親と子
「こっちじゃ」
ミレシェルアが守護オーブを持って魔界大陸に帰った後。
守護オーブを自分の部屋のベッドに投げ捨て、直ぐ様カリアを伝って王都に戻った。
王立ヴェルト学園の授業を受けていた少年は教室におり。慌てたように現れたミレシェルアに、教室中の皆が驚いていたのは先程までの話。
『フォーク』が現れ、南側の街中で戦っている事を話し。
カリア、マカハーン、アシュレイの3人を連れて現場に向かっていく。
今ではカリアも、速度を上げて移動出来るまでに成長したが。
急ぎの用事。面倒だったので、3人も重力で浮かし飛んで向ったのだった。
「お父様!」
皆がたどり着いた時には兵が集まっていて、人だかりの中心に四大貴族の当主2人と王女アクゼマーサが立っている。
目立つ金髪を眺めたマカハーンが、父ズゥイスリーに声を掛けた。
「おや? マカちゃん達も来たのかい? 授業中だろうに」
学園のローブに身を包む少年少女を眺めたズゥイスリーは、ハァと溜め息混じりに呆れを見せる。
当主の服装は所々ボロボロになっており、多少の怪我も負っているようだが。
それでも気にした様子は見せず、平然と立ち尽くす。
「奴等はどうなったのじゃ?」
大人達をスルーしてアクゼマーサに近寄ったミレシェルアは、小声で尋ねた。
ずっと身を隠していた王女に外傷は無く、それでも行く末を見届けていた王女は答えた。
「逃げられました。城へと向かった相手の仲間達が戻ってくると同時に、発光して。光が止んだ時には姿が有りませんでした」
「……今度は、この国の守護オーブが盗まれた。とかでは、ないじゃろうな?」
「それなら心配は要りません。先程サナレルに確認したところ。父上が敵の目の前で守護オーブを使用し、手も足も出せない状況にしたと、そう聞きました」
「奴等の目的の品で、奴等から品を守るか。……敵からすれば屈辱的じゃのぅ」
守護オーブを盗みに向かった集団の目の前で、守護オーブを発動し。
その結界によって、相手が近づく事の出来ない状況を、何となく頭の中で想像。
結界がどのような見た目か分からないので、薄白い半透明な壁に包まれる王様を妄想し。
手が出せなくなった相手は渋々、此所へ戻ってきた。
そういう流れだろうかと、ミレシェルアは考えた。
意識をこちらへと戻し、周りを眺めれば。近衛騎士副隊長サナレルが、兵士を指揮して周辺の捜索に向かわせている。
戦後の此所はそれなりに、建物や足場の被害が見受けられた。
そんな中でも、1人の存在がとてつもなく居心地を悪そうにしており、目立つ。
──カリアである。
銀髪の少年と銀髪の中年。
少し距離は開いているが、顔を逸らしているのが一目で分かる。
逆に中年のザックスは、カリアを眺めていた。
「久しぶりだな。……カリア」
周りに、緊張した空気が張りつめた気がした。
この場にはセイントリア家の事情を、知る者しか居ない。
一瞬、肩を上下に揺らしたカリアが父に顔を向ける。
「はい。お久しぶりです、とう──セイントリア様」
間違えて「父さん」と呼びそうになったが、勘当されている身。
慌てて言い直し、申し訳なさそうに頬をかく。
そんな少年を眺めたザックスは、真剣な表情を解いて口元に弧を描いた。
「俺の独り言だが。進級出来たそうだな、おめでとう」
「ッ!!」
ただそれだけ。
たったそれだけの台詞だが。カリアは驚き、瞳を向けて父の顔を覗く。
しかし、ザックスは体ごと振り返り、背中を向けて歩きだしてしまった。
会話は少ないものの。そのような2人を、周りは暖かく見守っていた。
「良かったですわね」
「うん。……聞き間違いじゃなかったんだ」
マカハーンに声を掛けられ、現実に戻るカリア。
拳を強く握り、静かに嬉しい気持ちを噛みしめている。
歩きだしたザックスは、ミレシェルアの前で動きを止めだす。
「ズゥイスリーから話は聞いている。カリアを、よろしく頼む」
「うむ、任せるがよい。カリア殿は強くなるぞ」
既に、ミレシェルアとズゥイスリーの2人は。
ロンティナから帰還した後、カリアが気を失っている間に知り合っている。
アンジェリーナ家で世話になった期間、何度か顔を合わせて会話もした。
ミレシェルアがレイヴンの不意を突き攻撃を仕掛けた瞬間、直ぐさま状況を理解した理由である。
場の空気が和らいだのをチャンスと、この国の王女が口を開いた。
「それにしても、夜慈郎。よく、守護オーブを取り戻してくれました。『フォーク』を逃したのはこちら側の失態ですが。あなたのお陰で、ドドギーラ王国とは亀裂を生じずやって行けそうです」
