新たな目標
ミレシェルアのどこか安心したような、そして嬉しそうでもある呟きを聞き。
隣に座るアクゼマーサと、ルナフォンで通話している双子姫から話し掛けられる。
『ロンティナで夜慈郎と別れた後、ウチ達も少しだけ情報を集めたです』
『可能性があったからね。それぞれの国の神童が、怪しいと睨んでる。ミー達がそうだったし』
「なるほど、噂に聞く神童ですか。普通に電話で話し合っているものだから、あなた方がベルニカ王国の双子姫だと言う事を忘れてしまうところでした」
「ちなみに儂は、魔界の姫じゃぞ!」
噂の神童だとか、クロスディア大陸の国々が誇る姫だとか、なんかズルいのでミレシェルアも自身の存在を主張させる。
姿や性別が変わっても前世と変わらない友を見て、不意に笑い声が漏れてしまうアクゼマーサ。
「ごめんなさい、失礼しましたね。話を戻しましょう。わたくし達で4人、足りないのが3人。そしてアルタイル王国とベルニカ王国を抜いて、残り3国。それぞれに1人ずつの神童がいます」
クスクスと笑っていた事にハッと気がつき、すぐさま背筋を伸ばして誤魔化しだしたアクゼマーサ。
おい弦七、今、儂を笑ったじゃろ? と顔を見てくる白髪の少女を視界に入れない為、瞼を閉じて聴こえていない演技で話を続ける。
『そうです! ドドギーラ王国には王女ルルミルが居るです』
『うん。ユーラシンア王国には、イシュタリカ姫が』
「ええ、そして最後にクインレギアス王国。勝ち気で噂の姫君、キルティ」
今のミレシェルアを見れない双子姫は、真剣な声だ。
また隣のミレシェルアを眺めれば、思い出し笑いをしてしまいそうだったアクゼマーサは。危うい所を(助かりましたね)と、心の中で呟き2人に続く。
3人によって挙げられたのは、3人の姫君の名前。
ルルミル、イシュタリカ、キルティ。
アクゼマーサ、ティマシール、セシェリアの3人を除いた残りの神童。
「勝ち気で噂の姫って。……阿露覇じゃろうか?」
ジトーと、目を閉じ隙だらけな友を眺め、脇を摘まんでやろうかと思考するが。
そんな友から発せられた情報により、そちらに意識が傾いてしまう。
『そう、それです! ウチ達も情報を調べて思ったですよ!』
『夜慈郎も、その考えにたどり着いたんだ』
ミレシェルアの前世、夜慈郎の時に、モップの棒の部分を振るわれた記憶を思い出す。
あっ、今日見た夢を思いだしたぞ。と、どうでもいいことを今、思い出した。
「出来る事なら、わたくし自らで3人を確認したいのですが。一国の姫として、そこまで自由がありません。手紙などで確認する手段もありますけど、本人だと言う確証がなければ万が一、失礼になります。──逸瑠達は、どうやってお互いが転生者だと気がつけたのでしょう?」
ゆっくりと瞼を開き、ミレシェルアが覗いていない事を確認して安堵する。
ミレシェルアからは双子姫のおかげで、アクゼマーサが弦七の転生者である事を予想出来たと言っていた。
『最初はウチ達2人が近づく度に感じる、ビビビって来る感覚を怪しんで居たです』
『ミーが逸瑠を知ったのは、4年くらい前だったかな? ティマシールが窓から外を眺めて、皆の名を淋しそうに呟いていたのを聴いたんだ』
「ほぉー。あの、逸瑠がのぅ!」
「それは、興味深い話ですね」
『おい、三竹! それは皆に、内緒にする約束だったですよ!』
ルナフォンから、セシェリアの「痛い痛い」と言う声が届く。
今頃、顔を真っ赤にしたティマシールが、妹のホッペでも引っ張っているのだろうか。
「要は、ビビビ感覚に襲われたら可能性がある。そういう事じゃ」
「……確かに、わたくしも感じましたね」
真新しい記憶を思い出し、納得したように頷いているアクゼマーサ。
『酷いよ、逸瑠。……話を変えるんだけどさ。そちらの国は、ブラッドデーの対策は大丈夫? ミー達の国は守護オーブの他に、街の海に面する場所にバリケードを作るか、上層部が話し合っているんだけど』
「守護オーブ? なんじゃ? それは」
いたたた。と小声でルナフォン越しに状況を表現するセシェリアは、少し間を置いてから話題を変えて尋ねてきた。
──ブラッドデー。
ちょうど、アクゼマーサに教えられた話である。
そんな会話の中にあった、聞き慣れない単語に頭を傾げるミレシェルア。
