不思議な青年
ミレシェルアとルルミルの2人が、首都ドドギーラに到着して直ぐだった。
「あっ。儂、帰る時間じゃ」
「? なんの話なのよ、夜慈郎」
赤色に染まる砂漠の大地と、夕焼けで紅く染まりだした空。
カリアに助けを求められた時には時刻も遅く、そこにジャイアアントからの逃走と、のんびり景色を眺めながらの移動で時が経っていたらしい。
首都の門を潜り、迫力ある岩壁に囲まれた綺麗な造りの街にワクワクしたところで、魔界大陸への帰還を思い出す。
前世の友、多西の転生者であるルルミルに、軽く説明。
ミレシェルアが魔族である事と、先ほど助けたカリアと言う名前の少年と使い魔契約を結んでいることを知るや。
他の友の転生者と同じように、驚愕していたルルミル。
「なら、また明日なのよ! ルルミルから迎えに行くかしら!」
「そうじゃのぅ。他にも色々、伝える事もある。また、明日のぅ」
脇に果物の実を抱えた2人が片手を振り上げ、今日の別れを告げた。
最初の出会いで敵意を向けられた事に混乱したのと、砂漠の景色に夢中で。
アルタイル王国の王女や、ベルニカ王国の双子姫の事は何も説明していない。
明日また会えると分かったので、ゆっくり説明してルナフォンの番号でも交換すればよいのだ。
ミレシェルアの姿が消えていき、この場にはルルミルだけが残った。
久しぶりに前世の友との再会を果たしてか、嬉しそうにして王宮へと帰還する王女ルルミル。
夕日も沈み、太陽の光が届かなくなった夜。
首都ドドギーラは、滝の流れ落ちる音を心地よく響かせ、星が見える綺麗な夜空を広げる。
街のあちらこちらで明かりが灯り、21時を過ぎた時間帯で人々が楽しそうに騒ぐ。
酒場で食べ物や酒を飲む者、数人で肩を組んで道を歩く者、道の端で酔い潰れている者、と。
(はぁ、しまったなぁ。つい、外に来てしまった)
そんな中、心の中で溜め息を吐き、暗い表情で歩く者が1人。
カリアである。
ハルシオンと呼ばれる男子生徒と、同じ部屋に泊まる事になった彼は。
あまりの気まずさから、外の空気を吸いたくなって宿屋から抜け出した。
別に何か言われた訳でもないが、居づらかったのだ。
(ああ。外の空気おいしい)
実際、美味しいのかなんて分からないが。
宿屋の部屋に居た時よりも精神的に気楽だ。
ハルシオンとは、マカハーンと同じくカリアにとって幼馴染みの仲である。
アルタイル王国の北地区に家を持つ上流貴族、侯爵ベルガモット家の生まれ。
四大貴族ノース・セイントリア家に生まれたカリアと同じ年に産まれたハルシオンは、その家柄もあり、幼い頃の特訓相手として共に競いあった。
「このままに、しとく訳にもいかないのは分かっているけど。どうすれば良いんだ」
ハルシオンがカリアに嫌味を吐いてきたのは、カリアがノース・セイントリア家を勘当されてから。
『落ちこぼれ』と呼びはじめ、ゴミを見る視線を向けてくる。
「はぁ……」
貴族としてのプライドなのか、幼馴染みとしての関係にあるのか。
カリアには原因が分からず、ついため息を溢してしまう。
「──おいおいお前。こんな時間、こんな場所でため息か。どうした? 女の悩みかい?」
「っ!?」
街中を進んで首都ドドギーラの端、岩壁と滝を眺めに来たのだが。どうやら先客が居たらしい。
その者は、この薄暗い場所で身に着ける腕輪の鏡を輝かせていた。
(ナイトを発動している……のか?)
