進級試験
カリアが王立ヴェルト学園で2年生に上がる為の進級試験が始まった。
模擬試合がおこなわれた闘技部屋に1年生の全員が集められ、広き観戦席を生徒達がまばらに座り、舞台上に立つ男性教師の話が終わる。
試験内容は以前告げられた説明と同じ。
1分間、鉄の硬度をもつ土のブロックを自由に攻撃し、その破壊された結果で点数を付ける。との事。
それからは、順番に名前を呼ばれていき。
時間は掛かるものの、1名ずつ舞台上で試験をこなしていく。
完全に破壊は出来ないが、皆がムーンフォースや武器を使って四角い土の塊をボロボロに削っていた。
「次、マカハーン・ウエスト・アンジェリーナ!」
1人目の教師が名簿を確認して生徒の名前を呼び、2人目の教師が錬成の月光陣を使用して崩れた土のブロックを修正。
残った3人目の教師が試験の点数を記録。
錬成の月光陣でムーンフォースは消費するから、交代制だろう。
名前を呼ばれた少女はウェーブ状の長い金髪を靡かせ、四大貴族としての美しい立ち振る舞いで観戦席の階段を降りていく。
100人近い、多くの視線を浴びる中。緊張している気配もなく、マカハーンは舞台上にたどり着いた。
採点する女性教師の「始め!」と言う合図と共に、少女は手を翳して雷撃を放つ。
『エレキネシス』を発動させ、マカハーンの手の平から発射させた一撃は。
耳を刺激するような轟音と、視界を閉じたくなる程の眩き閃光を発して、土のブロックを襲う。
しかし、その豪快すぎる稲妻がブロックを破裂させる事もない。
音と閃光が止み。
四角く形作っていた土が静かに崩壊し、土の山となってしまった。
「──こんなところかしら」
1分の制限時間どころか、5秒も経過していない。
優雅に立ち尽くすマカハーンは、余裕をもって試験を終わらせる。
ブロックを完璧に壊せたのは、今までの生徒達の中だと彼女が初めてだ。
人気あるマカハーンの終了により、周りの生徒達が歓声をあげた。
そのあとも、次から次へと生徒達の試験は続いていく。
「嘘、だろ……」
1人の生徒が、呟いた。
他の皆は、先生達も含めて言葉を失っている。
「僕の制限時間も終わりでいいよ」
舞台上に立つ長い黒髪が特徴の少女、アシュレイが話す。
彼女の目の前には、四等分に切断された土のブロックが転がっていた。
「……まさか、手刀で斬るなんて」
軽くドン引きしている、採点役の女性教師。
それもそのはず。
アシュレイは腰にぶら下げた長刀を使わずムーンフォースを右腕に集め、指先でブレード状にして十字を切ったのみ。
ナイトを発動させたマカハーン以外は、ムーンフォースを使って小さなクレーターや切り傷を何度も生み出し、土のブロックを3分の1近くを崩すのがやっと。
ナイトを発動出来ず、ムーンフォースを扱う生徒達と同条件で、アシュレイは土の塊を容易く斬ってしまった。
いや、他の生徒達は自分の武器も使っている。
手刀でここまでするのは、この中でアシュレイのみ。
黒髪を揺らし振り替えった少女は、涼しげな顔で舞台上から降りていく。
「まあ私は、こんなものだろう」
──更に時は進み。
ブロックを半分以上崩した男、ハルシオンが剣を鞘に戻した。
普段カリアに嫌みの言葉を贈る金髪の彼は、まあまあ良い結果に満足し、皆と同じく観戦席の帰路を歩きだす。
マカハーンやアシュレイに比べると、大した結果には見えないが。
化け物の2人と比べる事が間違っている。
「次、カリア・トゥースタン!」
つまりは、私が実質的の1位! そう思考で、気持ちを昂らせる貴族である彼の耳に──名前が響いた。
咄嗟に、足が止まる。
階段を上がるハルシオンの前方から、階段を降りてくる銀髪の少年が近付く。
「おやおや、落ちこぼれ君じゃないか。よく進級試験の今日、休まずに来れたものだ」
