四大貴族
「そういえば、儂。その四大貴族とか知らんのぅ」
小さな手でコップを包むように持ったミレシェルアは、優雅に茶を口に注ぐ金髪の少女に尋ねる。
四大貴族と言う言葉と、王都アルタイルの東西南北を守護する貴族と言う事は、これまで共に過ごしている間に聞いていた。
マカハーンは静かにコップを置くと、考えるように人指し指を唇に当てる。
「四大貴族とは。他の貴族と違い、強さを証明出来た者がなれる貴族ですの」
そこまで伝えた後、どう説明をしようか。
彼女は悩みながら、口を開く。
「条件さえ整えば。その権力は、王族の血縁者である公爵家よりも上になりますわ」
彼女が語るには、それぞれが守護する王都の地区内。
西地区を守護するマカハーンの家。ウエスト・アンジェリーナ家の権力は、西地区に関わる事は公爵家よりも上になるとの事。
それ以外なら公爵未満、侯爵以上の権力となるらしい。
「強さを証明出来るのなら、平民でも成り上がる事が可能なんだ」
隣で話を聞いていたアシュレイが、椅子に背を預け話した。
ミレシェルアはコップを机の上に置き、腕を組む。
「色々あるのじゃな。場所によって権力が上下したり、一般市民でも成り上がれるとは。問題に発展したりせんのかのぅ?」
「貴族だからこそ。その程度の事で、事を荒立てたりしないのさ。他の四大貴族に喧嘩を売るようなものだからね」
脚を組み、黒髪の少女は茶を飲んで口を潤していく。
他者が四大貴族に下克上を果たすのには、条件も存在した。
四大貴族側は地位を賭け、挑戦者側は四大貴族側が望むモノを賭けるのだ。
それらを国王の権威の下で取り決め、決闘が始まる。
敗者は失い、勝者はどちらをも手に入れる。
だからこそ、滅多な事がない限り決闘は起こらない。
「アシュレイ殿は強いけど。四大貴族を目指しておるのか?」
頭を傾げ、可愛らしい仕草をしながら純粋な疑問を贈る。
コップが唇に触れた状態のアシュレイは、予想外の問いだったらしく。面白可笑しそうに笑いながら否定した。
「そもそも僕。──ヴァレリアス家は元々、四大貴族の一角だったんだ」
「元々?」
隣で心配そうに眺めるマカハーンに「大丈夫」と伝え。アシュレイはミレシェルアを眺めてくる。
「6年前に、僕以外の家族が亡くなったんだ。両親と兄の3人。兄を鍛える為に、外に出掛けてね。残ったのは財産のみ」
「その。……すまんのぅ」
「ふふふ。昔の事だからね、もう大丈夫だよ。それに僕としては、今の自由な生活の方が合っているみたい」
ポーチからギルドカードを取りだし、金色に塗られたそれを見せびらかしてきた。
当時は10歳にも満たない幼い時代。少女1人の生活は、大変だったに違いない。
そこから鍛練も重ね、アシュレイはここまで強くなったのだ。
「悔しいですが。才能はアシュレイさんの方がありますわ」
2人が本気で戦い合った事はない。
しかし、マカハーンとアシュレイの実力には差が存在した。
四大貴族、アンジェリーナ家の現当主に鍛えられた少女として、独学で強くなった同じ年の少女に負ける事は悔しかろう。
「のぅのぅ。ならカリア殿はどうなのじゃ?」
次の疑問は、強さを求める銀髪の少年へ。
ミレシェルアが聞き直した瞬間、部屋は静かになった。
白髪の少女が2人を確認すると、困った表情をしている。
あっ、しまった。と思うも、マカハーンが真剣な顔を向けて答えた。
「カリアが強くなろうとする理由は。多分ですが、私が原因ですの」
「マカ殿の?」
「……へぇ。面白そうな話だね」
先程まで困っていたアシュレイは、表情を戻してマカハーンを見た。
「ずっと昔ですわ。まだ私とカリアが幼かった頃。その、こ、告白をしたことがありますの」
顔を赤く染め上げ、金髪の少女は俯く。
