未来を求めて
「うおおおおおおお! 凄いな、君は!」
「いやぁ、驚いたねぇ。怪我はないかい?」
「──白いドロワパンツ!!」
「おねえちゃん、かっこよかったー」
「有り難うございます。お陰様で助かりました」
カリアの元に近付いている途中、逃げ遅れていた者達に囲まれた。
老若男女に感謝されながら人混みを進んでゆく。
「くっつぅ。すみません、我々が不甲斐ないばかりに……」
「まさか、子供を戦わせてしまうとは。痛てて、本当に申し訳ない」
倒れていた2人の兵士も、攻撃される直前にムーンフォースで身の守りを強化していたらしい。多少は血が流れているけど、周りの人々に治療されたようで包帯を巻いていた。
「無事でなによりじゃな!」
気絶して、ナイトが解除されている鎌男も。武器である小鎌と腕に嵌められた鏡を取り上げられ、余り意味は無さそうだが縄で縛られている。
聞いた話だと逃げた人達が兵の増援を呼んだと言うので、鎌男が目を覚ます前には牢屋に連れていける筈だ。
そうして安堵を浮かべている皆が、歩く道を譲ってくれる。
先にはカリアと、そんな彼に支えられている果物屋のおじさんが。
「お嬢ちゃん、強いな。ありがとよ、助けてくれて」
「気にするでない。果物のお礼じゃな。そなたもカッコよかったぞ」
「照れるぜ。まあ、俺は直ぐやられて時間も稼げなかったがな」
恥ずかしそうに頬を指でポリポリかきながらおじさんは話す。
「それでも。儂やカリア殿の為、危険に突き進んだ姿には感嘆を贈ろう」
両手を腰に当て、ドヤ顔になる。頭のリボンもピンっと張っていた。
周りが笑っている。カリアだけは何か思い詰めた表情をしているが、周囲に気付かれる事はない。
あれから時間が経ち、ミレシェルアとカリアは街を歩いていた。
ここから先の面倒な後始末は我々に任せておけと大人達に言われ、再度感謝されながら皆と別れたのだ。
最近街中で人が襲われる事件があり、その犯人を捕らえたとして。報酬が後日贈られるとのこと。
景色を楽しみながら歩いていると、カリアが何かを決意した表情で口を開く。
「ミレシェルアに相談したい事があるんだ」
真剣な眼差しで、けれど不安を含んだ瞳。
今は、川に造られた石橋の上に居る。人は少なく、会話が聴かれる心配は無い。
「ミレシェルア。君より歳上の俺が頼むのは、可笑しいかもしれないけど」
そこまで話し、一度瞼を閉じて深呼吸をした。
覚悟が決まったのかゆっくり眼を開き、少年は上半身を前に倒す。
「俺が強くなるのを、手伝ってほしい。──いや、手伝ってください」
深々に下げられた顔は、小さな身体の少女からも覗く事はできない。
けれど、カリアの身体は僅かに震えている。拒絶されることを恐れていた。
少女の戦いを見て実力を知り、途切れ欠けていた夢の、新たな可能性にすがる。
「……理由を聞いても、よいかのぅ?」
突然、何を言うのかと思えば。
まったく予想すらしていなかった相談を話され、少女は困惑した。
最初の林の中で状況を説明したように。
少年は、現在自分が置かれた状況を詳しく説明する。
カリアが何故、使い魔召喚を求めたのか、その理由を。
自分が強くなる為、学園に通っている事。
そこで落ちこぼれと呼ばれている事。
ムーンフォースの操作が苦手な事。
進級試験が迫っている事。
今のままでは、後がない事。
そんな時、使い魔召喚と書かれた本を見つけたのだと。
「──よくわかった。ふふ、なるほどのぅ。丁度いい」
話を聞いたミレシェルアは、腕を組み顔を下に向けながら軽く笑ったかと思えば。バッと顔を上げて人差し指を立てる。
「カリア殿に、儂のナイトが持つ能力を説明しようではないか」
「ミレシェルアのナイト? 確か氷を出したり。……重力だと予想してるけど、空を飛べる能力だよね?」
いきなりの会話に少年は不思議そうにした。
カリアもカリアで突然頼み事をした身である。先程の相談を急かしはしない。
けれど、自分が持ちかけた話との接点もわからなかった。
「ほほぅ。重力までは気づいておったか、素晴らしいのぅ。しかし、氷も重力も儂の能力の本筋ではないのじゃ」
ただの副産物。そう少女は告げて話を続ける。
「そうじゃのぅ。鎌の男は透明能力を持っておったが、儂はどうやって透明なモノを見破ったと思う?」
