国王との謁見
──時を遡ること10分。
作戦が順調に進んでいるかを確認する為、ミレシェルアはお菓子屋パティシエーゼの近くに赴いていた。
時折様子を伺えば、タルトだと話題性が薄かったのでは? と、不安も生まれる。
ミレシェルアが考えた作戦はシンプルだ。
王女アクゼマーサの気を引くモノを用意し、王都アルタイルの街中に誘い込む。
店の者に『よじろう』の名前を教え、それを王女に報告されれば完了。
後は王女が『オジーズ』の誰かなら、相手から行動を起こすのを待つだけ。
久しぶりにお菓子屋に入り、状況を聞こうと西の大通りを歩いていた。
「む? 騒がしいのぅ。成功か?」
普段通り、人が賑わう道であるのだが。
今回は、皆がお菓子屋の方を眺めてどよめいているように見える。
「なんじゃ? あれは、馬車だな」
ちらりと人々の隙間から覗けば、豪華な馬車がお菓子屋の前に駐車されていた。
「おっ? もしや」と、確認しに来たタイミングの良さに、心驚かせているミレシェルア。
キングバイフォンの手綱を握る女性が馬車の扉を開き、中から小さな女の子が降りてくる。
「……おお、アクゼマーサ様だ」
近くに立っていた者が、小さな声で呟いた。
それにより、その少女が噂に聞くアクゼマーサ姫だと知る。
距離が少し離れており、慌てて店から現れた女性との会話は聞き取れない。
少しして、アクゼマーサが驚愕した表情を浮かべ──走りだしてしまった。
(ほあっ!? どこにゆくのじゃ、あやつは!?)
急に遠退いていく相手を眺め。
ミレシェルアも動揺し、ムーンフォースを纏う事を忘れ後を追うように走りだす。
──しかし、30秒で撃沈。
距離にして、建物5つ分だろうか。
楽をする為、自らの足で動けるようになった頃から、ムーンフォースを使い楽をしてきたツケである。
前屈みになりヒューヒューとバテているところ、周りの人々に心配された。
「だ、大丈夫かい? 嬢ちゃん」
「ふぅ……。すまん、心配をかけた。ありがとのぅ、もう大丈夫じゃ」
呼吸を整えムーンフォースを放出し、屋根の上に跳躍する。
驚く周囲は気にせず、屋根を伝って眼下を眺めながらアルタイル王国の姫を探した。
──そして、現在に戻る。
「チャオ!」
アクゼマーサを発見したミレシェルアは、空けた足場に飛び降りる。
再度、姫を眺めた時に確信した。
(間違いない! 雰囲気からして、弦七じゃな!)
そして着地し距離が近づいた事で、懐かしさを感じさせる痺れた感覚に襲われる。
相手も感じたらしく、瞼を見開いてミレシェルアを眺め硬直し。
久しぶりに聞いた挨拶に、懐かしさを噛みしめていた。
「よ、夜慈郎?」
「そうじゃ。久しぶりじゃのぅ、げんし──いや、今はアクゼマーサ姫と呼んだほうがよいな」
周りには人が居る。
自分は問題ないが、目の前の友に対して、周囲から不信感を抱かせる訳にはいかない。
「お待ちください、姫様。先程飛び降りていた時のムーンフォースの使用と、その容姿。あなたが、ヴェルト学園から報告がきた魔族の少女ですね? 部下からの報告でも、問題ないと、笑いながら話していましたが」
(魔族? 確か、西大陸で暮らす者達でしたか)
サナレルが、白髪の少女に近づこうとしたアクゼマーサの前に立ち、近状を説明。
聞いたアクゼマーサは思考し、人と見た目の変わらない少女を眺めなおした。
「心配は不要でしょうね。サナレル、あの容姿で気づきませんか? 王立ヴェルト学園の報告のみならず、冬の上月、切り裂き犯の事件。それとロンティナからの報告もありますよ。あの者に害は無いでしょう」
「っ、しかし!」
「貴女の立場上どのような相手でも、警戒しなくてはならないのは分かっています。しかし、今回は必要ありません。それに切り裂き犯の報酬を受け渡す、よい機会ではありませんか。わたくしも、あの者と話をしてみたいのです。城へお誘いしますよ。──あなたもよろしいですね?」
