リーシャ、諦める。
中庭からの道すがら、目星をつけていたメイドが去っていくのを目で追う。
厳しい瞳で私を見ていた、あのメイドが父の執務室に出入りしているのを魔法で確認済み、というかなんなら父に私の報告をしているのだって知っている。
今日のことだって、面白おかしく・・・・・はないだろうが、きっちり報告がいくはずだ。
そう、この報告こそが今回の一連の行動目的のひとつと言えた。
「本当に魔法って万能だわ」
でも、それと同時にとても危ういものだ。
私が聞こうと思えば、相当な地位の人が住む相当にお金をかけて整えた魔法の防音壁や防御壁を無意味とすることも容易い。
そう、この力を悪用したい人間は掃いて捨てるほどいるのだ。
例えばこの私の父親もそう。今回報告が行くだろうことで、私の有効活用について頭を巡らせる事だろう。
魔法学園ではなく淑女学院にしか通わなかった母や、幼い弟はともかく父には「空中浮遊」の魔法がそう容易いものでは無いことは分かるはずだ。
どこまでできて、どこまでできないか。
それを確実に確認するはずだ。
私は父と対面する機会を得て、父の信頼を勝ち得る為の一手としなければならない。ただの駒ではなく、正しく娘だと思ってもらうのが目標である。
「けど、甘かったかも・・・・・。義母様ですらこんなザマじゃ、私お父様の前でまともに会話できるのかな?」
自分にうんざりとする。自分のことすら把握出来ないなんて。
義母との関係修復は難しいとは思っていた。だからこそ、弟のウィルフレドと血の繋がりがある父に関わりを作ろうと考えたのだ。
だが、難しい、に「リーシャがまともに動けない」という事は含まれていなかった。
シンプルに、彼女とは相容れないだろうと、それだけ。
父と向き合った時、義母の時のように取り乱さないとはとても言いきれなかった。
こうなってくるとせっかく立てた作戦もどこまで通用するのか分からない。
けれど、せめて誰か味方がいないと何もかもが始まらないのも事実だ。
「・・・・・よし。もうきっかけは作ってしまったんだから、お父様に絞ろう。ウィルフレドは後回しよ」
こくりとひとつ頷く。
ウィルフレドの方が攻略は簡単に見えるがどうしても義母がついてくる、かもしれない。
それなら父に最低限の信頼を向けてもらうという目的ひとつに絞れば少しはうまくやれる気がした。
ウィルフレドとはもう暫く他人でいよう。
そう決めると少しやる気がもてた。
「あとはどこまで‘使える’ことにするかで話が違うよね」
魔法の話だ。一歩間違えたら使える、ではなく目障り、になりかねない。
有効だとは思われないといけない。凡庸では足りない。けれど、できすぎてもいけない。
空中浮遊は私のような小娘に使える魔法でないのは確かだ。でも、王宮にいる魔法使い達ならすんなりやってみせるだろう。
ゲームの中でモンスターの大軍と戦った時、空を王宮部隊がかけ巡っていたし。
だから空中浮遊は安全な範囲の魔法と言えた。
そしてなおかつ魔法の種類も大切だ。どんなに難しい魔法でも、父の役に立たないものは意味が無いから。
今日はものすごく疲れた。考え込んでいた意識を目前の自分の部屋に向け、ふうっと息をついた。
なにか気晴らしでも・・・・・と頭を巡らせ、とってもいい考えが浮かんだ。
「ご褒美に手紙を書こう」
なんだか気持ちが上向いてきて、単純な自分がおかしい。
けれど、だって、そう!
「私が頑張るのはクークたんに会うためだもの!」
今思いついたところではあるが、これが正しい道なのだと確信が持てる。クークたん宛の、推しへのファンレターをご褒美に、今日を乗り切ったと言って過言ではない。むしろ足りてない。
クークたんに自由に会ったり、クークたんのためにお洒落をしたり、貢いだりしたい。その為の何もかもが足りない!
「ああ、祭壇でも作りたいわ・・・・・」
前世、集めたグッズを飾り立てて作ったクークリオンの祭壇を思い出す。
1番好きだった笑顔のスチルのアクリルキーホルダー。あれだけでもここにあれば義母とでも対決できそうな気がした。
そもそもこちらには本物がいるのだ。仲良くなったら肖像画でも描いてもらおう。
プライバシーなんてないので手紙は勿論父も目を通しているはずだが、ただの愛を語っている手紙だ、恥ずかしがる必要もない。クークたんに愛を語りたくなるのは人間の本能なのだからこれを遂行してこそ人間といえるのではないだろうか。
そんな彼とはいつか夫婦になるのだ。そして夫婦になったら毎日眺められるのだ、あの顔を!
私は本格的に晴れ模様になった心中で自分の部屋へ足を踏み入れた。
三日に一度で既に二通の恋文に見せかけたファンレターが届いているクークリオンは屋敷でひとつ、くしゃみをしていたそうな。
短くなってしまいましたが区切りがいいので。




