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なのじゃ!!  作者: デト
第2章
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反転都市ウオノス

 その景色は素晴らしいものであった。

 普通なら夜で光を失った水の底は、暗闇に覆われたそれだけの場所だっただろう。


 ミレシェルア達が潜っている月鏡湖。

 水面が光を帯びていたように。水中も程よく、眩しさを感じない微かな月光が射し込んでいる。


 湖と名前に入っているこの場所は、海の底のような深みがあり。

 赤色のサンゴ礁、揺らめく海草、小さな魚のモンスター、蟹や貝のモンスターが静かに生息していた。


「見てみて、ミレア。沢山のお魚さんが纏まって泳いで、まるで大きなお魚さんみたいね。勘違いした大きなお魚が驚いて逃げていくわ」


「これぞ、自然って感じじゃのぅ! 大迫力じゃ! 網を仕掛けたくなるぞ」


「本当だな、旨そうだ」


 水中にも関わらず、ムーンフォースを纏う3人は平然と呼吸が出来、声を発したり聞き取ったりすることも可能だ。

 最初こそ緊張したように潜っていたミレシェルアと母レイナも、今では父ガルスから離れない程度ではあるが、各自で周囲を見渡しながら楽しんでいる。


(夜じゃと言うのに、魚とはいえ、モンスターが大人しいのぅ。なんでじゃ?)


 月光(ルナ)が活性化する夜は、空だろうと海だろうと地中だろうと、生きるモンスターは凶暴化する。

 人間界でペットとして飼うモンスターも、凶暴化はするが被害が少ないので問題視されていないだけ。


 しかし、魔界大陸ガルゾルートに生息しているモンスターが暴走する姿をミレシェルアは殆ど見ない。


 各領域にいる魔王達の威嚇によってモンスター達の心が折られているだけだが、ミレシェルアはその事を知らなかった。

 モンスター達も静かに暮らし、自分達は無害で可愛い無力なモンスターだと思わせるように、魔王達の前では大人しくなる。


(まあ、大人しいならそれで良い事じゃな。しかしこの水、やはり不思議だのぅ)

 

