いざ、ロンティナへ!
「位置が変わるだけで、街の景色は大違いじゃな」
カリア達が宿屋ミスティで1泊した、次の日。
朝食も終わった皆は、宿屋を出て街を歩いている。
ミレシェルアをこちらに喚んだ後、少しだけなら観てまわっても大丈夫らしく。
馬車の準備で居なくなったフェツェルを除き。食材の調達も合わせて、街の中を散歩していた。
現在の時刻は10時前。
1時間近く前から、街中は食材や物売りが開始されており。
カリアが荷物を抱えて少女3人の後ろに着いてくる。
「カリア殿。大丈夫か?」
「うん。余り量もないから、これくらいは大丈夫だよ」
紙袋に入った食材を落とさないように慎重だ。
時間帯なだけあり、王都アルタイルの商店街のように人が多い。
「食材は充分だろうし。このまま待ち合わせの場所に行こうか」
「そうですわね。この街に入ってきた時と同じく、北口へ向かいましょう」
どうやら一度、北口で合流してから馬車に乗り。そこから外周して南口へ移動するとの事。
人混みを掻い潜り、人の流れに呑まれないよう気をつける。
「ミレシェルアちゃん。はぐれると危ないし、手を貸して」
「すまんのぅ」
アシュレイが、小さな身体で頑張っている少女を見て、手を繋ぐ。
自身を壁にするように白髪の少女を真後ろに並べさせ、ゆっくりと進んだ。
洞察力もあるらしく、出来る限り人と人の間が開けた道を選らんでいる。
「マカ。俺達も」
「ええ。ありがとうございますわ」
それを見たカリアも、荷物を片腕で抱え直し。急いで前へ移動すれば、マカハーンに手を伸ばす。
こうして、誰1人見失う事はなく、人の少ない道までたどり着けた。
「おや? 見覚えのある顔だと思えば。落ちこぼれ君ではないか」
そのまま北口まで移動している途中。道の端から、声を掛けられる。
声の方角へ皆が視線を向ければ、4人組みの若い少年少女が立っていた。
「──ハルシオン」
カリアが、先頭に立つ金髪の少年に呟いた。
なんじゃ?なんじゃ?と、ミレシェルアが周りを確認すれば。皆が「またか」といった表情を浮かべている。
彼らは、同じ王立ヴェルト学園の生徒達。彼らの依頼場所が、ここアッカドのようだ。
「ふん。ハルシオン様だろ、落ちこぼれ。寄生出来る良き班に、恵まれたようだ」
一瞬、アシュレイとマカハーンの2人に視線を向け。ほくそ笑みカリアを眺める。
まるで馬鹿にした態度を隠そうともしない彼に、少し不機嫌な表情をしたマカハーンが反論しようとした。
しかしその前に、ハルシオンと呼ばれた少年の服が引っ張られる。
「ん?」
なんだ?と視線を下に向けると、白髪の少女が見上げるように立っている。
「……。」
「……。」
少年は、突然の事に混乱していた。
何故自分が、知らない少女に服を引っ張られているのか思考する。わからない。
まったくわからない状況に、気まずい。
そもそも誰なのかも、本当にわからない。
そんなハルシオンの気持ちを察したのか、ミレシェルアは口を開いた。
「まあ、肩の力は抜くとよい。じゃあの」
「……。」
では、行こうぞ。そう話し、カリア達を連れて歩いていく。
状況に置いていかれた金髪の彼は、呆けるように置き去りにされてしまった。
これが、ミレシェルアとハルシオンの初顔合わせである。
目的の北口にたどり着いた皆は、フェツェルと合流して馬車に乗りだした。
荷物も全て荷台に置き、椅子に腰掛ける。
ここから2日近く掛けて、ロンティナに到着する予定だ。
「いざ、ロンティナへ! 出発じゃ!」
馬車は動きだし、涼しい風を浴びながら南を目指した。
