、口に流した。

 カリアとしても目の前の料理が眩しすぎる。

 最近はミレシェルアから料理を頂き、食には困っていない。けれど、遠慮がちになってしまう。


 白髪の少女は向こうに帰る前、このアッカドの街に興味をもっていた。

 明日の出発前にはミレシェルアを召喚して、一緒に街を観る約束をしている。


「さて、食べながらで構わないけど。明日からの話し合いをしようか」


 食事の最中。皆が行儀よくフォークとナイフで食べていたところ、アシュレイが話し出す。


「ロンティナは、ここからおおよそ2日の位置にある。途中に村や町もない。少なくても1度は夜の世界で野宿をしないといけなくなるって事さ」


 ルナフォンを取り出し、大雑把に描かれた地図の絵を画面に映す。

 クロスディア大陸のほとんどは今だ未知の場所が多く、大陸全体の地図も2割以下しか把握出来ていない。


「つまり、私かアシュレイさんのどちらかが夜に警戒するって事ですの?」


 残念ながら、カリアは戦力に数えられていなかった。


「別けるとするなら、僕1人と君達2人で順番に休むよう考えているよ。それでも不安ならこの街で護衛を雇い、人数を増やすかだね」

「──ちなみに、この班だとキツいのかな?」


 カリアは思考する。学園側が1年の初イベントで、そこまで大変なものを用意するのだろうか。と。


「結論から言わせてもらうと、僕は余裕。多分、アンジェリーナさんも大丈夫だろう。彼女、強いし。問題なのは、それでカリア君の為になるのかどうかだよ」


 自分が原因であった。


「学園側も言っていただろ? 慣れる事が目的だって。学園側が解散する前にこっそり他の班の依頼を見たけど、基本は王都アルタイルの隣町で受ける簡単な依頼だった。僕とアンジェリーナさんの成績から、依頼の難易度が上がったのだと思うけど。これじゃあ、カリア君だけは慣れるどころじゃないよね」


 アシュレイは元々、マカハーンとカリアの2人に合わせると伝えている。


「──俺は」







 

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