自業自得
翌日。
天気は晴天で、街中には既にそれなりの人が出歩いている。
早起きの少年は朝の自主練を早めに終わらせ、約束の時間30分前には王都の西門へ来ていた。
街中と外を遮断する壁に寄りかかり、カリアは身を震わせている。今回は特訓の時とは違い、多めに服を着ていた。これは寒いわけではない。
──ヤバい、外が怖いな。
ただただ、外に生息するモンスターを怖がっていた。
ムーンフォースが使えない。それでいて、武器はボロ剣1つ。
今回の長い自由期間は、そういう問題を解決させる余裕がある。
しかし彼は、報酬金の前払いを多く貰う事はしなかった。
剣1つがまともになっても、戦力になれるとは思えなかったからだ。
昨日渡された1万ディアは、肩に担いだカバンの中に保管している。
「お早いのね、カリア」
後ろに荷物を運ぶ従者を連れた、金髪の少女が現れた。
ここで良いわ、ありがとう。と、お礼を伝え。従者が去っていくのを確認したマカハーンは、自身で荷物を持ちカリアの隣に並ぶ。
彼女の服装は。
白色の長ズボンの上に、膝下くらいの少し濃い茶色のブーツ。
白き服は着丈が短いスカート程あり、長袖も皮手袋に仕舞っている。
胸元には銀のプレートを装着しており。普段ウェーブの掛かった長い後ろ髪も、後頭部で1つに纏めてポニーテールにしていた。腰には細い剣をぶら下げている。
「似合ってるね」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。見た目よりも、安全性重視の服装なので、可笑しくないかと不安だったのよ」
笑顔を浮かべて話し合う。端から観ると、美男美女の組み合わせだ。
自然とカリアの中の恐怖心も修まる。
「2人共早いね。もしかして待たせたかな?」
それから数分後、前と後ろが空けた縦にドーム状の馬車に乗ったアシュレイがたどり着く。
屋根は白い布を被せた、風通しの良さそうな馬車である。
カリアとマカハーンも馬車に乗せてもらおうとした時、御者の人がカリアの顔を見て話し掛けてきた。
「おや、あんたはこの前の。いやぁ、この前は妹さんに助けられましたっす。今回は、一緒ではないので?」
どうやら商店街で逃げ遅れた者だったらしい。
いきなりの事で呆然したカリアは相手を確認する。
森人族の、それもエルフ族の見た目若い男性だ。
クロスディア大陸に棲息するエルフ族は、男女関係なく皆が厚着を好む。
頭にターバンを巻いた彼は、リンシャン族の特長である長い耳が目立っていた。
「カリア、貴方。サリアにお会いしたんですの?」
話を聞いていたマカハーンが、歩きを止めている。
「えっ!? ──あ、いや、まぁ、何て言うか。その」
困った。
ミレシェルアの事は同じ班の2人に話していない。
もっと言えば、たまたま知られた者以外には誰にも教えていない。
いつかは人前で召喚するつもりだったが、変態だと思われないだろうか。
「えーと、サリアの事じゃないんだ。ミレシェルアって名前の、知り合いが居て」
そう答えたカリアは、自身の腕に嵌めた腕輪を外し、鏡を強調させる。
馬車から眺めていたアシュレイも荷台から降り、マカハーンと2人で陣の刻まれた鏡を眺めた。
「少し前、偶然見つけた本があってさ。それに書かれていた使い魔召喚を、試したんだ。進級試験の事で焦っていて、何にでも縋りたい気持ちだったから」
誤解されないよう、丁寧に説明していく。
話を聞いていた2人は、頭を傾げていた。使い魔召喚の存在を知らないらしい。
そこで、同じく話を聞いていたエルフの男性が話しに加わる。
「ほう、使い魔召喚っすか。あっしも詳しくは知りませんが。かなり昔に存在したと、今は亡き父に聞いた事がありますよ」
森人族は。エルフ族、ダークエルフ族、共に長命で知られている。
あっしもこう見えて、100は越えてますよ。戦えませんが。と、苦笑混じりに話し、目の前のバイフォンを撫で始めた。
長い時間を生きている者でも、使い魔召喚に対してはこの程度の認識しかない。
「とりあえず、起きているかもしれないし。喚んでみようか?」
腕輪を腕に嵌めなおし、確認する。
「気になるし、可能なら僕は観てみたいかな」
「私も。状況がわからなくては、何も言えませんもの」
「……わかった」
何時もなら、ミレシェルアの方から鏡に刻まれた陣──月光陣を通じて、頭の中に話し掛けてくる。
難とも言いがたいあの感覚は、未だに慣れない。
やり方は少女から聞いていたので、同じく確かめる。
心を落ち着かせ集中して、僅かにムーンフォースを絞りだし、腕輪の鏡を額に当てた。
──聴こえる? ミレシェ
そこまで声を送った時だった。
──ぬわあああああ!! な、何じゃ!?
