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なのじゃ!!  作者: デト
第1章
23/53

vsアシュレイ

 ミレシェルアの台詞が耳に届き、周りの皆は驚いた。

 遥か遠い昔、海を挟んだ西大陸と東大陸は争っていた過去がある。


 白髪の少女もこの程度の常識は知っているけど。

 だからと言って、身分を隠し続けるのもつまらなく、性に合わない。

 何度も自分を"魔王の娘"だとドヤ顔をするのも、くだらない自慢をしている様で飽きもくるが。自己紹介には効果的。


「ゆくぞ! アシュレイ殿!」


 両手に双剣を握り、動揺が起きている空間を走り出す。


「ただの魔族(マダラ族)ではないと思っていたけど。そうか、つまり君はお姫様と言う事だ」


 自分に向かって駆けてくる、小さな少女を瞳に映し。

 アシュレイは腕輪の鏡を輝かせ、『シャドウダイブ』を発動。


 影と同化し、影を自在に操るその能力は。

 彼女の足下の影を揺らめかせながら範囲を拡大させ、地面から大気中へと姿を現し、複数の太い触手となってミレシェルアに襲いかかった。


 直線的に迫る数多な影を、少女はムーンフォースを纏った身体を一瞬屈ませ、直ぐさま真横へと跳躍しかわす。


 手元の影を一本使い、腰に携えた長刀を鞘から抜き始めたアシュレイを眺め。

 ミレシェルアは刀身に金色銀色の輝きを集め、斬撃をお見舞いする。


「流石だね、ミレアちゃん。中々の反応だ。大抵の者なら今ので終わっていたよ」


 影の触手を器用に操作し、抜いた長刀を右手で掴み。飛ばされてきた斬撃を、自身の身長と同じくらいの刀で切り伏せるアシュレイ。

 若干華奢ではあるものの、大人な女性の平均身長、またはそれより高い身長の彼女は美しく。その一振りの動作すら周囲の者を釘付けにさせる程だ。


 ミレシェルアと同じくムーンフォースを纏い、黒髪の彼女は高速な移動で少女に接近。


「ぬおっ!?」


 小さな身体を両断させるようなアシュレイの一閃を、彼女の頭上を飛び越えて回避する。

 避けたタイミングで影を伸ばされたので、空中にいる少女は前方に氷の壁を作り、影を真っ正面から受け止めた。


 ビキビキとひび割れを起こし、時間差で氷を貫通した漆黒の触手を、舞台上に着地したミレシェルアは双剣を素早く振るって向かえ撃つ。


 ザシュザシュと、何度も細かく影を斬り。

 前方で上段の構えをとるアシュレイを確認し、足に力を込めクロスにさせた片刃の双剣を力強く放った。


 影の触手が勢いよく崩れ始めたのと同時に、黒髪の彼女は振り降ろす。


 膨大な量のムーンフォースが込められた一撃を飛ばされ──ミレシェルアを襲う。


 どちらもが、攻撃を放った後の動作。

 この試合をいつの間にか口を閉じ魅入っていた周りの皆は、これで勝負が決まったと、そう思ったにちがいない。


「……。」


 けれど、少女の身体は横に浮かんで移動していく。

 フヨフヨと体勢を変えず、『ダウンロード』の重力増幅を使って。


 空中で一回転し姿勢を整え、そのまま空を飛んでアシュレイへと突っ込んだ。


 ──儂の重力対策は万全か。


 本当ならアシュレイも空中に浮かせ、隙を生んだ所を攻めるつもりだった。

 重力を使用している所は何度も見せている。

 彼女の脚に『シャドウダイブ』の影を細長いリボンの様に包ませ、固定しているのが視界に映った。


 このまま攻めても無駄だと悟り。

 白髪を靡かせる少女は、自分の周囲を冷気で冷やす。


「……本当に器用だ」


 ミレシェルアの周囲には、氷で作られた少女の形をした人形が10体。


「ミレシェルア軍団よ、ゆけ!」


 本体のみはその場で停止し空中で止まると、氷の人形のみが一斉に飛び掛かって来た。

 それぞれの両手に氷の双剣を握り近付いてくる。

 アシュレイは楽しそうに口許を緩めさせ、剣を横凪ぎ。


 一瞬して地面から影が溢れだし、横に広がる黒い津波となってミレシェルア軍団を飲み込んだ。


「ぬわあああ! 儂のミレシェルア軍団が!」


 実は、あの人形を作るのはとても大変だったりする。

 ミレシェルアのナイトは、氷を操る能力ではないから。

 月光(ルナ)を凍結、解凍させ重力も器用に使い、まるで意思を持ち動いているように想わせるだけ。


 ──ぐぬぬぬ! 隙がないのぅ。


 後方に移動して、影の津波から逃げるミレシェルア。

 隙をつくろうにも、隙をつくらせてもらえない。


 ムーンフォースの操作なら負けていないだろう。

