4人の集団
「夜慈郎は居るかしらー!」
夜が明け東の空に日光がひろがり、王立ヴェルト学園の生徒達が朝食を食べていた時。
泊まる宿屋の食堂で、豪快な音を発しながら両扉が開かれる。
「!!?」
広々とした部屋に沢山のテーブルと椅子が並び、それらに腰掛けた皆が、現れた存在を見て目を丸くさせた。
登場したのがこの国の王女、ルルミルだからである。
8歳の少女はキョロキョロと部屋を見渡し、銀髪の少年を発見。
「そこの君。夜慈郎を喚んでほしいのよ!」
美少女であるマカハーン、アシュレイの2人と卓を囲んで食事をしていたカリアの目の前まで、薄紫色の髪を揺らしながら歩き。
ルルミルは、腰に手を当てて頼み込む。
「……ミレシェルアの事?」
「そうなのよ。今から遊ぶかしら! だから喚んでくれると嬉しいのよ」
ちなみに、現在の時刻は朝の7時であった。
とりあえず、ミレシェルアが起きているのを確認したカリア。
その後にミレシェルアの方から召喚を発動させ、こちらに姿を現す。
「お主、何故にこのような時間から……」
「こちらに居られるのも少しだけって聞いたのよ。だから早めに迎えに来たかしら」
魔界大陸は夜になり、目覚めの夜食を食べ終え歯磨きをしていた最中だったミレシェルア。
まさかこんなに早く迎えに来るとは予想外であったが、それほど久しぶりの再会に喜んでいたのだろう。そう考えれば可愛げのある事だ。
小声で「ジジイなのじゃから、少しは我慢せい」と語るミレシェルアに対して。
「今のルルミルは8歳かしら」と、開き直った多西の転生者。
手を繋ぎ食堂から出ていく2人は、周りの者から見て微笑ましい光景である。
(よじろうってなんだ……?)
そうして皆の中に変な疑問が生まれたのは、どうでもよい話。
「昨日も少し見て思ったが。綺麗な街じゃのぅ」
「ルルミルはもう、見飽きたのよ」
どこを目指しているのか今も手を繋ぎ、白く四角い建物が並ぶ街中を走っていく。
普段なら既にバテているミレシェルアだけど、ムーンフォースを僅かに纏って耐えていた。
けれど。それでも呼吸は荒れ、少し休憩をしたくなった頃合い。
裏通りを進み、曲がり角に差し掛かった時──
「──おっと!」
「はわわ! ごめんなさいかしら!」
──寸でのところで回避はしたが。
フードを深く被った、ローブを纏う4人の集団とぶつかりそうになった。
「不注意で悪かった。怪我はないか? 君達」
明らかに、走っていたルルミル達の方が不注意であったが。
それを気にせず、1人の者が心配した様に声を掛ける。
「こちらこそすまんのぅ。怪我もない、大丈夫じゃ」
「それはよかったわ。ごめんなさいね、私達急いでいるから」
「まっ。お互いにさ、怪我をしなくて良かったって事でいいっしょ!」
更に2人の者。
片方は女性だろうか、ローブ越しでも膨らんだ胸を撫で下ろし。
最初にぶつかりそうになった、声から男性だと思う片方は、後頭部付近で手を組んでケラケラとしている。
「うんうん! ルルミルもそう思うのよ! では、さよならかしら!」
どちらも無事を確認し。
再度、ルルミルがミレシェルアの手を引いて走り出す。
「ぬわー! 走りだすでない! もう歩きでよいじゃろ!」と、息も絶え絶えにさせたミレシェルアの悲鳴が響いた。
遠ざかっていく2人の少女を眺めた集団は、周囲に他の誰も居ない場所にも関わらず、静かに会話を始める。
「あの容姿さ。もしかしてだけど、噂で聴いたこの国の王女じゃね?」
「ラインも、そう思ったのね。私も思ったわ」
「神童か、丁度いい。巻き込む心配も、敵としての戦力低下も。私達にとって好都合」
