それぞれの決意
カリアは1人、王都アルタイルに存在する図書館で、勉強をしていた。
ドドギーラから帰還した翌日、彼は思ったのだ。
──モンスターに対して、無知過ぎると。
(下位、中位、上位。そして、最上位危険度のモンスター図鑑)
本棚に収納された本の背表紙を確認しては、一つ一つ目的の本を掴む。
カリアとしても進級試験の事で一杯だったので、今まで勉強に割く時間が取れなかったのだ。
試験も合格し二年生となった今、心と時間に余裕が生まれ、学びの時間を作る。
4つの本を持ち運び、人の居ない机に置いて席に腰掛けた。
(こんなに沢山の種類が載っていても。まだ人々の知らないモンスターが多いのか)
手始めに下位危険度と記された本を持ち、目次に目を通す。
『あ』から始まる名前のモンスターから順に記載された普通の図鑑。
名前と生息地、生態や得意とする行動、気を付ける点と弱点。
見た目に関しては、写真がプリントされていたり、絵だったりとバラバラ。
一匹ずつ確認しては、日が暮れる時間まで経っていた。
「……ヘルハウンド」
中位危険度までが読み終わり、上位危険度の目次を眺めて名前を見つける。
ロンティナからの帰り、あの時の事は忘れない。
運良く助かったが、カリアもマカハーンも死んでいた可能性があったのだ。
忘れられない感覚もある。
何時もは金色銀色のムーンフォースが、青緑色に変色。
その力強さは、金色銀色の時とは比べられない程凄かった。
なにより、自分のナイトを初めて発動出来た場面だ。
本を閉じ、息を吐く。
今は出来ない事にすがっても、意味はない。
此所もそろそろ閉じる頃合い、そう思考して立ち上がったカリアは、本を元の場所に戻す。
図書館を出て覗く、日が沈み掛けた街並みは、昼とは違う賑わいに染まっていた。
このような世界だ。
いつ、モンスターや危険な人が襲い掛かるか分からない日常。
それは平和な街中も変わらない。
本当なら戦闘服と月光の剣を携えていたかったが、図書館では装備類の持ち込みが禁止されており、現在は普段の私服姿。
「ブラッドデー、か」
銀髪の少年カリアは、ドドギーラでの事を思い出す。
時間に追われる日々が終わったと思えば、新たなる問題を知らされた。
時間を無駄に出来ない。そう決意し、静かに街を歩み続ける。
「お父様。稽古を付けてくださいですの」
カリアが図書館に籠った同日。
金髪の美少女マカハーンが、父親に話し掛けた。
「どうした、マカちゃん。凄いやる気じゃないか」
既に、長いウェーブ状の金髪はポニーテールに結ばれ、服装も闘う時のモノを着ている。
日頃から真面目な性格の彼女は、日々努力を惜しまず訓練と勉強をこなす。
しかし、今のマカハーンの顔つきは真面目なだけではない、これからの事に向けて覚悟を持ったソレであった。
自身の書斎で腰掛けたアンジェリーナ家の現当主は、ドドギーラの事件を知っている。
『フォーク』と名乗る集団が去ってから、クロスディア大陸の全ての王国にドドギーラ王国より情報が送られてきたからだ。
「人々が不安になった時、守る為ですわ。今の私ではそれが叶いませんもの」
「……そうか。うん、良いだろう。マカちゃんがそうしたいのなら、私はそれを止めないよ。だが生憎と、私もやることが出来てね。時間に余裕がある時にしか、お相手は出来ない」
「やる事、ですの?」
「まあ、本業だね。それでも良いなら、私も頑張ろう」
「っ! はい! よろしくお願いしますわ、お父様!」
二人はその後、アンジェリーナ家の敷地内に存在する訓練所へと移動。
今まで以上に気合いの籠った瞳は決意を宿し、強くなる為の特訓が始まった。
「……。」
アシュレイは、自分のベッドに横たわり悩む。
膝丈まで伸ばした黒き長髪を赤色のリボンで結び、黒いニットセーターとホットパンツにニーソと、何時もの黒き服装。
「……。」
ただボーッとしながら部屋の天井を眺め。
久しぶりに再会した兄アルベル──ではなく、ミレシェルアの姿を頭の中で映しだしていた。
(はぁ……。どうしたんだろう、僕。気がつくと、いつの間にかミレアちゃんの事を考えてしまうなんて)
こちらを振り返り、にししっと微笑む白髪の少女が、記憶を基に映る。
そのような状態に嫌だと思う気持ちは全く無く、寧ろ思い出す度にほんわかとすら落ち着く感じ。
そのような感情を理解出来ず、2時間近くもこのままだ。
(うーん。ミレアちゃんに会いたいな。ドドギーラ王国では色々と助けてもらったし、お礼もしないと)
助けてもらった。と言うのは、兄アルベルからの攻撃だけではない。
『フォーク』が消えてから直ぐ、ミレシェルア、ルルミル、カリア、マカハーン、アシュレイの5人は王宮に呼ばれ、あの時の状況説明をドドギーラの王様含む上層部に伝えている。
そしてアルベルの存在により、妹のアシュレイはフォークの仲間ではないのかと疑われたり。
アルベルが元四大貴族と言う事でアルタイル王国すら疑われたのを、ミレシェルアが必死に弁護し互いの国に亀裂が生じぬよう、利益になるよう主張しながら助けていた。
ミレシェルアの提出した話は、もし守護オーブを取り戻した時、無償でドドギーラにお返しすると言うものだ。友のルルミル王女も加勢に加わり、アシュレイやアルタイル王国の疑いは一応取り消される。
年齢や肉体で幼い少女に、そこら辺の大人顔負けの頼もしさすら感じた。
そんなミレシェルア本人が気にする素振りもなく「儂にまかせるのじゃ!」と、力強くポーズを取り笑顔を魅せてきてから、アシュレイはミレシェルアの姿を忘れられない。
(何時も明るく元気で、小さいながら動く姿は微笑ましいのに。ここぞと言う時に、近くに居ると頼れて安心出来るんだよね。……ふふっ、可愛いんだよなぁ)
ミレシェルアの事を思い出す度に、段々と口元が緩んでいくのがわかる。
「って! これではまるで、僕が変態みたいじゃんか!」
四大貴族ではなくなり、ヴァレリアス家の遺産は継いだものの今暮らしている家は宿屋。
綺麗に掃除された広い部屋で、大きなベッドを置いていた。
上半身を起こし、自分の状況に対して1人ツッコミを入れるアシュレイ。
理解出来ずにいた感情を分かってしまった。
(いやいやいや。えっ、まって。僕の初恋が小さな子供!? それも、同性の女の子!? ──っ!?)
理解は出来たが、理解に戸惑う。
アシュレイはモテた。告白された回数なんて覚えていない程にモテモテだ。
恋愛ごとに興味が持てず全て断っているが。
現四大貴族であるマカハーンもモテるが、貴族である部分から気安く告白が出来ない分、こちらはそこまで告白された事はない。
(えっ、僕のこれが恋だとして。……詰んでるよね)
アシュレイにも常識はある。と言うより常識人だ。
小さな子供に手を出す事はしない。手を出そうとする者が現れたら、阻止する側である。
けれどやはり、ミレシェルアの姿を思い浮かべてしまう。
(彼女を怖がらせる事だけは、絶対にしない。してはいけない)
「うん、それでも。ミレアちゃんを守る事だけは、許されるよね」
もともと恋愛ごとに興味はなかった。
そう自身に言い聞かせ、心を落ち着かせると。
膝を抱えながら、アシュレイは新たな決意を固めるのだった。




