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リーシャ、諦めるのを諦める。








拝啓、昨日の私へ。

早速ですが、あなたの考えが甘かったことをお知らせしたいと思います。

ウィルとの関係構築は後回しとしたのは間違いでした。というか無理でした。








朝日が差し込む部屋で、私は弟ウィルフレドと対面していた。


「お、おはようございます・・・・・ウィルフレド様」

「おはようございます」


お互いに他人行儀に挨拶をし合う。

私は冷や汗を流して引きつった笑顔で、ウィルは興味津々と言った眼差しでジロジロと、顔を見合わせていた。



さて、こんな邂逅を得た経緯を説明したい。

私は昨日あの後一心不乱にクークたんへの愛を手紙の形に昇華し、いつも通り自室で眠りについた。

そして、いつもなら誰も来ないはずの私の部屋にメイドが起こしにやってきた。

メイドは説明も簡単に、呼ばれているから支度をとだけ伝えて早々に部屋を出ていった。いや、何時に誰と。そしてお前はうちの家のメイドなんだから支度を手伝え。

いっそ笑えて来ながら、まあ父親かなあと思って簡単に身支度を済ませた。

父は母のドレスに私が袖を通すのが不快なようだったので、ドレスはやめてワンピースを身にまとった。


このワンピースも例に漏れず母のものではあるのだが、お忍びの時に着ていたものらしく父の中では母を連想しないようだった。

お忍びの為と言っただけあって随分シンプルで、はっきりいって家格からするとみすぼらしくすらある。それも父には良かったようだが。

そして、なおかつこれは私にとっても良いもので、着やすい動きやすい脱ぎやすい、1人で全てこなせて楽ちんなのだ。

そんな利害の一致のお洋服を着てさて、どこで会うんだろうとメイドを捕まえるため部屋から出ようと扉に目を向けた、ちょうどそのタイミングでドアがノックされた。


「はい、空いています」


普通にメイドだと思った。生まれてこの方、記憶の限りリーシャの部屋へやって来たのはメイドしかいない。

だから意識せずそう答えたし、ドアが開いても振り返らなかった。

どこへ来いと用件を言ってまた去っていくんだろうと思っていたから・・・・・けれどドアは空いたが何も言わないし足音もしない。ドアの前で突っ立っているようだった。

不思議に思い、私はやっと振り向いた。

ここまで来たら皆様お察しのことだと思う。



ーー現れたのは私の弟、ウィルフレドだったわけだ。











という流れを経て冒頭に話が戻る。


とりあえず目が合った弟に挨拶をして見せ、更に後追いで頭をこれでもかと低く下げた。

義母の時のように取り乱すかと身構えたがリーシャは落ち着いていて、弟に向けた強い気持ちはなかったのだろうと内心ほっとする。


「大変申し訳ありません。ドアを開けに参るべきでした・・・・・メイドとばかり。まさかウィルフレド様がいらっしゃるとは思いませんでしたの」


頭を下げたまま言い募る。

頭に視線が突き刺さっているのを感じる。

・・・・・何か言って。頭上げるタイミングがわかんないから。

そろりと上目遣いに伺うと、やはりこちらを見つめていたウィルと目が合った。

やっぱり攻略対象だけあって、整ったお顔をしている。

ぱっちりした二重にストロベリーブロンドのかるくウェーブした髪が良く似合う。

こんな美形が弟だなんて、そりゃリーシャは自信も無くすだろうなあ。

そんな明後日の方向に意識を向けていると、美しい顔をした彼の唇が開いた。


「お前は僕の姉にあたるんじゃないの?いつも思ってたけど・・・・・そんなにへりくだらなくても僕、いじめたりしないよ」

「あ、ありがとうございます・・・・・」


声も可愛い。ゲームの頃のボイスより洗礼されてる気がする・・・・・が、やはりクークたんには遠く及ばないな。

クークたんのあの腰に響く声たるや。同じ人類として申し訳なくなるほどだ。その婚約者になれるなんてほんとうにリーシャってば果報者だわ。などとどんどんそれていく意識を目の前の弟に戻し、そっと微笑む。

