フォークの理由
四大貴族はこの一週間近く、二人一組で王都アルタイルの見回りをしていた。
北と西が担当の時は、南と東が休む。それを、一日毎に替わって。
「……よく、気付いたな」
「アルベル君すら知っている潜めやすい道を、私達が知らない訳無いでしょ。お陰で罠に掛かった君達を、楽に探せたけどね。大人しく捕まってくれると助かるな」
背中にぶら下げた長刀を掴み、警戒するアルベルに対し。
マカハーンの父ズゥイスリーは、三十代半ばの持つ経験や自信から余裕を見せる。
カリアの父であった、ザックスも然り。
二人は纏うマントを風で靡かせ、フォークに1歩近づく。
「──ここは俺1人で十分だ。お前らは城に攻めな」
現当主の静かに浴びせてくる気迫に臆する事もなく、右腕を横に伸ばしたレイヴンが仲間達を抑制し告げた。
近く、この場所も兵が集まる。身動きが取れなくなる前に、この国の守護オーブを盗ってこい。とも続けて。
頷き去っていく仲間を背後に、被っていたフードを邪魔そうに脱ぎだし赤い髪ごと顔を見せる。
「素直に見逃してくれたな、あんたら」
「見れば分かる。貴様が一番強いのだろう?」
「つまりは、君を捕まえてしまえば任務完了っと言う事だ」
そこからは、時間の問題だからね。と二人はマントを外し、再度ムーンフォースをその身に纏わした。
バサリッと高級そうなマントは風によって飛んでいき、それが合図のようにレイヴンへと駆け出す。
連携し繰り出される攻撃の数々を、レイヴンは紙一重で回避。
お互い動きの読み合いに近い状況は、敵同士であっても感心させられる。
(ほう。防戦一方とは言え、俺ら二人を相手にして無傷とは)
ザックスが芸術のような美しい剣捌きで攻めるも、当たる事はない。
四大貴族を勤める身分として、ザックスとズゥイスリーの二人は己の強さに自信を持っている。
しかし、一対一のバトルなら。目の前の相手の方が上かも知れない。
次第に、口元を緩める二人の血が沸き立つのを感じた。
吹雪の国に人間最強と謳われている老人が居る。
現在もクインレギアス王国の騎士を、裏で纏めている人物。
ガンドルフ・ロロブランドと名の知れた、彼と模擬試合をした時以来だ。
自分達の子供と、そう歳の変わらないだろう若き青年を見て世界の広さを実感し、二人は鏡にムーンフォースを注がせた。
「──速ぇな、おい」
頬にうっすらと傷をつけたレイヴンの後方、少し距離を置いた位置に。先まで目の前に立って剣を振っていたザックスが移動している。
右腕に持つ剣を横凪ぎに振るった姿勢の、北の当主が握る銀色の刃が閃光のように線を描いている程だ。
「こいつも避けるか」
「やるねぇ。ザックスの『ストレート』を瞬時に見切り、身体を傾けるとは」
姿勢を崩したレイヴンにすぐさま蹴りを放つが。ズゥイスリーの蹴りよりも先に、腕を構えられ防がれる。
ザックスが銀色の閃光を描いて神速の一閃で追撃を狙うが、その方角に金色銀色の光弾を放って追撃の妨害をしてきた。
「『ボルケーノ』ぉぉぉおッ!!」
「っ!?」
防がれた蹴りごと、西の当主が身体に熱を持つ。
驚愕したレイヴンが、瞬時に多くのムーンフォースを放出させ腕に集中させるが。
ズゥイスリーの脚から噴火の如く凄まじい衝撃が発生し、ガードを固めたレイヴンを豪速球の様に吹き飛ばす。
屋根の上から斜め下へと飛んでいき、建物の壁に背中から衝突した。
勢いを殺し切る事は叶わず建物を崩壊させ壁をぶち抜いたレイヴンは、口から血を吐き出しながらも起き上がり、目の前に降り立った二人へ視線を向け。
「驚いた。あんたら、俺のナイトを知っているのかい?」
