守護オーブの泥棒
時は同じく、首都ドドギーラの王宮内。
王宮の壁の一部が崩壊し、建物内から外を覗かせた。
4人のローブを纏う者達が崩れた壁を背にし、この国の王や騎士達と向かい合う。
「あぶねぇ。あの野郎、建物の中なのに躊躇なく攻撃しやがった」
「……それだけコレが、大切な物なのだろう」
一応状況説明をすると。
王の暮らす宮殿の壁を破壊したのは、この国の騎士団長。
大きく屈強な身体をした、狼のような獣耳と尻尾を生やした中年男性。
獣人族である騎士団長は、庇うよう王の前に立ち。
1つのそれなりの大きさがある球体を持った集団に、巨大な剣を向けている。
「どこで、その守護オーブの存在を知った……」
騎士団長の背後で、警戒心を剥き出したドドギーラの王が話し掛けた。
その頬には一筋の汗が伝う。
攻撃体勢をとっているのは王国側のみだが、だからこそ何時までも余裕を見せる相手が不気味で仕方ない。
現に先程、騎士団長が放った攻撃も楽々と反らされている。
突然の破壊音によって警備してた兵も集まり、壁の外側も含めて包囲もしていた。
「私達の中に知っていた者が居ただけよ。名前の通り、この玉、守りが凄いのよね?」
フードも深く被っていて顔は分からないが、ローブ越しでも分かるボンキュッボンッなスタイルの女性らしき者が、仲間が持つ球体──守護オーブを眺めだし指でツンツンと遊びだす。
「ドドンド王よ。あれは簡単には壊れません。私に、突撃の合図を」
「うむ、わかった。ツェゲラード、貴様にまかせようではないか」
誰もがその場に止まる中、意を決して動きだしたのは騎士団長。
姿勢をほんの一瞬だけ低くし、相手に向かって飛び掛かる。
勢いも凄まじく、たった1度地を蹴ったのみで瞬きをする間に距離をつめた。
「惜しかったですよ。しかし、判断が一瞬遅かったですね。まあ関係ありませんが。では皆さん、さようなら」
集団の1人が輝かせた鏡を強調されると同時に、4人の身体が発光してこの場所から姿を消す。
「匂いが、ここで途切れている。くそっ、逃げられたか」
空気を切った大剣の感触と、自慢の嗅覚で匂いを追おうとするが。ツェゲラード騎士団長は無理だと悟り、ドドンド王に跪く。
忠誠心をもった団長の肩に手を置いた王は、優しく言葉を掛けた。
「気にするでない、ツェゲラード。まだ終わった訳でもない。ブラッドデーまでに取り返せばよいことではないか。よくぞ我を守ってくれた。ルルミルも外におり、巻き込まれずに済んでよかったよかった。ファッファッファッ!」
「必ずや私が、奪い返してみせます。王」
「うむ。──ではまず、聞け兵の諸君よ! まだ奴等が、この首都ドドギーラに居るやも知れん! そなたらは分散し、早急に捜索せよ! ついでにルルミルを見つけたら、王宮に連れ戻してくれ」
「「はっ!」」
王の命令により、敬礼をした兵達が一斉に外へと放たれた。
「ふぅ。ひやひやしたぜぇ、全く。相変わらず、ロバートの『ライトケーブル』は便利だよな」
「繋ぐのに時間は掛かりますが、アナタ達が居ますから安心して準備ができます。今度は長距離で発動させますから。また、周囲の警戒を頼みますよ」
どこかの路地裏。
建物が壁となり姿を隠すにはうってつけの場所で、守護オーブを盗んだ集団が一息吐いていた。
白き四角い建造物に囲まれた光景により、ここがまだ首都ドドギーラの中だと理解できる。
「兵が捜索に来るのも時間の問題ね。次の『ライトケーブル』発動まで、どれくらい時間が必要なのよ?」
「そうですね。場所が遠いですから……10分。いえ、15分は想定しておいてください」
「了解した。街も広い、そう簡単には見つからんだろう」
完全に逃げ切れた訳でもないが。
多くの兵に囲まれた状況から脱した事で、幾分か緊張がほぐされたらしい。
皆して壁に寄りかかり体を休めだす。
