ギルドと依頼
ミレシェルア達一同は、周囲の建物より一回り二回りも大きな建物に入っていった。
ギルドには、2つの剣を逆さにクロスされた特徴的なマークがあり。出入口の扉の上にそのマークが描かれている。
両開きの扉は既に開かれた状態で固定されており、皆が潜るとそのまま前方に伺える受付場所まで向かった。
「すまない。王位ヴェルト学園の行事で、こちらの依頼を受けたんだけど。依頼受注の確認をお願いしたい」
腰のポーチから折り畳まれた依頼用紙を取りだし。カウンターに座る2人の内、1人の受付嬢に、広げた紙を渡すアシュレイ。
ミレシェルアとマカハーンは、ギルド内を興味深く眺めていた。
おほー。と、小さいながらも、ミレシェルアは声をだす。
「確かに、こちらは王位ヴェルト学園と話をつけている依頼ですね。了解しました。依頼主には、ギルド側から依頼受注の件を報告しておきます」
依頼用紙を眺める、眼鏡を掛けた制服姿の女性は。学園側のハンコを確認してから依頼内容を見て頭を傾げる。
「すみません。あなた方のギルドカードを、拝見させて頂いてもよろしいでしょうか? こちらの依頼、ウッドゴーレムの討伐。場合によっては承諾出来ません」
それは、今回の討伐対象の強さ故に、だ。
ただの受付嬢である女性からすれば、何故にこのような依頼を、学園側が契約したのか理解に苦しむ。ただの生徒達が戦う相手ではない。
アシュレイは、ポーチから一枚のカードを取り出した。
──金色に染められたギルドカードを。
「これで良いかな?」
「──っ!? ゴールドランク! す、すみませんが、確認をしてきます!」
驚いたのは受付嬢だけではなかった。
ギルド内に居た周りの者達も、ギョッとした表情をしている。
"ギルドランク"。
それは、ギルドに加入した者が実績を重ねて上げる事が出来るランク。
最初はホワイト。次にブロンズ、そしてシルバー、最後にゴールド。
白、青銅、銀、金と言った順にランクは上がっていく。
「確認が終わりました! 貴女があの、影姫様とは。とんだ失礼を。」
「気にしなくて良いよ。それと、余り二つ名は言わないでもらえると嬉しい」
しかも、ゴールドランクに上がった者には。
二つ名と呼ばれる、その人の特徴を示した呼び名が国から与えられた。
当人であるアシュレイは、恥ずかしがっているけど。
国に認められた者のみがなれる、ランクだけあり。
ゴールドランクのカードには、身分証としての効果もある。
ギルド内を眺めていたミレシェルアは、1つの事に納得した。
──成る程のぅ。道理で、馬車の護衛が居なかった筈じゃ。フェツェル殿もこの事を知っており、護衛を増やす必要がなかった、と言う事じゃな。
確かに、道中の戦闘は何度も眺めていたが。
アシュレイもマカハーンも、2人共強かった。
ムーンフォースのみで戦っていたが、それでも余裕を残す程。
白髪の少女が思考したように。
実際に馬車を予約した時、アシュレイとフェツェルは、お互いに利害の一致で組んでいた。
アシュレイは馬車代の節約、フェツェルはゴールドランクの護衛。
目的地もロンティナと同じであり、両者が納得できる契約であった。
「確認も済んだ。森へ向かおう、みんな」
依頼紙もポーチに仕舞い直し、腰に長刀を携えた黒髪の少女は歩いていく。
3人はそんな少女の後に続いた。
「……あの、幼い少女はなんだったんだ?」
寧ろギルド内では、ミレシェルアの存在に謎を残す。
ゴールドランクに着いていく、幼い少女。
そもそも何故に、幼い少女がギルドに。
意もしない所で、ミステリーを生んでいたのだった。
ロンティナの入り口に到着。
森に囲まれた町だけあり、此所以外の入り口も数ヵ所存在する。
皆は少し離れた場所に存在する、森を眺めていた。
樹一本一本が、ロンティナの建物の倍以上に成長していて。
幹も太く、森は深々としている。
