王都に帰還
「ぷはぁー。やべぇほど、緊張したぜぇ」
『フォーク』を名乗った集団が、首都ドドギーラから姿を消した後。
その者達は、人気の無い森の中に居た。
ここはアルタイル王国内に存在する、普通の森。
ラインは緊張が解かれた様に尻を地に着き、L字の姿勢で伸びをする。
「ちょっとアルベル! さっき貴方、妹に巨大ペンデュラムで攻撃したでしょ! 見てたんだからね、可哀想じゃない! 大怪我でもしたらどうするのよ!」
「そうだ、そうだ! 俺っちも見てたぞ!」
人目につかない場所に移動したからか、被っていたフードを捲り、隠していた顔を晒すメディア。
成人になったばかりと思われる、若々しく美人な水色髪の女性。
彼女は腰に手を当て前屈みになりながら、静かに木に寄りかかり座るアルベルへ不満をぶつけていた。
そんなメディアに同調するよう、ラインも「そうだ、言ってやれ!」と、言わんばかりに野次を飛ばす。
「まあまあ、お二人さん。相手も実力者です、手を抜く余裕もありませんでした。アルベルも、妹を気絶させてから連れて行きたかったのでしょう」
残りのロバートもフードを外し、若きThe神父感を溢れさせる人の良さそうな顔つき。
肩に届きそうな長い茶髪を手で整えながら、アルベルを擁護。
「へぇ、あの場にアルベルの妹が居たのかい。なら悪い事をしたな。俺がもっと早く合流していれば連れてくる余裕も有っただろうに」
「……問題無い。赤き月まで、まだ余裕はある。守護オーブも手に入れた。アシュレイは、また今度で良い。場合によっては、諦める覚悟もある」
顔を露にした皆は、歳が20前後の集団。
10代後半だと思われるレイヴンから、20代前半だろうアルベルとロバート。その間にライン、メディアと言ったところ。
「そういや、守護オーブに関わる事で、お前らに相談したい事があるのさ。──俺の考えでは、もう1つ予備を持っておきたい」
「「ッ!?」」
指の上で守護オーブをクルクルと回して、レイヴンが伝える。
奇襲してやっとこさ1つの守護オーブを手に入れた皆は、驚愕し言葉を詰まらせた。
そんな皆を眺め、レイヴンは回すのを止め、手のひらに乗せた国宝を4人に見せるように続ける。
「俺達はこのオーブの凄さを知らねぇ。アルベルの話だと強力な結界を発動できるらしいが、解除すると一月間のチャージが必要なんだろ? ここまでやって結局、守れないと意味がねぇんだ。後戻りも出来ない。なら、徹底的にやる他、俺達に道はねぇのさ」
ここでレイヴンは、一度深呼吸を始め。
頭の中を落ち着かせ、伝えたい事を纏める。
「つまり、ここ最近ですらモンスターが暴れだしているんだぜ。赤き月、ブラッドデーと言っていたな。それが近づくにつれ、俺達も余裕が無くなるって事さ。そうなればブラッドデーが来るタイミングに合わせて、守護オーブを使えない可能性もある。俺はそれを危惧した」
「……。」
ブラッドデーの直前で、守る対象に危険が迫る可能性。
その時に守護オーブを使用する事となり。肝心の、ブラッドデーの7日間で守護オーブの使用が出来なくては意味がない。
理由を聞き、判断に困っていた4人の表情が引き締まる。
「レイヴンに賛成だ。都合よく此所はアルタイル王国。私が王都の道案内を出来る」
「そうね。アルベルの故郷だったわ。人物や宝の場所も、アルベルの『クロスペンデュラム』で探知して見つけられるものね。私も賛成するわよ」
アルベルとメディアに続き、ラインとロバートも頷く。
皆が決意を固めた事を確認し、レイヴンも頷き返した。
「本当なら、俺達の情報が広がる前にスピード勝負と行きたいところだが。『ライトケーブル』での、長距離移動。ロバートのムーンフォースもカラに近いだろ。だから休憩して、万全の状態になったら向かう。わかったかい?」
「皆さん、申し訳ありません」
「心配すんなって、ロバート。むしろお前のお陰でよ、俺っち達は強気で攻められるんだからな!」