 少女と彼女の差は、実践経験の差。

 過保護に育てられた、甘々の魔王の娘では埋まらない。


「どうしたの、ミレアちゃん。来ないならこちらから行くよ?」


 ニコニコと楽しそうに、ミレシェルアを観察していた。

 次はどう行動してくるのかと。しかも、余裕が窺える。


「──これでどうじゃ!」


 周囲に幾つもの氷の塊を生成し、アシュレイに放つ。

 1つ1つが少女よりも大きな氷は、勢いを加速させて飛んでいく。


 アシュレイは身を低くさせたかと思えば、駆け出した。

 自分に迫る氷なぞ気にもせず、悠然と進む。


 直撃しそうになる氷を最低限の動きでかわしながら、黒髪を揺らしてミレシェルアに近付いてくる。


 横にかわし、飛び越え、長刀で切り裂いては進撃し続け──


「ふっ!」


 ──少女へと肉薄し、刀を振るった。


 白髪の少女は直ぐさま身をよじり避けるも。刃が頬を掠め、傷を生んだ。

 本来なら血が滴るところだが、身代わりの月光陣による心の身体なので、傷口からムーンフォースが溢れだす。

 少し痺れる感覚もあるが、痛みはない。


 アシュレイも一撃だけで終わらせる気はなく。

 次の攻撃に移ろうと、刃の向きを変えて追撃。


「浮かせるのが無理なら。下じゃ!」


 このままでは危ないと、剣を握る両手を相手に翳す。


「──うっ!?」


 突如身体の重みが増し、地に片膝をつけるアシュレイ。

 そこじゃ!と隙を生んだ相手に、両手の剣で狙う。


 双剣を平行に並べ、斜めに振り降ろされた一撃は──空を斬った。


 驚愕したミレシェルアは、後方を眺める。

 先まで目の前にいたアシュレイは、少し離れた場所で立っていた。


「……影を伝って移動したのじゃな」

「あったりぃ。僕が消えたのは一瞬だったと思うけど、よく分かったね!」


 パチパチと刀を掴む手を叩き、黒髪の彼女は白髪の少女を褒める。

 疲れひとつ見せないアシュレイと違い、ミレシェルアは呼吸を乱し始めた。


「はぁ。……せめて、一撃は入れたいのじゃが」


 小声で呟き、考えだす。

 どうすれば、目の前の相手に攻撃を当てられるのか。

 今も真剣に観察しているカリアを、視界の端に捉える。

 彼の見本となるように、持てる力は使った。


 最近は魔界で"新たに練習している"事も有るけど、全く成果はない。


 体力もないので、全力で戦えるのも残り僅か。

 決めるなら、次の一撃だろう。


 ──こうなれば、ガチンコ勝負しかないのぅ。


 アシュレイに、小手先は通用しない。

 

「次が、最後じゃ!」


 双剣を構えだし、ムーンフォースを脚と腕に集めた。

 身代わりの月光陣が発動している今、身の守りを上げる必要はない。


 全てを攻撃に、素早さに。


 駆け出しながら、光弾も連射。

 1つ1つが拳サイズの、小さなムーンフォースの弾。


 アシュレイには当てず、全てを彼女の周囲に留めさせる。


 ──僕を囲んで一斉砲撃か?


 しかし、策をそのまま無視する相手ではなかった。

 影を伸ばし、光弾全てを貫いていく。


「んっ? 煙幕か!」


 弾が貫かれると同時に小さな爆発を起こし、爆発は他の光弾を巻き込んで新たな爆発を発生。

 繰り返す事で生まれた砂埃も舞い、アシュレイの視界が悪くなる。


「──っ!」


 視界の端で砂埃の揺れを捉え、飛ばされてきた氷塊を寸での所で回避した。


「アシュレイ殿ぉぉお!!」


 少しだけ体勢を崩したアシュレイの真後ろから、静かだったミレシェルアが、いきなり声をあげて襲い掛かる。

 双剣の一本のみを両手で握り、上空から飛び降りてきた少女は力一杯振り降ろした。


 声が聞こえたアシュレイは、余裕をもってその一撃を受け止めようと、両手で握る長刀を横に構えだす。













「──えっ?」


 刃と刃が触れ合う瞬間。

 その衝突で生まれる衝撃が、アシュレイの腕に伝わる事はない。


 まるで幻覚のように、ミレシェルアの握る剣がアシュレイの刃を通り抜けた。

 いや、そう想わせる程気持ちよく、長刀の刃が切断された。


 そのまま少女の刃は、心で作られたアシュレイの左腕を斬る。


 月光(ルナ)に対して特化したミレシェルアの『ダウンロード』の一部、双剣『キリトリ』は。

 現在、身代わりの月光陣によって"武器もろともムーンフォースで形作るソレ"を、容易く切り裂いたのだ。







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