 ムーンフォースを纏う部分は、普段と変わらない空気に触れるような抵抗感。

 手のひらのムーンフォースを無くさせると。そこだけは水圧を感じる、そんな不思議な感触を味わう。


 水に近き空気、空気に近い水。

 ガルスがそう説明していたが、確かに納得だ。


 湖に入ってから、どれほど歩いただろうか。

 景色や不思議な現象を楽しみながら移動する事、それなりに時間が経過した。


「あれが、第三天の同胞達が住まう場所。反転都市ウオノスだ」


「ぬああ! 神々しい建物じゃ! 美しいではないか!」


「赤色だわぁ。クロスディア大陸で言う、ベルニカ王国の建造物に似た造りなのね!」


 前方を眺めるガルスの口から、そのように教えられ。

 共に歩いていたミレシェルアの視界には、深き湖の底で堂々と建てられた巨大な街。

 建物の色はレイナが呟いた全体的に赤色が目立ち、屋根の色は緑色。若干、和風ベースな造り。


 雰囲気を伝えるなら、前の世界でよく聞いた竜宮城。

 おとぎ話のそれに近いかもしれない。


 半球にシャボン玉のようなドームが街を覆うように見えるが、何かの膜と言うよりは水中の中に浮かび上がる気泡に近いとミレシェルアは思った。

 あの中には、沢山の空気が貯まっているのだろうか。


 街が見えてから更に十数分と歩き、街の中へとたどり着く。










「「……。」」


「ハハハッ、どうした2人共。口を半開きにさせ、綺麗な顔が台無しではないか」


 反転都市ウオノスに到着して直ぐのこと。

 顔を繰り返し上下に動かすミレシェルアとレイナは、唖然とした表情で固まっていた。


 第三天の水人族は、魔族(マダラ族)の中でも珍しく昼に活動する種族である。

 ガルス達3人がいつ頃に到着するのか決めていなかったので、迎えの者達は居ない。

 最初から気まぐれに出発し、反転都市の中で時間を過ごし、次の昼に第三天魔王の下へと挨拶に向かう。そういう計画であった。


 ならば何故、ミレシェルア達がだらしない顔をしているのか。


「街の下にも、反転するように街が有るのじゃ!!」


「どうなっているの、これ? 街の足場にも水中が広がっていて、逆さまに建物が造られているのかしら?」


 ──ただ普通に、見たこともない建築をされた街の景色に心奪われていた。


 遠くからは半球のドーム状に見えていた都市だが。

 実態は湖の底だと思われた一部に、更に深きクレーターが存在し。

 全体的に観ると球体の形をしている都市である。


 下半分は水に沈んでおり、上半分は空気が充満している空間。

 水溜まりの上に物を置くと反射した物が映されるように、上半分の建物と同じ建物が逆さまの状態で下半分に存在する。

 まさに表裏一体、陰陽太極図のような上下シンメトリーの街並み。


 それこそが反転都市ウオノスの、反転都市の反転たる由縁。


「素晴らしい反応であったぞ、内緒にしておいて正解だった。この記憶はしっかりと、頭の中に焼きつけねば。クックック」


「もう! ガルスさんの意地悪!」


「いやあ、すまんなレイナよ。そういう反応をされると出会った頃を思い出すな」


 城では大人の女性らしく振る舞う母だが。今では珍しく、頬を膨らませてガルスへと小さな反抗心を見せていた。


 隣でイチャイチャラブラブしている両親を余所に。

 ミレシェルアは空気が満たされている空間に入った瞬間、水で濡れていた衣類が、纏っていたムーンフォースによって乾いていた事を知る。


 便利な水じゃな。と心の中で思い、未知の領域で高鳴る感情を抑え込んで、周りを観察していた。










「昼になるまでは、ここの宿屋で世話になるとしよう」


 ぼちぼち街中で水人族とすれ違いながら、1つの宿屋に入っていく。

 外の世界から訪ねてきた客人を泊める宿なのか、宿主は既に眠っているらしく見当たらないものの、カウンターの壁に各部屋の鍵がぶら下がっている。

 近くの壁紙には1部屋に要求する金額だけが書かれていた。


 クロスディア大陸での通貨はディアと呼ばれるが、魔界大陸ガルゾルートでは通貨をガルゾと呼んでいる。

 クロスディアのディアと同じく、ガルゾルートから採用したガルゾだ。


 そして、宿屋の主は警戒心が低すぎだと思われるかもしれないが。

 魔族(マダラ族)は同胞同士で争う事はなく、冗談の時以外は騙す事もしない種族。

 泥棒も存在せず、とにかく仲間思いの仲良しなので同胞に対して警戒心を必要としない。


 ガルスはカウンターの上に金を置き、余っていた鍵の1つを借りた。


 皆が就寝しているのか静かな廊下を進み、鍵に記された番号の部屋に入る。

 それなりと値段が張る宿屋なだけあり、部屋は広く家具のデザインや配置も素晴らしい。

 綺麗でゆっくりと寛げる空間は、第三天ならでは水の流れる音によって、心身が安らかな気持ちになった。


「第三天の街はココだけなのじゃな」


「ああ、だから魔界大陸で一番大きい街でもある。他と生活習慣が異なる故、夜は静かだが。それは第四天の昼も変わらんな」


「元々クロスディアで生活していた私からすると、昼の生活が懐かしいわ。慣れって凄いことよね。ミレアもクロスディア大陸に行って日差しが眩しくないの?」


 皆がテーブルを囲むように席について、軽く会話を交える。

 昼になったら第三天の魔王に挨拶をするので、それまでが暇なのだ。


 ぼちぼち夜寝も挟みながら時間を過ごせば、腹も空く。

 昼に活動する領地でも夜に営業する店はあるが、飲食店とは違い、屋台の店ばかり。


「へい、らっしゃいやせー!」


 宿屋を出ては家族3人で仲良く街中をまわり、空腹を満たす為に屋台を覗く。

 声量は控えめだが元気に声を掛ける店主は、頭や背中にヒレを持つ。


 水人族とは、魚人や人魚と呼ばれる種族を纏めた総称。

 エルフとダークエルフを、纏めてリンシャン族と呼ぶのと同じ。

 

 水人族の好物は魚介類らしく、魚の塩焼きや貝類を網で焼いたもの。

 ガルスは屋台のオススメを注文して3人分の料理を購入した。

 どこか座れる場所を探しては、そこで夜食の時間を過ごす。


「新鮮な魚介は美味しいわね、とくにこの貝殻の身とかプリプリでホクホクよ。ほらミレア、あーん」


「いや、儂はもうお腹いっぱいなのじゃが」


 設置された椅子に腰掛け、地に足が届かずぶらぶらとさせるミレシェルア。

 その後も見学をしては休憩を挟むを繰り返し、月鏡湖の奥底に沈む都市に日の光が射し込んだのだった。

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