「えっ。……霧みたいに小さな氷を周囲に散らばして、僅かな変化を感じとったのかと俺は思ってたけど。氷は副産物らしいし、別だよね」
「うむ。確かにその方法でも可能じゃが、それではない」
そして、ミレシェルアは己の眼を指差し、強調した。
「ナイトの名は、『ダウンロード』。この眼じゃ」
同時に首飾りの鏡が輝きを放ち、ナイトを発動させる。
「瞳の色が濃くなった」
「……それは儂からは見えぬが、この眼は月光を視る事が可能でのぅ」
『ダウンロード』。
本来ならインターネット上のデータを落とす、と言う意味で使われる言葉。
少女の能力は、月光のデータを落とす。つまり、視る。
ちなみに、ムーンフォースと違い。月光は人の目で視認する事が出来ない。
そんな月光も、ミレシェルアのナイトを使えば視る事が可能なのだ。
──なるほど。それで透明になった敵や攻撃の位置がわかったのか。
便利な能力だと、カリアは思った。
「さて、本題に戻ろう。……儂は驚いたのじゃ。このナイトでお主を見てな」
「ん? え、俺を見て?」
そう、あれは鎌男を倒してナイトを解除する前にカリアを見た時だ。
自身の瞳に向けていた人差し指を、カリアの心臓部へ向ける。
「カリア殿の胸に、──剣が刺さっておる」
人を魅了しそうな艶やかに彩る紅き瞳、それは真っ直ぐと少年の胸元を見続ける。
慌てて自分の胸元を服越しに眺めるが、少年には何も視えない。
手でも触って確認をするが、何時もと同じく変わった物はない。
「ただの剣ではない。月光のまま形成された剣じゃ。儂も初めて見たぞ」
少女にふざけている様子もない。
「カリア殿がムーンフォースを上手く操れぬのは、その月光の剣が原因じゃと儂は思ってのぅ。あまりのことに、つい笑ってしもうた」
こんな都合のいい事があるのかと。
ルナの剣に気付かぬ者と、ルナを視る事が出来る者。
なによりも、切っ掛けさえ有ればそこから化けそうな『落ちこぼれ』の存在。
面白い。ミレシェルアの中で、1つの未来を想像する。
少女によって強くなった少年。
そして、強い少年を見た者達が「彼は何者なんだ!?」と困惑。
ここで現れる『儂』!! 腕を組み、背中を向けた格好でこう答えるのだ。
『彼は、儂が育てたッ!!』と。
痺れる。想像しただけでワクワクする。凄く、いい。
ここずっと、少女は暇だった。
今は人間の国を観ている最中なので楽しんでいるけど、ドヤ顔が大好きだ。
弟子になりたいと、カリア本人から頼んで来ている。
ミレシェルアからすれば、最初から答えは決まっていた。
遊び感覚に想われるかもしれないが、やるからには本気だ。
カリアは強くなる未来を求め、ミレシェルアは彼を強くすることを求める。
「さて、お主が強くなるのを儂が協力する話じゃったのぅ。うむ、良いぞ」
流されるように、了解の返事をした。
一瞬、聞き流してしまいそうになったカリアだが。それを理解すると驚いた表情を浮かべた後に、嬉しそうな顔に変わる。
「ミレシェルア、本当にいいの!?」
「よいよい。寧ろこちらこそよろしく頼むのぅ」
全てはドヤ顔をする為。
ミレシェルアとカリアは、互いの目指す未来を求めて握手をした。
──今度こそ、俺は前に進む。もう、現実から目を反らす事はしない。
銀髪の少年は胸の内に決意を固め、意志を強く拳を握った。
「大船に乗った気で居るとよい。この魔王の娘である儂が、ミレシェルア・クラシスの名に誓おう」
「うん、有り難う!! ──ん? ん? ん? まおうのむすめ?」
瞼をぱちくりとさて、ナンノハナシダロウ。と言いたげな顔をするカリア。
「何を呆けておる。儂の事じゃよ。儂は魔族、第四天魔王の娘なのじゃ」
少女はドヤ顔をしていた。確信犯である。
最初は身分を隠し、ここぞと言うタイミングで明かすのだ。
そうか、なるほど。強い訳だと頭の中で納得する少年。
「って。ぇえええええええええええええええ!!」
少年の驚いた声が空まで響く。
カリアは、現実から目を背けたくなった。
これが、2人の始まり。
その後は無事に、ミレシェルアは魔界大陸にある自分の部屋に帰れたらしい。
数時間の間城から姿を消していたので、両親を心配されてしまい怒られたのだった。
これにて、序章は終了しました。
返答は出来ませんが、感想もしっかり読ませて頂いております。
ブクマ、評価も有り難うございました。