どうすれば状況を纏められるのか、頭をフル回転させて考えるアクゼマーサ。
なんとしても、目の前の少女──夜慈郎の転生者らしき者と、落ちついて会話がしたかった。
王立ヴェルト学園からの報告は、姫の耳にも入っている。
未知の存在で警戒された魔族の少女の特徴は、意外にも他の事件で報告された容姿の特徴と同じことに気がつき。
そこを利用して、話を進めようと考えだす。
「儂は構わぬ。そちらに合わせよう」
「ええ、分かりました。サナレルもよろしいですね? 馬車に戻り、店の者にも先程の無礼を謝らなくてはいけません。よじ──あなたも一度、わたくしの父上に会って頂きます。サナレル、その後にこの者を、わたくしの部屋に連れてきてください」
「……了解しました」
サナレルからすれば、何故にそこまでするのか理解出来ない。
分かるのは、何時もの姫よりも若干だが表情が明るい気がする事だ。
魔族の少女が何かしたのでは? と怪しむが、何も可笑しな様子はなかった。
ざわざわと周囲の人々がざわめく中、3人はお菓子屋の場所に戻り。
馬車に揺られアルタイル城に入って行く。
「ほぅ、そなたが噂に聞く魔族の少女か。私の娘と同じ年頃なのも報告通りのようだ。安心せい、悪いようにはせんよ。私の娘アクゼマーサからも注意されておるからな、ハハハッ!」
アルタイル城の謁見の間に連れてこられ、ミレシェルアの目の前にはこの国の主君。
──ラーゼバルト・エルメス・フォン・アルタイル国王陛下の前に立っていた。
「お初にお目にかかるのぅ。ミレシェルア・クラシスじゃ」
膝を折り、スカートを摘まみ御辞儀をする。
慣れない所作ゆえにぎこちなさも有るが、威風堂々とした姿勢で乗りきるつもりだ。
「まだ幼いのに、しっかりしておるなぁ。ああ、楽にしてよいぞ」
現国王の歳は、まだ20代半ば。
見た目も若く、おじさんと言うよりは青年と表現した方が良いだろう。
しかし、彼の纏う雰囲気に頼りなさは感じられず。
一国の王として相応しい印象を与えた。
「突然、このような謁見に連れて来られ困っておるだろう。直ぐ済ませるからな。少し確認しておきたい事と、報酬を渡して終わらそう」
──それから、王との会話が少々続き。
王から軽い感じで尋ねられた事に答えていく。
立場を理解していた少女にとっては肩透かしであったが。
国王は、魔族である少女に、本当に警戒していない様子。
理由を聞けば「娘が笑顔であった」と、嬉しそうに答えてくれた。
「何があったのかは分からないが、久しぶりにアクゼマーサの嬉しそうな顔を見たぞ。あの娘は優しいから、不満を漏らす事をせん。しかしどこか、その瞳には退屈を潜めていたのだ。何か面白い事を与えられないかと、色んな事をさせてきた結果。要領もよく、世間からは神童とも呼ばれる迄になった」
しかし、その瞳が変わる事もなく。
きっと退屈な日々を過ごさせた、そんな毎日だったのだろう。
「娘と友達になってくれると嬉しい」
1人の父として、心配のようだ。
そんな国王を眺め、ミレシェルアも笑顔が溢れる。
「ふふふっ。あやつも儂も、よい親をもったな」
誰にも聴かれず、しみじみ思う。
だからこそ、胸をドンっと叩き答えようではないか。
「既に友達じゃ!」
前世も現世も、なんたる腐れ縁。
まあ悪くはない。
ミレシェルアの返事を聞き、国王は嬉しそうに頷いている。
「ありがとう。私もそなたを歓迎しよう」
その後、鎌男捕獲の報酬も頂き、国王との謁見も終わった。
王女専属の近衛女騎士サナレルに着いていき、ミレシェルアはアクゼマーサの部屋の前に到着。
「姫様。謁見が終わり、先程の者をお連れしました」
扉を軽く叩き、扉越しに話し掛けるサナレル。
少し間を置いて、中から王女の声が送られた。
「──分かりました。お入りください」




