襲来
「とりあえず。討伐の証拠は、写真で十分。一応、頭の枝も剥ぎ取っておくけど」
ルナフォンを持ち。パシャリと、息絶えたウッドゴーレムを写真に納める。
頭の枝も切り取り、数回ほど真剣に撮っているアシュレイを眺め。
ミレシェルアは、前世の人々ならインスタ映えで自分の顔を写しながら撮るだろうにのぅ。と、この世界の人々との違いを感じた。
「……皆んな、凄いね」
少し遅れて到着したカリアが、目の前で朽ち果てたモンスターを眺め。呟く。
一部は凍結し、焦げた後を残し、風穴が空いている。
3人の攻撃でボロボロになった相手を、哀れむように見ていた。
「そうじゃな。アシュレイ殿とマカ殿のナイトを初めて視たが、強力じゃったのぅ。2人共、強いことは分かっておったのじゃが。これ程とは」
「それは、こちらの台詞ですわ。ミレアさんのナイトのお話は、カリア達から聞いておりましたが。実際に眼で見るまで半信半疑でしたの。まだ幼いのに、凄いですわね」
皆が皆、驚いた事だろう。
ここまでは皆、ムーンフォースのみで戦っていた。
武器に纏わせたり、光弾として飛ばしたり。ただ、それだけ。
まだ本気ではないが。ナイトを眺め、その一部分だけでも強さの片鱗を互いに感じた。
「カリア殿も、もっと勇気を出して攻めても良いのじゃがな」
「確かに。ここ数日、彼を観させてもらったけど。ムーンフォースが苦手以前の問題だと思う」
「昔は、臆病ではありませんでしたわ。10歳以降かしら? カリアがあの様になられたのは」
3人で、うーん。と、それぞれ唸る。
カリアは1人、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
今回も駄目だった。そう思いながら、彼は上空を眺める。
「──ん? みんな。空が騒がしくない?」
正確に言うなら、森が。だろうか。
木々の葉がざわめき、不穏な気配を漂わせている。
唸るのを中断させ、3人の少女も上を眺めた──その時だ。
──ゴゴォォオオオオオオ!!
凄まじい咆哮と共に、巨大な影が森の上空を飛び越えて行った。
その勢いは葉を撒き散らし、風圧が凄まじい。
「──ッ!! なんじゃ!? 今のは!?」
「──ウッドゴーレム程に、大きかったですわっ!」
「……今のは、ツヴァイドラゴン」
それぞれが違う反応を見せ、目許を手で覆い隠し真上を眺めている。
しかし、たどり着いた答えは皆、同じだった。
「町が危険ではないか!!」
「ロンティナの方角だ!!」
「皆さんが危ないですわ!!」
ソレが飛んでいった方角は、自分達が歩いてきた道のり。
それを辿って行けば、ロンティナに繋がっている。
3人が、ムーンフォースを纏って駆け出そうとした時。カリアを思い出した。
戦えない彼を、1人にするのは危険だ。
マカハーンとアシュレイは、判断を鈍らせる。
しかし。ミレシェルアが即座にナイトを発動させて、意識を集中させた。
「──全員、舌を噛むでないぞ」
「「っ!?」」
4人の身体が浮かび上がり、森よりも高い上空を飛んでいく。
「……へぇ。便利な能力だね」
月光の持つ重力を、増幅させる力。
『ダウンロード』に与えられた、おまけの能力である。
目指すはロンティナ。
ワイバーン型のドラゴンが、翼を羽ばたかせた巨大な後ろ姿を目視させる。
ミレシェルア達は、飛んでいく危険な存在を追いかけた。
ロンティナに襲来していたのは、ドラゴンだけではなかった。
まだ昼にも関わらず、暴走した数多のモンスター達。
狼型、熊型、植物型、兎型、鳥型と色々。
ロンティナの入り口付近で、町の警備をする者、ギルドの者、ベルニカ王国の騎士達が協力して戦っている。
「ドラゴンが町の上空に飛んで行ったぞ!?」
「くそ! 数が多い!」
「ドラゴンと戦える者は、町に行ってくれ!」
槍で戦う者、剣で戦う者、斧を振り回す者、後ろから光弾を発する者。