「守護オーブとはクロスディア大陸の五大国に伝わる、国宝の事ですよ。それぞれの国に1つずつ保管された、強力なバリアーを張れるアイテムなのです。発動範囲によって発動時間が上下してしまい、1度発動させると1月の間は月光の補充で使用不可能になりますが」
「ほぅ。そのようなアイテムも有るのじゃな」
「ええ。アルタイル王国だと、四大貴族以上の権力を持った者達しか知り得ない国宝です。夜慈郎、これも周りに言ってはいけませんよ?」
『ウチ達の国も、王族かそれなりの権力を持った者以外には秘密です』
『他の国もそうだろうね。無くすのも、変な時に使う訳にもいかない国宝だから』
それほど、凄いアイテムなのだろう。
どれ程の規模になるのかは分からない、ブラッドデーによるスタンピード。
何倍にも強力になった月光により暴走するモンスター達は、厄介極まりない事だ。
『月が血のように染まる7日間』と言う事は、押し寄せてくるモンスターから7日間も戦い続けると言う事。
体力のないミレシェルアには、想像も出来ない。
「アルタイル王国は兵の育成くらいです。ブラッドデーの前に、モンスターの数を減らす考えも有りましたが。大陸の未知の領域、それは共にこちらの戦力も減らし兼ねないので却下されました」
「なるほどのぅ。ならば儂は、丁度良い時にカリア殿を鍛えている訳じゃな」
アクゼマーサが溜め息を吐き、何か他に対策は打てないものかと考えているようだ。
聞いたミレシェルアは、握ったルナフォンごと腕を組み脚も組む。
『ああ、あの少年ですね。ウチから見てヒョロヒョロの頼りない感じでしたが、成長したのです?』
『ごめん。ミーから見ても、彼が戦えるとは思えないよ』
握られた端末から、それぞれの意見が飛んでくる。
以前カリアと双子姫が会ったのは、冬の上月。
胸に月光の剣が刺さり、まともにムーンフォースも扱えない時期だ。
「そう、あなたが誰かを鍛えているのですか。カリア──どこかで知った名だと思えば、元四大貴族の少年ですね」
わたくしの幼い頃の事なので詳しくは知りませんが、偶々読んだ記録書に記入されておりましたよ。と続く。
そこまで知られているのなら、口には出さなくとも『落ちこぼれ』だと言う部分も知っていそうだ。
3人からの、カリアに対する評価は宜しくなかった。
「ふふん! あまいのぅ。儂は、カリア殿に可能性を視たぞ! それに少しずつじゃが、最近は筋肉も付きだしておる。ヒョロヒョロだったのも過去の事ぞ!」
ここまで毎日、よく食べて、よく動き、よく寝る。
ミレシェルアに言われた習慣を続けたおかげか、最近のカリアは少し逞しくなっていた。
細マッチョと表現をすれば良いのか。
自信も取り戻し、ムーンフォースの扱いも徐々に上手くなっている。
自慢でもしてやろうか。そう考えたが、窓から覗く外の世界が少し暗くなっている事に気がついた。
「楽しい時間はすぐに終わるのぅ。弦七、儂はそろそろ魔界に帰るとする。逸瑠も三竹も通話を切るぞ。またのぅ」
『了解です。たまには、そっちから電話しろですよ!』
『ルナフォンに慣れなよ? 夜慈郎。またね!』
2人の返事も聞き、通話を止めるミレシェルア。
「帰る前に、あなたに伝えておきます。
他の3人、多西、政悟、阿露覇の確認は、わたくしには無理そうです。夜慈郎、あなた確か、そのカリアと言う少年と使い魔の契約をしていると聞きましたよ。つまり王立ヴェルト学園を利用し、その少年を他の国に移動させられれば、あなたが確認する事も可能ですよね?」
「? うむ、儂も会える事なら会いたい。お主、何か考えが?」
「勿論です。ブラッドデーに備えて、五大国の姫が仲良くなれるのでしたら良い事ですし。3人と決まった訳ではありませんが、わたくしも裏で協力しますよ」
立ち上がったミレシェルアと、向かい合う様に立ち上がり。
幼い少女として、同じ身長の者同士が視線を合わせる。
おおよそ1年後のブラッドデーに備え、新たな目標が出来た。
──前世『オジーズ』の再結成。
「分かった、後はお主にまかせるのじゃ。儂はカリア殿を育てながら、探してみよう」
そう告げて、ミレシェルアは部屋から出ていく。
扉の向こうで警護していた近衛騎士副隊長サナレルに連れられ、少女は城の城門まで移動し魔界大陸へと帰還した。
(儂の特訓も、急がねばのぅ)
第四天の魔王城、更に自分の部屋に戻ったミレシェルアは、椅子に腰掛け思う。
自分の従者であるユーリエッタ、ククリアン、ハーベスのお土産を忘れたまま。




