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なのじゃ!!  作者: デト
第1章
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最初の目標

 カンッ! カカンッ! カッ!


 ──昼前の王都アルタイル。

 ミレシェルアが使い魔召喚をされた林の中で、衝突し合う乾いた音を響かせる。


「ハァ……ハァ……。カリア殿はムーンフォースが苦手なだけで、剣の扱いには慣れているようじゃな」


 昨日、父に怒られた少女は、今日もこちらに来ていた。

 第四天魔王である父ガルスも、娘が暇そうに生活している事を気にしていたのと。少女があれよこれよと説得した事で許されたらしい。

 事件に巻き込まれた事を隠して、あちらも平和じゃ!あちらは昼じゃ!と、いろいろ必死に語っていた。


 そして現在。ミレシェルアとカリアが木の棒を手に掴み、打ち合いをしている。


 少女は身体のみに少量のムーンフォースを纏わせ、2本の棒を振り回し。

 少年は1本の棒で、迫りくる連撃を凌いでいる。


 カリアに合わせて力を調整しているとはいえ、数分の打ち込みで少女は息を切らしていた。


「儂、疲れたぁー」


 近くの木に寄りかかって脚を伸ばしながら座り込む。

 ミレシェルアには筋力と体力が無かった。

 幼い身体を脱力させながら、今も涼しい顔で棒を振るう少年を眺める。


 カリアの実力は理解できた。

 先程話した通り、剣の扱いには慣れている。

 ムーンフォースを使わない争いなら、それなりに戦えるレベルだ。

 けど、現実はムーンフォースを使われて瞬殺されるしかない。


 最初の目標は『進級試験に合格』する事。


 試験内容は知らないが、ムーンフォースが必要になるのは確か。


「さて、どうやれば胸の剣を引き抜けるのじゃろうか」


 わからない。

 大船に乗った気で、等と語ったが。解決策はない。

 ミレシェルアが手にムーンフォースを纏わせても。

 ナイトを発動させ双剣で斬りつけても。

 結局、"触れる"事すら出来ず。

 素手はともかく、『キリトリ』と名付けている双剣で月光(ルナ)を斬れなかった事は、少女に衝撃を与えた。


 ──名前まで誓ったのに。儂、詰みかも。


 ハァと溜め息が溢れる。

 いや、諦めるのはまだまだ早い。

 要は、近い内におこなわれる進級試験さえ越えてしまえば良いのだ。


 カリアは、ムーンフォース自体を扱えない訳ではない。

 10歳になった子供達の1割以下だが、ムーンフォースを放出できる。

 視たところ。月光(ルナ)の剣が栓となり、ムーンフォースが微量しか放出できない。そんな感じだ。


 絞りだす事だけでも大変らしく、そこからの操作に余裕がないとか。


「お腹が減ったのぅ」


 もうじき昼に差し掛かる。

 人間の国ではどのような料理を食べているのだろうか。

 昨日貰った、プップルと呼ばれる赤い実の果物は美味しかった。魔界にはない、前の世界なら桃に近い果物だ。


「カリア殿ぉ。儂はそろそろ、お昼を食べたいぞぉー」


 昨日捕獲した罪人の報酬はまだ贈られていない。

 1ディアもお金を持っていない少女は、カリアに奢ってもらおうと考える。

 この世界の通貨はディアと呼ばれていた。クロスディア大陸から名前を取ったらしい。


 ミレシェルアからご飯を要求されて、困った顔になる少年。


「ごめん。レッドゼリーを買ったから。今、お金がないんだ」




「まっ!?」


 つい、間抜け面をさらしてしまった少女。

 まことか!?と、聞こうとする前に口から声が漏れてしまう。

 昨日もお金を持っていなかったが、その時は偶然持っていないのかと勘違いしていた。


 ──お金が無いじゃと? これから(スノーク)が始まるというのにか!?


 寒さに備えたりで忙しい季節なのに、何故?と思ったが。

 少女は、カリアの境遇を思い出した。

 いろいろ詰んでいる状態で、近い内に進級試験があると。

 だから彼は焦っていた、と。無計画過ぎるがそれしか選択肢がなかった。


「むむむむむ。ぬぅ、仕方がない。少し待っておれ、カリア殿」


 儂が帰って来るまで素振りは続けておくのじゃぞ!と言葉を残して、ミレシェルアは魔界に戻っていく。


 ドヤ顔の為にも、彼には強くなって貰わなくては困る。

 それにはムーンフォースを操作出来るようになるのが一番だが、身体も大切だ。

 よく動いて、よく食べて、よく寝る。


 ──ならば、儂が作ってやろうぞ!!