現実逃避だってしたくもなるわよ。この子とは暫く関わらないという方針を打ち立ててまだ1日も経っていないのだ。


「それで・・・・・ウィルフレド様、なにか私に御用でしたか?」

「・・・・・別に。母様が関わるなと言うから反対に気になって見に来ただけだけど・・・・・」


ウィルフレドは視線をもう一度私の体に滑らせると、目を細めた。


「・・・・・ドレスもないの?」

「え、えっと?」

「だから。お前はドレスもないからそんな身なりをしているの?って聞いてるの」


どうやらワンピースがポイントだったらしい。

よくよく見るとウィルフレドからの視線に明らかに同情が混ざっている。

不憫そうな顔を向けられるとそれを望んで昨日に一芝居打ったのになんだか虚しい。それにこれは父と会うかと思っていたからで、ドレスがないわけでもない。ほぼ母のものだが。

同情心は欲しいがあとからバレる嘘はよくない、と頭を振る。


「いいえ、母からのお下がりのものがいくつも。それにクークリオン様との婚約式にひとつ仕立てていただきましたわ」

「それってお前のものは1着しか、しかも随分前に作ったきりって事だよね」


いっそう顔を悲愴そうにしかめて見せたウィルになんだか悪戯心が湧いた。

そっちが予定にない行動をしたんだから。これでも突然のことで驚いてるんだから。


ーー嘘じゃなきゃいいなら、まあ色々‘‘かわいそう’’なことはあるのよ。

今の私にはそれがたいして堪えてなくたって。



「いいえ、いいえ。生まれる前に母が作ってくれた赤子用のもので良ければまだたくさん。けれどもう入りませんの。・・・・・母に一言お礼を言いたかったわ」

「リーシャ・・・・・」

「今日はお父様に会うと思ってましたの。すみません、こんなみすぼらしい格好で。父は私が母のドレスを身に纏うのがお嫌なようですの」


そっと目を伏せて笑ってみせる。

このワンピースがお気に入りだったり、赤子用のドレスはお金に変えるために隠して保存している程度の執着しかなかったり・・・・・言っていないこともままあるが、全て事実だ。

あからさまなくらいの態度だったがウィルフレドは釣れた。彼は最も攻略難易度が低かった・・・・・そう、結構単純なのだ。


「な、泣かないで。お前のことは父様に話をしてやってもいいよ」

「いいえ!お父様はお望みではないわ。大丈夫ですから、私のことなどほっておいてほしいのです。そのはずなのに、ひとりでは時々とても寂しいの」


オロオロとしてみせるウィルは実に可愛らしい。本人は母から十分甘やかされ、父も父で同じ時期に違う女性を愛していた(私の母のことだ)罪悪感や、今となっては憎らしい娘との対比もあって十分優しくしていた。

その為彼はきっと、幸せそうでない人間にとても同情したのだと思う。

乙女ゲームのヒーローだけあって、あの母親に私をこき下ろされていてもそれを見下すほどの性悪にはならなかったらしい。

どうすべきなのか戸惑うウィルに作っていた辛そうな顔が崩れる。シンプルに笑ってしまった。


ささっと顔を取り繕って、提案する。


「心配してくれるのですね。では・・・・・烏滸がましいかもしれませんが、時々でいいのでお話を致しませんか?話す相手がおらず、言葉を忘れそうなの」



目をぱちくり、ウィルは首を傾げた。

けれどすぐ言葉を飲み込み一瞬なお悲しそうな顔をして、大きく頷いた。


「それくらいでよかったらいつでも!毎日でもいいよ」

「ありがとうございます、ウィルフレド様」

「それもそんなに固くなんないで。ウィルフレドでも、ウィルでも・・・・・」


ヒーローからのあだ名の提案に心が擽られるがここですぐ頷くのは賢くない。笑顔をやめ、すっと視線を床まで落として言う。



「あの・・・・・それは、きっとお義母様が」



お許しになりませんわ。と消え入りそうに続ける。愛されたいのに上手くいかない可哀想な娘に映るといい。あの人の前で上手くいかないなら、上手くいく人に丸投げしてしまいたかった。





そして思惑通り、彼は考え込むように目を伏せた。

まだウィルフレドのキャライメージが固まってません。大丈夫か?

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