平和な時間
ミレシェルアとルルミルがルナフォン越しに、アルタイル王国の姫、ベルニカ王国の双子姫と会話を始めて数分が経過した。
久しぶりに前世の友だった転生者の皆と会話が出来てご満足なのか、表情に出ていたルルミル。
『それにしても、夜慈郎。あなたをドドギーラに送ってから、多西との再会が随分と早かったですね。どのようにしてドドギーラの王宮に入ったのですか?』
すると、弦七の転生者であるアクゼマーサ姫が、疑問に思った事を確認。
一国の姫であるルルミルと、ミレシェルアが出会えるかどうかは賭けでもあった。
携帯端末で会話をするアクゼマーサは、普段通りのおちついた声である。
しかし、友の僅かな声質の変化を感じて、ミレシェルアは何が言いたいのかを察し。
「心配せずとも。儂は別に、使い魔召喚を利用して王宮に侵入しておらんぞ? 今も首都ドドギーラに建てられた、1つの喫茶店に居るだけじゃ」
要は、何時でも魔界大陸に逃げられる召喚を利用し、こっそり王宮に侵入して王女ルルミルを探したのではないのか。と言う不安だ。
こちらに居られる時間も少ないが、流石にそんな事はしない。
そもそも、ルルミルとの出会いに関しては──
「儂が砂漠の地下道で困っておったら、多西の方から近づいてきたぞ。よくわからぬが今も含め、こやつは凄く自由に行動しておる」
──ドドギーラ王国の王女だと言うのに、護衛も付けず1人で行動をしていた。
『へぇ、羨ましいね。ミー達はたまに我が儘を聞いてくれるけど、それでも護衛は必須だよ』
『そうです。ベルニカの城を出るのにも最低2人は護衛を付けられて、ウチ達は窮屈な日々です』
ミレシェルアの語りを聞いたベルニカ王国の双子姫は、さぞ羨ましそうに愚痴を溢す。
アクゼマーサですら「ありえない」と、絶句している始末だ。
同じ王女の身からして、護衛なしの行動が想像出来ないらしい。
ミレシェルアも、使い魔契約を結ぶ前だったら同じ感想だっただろう。
「こういった事は、幼い頃から逃走して周囲に諦めさせるのが大事なのよ。普段は良い子に過ごして居れば、その位の我が儘は沈黙してもらえるかしら」
「だから街の住民は、姫であるおぬしを見て驚きもせんのか……。良いのぅ良いのぅ。かわかわでお利口の儂には、到底真似の出来ん事じゃ」
どさくさ紛れ、自分可愛いくて良い子アピールをするミレシェルアに誰も触れず。
のびのびとした空間の中、楽しそうに会話が続く一同。
ルルミル王女が多西の転生者であった事から。
残り2人のオジーズ達もこちらの世界に来ている可能性が高まった所で、不意にルルミルが呟いた。
「せっかくこんな楽しめる世界に生まれたのよ。また皆で集まって、世界中の危険地帯でも冒険したいかしら」
アイスを運ぶ細長いスプーンを口にくわえさせ、黄昏るよう静かな声が届く。
『良いねそれ、ミーも賛成。暴れるの好きだし、自然の中でキャンプも好き』
『ウチ達が数ヶ月前に旅した時は、数十人の兵に囲まれててリラックス出来なかったです。各国の王女が纏まってキャンプなんてしたら、それこそ地獄絵図の完成だぞ、です』
『何百の騎士や兵に囲まれたキャンプですか。想像しただけでも暑苦しい。わたくし達には叶わない願い事でしょう』
「まあ、どのみち儂は夜に帰るからのぅ」
そうして皆に報告が終わり。
ミレシェルアとルルミルは、通話を切って喫茶店も出ていく。
たどり着いた場所は、首都ドドギーラを囲む岩壁の真上。
下では豪快に水が溢れ出し、見渡す限りの砂漠地帯が広がっていた。
外の砂漠を眺めるのは2度目であるが、オアシスのような街中で過ごしていると、広い首都ですら広大な砂漠のど真ん中に在ると忘れそうになる。
「今の夜慈郎には夢があるのかしら?」
反対側の崖下に覗く、街に背を向け。
体育座りをしたルルミルが話し掛けてきた。
「夢か。今は目標を持っておる。とてつもなく大きな目標じゃ」
隣に佇み、同じく砂漠を見つめ、静かに力強く告げる。
『彼は、儂が育てたッ!!』と宣言する、大きな目標だ。
景色もよく、友に教えるのには絶好のタイミングかもしれない。
「へぇ、目標でも良いのよ。ルルミルにも夢があるかしら」
「……。」
(あれ? そこは。どんな目標かしら? と、聞く流れではないかのぅ!?)
