王女ルルミル
暗き地下道に、透き通った鈴の音が心地よく鳴り響く。
この場に居る3人から発せられるムーンフォースの輝きにより、僅かに照らされた空間で互いの姿を視認できていた。
「このルルミルに、何か、したのかしら?」
腰掛ける棒状の物ごと足場に降りて、その薄紫色の髪を背中辺りで2つに縛った地に着きそうな程長いツインテールを揺らす。
頭部の左右には拳サイズの鈴がピンク色のリボンによって飾られ、アラビアン衣装を想わせる衣類を纏う少女。
ドドギーラ王国の王女ルルミルが、ミレシェルアを眺め警戒し聞いてくる。
突然の痺れるような感覚に襲われた事により、不快感は無いけど初めての事で困惑した感情が混じっていた。
ジャラジャラとした金色の首飾りに装着されている鏡が輝きを強くし、ルルミルが乗っていた棒状の物を複数、ルルミルの周囲に具現化させていく。
「まてまて! 儂、悪くないぞ! 少し落ちつけのぅ、うーんと、えーと。……お主、多西じゃろ!?」
「? ……っ!?」
よく見れば、棒状の物は前の世界で言うマスケット銃に似た武器であった。
宙に浮かぶ全ての銃口が、白髪の少女に向けられている。
まさかの開幕から戦闘態勢を剥き出してきたルルミルに驚き、両腕をバタバタと動かしながら相手を観察し必死に答えるミレシェルア。
(たにし? たにしって、なんなのかしら? あれ? ルルミルの前世の名前が多西なのよ! ん? ならルルミルの前世の名前を、目の前の女の子が知ってるって事かしら? どうして? 意味が分からないのよー! ……およよッ!? もしかして!)
頭が混乱しながらも、懐かしいと思う気持ちと共に思考を続けた。
何を言ってきたのか理解した瞬間、ルルミルも驚愕を表情に浮かべ、ミレシェルアを凝視してくる。
「嘘なのよ。信じられない。……君、夜慈郎?」
「そうじゃ、そうじゃ! 分かったのなら、そのナイトを消してくれ。物騒じゃぞ」
「よじろう、って何? ミレシェルア」
なんか話が進んでいく少女2人と、話がわからず置いていかれるカリア。
「……内緒じゃ」
正直言うと、カリアの存在を忘れていた。
咄嗟に音の鳴らない口笛を吹き、顔をそらす。
そんな事をしていたミレシェルアの体に、少しの衝撃が。
「久しぶりかしら! まさか、こっちでも会えるとは思わなかったのよー!」
ぶへっ!? と、いきなりきた視界の揺らぎに驚いていると。
ルルミルが嬉しそうにして、ミレシェルアに抱きついていた。
前の世界だけでなく、この世界でも姿が変わったとは言え再会出来たことが嬉しそう。
「多西も相変わらずじゃのぅ。エンジョイ勢と言うか、ロールプレイが好きと言うか。あれじゃろ? あざといぶりっこ姫プレイじゃろ?」
「正解なのよ。折角の人生かしら! 今を楽しまないと損なのよ!」
抱きつきを止めて、互いに少し離れ。
紅い瞳で薄紫色の髪を持つ少女の姿を再確認するや──
(おっ? 儂の方が、ほんの僅かに身長が高いのぅ。勝ったぞ)
──等と、勝手に心の中で身長勝負をおこない勝利を味わう。
どちらも小さな事に変わりはない。
「いつまでも、こんな所に居られないかしら。ルルミルが外に案内するのよ。2人共、乗ると良いかしら」
知らぬ内に敗者にされていたルルミルは、そんな事もわからず。
ミレシェルアとカリアの2人に、マスケット銃に似たルルミルの『ナイト』を寄せた。
見本のようにルルミル自身も1本の銃に腰掛け、宙に上昇していく。
こうしてミレシェルアとカリアの2人は、ルルミルの協力のもと。
地下道の途中でルルミルの後を追って来ていた教師達とも合流し、砂漠の地下道から脱出する事に成功。
「そう言えば、あの巨大な蟻どもはどうして逃げていったのじゃ?」
