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なのじゃ!!  作者: デト
第2章
33/53

季節はフルール

 僅かながらも時が経ち、(フルール)の季節。

 肌寒いそよ風も落ちつき、ほんのりと暖かさが帰ってきた。


 たまに雪が降り白く染まる事があった街も、今では植物で多彩に色が付く。

 ここ王都アルタイルは、(スノーク)を越え、年を越すことが出来たのだ。


「──よし、行こう」


 この世界では、(スノーク)の下月から(フルール)の上月に替わる事で年を越す。

 銀髪の少年は数ヵ月前と比べ、多少逞しくなった筋肉と少し伸びた身長から、服を新しく購入した。


 ミレシェルアに「戦いとは、見た目から始まるのじゃ」と言われ、数日前に2人で買い物をしたのである。


 緑色の上着は襟を尖らし、長い袖の上に茶色のオーバーグローブを被せ。

 紺の長ズボンも、膝下近くから茶色のブーツにしまっている。

 腰のベルトに月光(げっこう)(つるぎ)が納まる鞘をぶら下げ、肩から膝元までの青色のマントを装着していた。


 どう見ても(スノーク)の時より厚着になった少年は、学園のローブを更に纏い。

 いつも暮らしている、宿屋の部屋を出ていく。


 ──カリア・トゥースタンが、王立ヴェルト学園の二年生となった。












 まだ他の生徒達が少ない、早い当校。

 二年生となり新しいクラス表を眺めたカリアは、表記されていたクラスへと足を運ぶ。


 王立ヴェルト学園の入学は簡単だが、それでも、生徒達の人数は多くない。

 他に戦闘訓練とは違う事を習う学校も存在し、アルタイル王国で生活する者達は、未来を考え別の学校に通う者が多数なのだ。


 1学年、100人以下。

 広大なアルタイル王国の地域で、王立ヴェルト学園に通う生徒達の数。


 三組に別けられた表の1組目に、カリアの名前が書かれていた。


(流石に、早すぎた……)


 彼以外、誰1人として居ない教室に入る。

 教室の前に大きな黒板があり、横に長い机と椅子が並列に4つ、縦に3つずつ並ぶ。

 後ろの机になるほど、段差が高くなった部屋の造り。


 黒板にはデカデカと『席は自由』、そう白色のチョークで書かれていた。


(俺の名前を直ぐ見つけて教室に来たけど、マカの名前も探せばよかった。席はここでいいよね)


 多くの人が大好きかもしれない、最後尾の窓側の机だ。

 1つの席で、3人使用が可能の大きさである。

 誰も自分の隣には来ないだろうと、席の真ん中に腰掛けるカリア。


 一年の時はマカハーンが隣に座ってくれたが。


 そして時間も経過していき、空席だらけだった教室は生徒達で埋まっていく。


「今年も一緒のクラスですわね。おはようございます、カリア」


 流れ続ける時間で1人、机に肘を置き窓の外を眺めていたカリアの視界を、ひょっこりとウェーブ状に伸ばした綺麗な金髪を持つ少女が支配した。


「おはよう、マカ。……よかった、今年もよろしく」


 覗きこむように上半身を斜めに倒したマカハーンを眺め、一瞬驚いたように目を丸くさせたカリアは安心したように返事をする。

 そのままカリアの隣に座る少女を周りの生徒達が眺め、落胆していく。

 自分達の隣に座ってくれないか、期待していたのだろう。


 また少しだけ経ち、新たなどよめきが教室内で起こった。


 最近噂のタルトについて語るマカハーンと前を見れば、教室の入口に膝元まで伸ばした綺麗な黒髪を学園ローブの内側に仕舞う少女、アシュレイが立っている。

 咄嗟に、自分の隣の席が空いてますアピールをする男子達。

 アシュレイは軽く教室内を眺めると、教室の段差を上がっていきカリアの近くで立ち止まった。


「隣、良いかな?」


「えっ、あっ、はい」


 まさか隣に来るとは思っていなかったカリアは、気の抜けた返事をしていた。

 了解を得たアシュレイは「ありがとう」と返し、鎖で腰にぶら下がる長刀を鞘ごと外して隣に座り、刀を席に立て掛ける。


「今回は同じクラスのようだ。アンジェリーナさんと、カリア君。今年もよろしくね」


「ええ、よろしくお願いします。今年こそ私が勝ちますわ、アシュレイさん」


「こちらこそ、よろしく、アシュレイさん」


 アシュレイとしては、知り合いの隣の席が空いているラッキー! 程度の認識だ。

 早く来すぎたカリアと逆で、遅く来たため良い席が空いているか不安だったのは内緒。


(しまった。こんな事なら、席の端に座るべきだった)


 今になって後悔するカリア。

 周りからの嫉妬の視線が痛い。

 両隣に美少女が座るカリアの席は、周囲の男子からして羨ましいものなのか。

 それはもう、視線だけで人が殺せそうな勢いである。


(助けてくれ! ミレシェルア!)