「ええっと。人との悩みなんですけど、ちょっと違くて」
多少警戒するカリアだが、立ち止まり苦笑を浮かべて答える。
ムーンフォースによって光を発する彼は、カリアよりも少し歳上と言ったところか。
聳え立つ木に背を預け、腕を組んでいる。
身長もカリアより少し高く、身に纏っているローブ越しだが鍛えているのが見て分かった。
赤髪が特徴の気の良さそうな青年、と言った印象。
「貴方のほうこそ何故、こんな所に?」
周囲を眺めるが、ナイトの能力らしい現象はない。
そこも含めて不思議に思い、カリアは初対面の彼に聞く。
「俺かい? 俺はただ、星を観てたんだ。無数に浮かぶ、あの輝く星を。この俺達の生きる世界、どんな未来が訪れるのか不安でね」
「……未来?」
上空を眺めだす青年。
カリアとしては星を眺める事と、未来の関係性が分からなかった。
しかし、それでも。青年は真剣な瞳で空を眺める。
「ああ、護る為さ。──そういや、名乗ってねぇな。俺はレイヴン。お前は?」
真剣な時とは雰囲気も変わり、人懐っこそうに笑顔を浮かべるレイヴン。
「俺はカリア。今は学園の用事で、この国に来ているんです」
軽く挨拶を交わし。それから数分間、2人は会話を続けた。
どうやらレイヴンも、ここ首都ドドギーラとは別の所で何時も暮らしているらしく。
目的が有って来ている最中だと、笑顔を浮かべながら教えてくれた。
「相手の事が分からないのなら、とりあえず話す事さ。今の俺やお前のようにな。会話して初めて知る事もあるし、知りたくなかった事実を、知る事もある。けど、話さなければ始まらねぇ」
両者は、並ぶよう地に座り。
初めて顔を合わせたにも関わらず、少し年齢が近いこともあってか気軽に喋れる。
会話の内容も、一周回り。
カリアの悩み事について共に考え、レイヴン自身の結論を言われていた。
「うん、そうだよね。ありがとう、レイヴンさん。話しを聞いてもらえてよかった。俺、戻るよ」
「おう。失敗を恐れるなよ、カリア。──なあ、お前さん。赤い月を知ってるかい?」
「赤い月? すみません、知らないです」
「……やっぱりか。ああ、良いんだ。気にすんな、今の事は忘れてくれ」
不意に聞かれた言葉に、頭を傾げながら知らない事を伝え。
そんなカリアを眺めたレイヴンは、予想通りだったらしく。あまり気にしてはいない。
悩みを相談した事が成功したのか、霧に覆われたような頭の中も晴れ、カリアは腰を上げる。
もう一度お礼を言い、カリアは元歩いて来た道を戻ろうと歩きはじめた。
「そうだ、最後に。帰る時は、あの道以外を進んだほうが良いぜ」
今も腕輪の鏡を輝かせる青年は、座りながら顔だけカリアの方を向き。
丁度カリアが通ろうとしていた道を、親指で差して忠告してくれる。
「? うん、わかった」
青色の瞳で言われた道を伺うが、何も問題はない。
理由は分からないけど、レイヴンの言う通りに別の道を選び宿屋に戻る。
歩いている途中、カリアの耳に騒ぎ声が届いた。
先程通ろうと思った道の、方角からだ。
酒に溺れ、酔った者同士が乱闘を起こしたのだろう。
別の道を歩くカリアにまで騒音が届く事からして、かなりの騒ぎである。
(危うく、巻き込まれるところだった。レイヴンさんは、これを知っていたのか?)
胸を撫で下ろし、安息のため息を吐いて歩みを再開。
先までおとなしかった道で乱闘が起きる事を、何故分かったのか。
その疑問はあるけど、人生経験の差かな? と、咄嗟に考えついて心の奥にしまう。
こうしてカリアは宿屋に戻るも。
ハルシオンは既に、眠りに就いていた。
(焦ることはない。また今度にしよう)
話をしようと決めていたが、覚悟がまだ足りなかったらしい。
ベッドの上で寝ているハルシオンを眺めたカリアは、安堵する。
普段なら既に寝ている時刻まで経過しており、あくびが溢れるカリアも眠りについた。




