第三天魔王
そもそもの話。
何故ミレシェルアが家族揃って第三天に旅行で訪れたのか、訳がある。
簡易に説明するなら、第三天魔王から手紙が届いたのが切っ掛けだった。
内容は、最近になって美味しい料理に興味を持ってしまい。
第四天の魔王とその家族で、第三天に旅行がてら魚料理も教えて欲しいとの事。
「きゃー! 第四天のガルス様よー! ダンディでかっこいいー!」
「あの奥様方が、レイナ様か! さらさらな黒髪も似合って麗しい!」
「娘のミレシェルア様ったら、小さくて可愛いじゃない! 噂通りの美少女よ!」
反転都市ウオノスも底に届く日光で明るくなり、水人族の人々が活動を始め。
足場の所々にある穴場から、次々と泳いで飛び出してくる。
夜の街とは比べられない程に活気づいた大都市は、水中から姿を現した人魚や魚人が溢れ、第三天の魔王城へと向かうミレシェルア達を見る為に集まった。
滅多に来ない珍しい来客で興奮しているのか、ムーンフォースを使い水の曲芸をする者、イリュージョン的なナイトを発動させ建物の上に幻影を映し盛り上がる水人族もいる。
まるでパレードが始まったかのように、城まで続く大通りは左右に別れる人混みにより通り道を描くほどの大盛り上がり。
(これはこれは、水中の都市も合わさって幻想的じゃのぅ。ふむふむ、しかし美少女とは照れるではないか。自覚あるとはいえ、プリティーに育った儂も罪深いものじゃ)
見世物になるつもりがなかった3人は、否、ミレシェルアを除く両親は油断していた。
こうなるなら、もっと早い時間から城に向かうべきだったと後悔している。
歓声に応え手を振ってしまうと、止め時を見失う事を知っているガルスは魔王らしく平然と歩き続け。
ミレシェルアとレイナは、愛想を振り撒いて左右の人々に手を振りながら着いていく。
周辺の者達に悪気が無いことは知っているので、多少疲れても笑顔を返す。
一度宿屋に戻ってお土産を持ちなおしていたミレシェルア達は、目的地に進んだ。
「手紙を読み、よくぞ来てくれたでおじゃる。感謝するぞ、ガルスとご家族達よ」
低く重さを感じさせるが、ゆっくりと送られた声に相手を気遣う優しさを感じさせた。
反転都市ウオノスの中央に建つ魔王城。
街の騒がしさからか、または別の理由でガルス達の来訪に気が付いたのか。
城門で待機していた従者に連れられて1つの部屋にお邪魔する。
第三天の魔王城に作られた謁見の間で、ミレシェルア達は第三天魔王と向かい合った。
「久しいな、ポセイドゥン。魚とはそのまま食すのが一番と謳っていた貴様が、まさか料理に興味を持つとは。我も想像すらしていなかったぞ」
「グァッハハハ! おいどんもだ、ガルス。生か、焼けば一番旨いと、そう信じ今まで生きてきたものだが。料理と言うものを知ってしまったのでおじゃる」
大きな椅子に腰掛ける魔王は、図体も巨体な男性。
ミレシェルアの倍近く背があるガルスの、更に倍ほど。
赤髪を逆立てたオジサンって感じで、筋肉のつまった上半身は逆三角形を描き、下半身は魚のように尾がある人魚。
「軽く話も良いでおじゃるが、そちらのご家族に挨拶がまだだった。おいどんの名はポセイドゥン。第三天の魔王を勤めている。よろしくでおじゃる」
「ガルスさん妻、レイナです」
「2人の娘でのぅ。名は、ミレシェルアじゃ」
「ほうほう。レイナさんにミレシェルア姫か、覚えたでおじゃるぞ。3人にこのまま立たせ続けるのも申し訳ないでおじゃるし、場所を移そう」
巨体を持ち上げ、椅子から立ち上がるポセイドゥン。
魚の下半身を持つ彼は当たり前のように、空間を浮かびゆっくりと移動した。
水人族は水の扱いに長けている。
空気中に含まれる水分を利用し、ゆっくりではあるものの、このように空中を泳ぐことも出来るのだ。
ポセイドゥンについていき、客間へと到着した皆は席につく。
「ポセイドゥンよ、お土産だ。興味をもった料理で使うといい」
「中身は何だね? グォホホ! 調味料でおじゃる! それに料理のレシピ本も! 気が利くではないか。やはり第四天に手紙を送って正解だったでおじゃるよ」