 情けない少年は、心の中で小さな少女に助けを求めた。

 悲鳴にも近い心の声が、ミレシェルアに届くわけもなく。

 カリアに向けられた視線に気がついてはいるものの、変に刺激しないよう呆れの溜め息を漏らすだけのマカハーン。

 アシュレイは机に両肘をつき手のひらに顎を乗せ、素知らぬ顔で時間が過ぎるのを待つ。


 カリアは犠牲になったのだ。













「さて。生徒の皆に、報告する事がある!」


 このクラスの担任となった男性教師も現れ、順番に自己紹介も済まし、告げられた。


 男性教師の名前はランバール。

 進級試験より前、土のブロックを殴って粉砕した先生だ。


 教卓の上に手を乗せた彼は、真剣な表情をして周りを眺め。


「2週間後、二年生の皆はドドギーラ王国に向かう事となった。なんでも、他国の学生と競い合い、現在の己の実力を知り更なる高みへ成長する為だと、我々教師も上から報告されている」


 突然の内容に、生徒達は唖然としていた。

 年が変わり数ヵ月後なら、このようなイベントが起こるのも理解できる。


 まさか進級して早々、他国に移動するとは。


「行きと帰りの移動に関しては、『ミラーゲート』の使用が許可されている。普段の装備以外、そこまで荷物の準備は必要ない筈だが、ドドギーラは砂漠の国だからな。暑さや砂に備えて各自準備をするように!」


 ランバール先生が語った『ミラーゲート』。

 クロスディア大陸で使用される、長距離を一瞬で移動できる物。


 ミレシェルアとカリアの使い魔召喚と性質は似ているが、意外と違う。


 ミラーゲートは別の所に存在する鏡と鏡を繋ぎ合わせ、門を潜るように移動できる。

 発動させるのに膨大なムーンフォースを消費するのと、どちらの鏡にも同時にムーンフォースを注ぐ必要があった。

 そして一度通ってしまえば、それ以降は移動した場所に好きなだけ留まれる。


 使い魔召喚の移動は、どちらかの鏡にムーンフォースを注げば発動可能。

 しかし、召喚の最中はムーンフォースを消費し続けてしまう欠点が。

 更に、強制的に元の場所へ帰還させる手段も存在する。


 召喚されたミレシェルアが涼しげな顔で居続けられるのも、少女のムーンフォース量が膨大だからだ。


 なんだかんだ言って、魔王の娘なだけはある。

 体力はショボくても、ムーンフォースの量は無駄に多い。


 ランバール先生からドドギーラ王国に向けての注意事項が続き、その後は授業が開始された。










 そうして2週間が過ぎ、ドドギーラ王国へ向かう当日。


 青き空が見える10時頃。

 カリアを含めた生徒達が、荷物を持って集合場所の神殿に集まっている。


 王都アルタイルに存在するこの神殿は、国民の避難場所にも使われ、内は広い。

 コンクリートの柱や石のブロックで建てられた、大きな神殿。


 先生達に誘導され、王立ヴェルト学園の二年の生徒達が内に入っていく。


 中には既に百人近い人々が居り、服装を見ると国の兵士だと分かった。数は百に近い。

 そんな左右の壁際に並び立つ兵士達の奥、神殿の壁一面を埋める巨大な鏡がカリアの視界に映る。


 ──ミラーゲート。


(……大きい)


 巨大な鏡の中央に、これまた巨大な月光陣が描かれている。


「それでは、お願いします」


 先生の合図と共に、ドドギーラ側の相手とルナフォンで通じる者が腕をあげた。

 百人近い兵士達が一斉に鏡へ手を伸ばし、皆でムーンフォースを月光陣に注いでいく。


 光り輝いた鏡が、発光を鎮めるのと同時に。

 先まで反射して映し出された皆の姿が消え、別の服装をした人々が鏡に映し出された。


 あの者達は、ドドギーラ王国の兵士だろう。


 これほどの大人数によって発動されるミラーゲートに、普段使用されない意味を理解させられる。

 圧倒的なまでのムーンフォース泥棒だ。


「では、皆さんもお気をつけて」


 発動してくれた兵士達に感謝し、先生と生徒達はミラーゲートを通っていった。

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