ムーンフォース
「……おお、雪じゃな」
冬の中月なだけあり、王都アルタイルに微かだが雪が降る。
街中のオレンジ色が彩る屋根も所々が白く染まり、普段とは違う景色を覗かせた。
何時もなら人々で溢れる大通りの道も、寒さからか人通りが少ない。
進級試験前の三連休。
鉄に近い硬度を持つと説明された、土ブロックの対策を考える。
今のままでは絶対に無理だとカリアは結論を出し、苦い表情を浮かべて必死だ。
「ミレシェルアなら、鉄を殴って壊せるの?」
長袖長ズボンを履くカリアは、若干寒そうに二の腕辺りを擦る。
行き慣れた特訓の場所である林を目指す少年は、隣を歩くミレシェルアに質問。
「例え粉砕出来たとしても、儂の腕も壊れてしまうのぅ。儂なら光弾を飛ばすか、キリトリで斬って分解させるじゃろうな」
錬成の月光陣を使用して形を作り硬化しているのなら、月光を斬る双剣で刻んでしまえば柔らかい土に戻せるだろう。
ミレシェルアの作る光弾も、ムーンフォースを凝縮し放てば威力が凄まじくなるのだ。
──このまま林で特訓をする前に、他の事をさせるかのぅ。
どうやらカリアは、進級試験が心配で仕方ない様子。
それは行動にも現れ、二の腕を擦るのも寒さだけでなく、不安が含まれていた。
「カリア殿。林に向かうのはやめようぞ」
「えっ、どうかしたの? ミレシェルア」
歩みを止め、何か考え事をしている姿勢の少女。
カリアとしても、3日の特訓でどうにか出来るとは思っていない。
何か手はないか。そう考えはするけど、答えはないまま。
ミレシェルアに考えが有るのなら、責任を上乗せする様で申し訳ないけど、その案を頼りにしたかった。
「カリア殿は確か、ギルドに登録しておったな。ホワイトランクじゃったか? 普段しておるような依頼を請けるのじゃ」
「……。」
理由を教えられないまま、2人は王都アルタイルに建てられた数ヶ所あるギルドの1つへ向かい、中へと入っていく。
森に囲まれた町、ロンティナのギルドと同じような内装。
たまに違った内装のギルドも存在するが、基本は皆が迷わないように似た内装で造られていると聞く。
違いがあるとすれば、こちらの受付場所には3人の受付嬢が居る事と、依頼掲示板がロンティナのギルドよりも面積を取っていた。
「久しぶりに此所へ来たけど。……前に比べて、依頼の数が増えているような」
掲示板の前に着き、眺める少年は呟く。
彼が受注できる依頼は、ホワイトランク以上と記入された物のみ。
基本は街中でおこなう、お手伝いみたいな依頼内容だ。
しかし、掲示板に貼られた依頼の殆どが、ブロンズランク以上の物。
モンスターの討伐や護衛依頼、植物等の採取と。
危険度の低いモンスターの討伐で、7割りがたが埋まっている。
「ほう。ロンティナ襲来といい、帰り道の大群の件と言い。何か問題が起きておるのではないのか?」
「わからない。けど、可能性はあるね」
2人で掲示板を眺める最中。
やはり此所でも、ミレシェルアは目立つ。
人は少なめだが冒険者の者がぼちぼち眺めていた。
「げっ。──また、逃げられたのか」
周りは気にせず確認していたところ、突然カリアが声を漏らす。
なんじゃ?と思いそちらを伺えば、一枚の依頼用紙を凝視している。
「ふむふむ。ライトキャットの捜索と捕獲の依頼とな。なるほど、ペットかのぅ」
それは、小さく弱い猫型のモンスター。
夜に暴走はするし、進化する可能性もある。
王都内の街中でもたまに見掛けるモンスターで、暴走しても被害が少ない事から、ペットとして人気が凄まじい。
どうやらカリアは、ミレシェルアを召喚する前にも同じ依頼をしたと語る。
依頼の人物も同じで、捕獲する標的も時期からして同じ個体。