「この中から、たった一体のモンスターを探すんだよね?」
カリアはゴクリッと喉を鳴らして、森を確認し直す。
──うん、深い。
無理じゃない?と、心の中で諦めかけてしまう。
それほどまでに、このロンティナを囲む森は青々と深い森なのだ。
討伐対象のウッドゴーレム。
名前からして、木で作られた人形みたいなモンスターだろうか。
大きさも自分と同じくらいか、倍くらいか。
カリアは1人、想像した。
──木のモンスターなら、動きも鈍そうだし。俺でも戦えるかも。
見たこともないモンスターの姿を、頭の中で形作っていく。
ボロボロの剣だけど、枝先から切り崩していけば或いは。
「問題ないですわ、カリア。雑に探索しているだけで、痕跡も見つかるでしょうし」
「成る程」
木のモンスターだし、果物的な物が落ちているのか。または、葉っぱじたいが特殊な見た目なのだろうか。
「儂は初めて見るのじゃ。くぅ、楽しみじゃのぅ!」
「ふふ。戦うと、一方的に攻撃出来るモンスターだよ」
ミレシェルアに微笑み。アシュレイは「行こうか」と催促する。
おおー!と、テンションを上げた白髪の少女も、準備万端だ。
腰の剣に手を当て、1度瞼を閉じたマカハーンも。眼を見開き、後頭部で結んだポニーテールを揺らし歩いていく。
今度こそ。そう決意したカリアは、そんな彼女達の後を追った。
4人が森へ移動したのと同じタイミングで。
他の入り口から、騎士を連れたベルニカ王国の馬車が、町にたどり着いたらしい。
「──嘘、だよね。なんだ、これ」
それから1時間後、簡単にウッドゴーレムを発見した一行。
カリアの口から出た言葉が、コレである。
「うおおおお! 大きいのぅ!」
ミレシェルアは、上空を見上げ。少し離れた所に佇む、存在を眺めた。
ウッドゴーレム。
只でさえ、森の大きな樹。そんな大きな樹よりも突き出す、巨大な体躯を持っていた。
太く立派な幹は二股に別れ、根の広がった足。枝分かれした腕も生えている。
顔面だろう部分には彫られたように斜め線の眼と、ギザギザの口があった。
「さあ、速く討伐しちゃおうか」
「そうですわね」
2人は腰の武器を引き抜き、ムーンフォースを放出させる。
──え? アレと戦うの!?
カリアは戦慄した。
更に、ムーンフォースの有る無しの差を思い知らされる。
ボロボロの剣で無くても、傷を付けるのがやっとだろう。
下手に近づけば、踏み潰されて終わりなのだ。
「誰が最初に討伐出来るか、競いませんこと?」
「面白そうだね。良いよ、受けて立つ」
「儂もやるぞ! ナイトありで構わんじゃろ?」
そうして、皆がそれぞれ持つ鏡に金色銀色の輝きを集中させて、駆けた。
「──ヴォオオオオオ!?」
巨大で暴れれば危険だろう、ウッドゴーレム。
数日前には暴れていた所を目撃されたとはいえ、現在は静かに立ち尽くしていた。
そんなモンスターの前に、ムーンフォースを纏った少女3人が現れる。
「──!!!?」
それらは姿を現した瞬間、手に持つ得物を振りかぶった。
体躯は凍り、雷に焦がされ、影が貫く。
『ダウンロード』、『エレキネシス』、『シャドウダイブ』。
3つのナイトをその身に受け、──ウッドゴーレムは絶命したのだった。
「──嘘、だよね。なんだ、これ」
カリアにはもう、それしか言えなかった。
レベルが違う。視線を逸らしたい。
そもそも、アシュレイもマカハーンも王位ヴェルト学園で上位の成績だ。
学園最強と呼ばれるアシュレイは、勿論の事。
マカハーンも既に、2位か3位の実力者である。
そして最後に、魔王の娘ミレシェルア・クラシス。
使い魔召喚の話の時に、ミレシェルアが魔族である事は皆に教えていた。
皆は「へぇ」程度にしか思われていないが、魔王の娘だと言う事は言っていない。
今教えれば、また「へぇ」程度の感想で終わるかな?
カリアは現実を目の当たりにし、そのような現実逃避をしていた。