「──おお、おぬしら。朝方に会ったのぅ。そんな所でどうしたのじゃ?」
「「ッ!?」」
数分は休む事が出来るだろう。そう考えていた矢先、4人に声が掛けられた。
慌てて声の聴こえた真上に視線を向けたローブの集団の視界には、屋根の上で姿勢を低くしこちらを見下ろす白髪の少女。
「そんな所で止まってる暇はないかしら、夜慈郎! いったい、どうしたのよ」
「すまぬな、多西。宮殿に向かっておる途中だったのにのぅ。疲弊した様子の者達がおったから、無事か確認していたのじゃ」
白髪の少女、ミレシェルアと並ぶよう宙に浮かぶ少女がもう1人。
「「ッ!?」」
この国の王女、ルルミルが現れたことで4人は再度驚愕してしまう。
「どうやら無事な様じゃな、宮殿に向かうとするかのぅ」
自身のナイトに腰掛けたルルミルと確認も終わり。
また『ダウンロード』の能力で重力を操り、空を飛ぼうとするミレシェルア。
「待つのよ、夜慈郎」
けれど、そんな白髪の少女の腕をルルミルは掴み、移動は止められる。
「なんじゃ?」と、不思議に思ったミレシェルアの瞳には、フードの集団を見下ろしたまま凝視し続ける友の姿が。
「……その玉は、何なのかしら?」
ルルミルが凝視していたのは、人の頭ほどある大きさの水晶玉のような物。
彼らがドドギーラの王宮から盗みし守護オーブ。
過去に何度か見た事のある、ルルミルは誤魔化せない。
相手の返事が来る前に、腕を横に振るいマスケット銃に似た武器を空中に具現化。
「ちっ! バレたか!」
ルルミルのナイト『ゴールドシャワー』の銃口から、金色銀色とした光弾が発射される。
寸でのところでローブの集団は跳躍し、路地裏から屋根の上に逃げ出した。
「お、おい。多西。突然暴れだして、どうしたと言うのじゃ!」
「彼らの持ってるあの玉は、国宝の守護オーブなのよ! 王宮の煙りと言い、彼らのあの反応。つまり彼らが犯人かしら!」
素早い身のこなしで逃走していく相手を睨み、ルルミルは空に向かって光弾を放つ。
「な、なんじゃとぉぉ!?」
空に飛ばした光弾は、おおかた援軍を呼ぶ合図だろう。
銃に乗ったルルミルは、自分の周囲に銃を増やして移動を始める。
「よし! 儂にまかせぇ! 泥棒め、逃がさぬぞぉ!」
敵を追い掛け始めた友を見て、首飾りの輝きを一段と強くさせたミレシェルアがその小さな手のひらを、離れていく集団へ翳した。
すると、屋根から屋根に飛び移っていた相手4人の動きが空中で停止。
「なっ!? なんだこりゃあ!? ナイトの能力か? 進まねぇ!」
「嘘でしょ!? あんな小さな子が、これを発動させてるって言うの!?」
空中で腕と脚をじたばた動かす者が1人に。
振り返りこちらを眺め、驚愕する女性が1人。
「ナイスなのよ、夜慈郎!」
速度を上げて敵に突っ込むルルミルが褒めると同時に、数十と増やした銃口から光弾の嵐が敵を襲う。
場所がギーラ学園に近いこともあってか、騒ぎを聞きつけた学園の教師や生徒達も集まりだした。
カリア、マカハーン、アシュレイも含め。
多くの者がミレシェルアとルルミルがナイトを発動させているのを眺め、状況を整理しようとしている。
「アルベル、お願いします」
「ああ、わかっている。──揺らげ、『クロスペンデュラム』」
空中に浮かぶ4人の集団に襲いかかる無数の光弾。
1人のローブの者が腕輪に嵌まる鏡を輝かせ、ナイトを発動させた。
アルベルと呼ばれた者の左手中指に、1本のペンデュラムが垂れだす。
「「なっ!?」」
瞼を見開き、驚きの声を漏らしたのはミレシェルアとルルミル。
ペンデュラムが揺れだすと同時に、ルルミルの全ての光弾は軌道を反れ、ミレシェルアの重力は乱れ解除されたのだ。
「あの、ナイトは──ッ!?」
そして、それを眺めていた者の1人。
アシュレイ・ヴァレリアスは、ペンデュラムを垂らすフードを深く被るローブの者を、ある人物と重ねさせた。