最初から腕輪の鏡を輝かせ、ナイトを発動させていたレイヴンが云う。
四大貴族の二人の連携は中々のものだ。しかし、それだけではない。
例えるなら、『先を知る者』を対策した連携と言えばいいのか。
「おおかた、『未来を視る』能力だろう? 私達ではないが、君を見て予想をたてた者が居てね」
「その反応からみて、正解か」
建物が崩壊して生まれた、木片を踏みつけながら当主の二人は近づく。
「なるほどな。ドドギーラに、優秀なのが居たのかい。──『リベリオン』って言うんだ」
ニヤリと笑みを浮かべ、自分のナイトの名前を教える。
否定しない所を見るに、ズゥイスリーが話した『未来を視る』能力は当たっているらしい。
それを確認した二人は足を止め、ザックスが口を開いた。
「何を視た?」
「ああ? どうした、急に」
「貴様のその能力。そして、この様な事を仕出かした理由。……繋がっている筈だ」
『フォーク』がブラッドデーを知ってる事も報告は受けている。
未来を視る力と、守護オーブを盗む理由。嫌な予感がした。
ここで話し掛ける事は、相手に時間を与える事になる。
けれど、それを踏まえても聞いてみたくなったのだ。
「良いぜ、教えてやる。俺の『リベリオン』は注ぐムーンフォースの量で、数秒から数分先の未来を視れるのさ。だがな、年に一度だけ、春の間に一年先の未来を見ることも出来る」
まるで自分の能力を自慢するように、相手に分かりやすく詳しく。
笑みを浮かべて話すレイヴンの表情から、次第に笑みが消えていった。
「それで見た未来は、全滅さ。ブラッドデーと言ったな。モンスターの大群が押し寄せてきて、クロスディア大陸に暮らす全ての種族が滅びる。そんな未来だ」
「「──ッ!?」」
青年の話す内容に、ザックスとズゥイスリーの二人は言葉に詰まる。
瞼を見開きレイヴンを眺めるが、ふざけている様子もない。
「俺のナイトの名前が何故『リベリオン』なのか。その時になってやっと理解した。世界の決められた未来を変える、反逆の力だと。決められた滅びの道から分岐させる事こそが、俺の使命だとな」
(分岐。──故にフォークか)
その瞳に光を無くしたレイヴンの呟きに、四大貴族の二人は理解した。
「それで、君達が守護オーブを盗む事で人々は守られると?」
「全滅だけは、逃れられるだろうさ」
「それはつまり、生き残る者の選別と言う事かい?」
「滅びるよりかはマシだろ?」
「……。」
ズゥイスリーとレイヴンの会話は、そこで途切れた。
あまりの事に、肯定も否定も出来ない。
一人や二人の判断で決めれる事ではない、それだけは分かる。
「すまないが、貴様を捕らえ守護オーブも返してもらうぞ」
「どのみち、あれはドドギーラ王国の国宝だからね。話は終わりとしよう」
当主の二人からすれば、誰が守護オーブを所持しているのかは知らない。
まずは目の前の相手を捕らえて、それから調べていけば良いだろうと結論をだし。
人をこの場から退けて、もぬけの殻となったボロボロの建物内へと突入。
舌打ちをしたレイヴンは、別の窓を突き破って外へと脱け出す。
先までの戦闘を思いだしては、襲いかかる二人のおっさんのナイトを思考。
銀髪の方は『ストレート』と呼ばれた名前と、神速に等しい高速の攻撃から直線的な移動を可能としたナイト。
金髪の方は『ボルケーノ』と呼ばれた名前で、火山の噴火口から強烈な噴出をするような強烈な一撃を可能としたナイト。
そう結論を出して、どう対処しようか悩んでいた所。
レイヴンは、気づけなかった。
彼へと迫る、1人の小さな人影が襲い掛かってきた事に。