目の前まで来たカリアを見上げ、ハルシオンは開口一番に発した。
周りの皆は何時もの展開に呆れてはいるものの、ハルシオンと同じ考えだ。
皆の前で無様な姿を晒すだけなのに、逃げず、よく登校できたと。
落ちこぼれと見下してはいるが、そこだけは称賛できる。
「そうだな。君が土下座をしてでも私に頼んでくるのなら、退学処分後に私の家の使用人として雇ってあげても構わない」
ハルシオンの家は、王都アルタイルの北地区に暮らす侯爵家。
四大貴族や公爵家には負けるが、彼の家も高い権力を持つ。
大きな屋敷は、さぞや掃除が大変だろう。
使用人の数は足りているが、カリアを雇っても構わない。
勿論、これは優しさではない。嫌みである。
目の前の銀髪の少年は、どんな表情をしている事か。
「──ありがとう、ハルシオン。その時が来たら、宜しく頼む」
暗い表情なんてない、明るい表情。
自信を持った、最近の彼が見せる事のなかった顔。
「っ!?」
ハルシオンはそんなカリアを見て、反射的に1歩後ずさる。
カリアはそんな彼を気にする事はなく、横を素通り、階段を降りていく。
周りで窺っていた生徒達も、呆然と魅入ってしまった。
──まるで、昔のカリアみたいね。
マカハーンも、その1人。
ハルシオンを止めようと考えていたが、杞憂であったらしい。
舞台上にたどり着いたカリアを目で追い、マカハーンは幼少の頃のカリアを思い出す。
四大貴族、ノース・セイントリア家で暮らしていた時の自信を持った少年を。
──いったい、何がありましたの?
3連休より前のカリアとは、まるで違う。
正確には、先程も思った通り。過去のカリアに戻った感じだ。
僅かしか見ていないけど、それはマカハーンだけでなく、ハルシオンの反応からして間違いはない。
「遅れてすみません。始めて大丈夫です」
舞台上で学園ローブを脱ぎ、足場に置くカリア。
マカハーンから貰った鞘に納まる月光の剣を握り、静かに抜き出した。
「……。」
まるで鏡のような刀身を持つ美しい両刃の剣に、周囲の者が言葉を失う。
カリアが学園の皆の前でこの剣を抜くのは、今回が始めてであった。
マカハーンやアシュレイの2人を除いた皆が、心を鷲掴みにされたかもしれない。
「……先生?」
「──っ!? こほんっ、失敬しました。それでは、始めてください」
そうして、1分間。カリアの試験が始まる。
土のブロックの前に立つ少年は、落ち着いて深呼吸し。
身体の力も抜いていき、そして、心を奮い立たせた。
「なんで、アイツが……!?」
ハルシオンの驚愕した声が響く。
周りの皆には、ムーンフォースを放出させるカリアの姿が映る。
まだ他の生徒達には及ばない。けれど、何時もの彼からは想像出来ない程の量。
先生や生徒達が知っているカリアは、彼の身体の表面に薄い膜を張る程度の微力なムーンフォースを放出させるのが限界だった。
今のカリアは、まるで焚き火の炎。
全身が炎に包まれているように、金色銀色とした輝きを纏う。
──これだけではダメだ。
銀髪の少年はそう思い、ミレシェルアに習った応用に取り掛かる。
少し前にアシュレイも使っていた、身体の一部にムーンフォースを集める技。
放出の量で皆に劣っているなら。せめて、その全てを一点に集め、一撃を放つ。
──自信を持つのじゃぞ。カリア殿。
3連休の間、何度もミレシェルアに忠告された。
──うん、もう大丈夫だよ。俺は、前に進むッ!!
自信の大切さは伝わった。今度こそ、無くしはしない。
ムーンフォースが腕に集中していく。
腕に纏い、両手に握る剣にも伝わっていった。
そのまま冷静に、上段の構えをとる。
「──うおおおおおっ!!!!」
気合いの籠った咆哮と共に。
力を限界まで込められたカリアの一撃が、降り下ろされた。