失礼を承知でお土産の中身を覗きこみ、それが調味料だと知ると興奮しだすポセイドゥン。
そんな彼を見た、第四天の基準しか知らないミレシェルアは口を開く。
「ポセイドゥン殿に招待された事は嬉しいのじゃが。何故に儂らを呼んだのじゃ? 他の魔王達や、料理の事なら料理人を呼ぶのが良いと思うがのぅ」
ただの疑問だが、少しだけ気になった。
問われたポセイドゥンはお土産を大事そうに置き。腕を組んで、どこか遠い所を眺めるように、悲壮感を漂わせるような表情で答える。
「いや、だってでおじゃるが。第一天も第五天も、おいどん達第三天と似て、料理に感心せず肉その物を味わう者達でおじゃる。第二天は甘いものが好物だし、第六天に至っては食事を必要としておらん。料理を聞くなら第四天しかありえん。それに、人間族であるレイナさんにも料理を聞きたかったのでおじゃる」
「ハッハッハッ! ポセイドゥンの気持ちは我にも分かるぞ!」
他の同胞達でも思い出しているのか、なんともいえない想いが表情に現れていた。
それはガルスも同じだったらしく、頷きながら同調している。
第四天の食事文化はクロスディア大陸とあまり変わらない。
しかし、第四天以外の領地では違うらしい事が理解出来た。
同じ魔族でも、違いがあることを知るミレシェルアである。
「料理を作る場所も部下に作らせたでおじゃる。このように調味料も手に入ったしな、今日はご馳走にありつける。夜型の皆は疲れておらんのか? 休憩をするなら部屋を貸そう。それとも、街の中でも眺めに向かうでおじゃるか? 皆には感謝しかない、好きなように過ごすでおじゃるよ」
昼型の第二天が珍しいのであり、本来の魔族は夜型。
眠気や体調を気遣って、優しく話すポセイドゥン。
ほんわかとした落ち着いた空間に、ある連絡が頭の中に直接送られた。
『ポセイドゥン様、聞こえまーすか? 連絡役のカミーラでーす。御忙しいと思いますところ申し訳ありませーんが、そろそろ清きの儀をお願いしまーす! 連絡は以上でーす』
「なんじゃ? 今のは」
その声は皆に届いていた。
ミレシェルアがカリアとよくする、鏡を使っておこなう心で会話する念話に似たもの。
「今のはおいどんの部下カミーラのナイト、『テルパシー』でおじゃる。すみませんな皆さん。カミーラは都市の端で月鏡湖を観察する職柄、3人の存在を知らないと思うでおじゃる。悪く思わないでやってくれ」
「ああ、気にしてはいない。それよりも良いのか? 清きの儀とやらは。月鏡湖の水質に関わりのあるものだった筈だ。ポセイドゥンよ我々の事は構わず、第三天の魔王としてここを離れても大丈夫だ」
「了解でおじゃる」
ちなみに第三天は、魔王という役職に就く者を決める基準が存在する。
ムーンフォースの才能は勿論のこと、水を操作するのに特化したナイトの開花。
代々の血筋ではなく、2つの才能に恵まれた者を探し育てて魔王とするのだ。
「おっと。おいどんの王笏を、謁見の間に忘れていたでおじゃるぞ」
辺りをキョロキョロとさせたポセイドゥンは、ついうっかりと思い出す。
彼のナイトを発動させるのに使う鏡は王笏に装飾しており、今は持っていないらしい。
「ん? 鏡が必要なら、儂のを貸そうか?」
「ありがとう、ミレシェルア姫よ。でも大丈夫でおじゃるよ」
ナイトを発動させるのに、鏡ならなんでもいい。
だからポセイドゥンに鏡のペンダントを貸そうとするミレシェルアだったが、優しく微笑まれながら返答がくる。
すると、ポセイドゥンは右腕を前に伸ばした。
何をしているのかわからず、ミレシェルアは目の前の彼を眺め続ける。
ムーンフォースを操っている訳でもない、ただ手を掲げているだけ。
「!? ぬあっ! 何かが部屋に飛んできたのじゃ!」
静かになったのも一瞬。
ポセイドゥンの事を知っているガルスは、ミレシェルアとレイナの反応でも見て楽しんでいるのか、腕を組んで大人しい。
そうしていると、客間の中に1つの棒がクルクルと回転して飛来してくる。
棒はそのままポセイドゥンの伸ばされた右手に納まり、綺麗な王笏が握られていた。
「おいどんはな。この王笏の愛着ある鏡でしか、ナイトを発動出来ぬのでおじゃる」




