ここで会ったが百年目ッ!!
「色々と報告は聞きましたよ。何やら、面倒な事に巻き込まれたようですね」
「うむ。まあ皆が無事じゃった事だしのぅ。多西にも会えたし、儂は気にしてはおらぬ。ところで弦七よ、ここはまだ襲われておらぬのじゃな?」
春の上月が終わりに近づいた頃。
温かくなったり涼しくなったりと、気温が落ち着かない季節は、窓を開ける事で心地よい風を部屋の中へと運ばせる。
アルタイル王国の王女アクゼマーサの部屋にお邪魔しているミレシェルアは、友の部屋のバルコニーで風を浴びながら手すりに身体を預けていた。
屋根が無いので日光が程よく身を照らし、昼寝がしたくなる気持ちよさ。
白髪の少女とは違い、バルコニーの扉近くに置いた部屋の中の椅子に座る金髪の少女は、手に持つ本を静かに読みながら答えた。
「ええ。襲撃された報告もありませんし、アルタイル城は大丈夫です。警戒も強めていますから、『フォーク』と名乗る集団も、こっそりとは来られないでしょう。……本当に、その者達はアルタイル王国へと移動したのですか?」
「わからぬ。こちらの方角に移動した、と言う事しか知らぬのじゃ」
事件からは既に、1週間近くが経過している。
けれどその間に『フォーク』の情報は手に入らず、動きもない。
次はどうくるのか、もしくは目的を達成していて時が来るまで身を潜めるだけなのか。
知るよしも無いこちら側は、警戒心を強めて守りを固める事しかできなかった。
「おぬしもこっちに来い。共に日向ぼっこでもしながら考えよう、のぅ」
「はぁ……」
肩ほどの高さの手すりに両腕を被せ、更に腕の上に頭を乗せて惰らけて居るミレシェルアを、チラリと横目で眺めるアクゼマーサ。
そのような状態で何を考える事が出来るのか。
そう思い呆れたように溜め息を吐くが、本を閉じ小さな机の上に置くと、近くにある大杖を持ちバルコニーへと歩いてくる。
確かに心地よいものだ。部屋を出た王女はそう思った。
暖かい日光と涼しい風を浴びて、部屋の中と外での違いを感じる。
バルコニーから見下ろす光景は、王都アルタイルの南東側。
平和に広がる街中を二人で眺めては、思考。
「フォークの者達は、どのような見た目なのですか? こちらも報告により、大体の姿は知らされていますが。特徴から暮らしている地域を絞りこむ等、方法が無いこともありません。これらを考えてみましょうか」
「おお、そのような事も確かに出来るのぅ」
顔、と言うよりは服装等の特徴。
和洋の国ベルニカなら和風洋風の衣類を好み、吹雪の国クインレギアスならモコモコとした服装を好む。
前回は砂漠の国ドドギーラに現れたので、服装で判断をするのは難しい。
フード付きローブを纏っていたので尚更だ。
むむむっと唸りながら、何かヒントは残っていないのかと記憶を探る。
けれど、ローブの印象が強くて思い出せない。
「ローブなら思い出せるのじゃが。そうじゃのぅ──ほれ、あそこに人がおるじゃろ? あんな感じのローブじゃ」
丁度良い感じに、『フォーク』が着ていたローブと同じ感じの者達を見つけ、隣のアクゼマーサに教えた。
ミレシェルアの視線の先を辿ると、それなりの遠く離れた位置で、数人の者達が街の屋根の上で争っているらしい。
「「……。」」
偶然参考になる相手を見つけ、眠たいのを堪えて観察。
都合の良い事もあるようだ。そう考えながら、二人はそれを眺めていた。
「……と、言うよりも。あれが、フォークなのではありませんか?」
「ぬっ!?」
いち早く不審に思ったのは、この国の姫。
アクゼマーサの呟きを聞いたミレシェルアは、変な声を漏らして意識を覚醒。
友の言う通り、よく見れば『フォーク』と名乗った集団にも見える。
「ぬわあああ! そう、やつらがそうじゃ! おのれ、ここで会ったが百年目ッ!! 儂のではないが、守護オーブは返してもらうぞ!!」
まさか、こんな真っ昼間から事が起きるとは。
ドドギーラも真っ昼間だったが、国が警戒心を持った状態の真っ昼間を、襲いかかるとは考えてもいなかった。
白髪の少女も現場に向かおうと、ムーンフォースを放出し鏡に注ぐ。
数階もの高さがあるバルコニーの手すりを飛び越え、重力で飛んで行こうとした時、声を掛けられた。
