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なのじゃ!!  作者: デト
第2章
42/53

フォーク

「──そこじゃ!」


「くぅッ!?」


 乱闘における激戦の末。

 ロバートと呼ばれた男の、腕に抱えた守護オーブが宙を舞う。

 ミレシェルアの双剣『キリトリ』で斬られた無傷の腕を眺め、不思議そうに、しかし普段より力の込められない腕に違和感を持ちながら、反対の手を守護オーブへと伸ばす。


「させぬぞ!」


 ロバートの手の指先から放たれた光の線すら、守護オーブに届く前に切り裂き、手元に戻すのを阻止された。


「やべぇぞ! せっかく盗んだ守護オーブがぁ!」


「ちょっと、お婆さん! 邪魔しないでよ!」


「そこを退け! アシュレイ!」


 相手側は段々と落下していく守護オーブを視界に映し、それぞれの反応を表し、焦りを見せる。

 状況が状況なだけに全員の余裕は無く、互いが必死に戦う中、誰しもが落ちていく国宝を取りに行けない。

 落下の衝撃程度ではヒビも入らない頑丈なアイテムなので、壊れる心配はないが。


「ナイスなのよ! 夜慈郎(よじろう)!」


「後は、この者達を捕まえるだけですかな?」


「流石はミレアちゃん」


 味方側もそれぞれが足止めするべき相手に集中し、敵の元から離れた守護オーブを眺めた。


 相手はミレシェルア達を、どう対処して国宝を拾いに行くか。

 ミレシェルア達は包囲する味方に守護オーブを任せれば良いので、後は目の前の敵をどう捕獲するかを考えだす。


 人の顔程ある大きさの球体が、重力に従って落ちた先は──人の手だった。


「予想以上に苦戦しているじゃねぇかい、お前ら」


 右手を上に掲げ、手のひらで玉をキャッチした者が上空へ向けて話す。


 屋根の上で戦っていた者達は皆、そちらに顔を向けだした。

 守護オーブを盗んだ者達と同じローブを身に纏う、赤髪の男性が1人。


「よぉ! どこに行ってたんだぁ? レイヴン!」


 その者を眺めた相手のラインは、先までの余裕の無さが解消された様に笑みを浮かべだす。

 ラインだけでなく、アルベル、ロバート、メディアの3人も同様。


「なんじゃ、あやつは。こやつらの仲間か? 潜んでおったのか」


 目の前に居るロバートへの警戒心を持ちながら、レイヴンと呼ばれた男性を確認。

 『ダウンロード』が発動している瞳に映った彼は、この場に居る誰よりも落ちついた雰囲気を纏い。

 その心に秘めたムーンフォースすら、揺らぐことのない静かで力強いものを感じさせる。


「おう、この国オススメの料理を食っていたのさ。旨かったぜ。……お前らなら心配はいらねぇ、そう思っていたが。強いのかい、コイツら。まあ、後は俺にまかせな」


 玉を持つ右手を腰まで降ろしたレイヴン。

 しかし、彼の後ろに回り込み攻撃を仕掛けた者がいた。


 『連武』と言う2つ名を持つ獣人族(ビースト族)のネネチカが、猫の如く音もなく静かに背後から攻めだす。

 ナイトにより具現化した棒を更に伸ばし、そして切断させて、また伸ばす。

 これらを繰り返したネネチカの周囲には無数の棒が浮かび、彼女の一撃と共にレイヴンへと一斉に放たれた。


「悪いな、婆さん」


 誰が見ても見事だった不意打ちは。

 背中を向けたレイヴンが後方の確認もせず全て回避し、横をすれ違うと共にネネチカの首に手刀をして気絶させる結果となった。


「……!?」


 ミレシェルア、ルルミル、アシュレイの3人は、一瞬にして形勢を逆転され緊張が迸る。

 僅かな戦闘であったが、一瞬の攻防を見て力の差を感じたのだ。


 気が付けば周囲もメディアの発動させた霧に包まれている状況。

 見渡す限りに隙間もなく、まるで別の空間に囚われたように。


「──ッ!? アシュレイ殿、危ない!」


 霧じたいは息を止めるか、ムーンフォースを身体中に纏って防御すれば良い。

 問題はやはり、相手そのものだ。

 どう動くべきか考え、状況を確認していたミレシェルアの瞳に映る。


「えっ!?」


 咄嗟に重力を操り、呆気にとられたアシュレイを自身に引き寄せた。

 突然宙を舞う彼女と重なるようなタイミングで、先までアシュレイが立っていた場所に謎の物体が横切りだす。


 大きなペンデュラム。簡潔に表すならコレだ。

 天のどこからかぶら下がるソレは、いきなり姿を現し、アシュレイを襲った。


 緊迫した状況で先に行動を起こしたミレシェルアを捕縛し行動の自由を奪おうと、ロバートが光の線を放ってきたが。

 白髪の少女は直ぐ様屋根を蹴り回避して、そのまま空中でアシュレイを抱き込み別の屋根に退避。


