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なのじゃ!!  作者: デト
第1章
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王都の下調べ

 ミレシェルアが居なくなった部屋で1人。

 カリアは起こしていた上半身を再度寝かせ、瞼の上に腕を被せた。


「そうだ。……俺、守れたんだ」


 無我夢中で、策の無かったあの瞬間。


 ──よかった。本当に、よかった。


 大切な存在を助けられた事による安堵、そして安心。

 カリアが心を落ち着かせていた所、廊下が騒がしい。


 「落ち着いてください、お嬢様」と声が聞こえた事で、マカハーンが近づいて来たのだと理解する。












 自室で眠っていた金髪の少女を起こした後。

 ミレシェルアは1人で、街の中を歩いていた。


 王都アルタイルの西側。

 中央に位置する王城から外壁の門まで続く、横に広く縦に長い大通りの道。


 この前の依頼や襲来等で貰った報酬は、カリアが寝ている間にカリア、マカハーン、アシュレイの3人分で分けており。

 カリアの分の報酬から、1万ディアだけ頂いていた。


 ──うーむ。どうすれば、アクゼマーサと言う姫に会えるかのぅ。


 立ち止まり、この場からでも視界に覗く大きな城を眺める。


 相手はこの国の姫。自分は、相手からすれば身元不明の可愛い娘。

 王都アルタイル観光ガイドを観ながら、作戦は考えていた。


「ふぅ。テレビも羨ましいのじゃ」


 横から音がするので、そちらを確認すれば。

 道を歩く人達から見える様に、設置されたテレビがある。


『来年の(サマリー)下月に開催させる、月闘祭(げっとうさい)! 多くの戦士や冒険者達が、既に楽しみにしている事でしょう!』


「──ほう」


 テレビから、そのような情報が映しだされていた。

 内容はよくわからないけど、とりあえずは知っているフリをしておく。

 魔王の娘として、大物の姿を周りに見せびらかす事も大切なのだ。


 控えめに言って、ミレシェルアは目立つ。

 その容姿と服装から、小さな身体ながらも人々に存在感を放っていた。


 ふむふむ。と呟きながら、考える素振りをして歩きだす。

 これでバッチリ。

 もう、周りの者達は少女の虜だ。

 意味があるのかと思われるかもしれない。


 こんな小さくて可愛い少女が、街中を1人で歩くのだ。

 自分は頭が良いアピールをしておく事で、警戒心もあるのだと知らせる。


 現に今も、少女を眺めて歩いていた若い青年が街灯にぶつかっていた。

 完璧すぎたようだ。ふぅ、やれやれ。


 美少女も罪じゃな。なんて考えながら、ミレシェルアは城の方角へと進む。











「……ここか」


 たどり着いた場所は、城に近い位置に建てられたお菓子屋。

 片扉の取手を握り、少女は中に入っていく。


 王都アルタイル観光ガイドで、オススメされていた店。

 甘い香りがミレシェルアの嗅覚を刺激する。


「いらっしゃいませ」


 扉を開いた時に、備え付けられたベルがカランッカランッと音を鳴らし。

 その直後、店の人に入店の挨拶を贈られた。


 中には、いくつかの丸テーブルと椅子が置かれている。

 カウンターの所にガラス張りのケースがあり、その中にクッキーやシフォンケーキと言ったお菓子が保管されて並ぶ。


 トレーの上のシフォンケーキが数種類。

 透明な袋に包まれたクッキーが数種類。


 店の中で食べられる様に小さく切り分けられた物と、持ち帰り様の長四角型のケーキ。

 ケースの前で立ち、中を眺めて悩む。


 ──なるほどのぅ。デザート類の食文化は、それほど進んでおらぬと見た。


 これまで、クロスディア大陸で食べてきたデザートのほとんどは、果物が一口サイズに切られたモノであった。

 今回の作戦を考えた時、それを知る為にオススメの店を選び確かめに来たのである。

 ここに着く前にも数店のお菓子屋を眺めたが、どこも似た感じだ。