ゴトンゴトンと荷台は揺すられながらも、一歩一歩進んでいく。
クロスディア大陸には、5つの大国が存在する。
どこも人間族が治めた国であり。他の種族達も、差別される事はなく共存していた。
中央に位置する貴族の国、アルタイル王国。
南に位置する和洋の国、ベルニカ王国。
西に位置する強風の国、ユーラシンア王国。
東に位置する砂漠の国、ドドギーラ王国。
北に位置する吹雪の国、クインレギアス王国。
現在全ての大国に、神童と呼ばれる幼き姫が存在している。
僅か8歳にして、ムーンフォースを操りナイトすら発動させる事が出来る天才達だ。
そして、カリア達が朝食を食べていた頃。
アルタイル王国内のとある町にて、2人の姫君が馬車に乗る前で互いを認識した。
和洋の国、ベルニカ王国が誇る"双子姫"である。
「「チャオ」」
幼き見た目の少女2人が向かい合い、いつも通りの朝の挨拶を交える。
「ウチ達の旅も。次の町で最後ですよぉ」
オレンジ色の髪を背中が隠れるくらいに伸ばし、後頭部には水色の大きなリボンを飾った頭。
ワインレッドの瞳が覗く垂れ目気味な眼に、白く綺麗な肌。
全体的にピンク色の服装であるが。濃いピンク色の袖がない洋風な膝丈スカートドレスの上に、和風で薄いピンク色の浴衣を締めず羽織っている。
その手には、ゴシック傘を持っていた。
「うん。ミー達もそろそろ、ベルニカに帰らないとだし」
オレンジ色の髪をサイドテールにさせ、額付近に洋風な青色の布を髪の上から頭に巻いて飾っている。
ワインレッドの瞳が覗いたくっきりとした眼に、白く綺麗な肌。
こちらも全体的にピンク色の服装であるが。薄いピンク色の振袖と濃い灰色の袴。振袖の上には濃いピンク色の洋風に作られた上半身を隠す程のマントを羽織る。
少女達の名前は。
ゴシック傘を持つ姉が、ティマシール・マグライザ・ヴァン・ベルニカ。
サイドテールの髪型の妹が、セシェリア・マグライザ・ヴァン・ベルニカ。
この2人は、ある用件で調査に出掛けている国の騎士達に着いてきていた。
理由は単純に、面白そうだったから。
「ふぅ。秋の下月始まりからの調査ですから、流石に疲れるです」
「父様も、心配しているだろうからね。よく、了承を得られたよ」
ゴシック傘を両手で掴み、両腕を上に伸ばして身体をほぐすティマシール。
そんな姉を眺めて苦笑を浮かべ、セシェリアは馬車に乗り込んだ。
ベルニカ王国の者が、アルタイル王国の領地に入れているのは。アルタイル王国から許しを頂いたからである。
妹が馬車に乗り込んだので、姉もあくびを噛み殺して入った。
騎士の者が馬車の扉を閉め「それでは出発します」と、話し掛けている。
数台の馬車を後ろに並べ、多くの騎士に囲まれた豪華な馬車は前進した。
最初の揺れを含めて、馬車旅も慣れたものである。
「さて、次の所はどんな場所かな」
「それよりも、用件の確認が先ですよ」
ベルニカ王国の街も含めて、数ヶ所の街を転々と観てきた。
──世界中で変化が起きている。
ベルニカ王国の国王が。2人の父が予見していた、未来の予兆だろうか。
「どのみち、前触れは起きているんだ。父様への報告も変わらない。ならば、楽しんだもの勝ちだよ」
馬車の中に有ったクッションに肘を置き、ケラケラと笑うセシェリア。
普段通りの妹を眺め、ハァと溜め息を溢すも。ティマシールは苦笑する。
「それもそうですね。わかったです」
そこで、双子姫は互いに笑顔を浮かべた。
次の目的地が楽しみである。
2人して腕を突き上げ、声を張り上げるのだ。
「「いざ、ロンティナへ!」」