腕を組み、ドヤ顔に近い表情まで出来上がったミレシェルア。
にも関わらず、ミレシェルアの目標については追求せず、自分の話を始めたルルミル。
「さっきも話したのよ。ルルミルの夢は、クロスディア大陸の危険地帯を冒険する事かしら」
「……なるほどのぅ。──で、儂の目標は」
「夜慈郎は知ってるかしら? この広い大陸の、いくつかのエリアは危険地帯と認定されているのよ。場所だけでなく、出現するモンスターも危険度が高い、とてもとても危ない所かしら!」
(これは、自分語りをする為の流れじゃったのか! 失敗したのぅ! 多西の奴め、くっ、油断したぞ!)
「ルルミルは、この広い砂漠より外に行った事がないのよ。どんな場所があるのかしら。夜慈郎にそれを教えたくて、ここまで来たのよ」
「……うむ」
「それで有名なのは──」
既に諦め状態のミレシェルアは、ルルミルの語りに付き合った。
彼女の話では、人々が熟知しているクロスディア大陸は、全体の2割以下。
大陸の殆どが危険であるのに変わりはないが、その中でも人が足を踏み入れる事の出来ない危険な場所が存在するらしい。
樹のように常に砂が上空へ吹き続ける、樹海のような見た目の砂漠地帯。
迷宮のように深く、何ヵ月かに1度形を変える洞窟。
神々しく、常に霧を纏った断崖ばかりで竜の住み家と噂される山。
他にも幾つか存在するが、瞳を輝かせたルルミルが話したのはこの3つ。
「でもルルミルはドドギーラのお姫様だから、そんな夢は叶わないのよ。暮らしは快適だから文句はないのよ? でも、世界中を見たいかしら」
「まあドンマイじゃな。儂としては暇さえ潰せればよいからのぅ、危険な所は勘弁じゃ。危険と言えば、ブラッドデーだとかスタンピードだとか弦七から聞いたぞ」
体をクルリと反転させ、街の方角を向きなおし。
ミレシェルアは危険繋がりの話題を送った。
岩壁を登っている最中にも眺めていたが、岩壁と滝に囲まれた綺麗な街の光景は中々面白い。
「ブラッドデーなんて守護オーブで問題ないかしら。どれ程の効果があるのかは知らないけど、国宝らしいし心配ないのよ」
夢を語り気持ちもスッキリしたのか、ルルミルも立ち上がりミレシェルアの隣で街を見下ろす。
この場所は王宮と離れており、大きく建てられた宮殿が小さく見える。
しかしギーラ学園は近く、米粒程度ではあるが学園の校庭で学生達が学園の門を押し合っていたのが伺えた。
おおかたムーンフォースを纏っての特訓と言ったところだろう。
朝から時間も経過しているので、王立ヴェルト学園とギーラ学園の対決かもしれない。
「平和が一番じゃなぁ」
「まあ、そうかしら」
2人であれこれと、何か見つけてはその場面を眺める。
「おお、あそこなんて煙りが出ておるぞ」
「本当なのよ。ルルミルの家かしらー」
両手を双眼鏡の形にし、次から次に指でさして教え合う。
数人で踊ってる内の1人だけリズムが合っていなかったり、まだ昼近くなのに既に酔っぱらった者が木に抱き付いていたり、カリアが押し合いで負けていたり、街奥の王宮から煙りが昇っていたり。
「「──何でッ!?」」
つい流してしまいそうになったが。
重なった2人の驚愕した声が、虚しく辺りに響き渡った。