「まって、夜慈朗。わたくしも共に向かいます」
「おぬしは戦えるのか? 弦七。言っておくが、やつらは強いぞ?」
「援護に徹しますから大丈夫です。わたくしの『バイオドクター』は、そう言う能力ですので」
「ほほぅ。確かにおぬしのナイトは、儂も知らぬのぅ。まあよい、ゆくぞ」
話の最中にバルコニーを飛び越えようとしないアクゼマーサを眺め、空を飛べないことを理解したミレシェルアは、友も浮かし共に飛んでいく。
二人の少女が、フォークに気がつく数分前。
フードを深く被り、ローブを着た5人の集団が王都アルタイルの路地に身を潜めていた。
「ここも広いなぁ。下手をすれば迷子になっちまうぜ」
「そうね。私達の里に比べれば、どこの街も広いわ。そのお陰で隠れやすくて、ありがたいのだけど」
「しかし、移動で時間も掛けてしまいました。アルベルが居たから、ここまで誰にも気付かれず潜入できましたが。ドドギーラの時とは違い、お城も攻めにくい事でしょう」
アルタイル王国の辺境から、王都アルタイルまでの移動に時間が掛かった様子。
ライン、メディア、ロバートの三人は物陰に隠れながら街を伺い。
昼の首都は人が溢れるように賑わい、表通りの移動は困難に思える。
ドドギーラと違い、フードを被るような人々も見えないのが難点。
このまま街中を移動すれば、怪しさで目立ってしまうだろうか。
「構わねぇさ。どのみち行動を起こすなら、夜と決めていたんだからな」
レイヴンは腕輪の鏡を僅かに輝かせ、常にナイトを発動させている。
ドドギーラで手に入れた守護オーブも、彼の纏うローブ内の腰辺りで縛り、隠していた。
今はとりあえず、夜まで静かにしていようと皆が体力温存を目的とし、座り込んだ瞬間。
「んっ!?」
勢いよく立ち上がったレイヴンが、路地の左右に伸びる道を眺め、溜め息を漏らす。
「……ふぅ。どうやら、相手に見つかったみたいだ」
「「!?」」
賑わっている表通りとは違い、静寂な路地に緊張がはしる。
フォークの皆が立ち上がり、周囲への気配を探りいれた。
しかし、気配を捉える事も出来ず。姿を見せてくる事もない。
ただ不気味な時間だけが、彼らを支配していく。
レイヴンを除く4人が緊張により喉を鳴らした。
ゴクリッと、小さな音すらお互いに聞こえる事で違和感に気がつく。
先までの、表通りの賑わいによる騒音が止んでいたのだ。
「来るぞ! 跳べ! お前ら!」
張りつめたようなレイヴンの合図。
彼の声を皮切りに、フォークは一斉に路地を跳躍した。
同時に路地の両脇から金色銀色の光弾が襲いかかる。
回避した光弾それぞれが正面から衝突し、その爆発した勢いによって発生した風に更に上へと押し出された。
「次は上だ!」
建物よりも高く押し出された身体は隙を生み、彼らよりも更に上から影が迫る。
眩しそうに上空を眺めたレイヴンがソレを察知し、仲間に伝えた。
攻めてきた人数は二人。
どちらもがその手に剣を掴み、太陽の光を背にして静かに攻撃してきた。
迫る二人は、同時にアルベルへと剣を振りおろす。
「まずは1人」
冷たく放たれた言葉と同時に、二人の刃がアルベルの胴体に接触。
けれど、その攻撃がアルベルに傷をつける事はなかった。
ロバートが瞬時に『ライトケーブル』を発動させ、フォークの皆が光ると同時にすぐ近くの屋根上に逃れたのである。
「良い反応だ」
攻撃した片方がロバートを称賛し、二人も屋根の上に着地。
「君達が、報告にあった『フォーク』だろう? 問題を起こしてくれたお陰で、私達の仕事が増えてしまったじゃないか」
「まったくだ。しかし、それも終わる。貴様達を捕らえてな」
姿勢を整え、落ち着いた雰囲気を持ってフォークと向かい合う男性二人。
対して、フードの中で冷や汗を流したアルベルが口を開いた。
「──四大貴族、現当主か」
「……へぇ。コイツらがそうかい」
権限を利用し。戦いに巻き込まないよう、周囲の人々までこの場から遠退けさせれる人物。
北を守護する四大貴族と、西を守護する四大貴族。
ザックス・ノース・セイントリア。
ズゥイスリー・ウエスト・アンジェリーナ。
カリアとマカハーンの父親二人が、フォークの前に姿を現した。




