模擬試合
「勝者! マカハーン・ウエスト・アンジェリーナ!」
見下ろす造りの観客席に座る生徒達に囲まれた、円を描いた舞台上。
闘っていた2人の生徒達に決着がついた。
カリアが眠りから目覚めて半月近くが経ち、冬の中月半ば近くが過ぎた頃。
王立ヴェルト学園に通う少年は、長い眠りについた事で鈍った身体のリハビリも終わり、学園に来ている。
目覚めた翌日から普段暮らす宿屋に戻り。
カリアはこれまで、よく食べ、よく動き、よく寝る習慣を繰り返した。
そのお蔭もあり、ムーンフォースの解放も合わさって、前よりも身体の調子が良くなったと少年は喜んでいる。
ミレシェルアに特訓を観てもらい、未熟者ながらに成長した彼は──
「今なら少しだけ、闘いでも粘れそうだ」
──と、自信も付け始めた。
現在は、学園の1年生がクラス合同で模擬試合をおこなっている。
勝つことはまだ無理でも、自分がどこまで食らい付けるようになったのか楽しみで仕方ない。
自分の番はまだかと、カリアの武者震いは止まらず。
マカハーンに貰った鞘に納まる月光の剣を握りしめ、舞台上を眺め続けた。
「次の対戦相手を発表する! カリア・トゥースタン!」
そうして、少年の名前が呼ばれ始める。
ドクンッと、自分の心臓が脈打ったのを感じ、カリアはイケメンな顔を自信一色に染めて観客席の階段を降りだした。
──ついに来た!
足取りも軽い。
今日までマカハーンも含め、カリアはムーンフォースが扱えるようになった事を皆に隠していた。
ミレシェルア以外は、知らない。カリアにも欲はある。
皆を驚かせてみたいと。小さな欲を満たす為に。
──相手は誰だろう。
『落ちこぼれ』の自分に粘られて、驚く相手を想像する。
「──アシュレイ・ヴァレリアス!」
カリアは絶望した。
軽かった足取りも、重くなり。
自信に染まった表情も、今は情けない顔だ。
周りの生徒達からも「うっわ」と、同情が込められた声が聴こえる。
カリアが舞台前までたどり着いた瞬間、1人の笑い声が響き渡った。
「ハハハハ! いやぁ、落ちこぼれ君は何秒持つかな?」
高笑いを浮かべ立ち上がり、微妙に伸びた金色の前髪を手でまくし上げる男、ハルシオン。
アッカドの街で出会った彼は、周りに聴かせるようにわざと大声で話している。
それに釣られ、同情していた他の生徒達も「1秒じゃない?」みたいな会話を始めだした。
「なら俺は、ヴァレリアスさんが手加減して3秒!」
「甘いな。彼女はどんな相手でも手加減はしない、1秒も持たないさ」
「……あの皆さん、やめた方が」
全体的に観て悪口を言って居るのは半々と言ったところ。
自分達の世界に入り、構わず話す者達と。
ある一点を眺め、言葉を詰まらせる者達。
「──うるさいですわ」
対戦を終らせ学園ローブを纏いなおしたマカハーンが、観客席に腰掛け不愉快そうに声を漏らす。
騒がしかった生徒達は、その一言で黙りだした。
ハルシオンは「ちっ」と舌打ちを溢して、席につく。
「やあ、カリア君。また一緒だね」
舞台前にアシュレイもたどり着き、周りを気にしない態度でカリアに声を掛けた。
学園ローブを脱ぎ捨て、依頼の時と同じ服を着ている。
「……お、お手柔らかに」
「残念だけど、僕は手加減するのが嫌いでね」
舞台前に設置された、月光陣の刻まれている扉一枚程の大きさを持つ鏡に触れ、黒髪の少女は鏡の中へと消えていき。
再度、薄い光を纏って鏡から姿を現す。
これは、身代わりの月光陣が鏡に刻まれたもので、模擬試合や闘技大会などでよく使用されるアイテム。
制限はあるが、この状態の時に攻撃を受けても心の自分が身代わりになる優れもの。
腕が斬られたり胸を貫かれても、多少の痺れる感覚が伝わるだけ。
活動限界を迎えると勝手に身代わりが解除され、鏡の中から元の状態の本体が現れる。
鏡に映す心と入れ替わったアシュレイは、舞台に上がってカリアを見た。
「ミレアちゃんを喚んで良いよ。僕は2対1でも構わない」
「──ッ!!」
彼女の台詞に、カリアは緊張を強くさせ。
それを聞いていた教師は疑問に思い、聞いてくる。
「今の話しは何だ? 助っ人か?」
「まあ、そんなところかな? 使い魔召喚って言うらしいよ」
「使い魔召喚?」
答えられた言葉に、更に疑問が生まれる教師達。
