これからもよろしく
暗き世界。
夜が訪れ活動を始める魔族。
魔界大陸ガルゾルートの、第四天の領地に建つ魔王城で。
第四天魔王ガルスが玉座に腰掛け、本を読んでいた。
「──久しぶりだな。フィンよ」
クロスディア大陸の内容が記入された本を閉じ、玉座の間の窓枠へ視線をおくる。
大の大人が立って通れる程の大きな窓が開いており、1人の者が窓枠に背中を預け腕を組みながら立っていた。
「本なんか読んじゃって。アンタには似合わないじゃないか、ガルス。明日は血でも降るのかねぇ」
スッと窓枠から降りた者は、背中に生やしたコウモリの翼をひろげ窓を閉じ。
赤色の髪を後頭部で結びポニーテールにさせた女性は、ゆっくりとガルスへ近づく。
身長はさほど大きくはないが、彼女の纏う雰囲気は大人びて落ち着いていた。
「それもクロスディア大陸の本を、ね。懐かしいじゃあないか。何かあったのかい?」
その紅き瞳で、ガルスの手に持つ本を眺め。
襟の張った赤黒いドレスに身を包む彼女は、腰に手を当てクスクスと笑う。
「我の娘がな、最近よく遊びに行っておるのだ」
「ミレシェルア姫が? へぇ、よくアンタが許したねぇ」
この女性は、ガルスが娘に対して過保護なのを知っている。
彼女の名前は──フィンドレア。
第四天魔王から親しくフィンと呼ばれる彼女も、魔王だ。
第一天魔王、不死者を統べるヴァンパイア。
「我としては、行かせたくもない。──フィンよ。此所に来るまでの、モンスターの状況はどうであった?」
肘を掛け、頬を手の甲に乗せたガルスは不満そうである。
やっぱりかい。と苦笑を浮かべたフィンドレアは、真剣な表情に変わり告げた。
「アンタが想像している通りさね。明らかに数が増えている。まあ私達魔王に牙を折られた、根性のない雑魚共さ。気にするレベルではないのは確かだよ」
「……。」
魔族の王は、6人存在する。
第一天から第六天の魔王達は、その強大な力を駆使して魔界大陸に生息しているモンスター達を威圧していた。
本来、知性を持たない大半のモンスターは本能に従って暴れるのみ。
そんなモンスター達すら、恐怖によって大人しくしてしまう。
魔王達が外を歩けば、知性のないモンスターでも本能に従って服従の姿勢を示すしかない。
「それは、フィン。貴様が外を移動している間だけだ。魔王が大人しくしている間は、奴等も暴れだす。だからこそクロスディア大陸は、こちら以上にモンスターが暴れていることだろうな」
「だろうねぇ。なにせ、日に日に──"ブラッドデー"が近づいてるんだからさ」
ここで会話も終わり、ガルスに背中を向けて歩き出すフィンドレア。
「レイナの所に遊んでくるさね」と言葉を残し、玉座の間を出ていく。
第一天の魔王が此所に来た理由も、ミレシェルアの母レイナと喋る為だった。
「……我も、ミレシェルアの様子を見にいくか」
玉座から立ち上がり、ガルスは歩む。
最近のミレシェルアは訓練場で何かを練習していた。
器用に何でもこなす娘が、珍しく苦戦しながら。
「うぬぅ。難しいのぅ」
両手にムーンフォースを集めてはバチバチと放電させるようにして、金色銀色の輝きが空気中に消滅してしまう。
つまりは失敗であった。
「いったい、何をしているので? ミレシェルア様」
魔王の娘に従う大人の女性が3名。
メイド服を着た彼女達は、自分達の主であるミレシェルアを眺め、困惑している。
「ふっふっふっ! 内緒じゃ!」
「またですかー? 私達にくらい、教えてくださっても良いではありませんかー!」
肌はミレシェルアに近い肌色で、頭に角を生やした綺麗な者達。
「教えてくだされば、私達が手伝える事もありましょう」
「駄目じゃ。それでは完成した時に、皆を驚かせぬじゃろう! それに書庫を調べた結果、記録が無かったしのぅ。知っている者が居ないとみた! なぁに、儂の眼で見ておる。完成は時間の問題じゃのう」
そうして、ミレシェルアは手の平でムーンフォースを放出し。
左右の手を向かい合わせ、それぞれ放出させた輝きをぶつけ合わせた。
結果は先程と同じく、霧散して消えてしまう。
失敗を繰り返す少女を眺め、従う彼女達。
ユーリエッタ、ククリアン、ハーベスの3名は心配そうに見守る。
