リーシャ、弟と義母に会う。
ここ一週間をかけて、弟ウィルフレドに近付こうとお屋敷の中をウロウロしてみたり、彼の部屋の近くまで行ってみたりしたのだが・・・・・勿論会わせてくれず、また、たまたま出会うなんてこともなかった。
メイドたちが私が部屋を出るとすぐその情報を義母達にリークしているらしい。なんともご丁寧なことだ。
そこで、私はズルをすることにした。
「使えてラッキーよね」
ルンルンと鼻歌を歌いながら、指をパチン。気分はマス〇ング大佐だ。
指先にほんの、マッチほどの火が現れる。
種も仕掛けもない、これこそ魔法である。
マッチの火くらいならリーシャの年でも使えてそんなに違和感はないだろう。けれど、私は部屋で色々と実験をして、気付いたのだ。
「私、強くてニューゲームってやつなんだわ」
さすがに部屋の中なので爆発したり家具に被害がありそうなものは使わなかったが、逆に言うと使おうと思った魔法は全て使えた。
特にゲームでは高ランカーしか使えなかったはずの転移門も呼び出せたし、生き物以外に使える時間を巻き戻す呪文も有効だった。
そう。私は既にこの国でもひと握りと言っていいレベルの魔法使いなのだ
サクサクと歩みを進め、出てきたのは中庭。
嫌われ者ながら、幽閉だとか食事も与えられないとかいうレベルの虐待がなくて本当によかった。
愛というものを殆ど与えられてない上に無視されるしどうしても会話をとなると猛毒がその口からは飛び出すけど、まあ、記憶を取り戻した今となっては些細なこと。のはず。
記憶を取り戻す前の私も確かに私なのだが、なんだかその頃の感情が薄い。多分自己防衛の為なんだろうなあ、人体ってすごい。
兎にも角にも、中庭へ出てきた私はぐるりと当たりを見渡した。
柔らかい日差し。視界良好。
目当ての部屋の窓をチラリと視界に収める。大丈夫、カーテンはひかれてない。
ふわりと体を浮かせる。空中浮遊だってお手の物だが、簡単そうに見えてこれは運動神経やバランス感覚も関わってきて地味に神経を使うのだ。
宙吊り状態にならないよう、頭がきちんと体より上にあるよう浮きながらある部屋の前へ。
そう、そこは。
「義母様」
義母の部屋の前。
そう、どうしてさっきからこんなことを考えているのか。薄まった感情をたぐりよせようとしていたからに他ならない。
私が持つ、義母への恨み、悲しみ、そして・・・・・愛してほしいという純粋な好意。
計算づくだ。ウィルフレドに見せつけようと言うだけ。でも、嘘じゃない。
私が、リーシャがずっと思っていた気持ちを伝えるのだ。
「おかあさま。私、そんなふうに呼んでいいのか分からないのです」
大丈夫、中にいるのはウィルフレドだけ。義母は奥の書斎の中だときちんと探知済み。
「おかあさま、魔法が・・・・・魔法がうまくなりましたのよ」
「私、少しもお役に立てませんの?」
「早くこのお屋敷からクークリオン様に貰われていってくれなければ、顔も見てくれませんの?」
「ねぇおかあさま。どうかこの窓を開けて、一度でいいから私に笑ってくださいませんか・・・・・」
中でウィルフレドが動く気配がした。
多分同情心を引けたと思う。どうしよう、もう一押しするか・・・・・と考えていると、書斎の戸が開いた。まったく想定外である。
義母の気配はウィルフレドに近付くと、すぐに私にきづいて、窓を開けた。
焦って隠れるのが遅れた。目が合う。合ってしまう。
私を心から憎むその目が、私を映す。
「なにをしているの?汚らわしい。あたくしの前によく姿を現せたわね。まさかあたくしの可愛いウィルフレドに危害でもくわえるつもりだったのかしら?・・・・・どうして旦那様はこんな穢らわしい人間を屋敷に置くんでしょう、ねえ?」
まくし立てられ、反論も出ず黙り込む。
まさか出てくるなんて。いつも書斎に1時間は籠るのに。こういうつもりじゃなかった。いいえ、その可能性も考えていたけれど。
凛は平気でも、リーシャには平気ではなかった。
「お、かあさまは」
「お前の母になどなった覚えはなくてよ!口を慎みなさい」
ああ、ああ。失敗だ。リーシャの気持ちが追いつかない。
ウィルフレドが可哀想だと思ってくれるようになにか言えたらいいのに、せめてなにか言い返す気概を持てたらいいのに。
どれも覚束ず、視界が滲んだ。
「こんな方法で近づくとは思わなかった。正当な方法で会うこともしないなんて、礼儀を知らない下等な生き物はこれだから嫌だわ!目障りだから二度とこのようなことはしないで頂戴」
音を立てて窓が閉められ、ついでにカーテンも引かれた。
頬に涙が伝う、せめてこの涙くらいウィルフレドに見せつけられたら意味もあったのに。
半ば呆然としながら地面に降り立った。後ろからひそひそと私のことを笑う声がする。
それがとても気にかかり、俯きかけて・・・・・ハッとして顔を上げた。
「俯いてる場合じゃないわ」
キッとこちらを見て笑うメイドを睨みつけ、踵を返した。
分かっていなかった。リーシャだが凛だった私は、凛がいなかった頃のリーシャの傷を浅く見積もっていた。
こんなに怖いなんて。義母から離れた今はまた凛の意識の方が強く、どうしてあんなに上手くいかなかったのか分からないほどだ。
でも。
「そりゃそうか・・・・・」
独りごちる。凛の記憶があるから今は家族というものを知っているが、なければ今のあの義母が家族だ。
嫌われたくなんて、そりゃないよな。
分かるよ、わたし。
自分の浅はかな考えにひとつ息をついて、でも笑ってみせる。
それでも。とりあえずの目的はクリアだ。
リーシャと凛のイメージを損なわず話を作るのが難しい、、
早くまたクークリオンを登場させたいです。