「カリア君も、ずっと隠せるものではないよ。もう明かしてしまった方が楽だろう? それに悪いけど、君では僕の相手にはならない」
「うん。──確かに、アシュレイさんの言う通りだ」
今のままでは歯が立たない。
周りの皆が言っていたように、1秒も粘れないだろう。
瞬殺に等しい速さでボロ負けするのが関の山。
ミレシェルアを皆に隠し続けるのも、可能か不可能以前に明かすタイミングが大事だ。
そのチャンスを、アシュレイは与えてくれている。
ここまで考えている間に、カリアはミレシェルアに念話を送り、了解を得られた。
腕に着けた腕輪の鏡が光りだす。
鏡に刻まれた小さな月光陣が、少年の眼前少し上空で展開される。
使い魔の召喚をする時は、発動分のムーンフォースを月光陣に注ぐだけで可能。
両者がムーンフォースを陣に込める必要はなく。
片方のみが必要な分だけ流せば、召喚できる仕組みだ。
皆が突然の月光陣に驚き、それを眺め続けた。
陣の下側から、少し厚底な黒色のロリータ靴が現れ。
純白のレース付きハイソックス、何時もの膝丈黒ドレスやシフォンアームと続き。
綺麗な白髪をサラサラと靡かせて赤きリボンまで出てくれば、ゆっくりと地面に着地する。
いきなり現れた、神秘的な雰囲気を持つ綺麗な少女の存在に、皆が視線を逸らす事が出来ず魅入ってしまった。
「儂をお呼びかな? カリア殿」
何時もはやらないが、数多くの視線が集まっている事を理解し。
スカートをチョンっと摘まんで、美しい御辞儀を始めるミレシェルア。
何時もはやらないけど。
所作1つすら様になり、それが余計、周りの目を釘付けにさせた。
「うん。先程も念話で送ったように、今からアシュレイさんと闘うんだ。だからミレシェルアに協力して欲しくて」
「なるほどのぅ。強敵じゃな」
舞台上に顔を向ければ、ニコニコしたアシュレイが控えめに手を振っている。
周囲を確認すれば静かに座るマカハーンや、こちらを唖然と眺め指を差してくるハルシオン。
「あ、あの子供は……!?」
彼は、1月以上前の事を覚えていたらしい。
パクパクと口を動かしながら、でも言葉が出てこず動揺していた。
「そ、それが、使い魔召喚と言うものなのか?」
教師は、ミレシェルアを眺め困惑している。
状況の理解、こんな幼い子供が助っ人、そもそも戦えるのか。
色々な思考が頭の中で駆け巡り、止めるべきだと結論が出た。
しかし、アシュレイが先手をうつ。
「心配はいらないよ、先生。ゴールドランク持ちの僕が、保証してあげる。彼女は強い」
ギルドのゴールドランク、二つ名持ちとして。
国から認められている彼女の証言は、説得力を含ませる。
ふざけている気配はない、真剣な面構え。
そこからは順調に話は進んだ。
身代わりの月光陣の説明も終わり、ミレシェルアとカリアは陣を発動させて舞台上に上がる。
「それはマフラー? 新しく買ったのかな?」
ミレシェルアを久し振りに見たアシュレイは、前には無かった少女のオシャレポイントに気がつき聞いてくる。
今の白髪の少女は首ではなく、二の腕に羽織るストールの様に、漆黒のマフラーを飾っていた。
「この前が誕生日でのぅ。パパ殿とママ殿から貰ったのじゃ」
どうやらミレシェルアは8歳になったらしい。
舞台上で向かい合う2人は、カリアを置いてけぼりにして雑談。
「さて、カリア殿。お主も闘いたいじゃろうが、そこで観ておれ」
「……理由を聞いても?」
突然告げられるミレシェルアの言葉を、カリアは理解出来なかった。
足手まといだからと勘違いしたのか、少し落ち込んでいる少年を見て少女は会話を続ける。
「儂とアシュレイ殿の闘いを、よく観察し、そして考えるのじゃ。今のお主なら前とは違った視点で見えよう。必ず役に立つ」
『お主の師である儂の闘いを、特等席で観ておれ』
幼き少女は少年にのみ聴こえる声で、背中を向けたままそう告げた。
──アシュレイ殿はきっと、儂よりも強い。
だからこそ、本気でいくのに相応しい。
教師から試合開始の合図が出された。
不意にニヤリと笑みを浮かべる。
ナイトを発動させる為、膨大なムーンフォースを放出し。
すべてを首飾りに注ぎ、眩しい輝きがこの場を支配した。
カリアに注意されていたが、この舞台上で教えよう。
「さあ。この儂、ミレシェルア・クラシスが!
"魔王の娘"として、力を魅せてやろう!」




