よっしゃあああ!!
「やるのぅ、あやつら」
「3人の内2人は四大貴族の現当主ですから、当然と言えば当然でしょう」
レイヴン、ザックス、ズゥイスリーの3人が戦いだして直ぐの頃。
ミレシェルアとアクゼマーサの2人は建物の影に潜み、様子を見守っていた。
「守護オーブを取り戻す為、儂はあやつの隙を突こうと思っておるのじゃが。弦七はどうする?」
「戦えない事もありませんが、先ほど話した通り援護に徹します。肉体や疲労の回復、身体能力の強化や弱体化が、わたくしの『バイオドクター』が誇る能力ですので」
「おお! 回復の能力とは希少じゃのぅ!」
この世界の治療は基本、包帯や薬草を初めとし、病院での医療道具を用いて治療する。
稀に回復効果を持つナイト持ちが現れるが、便利な事から重宝される存在だ。
度々馬車に乗って王都の外に出ていくのも、王女の身分でありながら外の怪我人を治療していたから。
そうこう話している内に、相手が建物の中へと吹き飛ばされる。
「ならば、儂の身体強化を頼むぞ。おぬしは姿を隠しておれ」
「それは宜しいのですが。夜慈郎の方こそ、大丈夫なので?」
「心配は要らぬ。守護オーブを取り戻すだけじゃ」
双剣『キリトリ』も具現化させ、重力で建物の壁に貼りつき、何時でも突撃出来るように構えたミレシェルアは、アクゼマーサへと笑みを浮かべ。
「儂がここぞと言う時に、ヘマした事が有ったかのぅ?」
自信に満ち溢れる、余裕の表情を見せた。
それを眺めたこの国の姫も、表情を和らげる。
「ええ、そうでしたね。学校にカップラーメンを持ってくる等、しょうもないやらかしはしても、決める時には決める人でした」
柔らかく口元を綻ばせ、前世の頃を思い出す。
アクゼマーサの前世だった弦七は、ミレシェルアの前世である夜慈郎にとっても、一番古くから続く仲である。
王女は手に持つ大杖をくるくると振るい。先端の、鏡で造られた装飾が光を発した。
微かに暖かみを感じさせる光が、ミレシェルアの体を包み込む。
「では、行ってくるぞ」
本来ではあり得ない程の、力強さを実感。
ムーンフォースによる強化と、『バイオドクター』の強化が合わさり。
──それはもう、普段の限界を越えた。
意識を研ぎ澄ましたミレシェルアの瞳は、『ダウンロード』の能力によって赤みを増し、建物内の、相手が纏うローブの内側に隠した守護オーブを捉えた。
「──今じゃ!」
月光が蓄えられ、凄まじい輝きを魅せる球体が移動する。
建物の窓を突き破り出てきた相手に合わせ、ミレシェルアの前方に重力を軽減させる膜を三重に重ね合わせ、そこを通るよう力一杯に壁を蹴った。
見事なまでに鋭く速い突進は、レイヴンへと迫り、襲い掛かる。
「……。」
勢いを止めずに近づく相手に、レイヴンは不意にだが視線を向けてきた。
? なんだ? 程度の、余り気にした風でもない軽い確認だ。
しかし、その確認のお陰でミレシェルアの存在に気がつく。
「んッ!?」
既に少女が持つ剣を振るえば、掠れる位の距離感。
レイヴンを追って建物から出てきた、四大貴族の当主2人も呆気に囚われている。
そんな突然の状況にも関わらず、レイヴンは咄嗟に身を捻って攻撃を回避しようと動き出した。
「無駄じゃ!」
けれど、ミレシェルアの目的はレイヴンではない。
最初から彼が持っている守護オーブの奪還。
白髪の少女が持つ双剣は特殊であり、月光に関係するモノしか斬ることは叶わないのだ。
だからこそ、その刃に薄くムーンフォースを纏わせ双剣を振るう。
(──コイツ。まさか、守護オーブを狙っていたのか!?)