「──やはり、此所だったか」
「っ!? 魔王様!」
そんな時、訓練場にガルスが現れた。
「珍しく苦戦しておるな、ミレシェルアよ」
「まあのぅ。パパ殿にも内緒じゃぞ?」
父ガルスが現れても、手もとを眺め集中し続けるミレシェルア。
本当に珍しい。この場に居る少女以外の者が、そう思った。
何時ものミレシェルアなら、大抵の事は瞬時に覚え特訓を終わらせる。
魔族でも、ムーンフォースを扱えるようになるのは産まれて10年近くが経つ頃。
彼等、彼女等から見ても、ミレシェルアは天才の領域だ。
実際には精神がお爺ちゃんであり、心が出来上がっていたので、産まれた時から微力ながらにムーンフォースを操れた。
最初はナイトまでは無理であったが、ムーンフォースの扱いに慣れ数年前に習得もしている。
魔王であるガルスも、そんな娘を誇りにおもい。
従う彼女達も、自分達が一生を尽くすに相応しい存在だと、心の底から忠誠を捧げていた。
「むっ? カリア殿が呼んでおる」
「ミレシェルア様ー! またクロスディア大陸に向かわれるのですか!? 私達は淋しいですよー!」
「ククリアンの仰る通り。最近なにかと、あちらの大陸に向かわれますが。お気に召したので?」
「こら! ククリアン! ミレシェルア様から離れなさい! ……くっ、羨ましい」
首飾りを掴み呟くミレシェルアに、涙を流し抱き着くククリアン。
ユーリエッタは頷きながらも、情けない同僚の言葉を肯定し。
ハーベスは、心酔する主に抱き着くククリアンを引き剥がす。
「ミレシェルアよ。向こうで楽しんでおるか?」
そんな中、静かに娘を眺め、聞きだすガルス。
「うむ。新しい事もいっぱいでのぅ。向こうの者も優しいし、世話にもなった。本当なら皆で遊びに行きたいぐらいじゃ」
笑顔で振り返り、答えるミレシェルア。
「そうか。──ならいつか、娘が世話になった"お礼"もしないとな」
魔界大陸ガルゾルートとクロスディア大陸は、関わりを持たなくなって長い。
種族は違くとも、どちらの大陸で暮らそうと人である事に違いはなく。
お互いに知らぬ仲のまま時が過ぎ、それで納得もしている。
無理に関わりを持とうと考えもしたが、失敗を恐れた結果だ。
魔族は、仲間想いの種族。
見た目がいろいろ違う種族で多く棲息するが。
1人は皆の為に、皆は1人の為に協力的である。
つまりは、仲間が傷つくのを嫌う。
「ミレシェルアが楽しめておるなら、それでよい。──行ってこい」
「パパ殿も、休憩を大切にのぅ! 行ってくるのじゃ!」
首飾りを握った少女の姿が消えていく。
皆の前に、丸い鏡のような影のみが残った。
クロスディア大陸に召喚されたミレシェルアの前に、何か物を持つカリアが立つ。
進級試験から数日後。
今日は、その結果が発表される日だと聞いている。
「俺、合格したよ! ミレシェルア!」
周りに人の居ない、何時もの林の中。
カリアは開口一番に、嬉しそうな表情を浮かべた。
「よかったではないか、カリア殿。まあ、儂が師になったのじゃ! 当然と言えば、当然の結果じゃのぅ! しかし、それでも、よくぞ頑張った!」
両手を腰に当て、少し海老反りながらも誇らしげにする。
そんな少女を眺め、カリアは手に持つ物を差し出した。
「はい、これ。俺だけが貰ってばかりだったから、ミレシェルアにもお礼を渡そうと考えていたんだ。元々は君が稼いだお金で申し訳ないけど、感謝の気持ちだ。受け取ってほしい、本当にありがとう」
すこし照れるようにして、少年は小さな箱を渡す。
「これは──ルナフォンか!」
頑丈な白い紙の箱に描かれたモノを眺め、中身を理解。
いつか買おうと考えるだけで、購入していなかった。
こちらの世界の携帯電話、ルナフォン。
前世の友である転生者から頂いた、電話番号のメモもある。
2人には、長いこと待たせた。
嬉しそうに箱を持つ少女の反応に胸を撫で下ろし、カリアは話し掛ける。
「これからもよろしく。ミレシェルア」
これにて、第1章は終わります。
なんか淡々と進む感じになってしまいました。
小説を書くのは難しいですね。
感想、ブクマ、評価ポイントもありがとうございます。




