リーシャ、安堵する。
じっと考え込むウィルの旋毛を眺める。
ウィルフレドって単純で可愛い、のはゲーム通りだが思ったより高圧的、というか上から目線だ。
私が妾の子だと言う事実が、実の母に私がどんなに卑しいか聞いてきたという経緯がそうしているのだろうが・・・・・ギャップ萌えを狙えそうな感じ。
くるんと癖がついているストロベリーブロンドが窓から差し込む光に当たってキラキラ輝いてる。
この髪がすごくすごく綺麗に見えるのは、リーシャが欲しかった髪だからなんだろうか?
髪がふわりと揺れ、ウィルが顔を上げた。
「母様は、お前が嫌いなんだと思う」
「ええ、そうですね」
何を当たり前のことを?と言いかけた口を噤む。
「僕からも話してみるけど・・・・・母様は、お前よりお前の母様が嫌いなだけなんだ。優しい人だから、きっと分かってくれるよ」
甘えた考えだこと・・・・・と言いかけ、これも内心に留めた。ウィルにとってはあの義母はとても優しい人なんだろうから。
でも、別の言葉を探す。ウィルから話が行けば私と喋ったことも自ずと伝わり、弟が見ていない間に叱責を受けるのは私だ。
あの目に晒され、あの恐怖を味わうのは暫くは絶対いやだった。
「ウィルフレド様。それだけはお許しを・・・・・お義母様は私の顔も、私の名前も見たくも聞きたくもないはずですから」
「それは・・・・・でも、話をしないといつまでもこのままだよ。僕の事を信じてみてよ」
「いいえ。ウィルフレド様、心配していただいて本当に嬉しいですが、怖いのです・・・・・昨日のように思い知ることが。あの人の前に、立つことが・・・・・」
その気持ちに嘘偽りはない。義母の前での恐怖を思い出すと作り物ではない悲しみと憎らしさが溢れてくる。
体が震えた。リーシャの傷はとても深いらしかった。けれど、どれもどこか他人事のようにみている凛がいて、それがただ不思議だった。
そんな私を見てウィルフレドは視線をさ迷わせ、苦しそうにした。
「・・・・・わかった。今はやめとく。時々話をしに来るのでお前は満足なんでしょ?」
「はい。気にかけてもらったのにすみません、ありがとうございます」
ひとつ頷くと、それじゃあと挨拶をしてウィルは私の部屋を後にした。
パタンとしまったドアにまずは安堵する。
「予定外なんだよほんとに・・・・・」
義母が来なくてよかった。
予定外ではあるが、これでウィルフレドとの関わりを持てた。どこまで信用していいかは不明だが、とりあえずまた話をしに来てくれることにもなったし上々。
クークたんどの明るい未来のために、人間としてまともに会話くらいしたいもんね。
さて。と外を眺める。こんなに濃い時間を過ごしたのにまだ朝、一日は始まったばかりだ。
ため息をぽつり。クークたんを愛するけど、リーシャも幸せにならないとなあ、と考える。
こんなキャラだったんだなあ、クークたんの婚約者。ゲームしてたころは裏山けしからんで相当に妬んでいた、名も無き女性。
クークたんと婚約して彼女はしあわせだったんだろうか。
「・・・・・旦那が死ぬなんて最低なルートだけは、絶対回避しなきゃね。凛のためにも、リーシャのためにもさ」
さあ、武器を作ろう。もう試合は始まってる。
知識も、力も、魔法も、全て使って私はクークリオンを幸せにする。そして、彼と一緒に私も幸せになるのだ。
彼の目に写って、笑いかけてもらう。
そのためにならなんだってできるし、なんだってする。
目的を持てば生きることなんて容易かった。
そのためにも。
「ウィルと仲良くなって、社交界へ出る手助けをして貰わなくちゃ」
ふんすと意気込む。
例えば街へ出てしまえば、魔法を使って荒稼ぎすることはそう難しくはない。権力者とだって知り合う機会があるかもしれない。
そして、なんなら街へ出ること自体そう難しくはないのだ、全て魔法がうまくやってくれる。
お金も権力もとりあえずの目星があるわけだ。
だが社交は違う。商売で荒稼ぎしたら「女が商いなんて」と叩かれ、大人しく黙っていたら舐められる。
それにそもそも社交界へまともにあの父が出してくれるのかも疑問だ。
婚約者のクークリオンはと言うと、原作でもパーティ嫌いで有名で、出なければならないパーティで挨拶だけして去っていくシーンもあった。彼にも社交界関係は頼るべきではないだろうし。
クークたん以外で助けられて違和感もなく、連れ回したり何度踊っても許されるのは家族だけ。父は義母がいるし、そもそもそこまで期待するのは無茶だろう。支えてくれる誰か・・・・・弟はまさにピッタリだった。
そうなると、勿論その頃には義母とも対面せねばならないのだが・・・・・社交界デビューはまだ先だ。それまでにウィルとの関係を強固にし、義母との折り合いも付けるべき、付けなければならない。
ひとつずつだ。焦らず、上手く立ち回る。
決意も新たに朝食を取りに私はドアに手を掛けた。