 そう思ったのだった。









「凄く美味しいよ! ミレシェルアは、料理も出来るんだ」


 作ってきたのはサンドイッチ。ただのサンドイッチ。

 ただ、魔王城で余っていた食材をパンに挟んだだけだ。

 実際に美味しいが、カリアには空腹と言うスパイスもある。

 それを忘れ、そこまで褒める程かと。そして少女は思考してしまう。


 ──もしや、人間(ヒューマン)の食文化は微妙なのか?


 と。

 先程まで、人間の国の料理はどんな感じか考えていた少女は思ってしまった。


「なるほど、美味しいか。沢山ある。強くなる為に、好きなだけ食べるとよい」


 前世では料理も作ったりした。

 前世で長く共にした友は皆、料理が作れなかったのだ。


 ──思い出したら、久々に会いたくなったのぅ。叶わぬ夢じゃが。


 逸瑠(いちる)多西(たにし)三竹(みたけ)政悟(まさご)阿露覇(あろは)弦七(げんしち)

 皆の名前を思い出すたびに、何度も懐かしむ。


 ミレシェルアが前世の名前は──夜慈郎(よじろう)だった。


 7人揃って『オジーズ』と、自分達で呼びあった。


 ──挨拶は、チャオ! だったのぅ。長く使っておらぬな。


 こちらの世界に来てから、おそらくは一度も使用していない挨拶。

 全てが懐かしい。不意に微笑む。あやつらに教えてやりたい。


 今の儂は、プリティーチャーミングなピチピチキュアガールになった、と。


 間違いなく爆笑されるだろう。

 もし、自分が見せられ聞かされる立場なら。似合わないと、指を差して馬鹿笑いしていた。


「なんか面白そうだね」

「そうか? ……ふふ、そうかも知れぬな」


 2人はゆっくりと昼食を過ごしていく。

 のんびりとした時間、お腹を満たしながら。

 カリアとしても久し振りに、まともな量の料理を食べた。

 レッドゼリー購入の為に、少し前から節約生活をしていたらしい。









「明日から、学校じゃったな」

「うん。場合によっては君を呼ぶかもしれない」


 カリアの話によると。彼の通っている学園は、週に4日しか行かないようだ。

 残り3日は休み。たまに学園のイベント等で5日以上の通学にもなるらしいが、基本は4日だと。


 下校も遅くなるだろう。つまり、ミレシェルアに『暇』が襲いかかってくる。


「仕方のない事じゃな。寧ろカリア殿、学校を退学するという考えはないのか?」


 少女は考えた。確かに物事を学ぶのなら学園に通う事は大切だろう。

 しかし、生活に困ったりしてまでも通う必要があるのだろうか。

 今は魔王の娘も着いている。進級試験なんて気にせず、時間を掛けて強くなる事を目指せると思った。


 彼が学園に通う時間を無くせれば、なんて考えている訳ではない。

 これは疑問だ。

 少女には、彼がここまで学園にこだわる理由を知らない。


「──約束しているんだ。ある人と」


 何かに焦がれている顔だった。


「あっ」


 察し。ついつい声が漏れてしまった。危ない危ない。

 ミレシェルアは口を塞ぐように両手を被せる。危ない危ない。

 これはアレだ。触ると火傷するやつだ。危ない危ない。


 阻止しよう。そう考えて両手を口から離す。


「語らなくてもよい。そもそも7歳の若い子供に話す内容でもなかろう」


 恋愛話の予感を感じ、話を止めさせようと企む。

 こういう時は少女の身分を利用するに限る。恋愛の話は聞いていると眠たくなるのだ。

 少しだけ、語りだした後に姿を消せば、1人でずっと語り続けるのだろうかとも気になった。見てみたいが面倒なのでやめておく。


「それもそうだね」


 苦笑を浮かべて、カリアは話すのをやめてくれた。危ない危ない。


「さてカリア殿。お腹も膨れた事じゃろう! 特訓を再開しようぞ!」


 少女は首飾りにムーンフォースを込める。

 武器は出さず、濃くなった瞳で目の前の少年を凝視した。


「そうだね。よろしくお願いします」


 取り敢えずはムーンフォースの操作も練習させよう。

 この眼で逃さず観察し、少しでもよくなってもらう為にも。


 目標は進級試験の合格。


 それを目指して、カリア・トゥースタンを鍛えることだ。


 ミレシェルアは、父ガルスと約束をしている。

 魔界大陸が朝になる前に城に帰ってくる事、以上がクロスディア大陸に行ってもいい条件。


 少女は時間ギリギリまで特訓に付き合っていた。

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