そこでやっと、ミレシェルアの刃が自分に向けられた攻撃ではないと、レイヴンは理解する。
ムーンフォースを纏わせた双剣の刃はレイヴンのローブの一部を切り裂き、縛っていた紐も切られた事で守護オーブが彼から離れ、静かにゆっくりと落下しだした。
この瞬間。
まるで時が止まったように、この周辺に居た5人は、時間が過ぎるのをゆっくりに感じた事だろう。
ミレシェルア、アクゼマーサ、レイヴン、ザックス、ズゥイスリーの5人は。それぞれが反応を見せ、未来に繋げる。
落ちていく守護オーブを、慌てて自分の手の中に戻そうと動くレイヴン。
一瞬遅れて、四大貴族の当主2人は状況を理解し、ミレシェルアの援護をしようと突撃を再開した。
この中でも、一番早く動いていたのはミレシェルア。
自身が失敗する事を一ミリも想像していなかった少女は、瞬時に剣を握る手を地面へ伸ばし、手のひらが地に着くと前転をする要領で、足のかかとを使い空中に舞う守護オーブを蹴りあげた。
その結果が功を成し、レイヴンの伸ばされた手が何も無い空間を掴む。
ミレシェルアは地に着けた細い腕を曲げ、強化された腕の力だけで身体を飛び上がらせ、宙に舞う守護オーブを空中でキャッチ。
「よっしゃあああ!!」
「よしっ!」
ミレシェルアとアクゼマーサが、共に歓喜の声を発する。
眺めていたこの国の姫も、小さくガッツポーズをしている程だ。
空中で美しく舞う、白髪の少女を眺めたレイヴンは思考した。
(この子供、いや違う。コイツが持つ剣を中心にして、俺の『リベリオン』が妨害されたのか!?)
未来を視る能力がありながら、ミレシェルアの突撃に気がつけなかった。
今、この瞬間も『リベリオン』を発動させているレイヴンの瞳には。
白髪の少女の両手に掴む双剣を中心に、未来が見えない小さな空間が存在した。
「ちっ! 返せ!」
体勢を崩していたレイヴンだが、そんな事はお構い無くミレシェルアに向かって無理矢理跳躍する。
少女の脇に抱えられた守護オーブを取り返す為、また腕を伸ばすが。
「じゃあのぅ──」
目の前で、少女の姿が守護オーブごと消えていった。
「はっ? ……消えた?」
レイヴンは、ミレシェルアが魔族である事も、使い魔召喚でこちらに来ていた事も知らない。
それ故に、いきなり姿を消した少女に困惑してしまう。
(ナイトの能力なのか? 俺の『リベリオン』を妨害した力も考えると、隠す能力か?)
どう見ても10歳以下だろう小さな少女が、ムーンフォースを使えているのも驚きだが。
レイヴンはドドギーラでミレシェルアを見ており、覚えていた。
仲間の4人と戦っているのを、途中からであるが傍観し知っている。
空を飛んだり氷を使ってくる事も、だからこそ姿が消えた事に理解が追いつけない。
ミレシェルアの『ダウンロード』と『使い魔召喚』を知らない彼には、知るよしもなかった。
「はぁ──」
レイヴンは己の失態に溜め息を溢す。
せっかく、仲間達がドドギーラで入手した守護オーブを奪い返されるとは。そう思い、自身の情けなさに呆れた。
今も『ストレート』と『ボルケーノ』のナイトを使い、空中に居るレイヴンへと直線的に向かってくる2人が居る。
(──非情にならねぇとな)
レイヴンが普段使う武器も、不用だと考えて故郷に置いてきた。
彼にとって、武器を使う事は命を奪う時と決めていたらしい。
赤髪の青年は、仲間達と違い自分だけは覚悟が足りなかったと、反省する。
当主の2人。
ザックスは神速で突きだすように攻め、ズゥイスリーは足裏から噴火の力で勢いをつけ突進していた。
手を抜かず、気を引き閉めた状態で、最速の攻撃をした筈だった。
「「ッ!?」」
その攻撃は、相手に届かない。
レイヴンから放出された凄まじく密度のあるムーンフォースによって、進行を受け止められたのである。
「邪魔だ。もういい、失せな」
2人の身動きを空中で止めたレイヴンは、周囲に広げた金色銀色の力を暴発させた。
まるで風船が破裂したようにムーンフォースを弾かせ、その衝撃によりザックスとズゥイスリーが吹き飛んでいき、今度は2人が建物の壁を突き破っていく。
「嘘……でしょ……!?」
離れた場所で建物の影から覗く、王女アクゼマーサは驚いた。
ムーンフォースを使用して、物を動かす事は少女もよくおこなう。
それにはかなりのコントロールや集中力を必要とし、力加減を間違えると破壊しかねない危なさがあるのだが。
王女の視界には、纏ったムーンフォースで宙に浮かび続けるレイヴンの姿が、そこに存在した。