あの時は一匹のライトキャットを、数日掛けて色んな人々に聴き込みをして見つけだし。半日ほど追い掛けて捕まえたと、嫌そうな顔をしていた。
「よし! ではこの依頼を、受けようではないか!」
「……ねぇ、今の話聞いてたよね?」
明るい表情で決定する少女に、カリアは絶望するしかない。
白い体毛に黒ぶち柄のライトキャットを捕獲する依頼。
「雪で滑らぬように気をつけるのじゃぞ? 発見までは儂も手伝ってやるから安心せい」
嫌々ながらも、依頼用紙を受付に持っていき。
カリアは依頼を受注するのだった。
「おったぞ! あやつじゃ!」
ふたてに別れては使い魔召喚の月光陣を利用し、念話を用いて効率よく捜索。
依頼主の話や街の人々の情報から、広い王都の北地区に居る事を予想し。
2人は続けて探していると、ミレシェルアが帰還する夕方前には発見する事に成功。
いろんな柄の毛並みが存在する中、写真と同じライトキャットと路地裏で遭遇。
ミレシェルアが発見したので念話を送り、カリアを呼んで今の状況となる。
「頑張れ! カリア殿ぉ!」
「うおおおおおおお!」
捜索して時間も経ち、路地裏に置かれたゴミ箱や荷物にも雪が被っていた。
足場も同じで白く滑りやすい道を、カリアは覚悟を決めて駆ける。
目の前のライトキャットを見ていると、カリアは半年前を思い出した。
夏の上月に以前の依頼を受け、地獄を味わった事。
──忘れはしない。あの時の苦労を、忘れはしない。
猫型のモンスターなだけあり、素早い身の動きは捕らえるのも一苦労。
カリアがどれほど腕を広げ飛び込もうと、相手はそれを潜り抜けてしまうのだ。
速さに負けると言う事は、苦戦を強いられる。
無意識の内に銀髪の少年の身体を、金色銀色の輝きが僅かに纏い始めた。
決着は、まさかの一瞬。
過去にあれだけ苦労させられた相手を、すんなり捕まえてしまう。
「──あれ?」
その事実に、腕の中にライトキャットを抱えこむカリアが一番困惑してしまった。
背中側から乾いた音が鳴り響く。
見守っていたミレシェルアが、その小さな手を叩いている。
「理解出来たかのぅ、カリア殿。それが今の、お主の実力じゃ」
優しく叩かれた手を止め、少女は優しく微笑んだ。
「お主は間違いなく、成長しておる。自信を持て、強くなりたいのならば尚更のぅ。ムーンフォースは心に宿る力。それはつまり、自信をつければつける程、その力を上手くコントロール出来るのじゃ」
経験を重ね、実績を重ね、そうやって自信をつけていく。
こうして身についた自信は心にゆとりを持たせ、ムーンフォースの操作を楽にする。
「……俺が、成長している」
言葉で言っても彼は信じなかっただろう。
お世辞だと受けとめ、慰めの言葉として終わらせていたに違いない。
だからこそ、黙って普段している難易度の依頼を受けさせた。
狙いも上手くいった。
「……。」
カリアは静かに、己の変化を噛み締める。
胸の剣が抜け、ムーンフォースの放出が楽になっても。
あの日からミレシェルアと密かに特訓をしていても。
その変化を、体感出来るチャンスが訪れなかった。
昨日の模擬試合がその時だとワクワクもしたが、相手が学園最強だったので無理。
寧ろ過去に体験した苦労を知っていたからこそ、過去と現在を比べやすかった。
カリアが自信を持ち始めるのに、充分なほど。
「さて、残り2日間。明日から儂が、全力を持って叩き込んでやろうぞ。昨日アシュレイ殿と闘った時にも使った技を、じゃ」
「っ!! よろしくお願いします!」
「うむ! 今日は依頼達成を報告したあと、よく食べて休むとよい」
告げて、ミレシェルアは魔界に帰還していった。
翌日から2日間、何時もの林で特訓を始め、ムーンフォースを操作させる。
そして、時は経ち──進級試験の日が訪れた。