方角にして宮殿とは反対に向かっていった王女ルルミルに、フードを被った集団は感想を述べた。
「戦力低下と言えば。丁度今、この国にアルタイル王国の学生達が来ていると。そう言う話を聴きました」
4人目の者が顎に手を当て、思い出したように続ける。
「ほへー。まあ各国の話なんて、俺っちには分からんけどさ。アルベル、お前の妹がそんな歳じゃなかった? アルタイル王国の生徒なら、お前の妹も居るんじゃね?」
「──か。私も噂は耳にする。敵だと厄介だ」
「ならこちらに誘えば良いわ。貴方の妹なんだもの。貴方が話せば、多分だけど協力してくれるわよね。私も歓迎するわ」
「そう上手く、話が進むでしょうか。誘うのは構いませんが、我々の目的を第一にお願いしますよアルベル」
止まっていた足を動かし、4人は王宮の方角へと向かっていく。
フードを深く被りローブを纏う姿は、日の光が強いドドギーラ王国では珍しくもない。
ごく自然に歩いていく彼等を不審に思う者もいなかった。
「メディアもロバートも、心配は無用。もう覚悟も決めている」
「そっか。まあ先は長いしよ、その時に考えようぜ。悩むなら俺っち達にも相談しろよ」
「ラインの言う通りです。アルベル、1人で悩まないでください」
「それじゃあ、急ぎましょう。彼と合流もしないといけないわ」
男性3人と女性1人。
ライン、アルベル、ロバート、メディアと呼ばれる名前の4人。
「んで、あいつは何処に行ったんだ?」
「気まぐれな彼の事です。そこら辺を見ているのでしょう」
「問題を起こせば、向こうから近づいてくる。それだけだ」
そこからは皆が黙り、人の多い大通りに出て首都の奥へと歩いていった。
「えええええぇ!! 皆もこちらに来てるの!? 驚きかしら!」
「皆かどうかは、まだ確定ではないのぅ。けど逸瑠、おぬし、三竹、儂、弦七の5人は来ておる。儂自ら確認もした。ルナフォンの番号もこの通りじゃ!」
場所は首都ドドギーラの喫茶店。
ミレシェルアが疲れたとギブアップした事で、朝早くに営業していたここで一休み。
科学文明もそれなりに進んだクロスディア大陸では、冷蔵庫や冷凍庫も普通のご家庭に普及されるほど一般化され。
暑さを誇るドドギーラ王国では、冷たい食べ物が有名となり人気。
2人分のアイスクリームをテーブルの上に置き、ミレシェルアとルルミルは話し合いをしていた。
「わああ! ルルミルも交換するのよ!」
ミレシェルアの番号をはじめ、アクゼマーサ、ティマシール、セシェリアの番号を登録したルルミル。
ミレシェルアはアルタイル王国の王女アクゼマーサに。
ルルミルはベルニカ王国の王女ティマシールに、それぞれ電話を掛ける。
『早かったですね、夜慈郎。わたくしに電話をしてきたと言う事は、ドドギーラ王国の王女には会えたようですね?』
『いきなりウチに、電話を掛けて来やがったのは誰ですか? 夜慈郎の知り合いです?』
どちらの端末からも声が発せられた。
場所が喫茶店だけに、そこまで大きな音を発する事は出来ないが。2つのルナフォンから出る声が、ミレシェルアとルルミルの2人にしっかりと届く。
「「チャオ!」」
状況をなんとなく察した様子のアクゼマーサと。
警戒したように、しかし電話に出てきたティマシール。
両者の性格が表れる反応の違いに、ニシシっと笑って挨拶をおくった。
「どうも、初めましてと久しぶりなのよ! ルルミルはルルミルかしら!」
「……多西じゃ。」
相手に一応、伝わると思うが。
大事な部分が伝わらなそうな自己紹介に、頭を抱えたミレシェルアが紹介を付け足す。
聴いていた向こう側から、セシェリアを含め『……ああ。納得』と、3人の理解した様子の声が聞こえた気がした。