皆が必死になりながら、迫り来るモンスター達を討伐していた。
「ドラゴンは2人に任せますわ。私はここで、皆さんの援護を」
「わかった。僕はドラゴンを倒し次第、別の入り口を確認してくる」
「カリア殿はここの入り口に置いておくぞ」
「──えっ!?」
町に到着し、喜ばしくない状況を確認する4人。
「それがよろしいかと。この状況では、どこが安全なのか分かりませんもの。目の届く所に居てもらった方が、私も守れますわ」
全身からムーンフォースを放出させたマカハーンは、重力から解除される。
上空から落下し、そのまま地面に着地するとナイトを発動させた。
「カリア殿も、気を付けるのじゃぞ?」
ゆっくりと、ロンティナの門前に3人で降りる。
それと同時に、ミレシェルアとアシュレイは金色銀色の輝きを纏った。
カリアが何かを言う前に、その場から跳び去って消える2人。
肉体を強化してドラゴンの方へ、建物の屋根から転々と移動したようだ。
「敵の数を減らしますわ!」
そう声を張り上げ、マカハーンは電気を帯びた剣を横に振るう。
前方の何も無い空間からバチバチと電撃が発生し、モンスターの群に横一閃の稲妻が襲いかかった。
「おお! 凄い攻撃だ!」
「数を減らしてくれたのか、ありがたい」
『エレキネシス』。
マカハーンのナイト。その能力は強弱の電気を生み出し、自在に操る。
少し離れた所で戦う者が、背後からのモンスターに襲われる直前だった。
気付いてもいないその者に手を翳し、金髪の少女は微弱に能力を発動。
ムーンフォースが纏われていない隙間から電気を相手の体内に流し込み、隙だらけなその者の身体を操った。
「うわっ! ──何だ!?」
自分の意思とは関係なく身体が動きを始め、驚いている。
その者を危険な場から移動させ、周囲に集まっていたモンスターの群に上空から雷を落とす。
「……囲まれていたのか。すまない助かった」
自分が危ない状況だったと知り、顔色を青くさせながら安堵する。
「……ふぅ。走って疲れたわい」
町の地面で力尽きた青色の鱗に覆われたドラゴンの上に、ミレシェルアは座っていた。
周りには戦う事が出来ない一般人達がおり、ドラゴンを討伐した2人を眺めている。
「ミレアちゃん。疲れている所、申し訳ないけど。ツヴァイドラゴンは基本、2匹で行動しているんだ」
もう1匹が近くに居るかも。そう語っているアシュレイは、ジャンプして建物の屋根に乗り周囲を警戒。
小さな鳥型のモンスター達も、町中に入り込んで暴れているようだが。そちらは、周りに任せても大丈夫そうだった。
「うむ。向こう側が騒がしいのぅ」
疲労している身体を立ち上がらせフヨフヨと浮かび、アシュレイの隣に並ぶ。
騒がしい方を眺めれば、赤色の鱗を持ったツヴァイドラゴンが飛んでいた。
2人は休む暇もなく、移動を始める。
それは、突然起きた。
屋根を伝って、ドラゴンに近付いていた2人。
視界から外す事はせず、獲物は見逃さない覚悟で見続けていた。
そして、眺めていた赤色のドラゴンに突如、爆発が襲いかかる。
「「──っ!?」」
爆発を食らったドラゴンは、そのまま力なく地面へと落下した。
驚いた2人は、後を追う。
見た感じだと、他の誰かが討伐したのだろうか。
ミレシェルアとアシュレイは屋根を飛び降り、絶命しているドラゴンの近くへと着地する。
──ぬあ? また、この感覚じゃ。
また、ミレシェルアはある違和感に襲われる。
ツヴァイドラゴンの上には2人の小さな人影が伺えた。
以前、アルタイル王国の王女アクゼマーサが乗っている馬車が、白髪少女の近くを通った時に感じた。
ビビビと来る懐かしい感覚に、今、襲われたのだ。
そしてそれは。今も、ドラゴンの上に立つ2人にもだった。
背中を向けて立っていた2人は、驚いた表情をして身体ごとこちらに振り向く。
ベルニカ王国の双子姫が、その瞳の中にミレシェルアを捉えた。