それを聞いたミレシェルアは、少し前のカリアを思い出した。
王都アルタイルの林で会話をしていた時、焦がれた反応をしていた少年を。
──なんとなく予想はしておったが。……やはりか。
恋話の予感は的中していた。
どうもムーンフォースが扱える10歳になるずっと以前から、強くなって私を迎いに来てくださいね!と幼い子供ながらに約束をしていたらしい。
アシュレイに至っては、ニコニコして面白そうに話を聞いていた。
年頃の少女として、恋話を聞くのが楽しいのかもしれない。
「ですが、これは私の予想ですわ。実際にカリアが、覚えているかも分かりませんもの」
「なるほどね。まあ、僕は見守っているよ」
カリアとマカハーンの過去は知らないが。
ミレシェルアは、間違いなく2人が両思いなのだと理解できた。
熱熱で、茶が沸くかと思った。危ない危ない。
カリアを強くするつもりだが、今は変に伝えない方が良いだろう。
儂もアシュレイ殿と同じく見守るかと心に決め。コップを持ち、茶を飲む。
冷えていた。
ギルドからの護衛依頼を受けて、10日以上が経過。
護衛依頼の報酬として、20万ディアを貰い。
初日のモンスター襲来から町を守った実績で100万ディアを獲得。
学園側からの依頼も予想より節約が出来ており、50万ディアが残っていた。
帰りでもお金は使用するが、ハプニングもあり金は貯まっている。
ロンティナの長と共に居た。馬車の御者であるエルフ族のフェツェルと再会し、皆は王都アルタイルを目指して出発。
「結局俺は、何も出来なかった」
バイフォンに引かれ、揺れる馬車の中。カリアは1人、落ち込むように座っていた。
運び屋のカリアとしては、十分な働きをしただろう。
彼が嘆いているのはモンスター討伐関連の事。また、何も出来なかった。
「落ち込むでない、カリア殿。強くなる事を目指すなら、前を向き生きるのじゃ」
「そうですわ、カリア。男なら男らしく、シャキッとしなさい」
うじうじしていても何も変わらない。
2人に言われ、少年は背筋を伸ばした。
「いやぁ。僕としては楽しい日々だったよ。実を言うと、こう複数人で依頼を受けたり、移動するのは殆どなくってね。僕なりに緊張していたんだ。ミレアちゃんにも会えたし、大満足!」
確かに、笑顔を浮かべている彼女は満足そうにしている。
「私も、父や従者の方々と出掛けても。討伐以外の事は周りの方々が終わらせてしまうので、アシュレイさんに色々教えてもらえて良かったですわ」
余分に討伐してしまったモンスターの後処理、簡単な料理、ギルドの依頼受注や依頼達成後の報告。
四大貴族のお嬢様として育ったマカハーンとしては、初めて知る事が多く。
けれど、アシュレイがゆっくり丁寧に教えていき。マカハーンの要領が良かった事と合わさって、直ぐ理解できた。
食材を、剣で斬れば速いですわ!と、鞘から抜いた時は焦ったが。
ミレシェルアとアシュレイの2人で止め、色々斬る剣では汚いと必死に説得もしていた。
「皆さん、楽しそうで良かったっす! あっしなんて、忙しい友人の手伝いで大変だったんですから。まあ、お礼は沢山頂けたっすけどね」
モンスター襲来でロンティナの長は忙しく、折角遊びにきたフェツェルも手伝いでいっぱいだったらしい。
馬車の荷台には、食べ物に紛れて木箱が積まれている。
聞いたところ、中には甘味が入っているとか。エルフの彼は甘党だった。
「儂も、来て良かった」
景色を観ていくだけでも楽しめた。
驚愕し喜んだのは、見た目は変わったが前世の友に会えた事。
そして、他の友との再会、その可能性がある。
カリアを鍛える事が第一だけど、合間に調べる算段だ。
アルタイル王国の王女、アクゼマーサを。
相手は、一国の姫だ。苦心するだろう。