確かに平然そうに見えるが、ロバートの頬には汗が垂れていた。
ドドギーラ王国の中心地から、アルタイル王国の辺境までを5人。たった一人の力のみで、瞬間移動をしたのだ。無理もない。
こうして『フォーク』の5人は、身を潜ませ王都アルタイルを目指しながら休憩を挟んでいく。
「くぅ、悔しいかしら! 街中じゃなければ、ルルミルキャノンを放てたのよ!」
「おぬし、自分の技に名前を付けておるのか……」
場所は変わり、首都ドドギーラ。
『フォーク』の者達が消えた後、メディアの操っていた霧は直ぐに消滅した。
技名を付ける友に、ドン引きしているミレシェルア本人は気づいていないが。
ミレシェルアも、氷人形に『ミレシェルア軍団』と名付けているので同類。
「すみません、ルルミル王女。間に合いませんでした。このツェゲラード、一生の不覚!」
乱闘が起きていた場所に、騎士団長であるツェゲラードが到着。
ルルミルと同じように悔しそうな表情を浮かべ、拳を握る。
「そうなのよ! いくらドドギーラが広いからって、移動に時間を掛けすぎじゃないかしら!」
「……それには深い理由が」
確かに首都ドドギーラの街中が広いとは言え、ムーンフォースで身体を強化し移動すれば、もっと早くこの場所に到着した筈だった。
訓練生のような未熟者ならまだしも。
騎士団長であり、狼の獣人族である彼が本気で駆ければ、滝の流れる岩壁から反対側の岩壁まで数分だ。
ツェゲラードが語るに。
自分が移動する道や屋根の上と、あり得ないほど正確に罠が仕掛けられていたと。
まるで、騎士団長である彼の行動が全て筒抜けになっているみたいに。
(行動を読まれる、か。怪しいのぅ)
ミレシェルアは思考した。
最後に現れた赤髪の男性を思いだす。
今は病院に運ばれたが、ネネチカと言うお婆さんの不意打ちを見切った動き。
最初から腕輪の鏡を輝かせ、レイヴンと呼ばれた彼の瞳にムーンフォースが込められていた。
(まさか、むむぅ、もしや)
「──むむぅ」
「何を悩んでいるのかしら。夜慈郎には似合わないのよ」
しまいには、腕を組み唸り声が漏れていたらしい。
隣にいるルルミルが訝しそうに、白髪の少女を見ていた。
「いや、なんじゃ。やつらのナイトを考えておってのぅ」
「? 振り子と、籠手と、霧は分かるかしら。他の二人はお手上げなのよ」
「まあ、儂の予想じゃが──」
『ダウンロード』の月光を視る能力により、周りの知り得ない世界が少女の瞳に映りこむ。
最初に『フォーク』の四人を発見した理由も、煙を上げた王宮から伸びる謎の線が視界に映り、不思議に思ったからだ。
謎の線の先を覗いてみれば人が居て、更に膨大な月光を蓄える球体を持っていた。
守護オーブを見たことがなかったので、そのまま流されそうになったが。
ルルミルの耳に口を寄せ、小声でナイトの予想を説明。
ミレシェルアには、相手が飛んで消えていった方角も丸見えであった。
双剣『キリトリ』で『ライトケーブル』の移動も妨害出来たかもしれないが、今回は安全を第一として見守るだけに留めたのである。
味方の増援が来たからと言えど、追い込まれた敵が何をしでかすか分からない。
相手の実力が未知数なのも有り、皆を危険に晒す可能性は回避したかった。
「あの人達。ルルミルの家の壁を壊したのよ。許せないかしら……」
「……。」
ポケットからハンカチを取りだし、少しだけ恨みを込めた表情で布の端を噛み、布の反対側を握る手にも力を込めて伸ばす。
プンプン状態のルルミル姫を眺めたツェゲラードは冷や汗を流しながら顔を逸らし、騎士団長である彼が破壊した事を、今は内緒にしようと沈黙。
ミレシェルアはそんな二人の様子を脇目に眺め「あっ」と察したが、内緒にしてあげようと決めた。
──結局、バレたらしいが。
こうして、事件に巻き込まれるも無事乗り越え。
更に1日が経過した事で、王立ヴェルト学園の生徒達は王都アルタイルに帰還した。