まるで、寝起きドッキリに嵌められた者の如く。驚いた声を発するミレシェルアの声が、頭の中全体に響き渡った。
「……まったく、脅かしおって」
座っている所が揺れている。
複数の視線を浴びる中。カリアに召喚されたミレシェルアは、ご不満な様子。
頭に語りかけてきたタイミングが、最悪だった。
魔界大陸が夜になり、目を覚ました少女は。城のキッチンで完成しかけている料理を、こっそり隠れてつまみ食いしようと手を伸ばしていた時であったらしい。
少女の自業自得であった。
「それで? なんじゃ? なぜ儂は喚ばれたのじゃ」
自分を見ている、マカハーンとアシュレイを無視し。
目の前に腰を下ろしているカリアをジト目で睨み付ける。
そのクリクリとした可愛らしい眼では、威圧感がなかった。
現在は、馬車を走らせ荷台に乗って揺られている最中。
白髪の幼女の左右に、金髪少女と黒髪少女が座っており、頬を指で突いてきては口の中の空気が外に漏れ出す。
目の前の少年は、苦笑するだけだ。
「こんな幼い娘が、最近噂の切り裂き犯を捕獲しただなんて。失礼ながら未だに信じられませんわ」
ぷにぷにと、モチモチの頬っぺたを触り続けるマカハーンは、困惑している。
困惑したいのは、突かれているミレシェルアの方だった。
フェツェルと名乗るエルフ男とカリアの2人によって、数日前の事件の内容も少し前に語られているらしい。
頭に語りかけられて少し時間が経ってから、こちらに召喚されたのだが。その時には馬車の中にいてここに座らされている。
「へぇ、これが使い魔召喚ってやつか。初めて見たよ、存在も知らなかったし。驚いた」
横に長刀を寝かせて置いている黒髪少女は、興味深くミレシェルアを観察。
アシュレイの服装は。
黒い縦線のニットセーターは、首や手先まで覆われており腰にはベルトを巻いている。
同じく黒いホットパンツを着用し、黒いニーソと合わさって白い太股を覗かせた。
ショートブーツも黒く、全体的な色合いはミレシェルアの服装より漆黒。
それ故に、白き綺麗な肌が目立つ。
「のうのう。普通に皆で荷台に座っておるが。護衛の者がおらんけど、大丈夫なんかのぅ」
ミレシェルアは、馬車で外の世界を移動するのが初めてだ。
人間達の常識を知らない者から見て、今は警戒心が無く見えてしまう。
決して、頬っぺたが弄られるのを止めたい訳ではない。
いや、やめて貰えるのなら、それに越した事はないけど。
「このバイフォンってモンスターは、周囲への警戒心が強いんすよ。この子がひと鳴きしたら、皆さんでお願いしますよ」
フェツェルが、前を観ながら教えてくれた。
このバイフォンと呼ばれる馬型のモンスターはそれなりに強く、警戒心もある。
他のモンスター達を寄せ付けづらい性質と、近づく者に反応する敏感さを供えもっている。外の世界を移動するのに人気のモンスターであった。
そうこう会話をしていたら、バイフォンが小さく鳴きだす。
モンスターか?とミレシェルアは思ったが、違うらしい。
「この反応は、前から別の馬車が近付いているらしいっす。うーん、少しばかり震えてますので、キングバイフォンが引く馬車かもしれません。すみませんが皆さん。貴族方の馬車かもしれませんので、道の端で一端止めるっすね」
四大貴族のマカハーンが荷台に乗っているからと言って関係ない。
御者の人が貴族方に変に意識されると面倒なので。一端馬車を停めて、相手の馬車が来るのを待った。
ミレシェルアとしても、乗り慣れない馬車の揺れでお尻が痛かったので助かる。
少しだけ待ち、──前方から現れた。
多くの騎士らしき者達に囲まれた。キングバイフォンが引く豪華で大きな馬車が一台と、その馬車に続いてバイフォンが引く馬車が数台。