地表に出て、両国の学園の者達と別れたミレシェルアとルルミル。
今だマスケット銃に似た銃に腰掛け、ゆっくりと空を飛んでいる最中だ。
ふと思い出しては、弱くても次から次へと増え続け襲いかかるモンスターの群が、急に一匹残らず逃げだした事が気になったらしい。
「ジャイアアントの事かしら? あれは弱点のお尻に、倒さない程度のダメージを与えると良いのよ。ドドギーラの常識かしら」
「ほほぉ、なるほどのぅ。それで、このお主のナイトを使って攻撃したのじゃな」
「名前は『ゴールドシャワー』なのよ。全ての銃をルルミルの手足のよう自在に操って、銃口からムーンフォースの光弾を発射出来るのよ」
なんでも、ムーンフォースの残量が有る限り、好きなだけマスケット銃を増やす事が可能との事。
数十、数百に増やした遠隔操作が出来る銃口から、金色銀色の光弾を一斉に放てる。
それがドドギーラ王国の王女ルルミルのナイト、『ゴールドシャワー』。
ミレシェルアが景色も観たいという理由で、2人はのんびり砂漠を進む。
その間も、ジャイアアントについて少し教えてもらった。
なんでも暗闇に暮らすジャイアアントに視力はなく、顔の触角によって周りを判断すると。
それ故に、ただ倒すだけでは生存している個体に危機感を与えることが出来ず、次々と襲い続ける。
弱点のお尻にダメージを与える事で危険だと理解し、ジャイアアントが発する泣き声を他のジャイアアントが触角で察知していく生態。
「モンスターにも色々おるのぅ。……それよりも、多西。あそこの砂漠の砂が沸騰しておるぞ」
飛んでいて高い位置に居るから、周りをよく見渡せる。
そんな中でも、ミレシェルアが興味を惹いた景色が数々。
少女が指差す先にはブクブクと、まるでお湯が沸騰した様に砂場が膨れ破裂していた。
「あれはそのまま、ドドギーラ砂漠の沸騰砂と呼ばれているのよ。夜の月光が砂漠の地下道に溜まって、今吹き出してるところかしら。見た目そのまま熱気も凄いのだから、近づくと危ないのよ」
地下道に溜まった月光は濃密となり、砂に混ざって粘りが生まれる。
まさに、ドドギーラ王国のみの現象。
砂漠がさらさらとしていれば、砂の地面は軽く穴をひらき空気が漏れるように月光が吹き出るのだが。
粘りの性質が絡みあって、砂が泡のように膨れる光景が出来たみたいだ。
「──おい多西。あんな遠くで、大船が動いておるぞ!」
「サンドホリゲイと呼ばれる、砂漠のクジラに船を引かせているのよー。ドドギーラの砂漠は広いもの、モンスターを手懐けないと大変かしら」
「──うげぇ。巨大な芋虫が、巨大なサソリを飲みおったのぅ」
「ドドギワームなのよ。ここら辺では、それなりに強いモンスターかしら」
ミレシェルアが何か見つければ、それをルルミルが解説してくれた。
流石は異世界か。
前の世界では見ることのない、常識が変わった世界である。
「このフルーツはドドギーラの砂漠にしか生えないのよ。中身は蜜がゼリー状になっていて凄く甘いかしら」
「実の皮は硬いのじゃ」
首都ドドギーラも目前。
岩壁から流れ落ちる水源の滝により、草木が賑わうオアシスで生長した木。
顔の大きさはある果物を2つ切り取って、1つはミレシェルアに渡してきた。
2人は脇に果物を抱え、そのまま首都ドドギーラの中へ。
「よく来たかしら、夜慈郎。ここが、首都ドドギーラなのよ!」
「おお!」
長い薄紫色の髪を揺らし、頭部の大きな鈴も揺らしながら顔を振り返る。
ドドギーラ王国の王女。そして、ミレシェルアが前世の友の1人。
多西の転生者。
ルルミル・フェンツェラ・ザ・ドドギーラに、笑顔で歓迎されたのだった。