「まあのぅ! 後で渡すから、そちらで返してくれると助かるのじゃが」
「ええ、それなら容易いご用ですよ」
仲良く会話する少女2人を見て、そこで初めてカリア達3人は王女アクゼマーサの存在に気がついたようだ。
慌てて膝を着こうとする3人を手で制し、必要ありませんと伝えた。
「そうだね。うんうん、よく彼から守護オーブを奪えたよ。私達ですらこの有り様なのに」
「ああ、想像していた以上だ」
四大貴族の当主2人も、ミレシェルアの奮闘を褒め称えた。
今回も『フォーク』を捕らえる事には失敗したが。
それでも、ドドギーラで盗まれた国宝を取り戻せたのは大きな成果と云える。
皆に褒められた事で気分を良くし、鼻を高くさせるミレシェルア。
上機嫌で腰に手を置き、若干海老反りながらドヤ顔を見せる。
「ふんふん! 何が襲って来ようと、儂が守ってやるのじゃ!」
アクゼマーサ姫と並び、小さな小さな少女は皆に伝えた。
可愛らしい見た目と合わさり、愛おしい姿を眺めたアシュレイは。
軽く頬を紅く染め上げ、ミレシェルアと視線の高さを合わせて微笑む。
「それは嬉しい申し出だけど、ミレアちゃんは僕より弱いんだから。何かあれば、その時は僕が守るよ」
「アシュレイ殿は強いからのぅ。しかーし! 特訓が完了すれば、儂のほうが強くなっている事じゃろう。それに、前負けた時に見せてくれた技も、おおよそ予想はついておる。もうくらわぬのじゃ!」
「……へぇ。それは本当かな?」
ここ最近は、カリアを鍛えるだけではない。
もう数ヵ月にもなるが、ミレシェルア自身も内緒の特訓を続けている。完成はまだだが。
それに、冬の時にアシュレイと模擬試合をおこなった過去の事。
最後にアシュレイの連撃によって完敗を味わい。あの時の技についてミレシェルアは考え、悩み、攻撃の仕組みも結論づけていた。
要は、影の能力とムーンフォースの輝き。
この2つの、相性の良さを利用したものだと。
ミレシェルアによって折られた長刀は、影の刃を作って補ったが。
影の刃を中心に色んな角度からムーンフォースを輝かせ、光によって影を高速で移動させたのが、あの攻撃の正体だと告げる。
聞いていたアシュレイは、驚いた表情を浮かべた。
「正解、よく分かったね。バレない自信は有ったのに」
「当時は、儂も眼で追えなかったぞ。けど、予想が当たって安心したのぅ」
まあ、だからと言って。
その高速攻撃を防げたとしても、ミレシェルアがアシュレイに勝てる保証はどこにもない。
最初から苦戦もしていたし、この自信がどこから湧いてくるのか謎である。
「さて、ズゥイスリー。俺達は城へ、今回の報告をしに向かうぞ」
カリアの父ザックスが周辺を眺め、自分達の仕事に戻ろうと動きだす。
建物や足場の被害。
レイヴンの、ナイトの能力。
『フォーク』が何故、守護オーブを狙うのか。
ドドギーラの国宝を取り戻せた事。
真実の確証は無いものの、レイヴンの口から聞いた内容を国の上層部に報告する必要があった。
「待ちなよザックス。カリア君に、あの事をお願いするのはどうだい?」
「あの事? 成程、ガンフォールの話か。確かに良いな」
ズゥイスリーに止められ、何やら話が始まり。
それを聞いたザックスは一瞬だけ考え、頭の中で整理をするとカリアに近づく。
息子の前に立ち止まると、それを語りだした。
「来月。つまりは、春の中月。サリアが修行の一環でユーラシンア王国のガンフォールで世話になる。本来なら俺も付き添いするつもりだったが、『フォーク』の捕獲も失敗した。警戒を続ける為、俺達は王都を離れる事が出来ない」
ザックスが話す内容に語られる、サリアと言う存在。
前にも名前が出てきたが、カリアの実の妹である。
「勿論、付き添いで母さんも着いていく。護衛も何人か着ける予定だ。しかしそれでも、俺が抱える不安は消えない──護衛として、お前もどうだ? カリア」
「──俺が、護衛」
妹であるサリアは、カリアより2つ年下だ。
もう何年も会ってはいないが、マカハーンとの会話で妹の話は聞いていた。
間違いなく、カリアより強い。
棒立ちしているカリアを尻目に、ミレシェルアはアクゼマーサへと話し掛けた。
「のうのう弦七。ガンフォールって何じゃ?」
「ガンフォールとは、ユーラシンア王国に存在する街の名前ですよ。場所はアルタイル王国に近い、ユーラシンア王国の辺境。多くの者が強さを求め、そこへ修行に向かうと言われています。確か、別の名を──騎士の街」