 クッキーもシフォンケーキも美味しそう。

 しかし、お菓子のバリエーションが少ない。


「こちらのクッキーを、1袋頂きたいのじゃ」


 小さくカットされた、ドライフルーツが入ったクッキー。


「ソイル入りのクッキーですね。お嬢ちゃんお幼いのに、1人で偉いわね」


 ケースの扉を横にスライドさせて開き、中のクッキーを取り出す若い女性。

 ミレシェルアはレジの所に置かれたカルトンと呼ばれるトレーの上に1万ディアの札を乗せた。


 ソイルと言う名のフルーツは、魔界大陸ガルゾルートでも存在する。

 普段はデコボコした見た目の、中身は赤い実。

 前の世界ならキウイフルーツに似た果物だ。


 御釣りを貰い、自分以外に客がいない空席の1つに腰掛けた。


「やはりクッキーは美味しいのぅ」


 包みを開き一口サイズのクッキーを口の中に放り込んで、ボリボリと咀嚼していく。

 プレーン味のクッキーと、乾燥させた事で甘味の増したソイル。


 食べていると飲み物が欲しくなった。

 ついでにミルクも頼み、また1つクッキーを食べる。


 ──あやつらも、甘い物は食べられるよな。


 前世の友『オジーズ』の皆を思い出し、悩む。

 ミレシェルアも、前世の時は料理をしたが。

 お菓子作りは、少しやった気がする程度。


 正直に話すとこの作戦も無理そうだ、と考えていたが。


 このお店は、いい具合に材料も揃っている。


 ミルクの入ったコップを持って近づいてきた店のお姉さんに、少女は話し掛けた。


「飲み物ありがとのぅ。──ちと、相談なのじゃが構わぬか?」


「えっ? あ、はい、構いません」


 突然の幼女の訪いに、キョトンとさせたが。

 周りを眺めて他に客が居ない事を確認すると、彼女は頷いてくれた。


 ミレシェルアは了解を得ると、立たせたままでは失礼だと思い、ムーンフォースで近くの椅子を引き座るように伝える。

 最初は小さな少女がムーンフォースを使った事に驚いていたが。

 女性は「失礼します」と呟き、椅子に腰掛けてくれた。


「そうじゃな。タルトと呼ばれるお菓子を知っておるか?」


「──タルト? いえ、知りません。どのようなお菓子なのですか?」


 頭を傾げ答えてくれる。


「うんとな、儂もそこまで詳しくないのじゃが──」


 それからミレシェルアは、自分が知る限りの"タルト"について語った。

 最初は少女の小言を聞くようにしていた相手も、次第に興味が湧いてきたのか。

 今となっては真剣に瞳を輝かせ、盛り上がりながら話し合いをしている。


「どうじゃ? 作るまでの詳しい工程はあまり分からぬが、作れそうか?」


「はい! 最初は試作を繰り返す必要があると思いますが、やってみせます! 実は言うと、お菓子の人気も徐々に下がっていたので。私としてもありがたい提案なんですよ」


 店内を眺め、少し恥ずかしそうにはにかんでいる。

 オススメの店として紹介はされていても、お菓子の種類が少なくては客もすぐ離れてしまうらしい。

 フルーツの種類だとかで水増ししても、効果はなく。


 そうかそうか。と嬉しそうに頷き、ミレシェルアはミルクを飲み干した。


「儂の相談は、それだけじゃ。クッキーも美味しかった。そろそろ、おいとまするとしよう」


 椅子から降りて「ごちそうになった!」と歩いていく。

 そんな少女の後ろ姿に手を伸ばし、店の女性は声を上げた。


「待ってください! まだ、貴女様のお名前を聞いていませんでした!」


 歩いていた少女は立ち止まり、「そうじゃった。こちらも忘れておったわい」と長い白髪を揺らしながら振り返る。


「──夜慈郎(よじろう)じゃ」


 優しく微笑み名前を伝えると、少女は扉を開けて出ていった。


「よ、え? よじ、よじろう? 明らかに偽名ですよね!?」


 女性は唖然としながら、偽名と疑い。

 しかし、紙に名前をメモしておく。


 ミレシェルアの容姿を、その瞼に焼き付けていた。

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