「大丈夫かのぅ? アシュレイ殿」


「へっ? あっ、はい。──じゃない。うん、ありがとう」


 不意の攻撃と、不意の重力による引き寄せと、不意の小さな少女にお姫様抱っこで抱えられた事に困惑し、気の抜けた返事をしてしまうアシュレイ。

 慌てて普段通りに戻って立ち上がる。


 相手側は絶対に当てられると思っていた巨大なペンデュラムを見切られ驚き、こちらを眺めていた。


「もう! どうすれば良いのかしら! ルルミル達が不利なのよ!」


 遠くでは沢山の銃口から光弾を放つルルミルと、放たれる光弾を籠手を纏った腕で殴り消滅させているライン。

 メディアは霧の維持に集中し、下では今にも動きだそうとするレイヴン。


「ん?」


 ──そんな時だった。

 レイヴンの後方に広がる霧から2人の人物が中に入ってきた。

 後ろを眺めたレイヴンの前には、剣を抜いたカリアとマカハーンが立つ。


「いきなり中へ走り出すなんて、どうかしたのですの? カリア」


「ごめん、マカ。知った顔が此所に来ていたから、少し気になって。──どう言う状況だ? レイヴン」


「よう、誰かと思えばカリアかい。昨日ぶりだな」


 向かい合うように立ち尽くし、広がる光景を見たカリアは直ぐに察した。

 最初は途中でレイヴンを発見し、ここは危険だと教える為に後を追っていたが。


 レイヴンの足下で気絶しているネネチカ。

 レイヴンの手には守護オーブ。

 レイヴンの纏うローブが、相手のものと同じ。


 昨日知り合った仲とは言え、会話した補正を掛けてまでレイヴンが自分達の味方側だと思考する程カリアもバカではない。

 刃先を向け、今にも飛び掛かれるよう構えだす。


「これが、守る事と関係があるのか?」


 昨日の会話を思い出し、カリアの口から言葉がこぼれた。


「ああ、そうさ」


「守る為に。今こうして物を盗み、戦っているのか? それはこの国にとって大切な物なんだぞ? ただでさえ、最近では頻繁にモンスターが現れるのに」


 勘当された身でも、元は四大貴族の生まれ。

 カリアも守護オーブの事は知っており、守護オーブの大切さも知っている。

 だからこそ国宝が盗まれる事で、このドドギーラにどれだけの危険性が生まれるのかも知っている。


「勿論、俺も知っているさ。昨日聞いただろ? 赤い月を知っているのか、と」


「?」


 赤き月と言う単語が出た瞬間、頭を傾げるカリア。

 分かっていないカリアとは違い、現四大貴族の者として情報を知らされているマカハーンは表情を強張らせる。


「ブラッドデーの事じゃな?」


 屋根の上で話を聞いていたミレシェルアが会話に混じった。


「ほお、嬢ちゃんは赤い月を知ってんのかい。なるほど、ブラッドデーと呼ぶのか。ちげぇねぇ」


「──その赤い月とか、ブラッドデーとか知らないけど。それと関係が?」


「まあな。……と、説明してやりたい所だが。もう、時間だ」


「?」


 尋ねてくるカリアに、軽く答えるレイヴン。

 レイヴンが会話を途切れさせたかと思えば、霧の外側が騒がしくなってきた。


「やっと増援が来たかしら!」


 ルルミルの話す通り、ドドギーラの騎士達が到着したらしい。


「!? 待て、レイヴン!」


 カリア達に背中を向け移動しようとするレイヴンを見て、駆け出すカリア。

 剣を握る力を強め、カリアは目の前の彼に攻めだした。


「おいおい。弱ぇな、カリア。お前さんの剣では、俺に届かねぇぞ?」


「うっ!?」


 地面に倒れていたネネチカを掴み、カリアへと投げ出す。

 驚いたカリアは剣を地面に突き刺し、飛んでくるお婆さんを受け止めた。

 その間にレイヴンは高く飛び、屋根の上へと上がっていく。


「逃がさないのよ!」


 ルルミルが更に銃を増やし攻撃しようとするも、『クロスペンデュラム』の揺らぐ空間に相手5人が集合してしまう。


「レイヴン! お前達は一体、何なんだッ!?」


 必死に叫ぶカリアの声を聞き、レイヴンは答えた。


「何、か。あいにくと名前なんて考えてなかったが。そうだな──『フォーク』。俺達を、そう呼べばいいさ」


 屋根からカリアを見下ろしたレイヴンは、そのまま後方に立つロバートに話す。


「『ライトケーブル』は、もう繋がってるだろ? 移動して構わねぇ」


「ええ、了解です」


 して、その会話を最後に『フォーク』と名乗る者達は全員、身体を発光させ。

 この場から、一瞬で消え去った。

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