リーシャ、それは。
寂しかった。辛かった、苦しかった。
身の回りの全てを恨んだ。
私にはどうしてこんな結果しか待っていないのかと。
枯れてしまった涙は流れない。
ただ求められるまま可哀想な顔をして、愛してもいなかった死体をかき抱いた。
冷たい体。気持ち悪かった。
愛する予定だった人。宛てがわれ、今まで少なくない回数を顔を合わせた。
家にいる人達を除けば一番多く・・・・・なんなら、家族よりも会ってきたかもしれない。それだって、“普通の人達”から比べれば回数としてはそんなに多くはないだろうが。
けれどこの人は私を見なかった。この人から向けられた無感情な視線は冷たく肌に突き刺さり、私を凍えさせた。
その視線すらもう私にむくことは無い。
ただただ理不尽を嘆いた。
私にはどうすることも出来なかったし、どうしようともしなかった。
「ああ、なぜなの」
身の回りの全てより、自分が憎らしかった。
私は最後まで他人の力を求めた。
そんな人現れるわけないと言いながらも、自分ではもがきもせず、どんどん遠のく水面に誰かが引き上げてくれるのを待っていた。
両親、兄弟、そしてこの人。
もしかしたら愛してくれるかもしれない、私を見てくれるかもしれない。
私を家族だと。
誰でもよかった。誰でも。
私を見つけてくれたら、私はきっと雛鳥のようにその相手を盲目的に信じただろう。
騙されてもよかった、上辺のものでも、もうなんでもよかったのに。
ーーーそれすら手に入らないなんて。
けれど私だって分かっていた。
声を上げて助けを求めたことも、助かるために努力をしたことも無かった。
それでは助かるはずもないことだって、本当は。
「なぜなの・・・・・」
私はそれでもそれを飲み込みたくなくて、目をそらしたくて、信じたくなくて理由が分からないふりをする。
逃げ続け、その結果私は今こうしてここにいる。
ああ。いなくなればいい。こんな私がいなくなれば・・・・・
殺されてしまった、目の前で命を奪われてしまったこの人を一層強く抱きしめて私は悲劇のヒロインの顔をした。
* * * *
「・・・・・っ、う?」
私はベッドの上で目を覚ました。
なにか夢を、怖い夢を見ていた気がするが思い出せない。
目は冴えてしまって2度寝も出来そうに無かったので、そのまま布団を降りた。
窓の外はまだ暗く、夜の帳が降りていた。
「めっちゃくちゃ人肌恋しい・・・」
孤島にでも取り残される夢だったのか、寂しさだけが残っていた。
こんな夜にクークたんにでも会えたらなあ、とため息をつく。
けれどこんな夜中に逢いに行く訳にも行かないし、と考えて私は閃いた。
「・・・・・寝顔をウォッチできるんじゃん!私魔法使いなんだから!!」
なんというグッドアイデア!と拳を握りこんだ。
自分の発想にお見逸れする。さすが私、天才かもしれない。
うひひひひとほくそ笑んで目を瞑る。
遠視の魔法。盗視ではない。ええ、本来は。
「でも、結局こんな魔法、バレずに取引を観察するだとか、他国の軍備を確認したりとか盗視にしか使わないもんね?一緒一緒」
誰に聞かれるでもなく言い訳をモゴモゴしてみてから視界に映ったクークリオンの自室に意識を向ける。
自室、とは言ったが場所は彼のお屋敷ではなく王宮。クークたんの居場所は屋敷かここの二択だが、恐らくスタンピードに向けてだろう、最近は情報収集などでこちらに泊まり込むことが多いのだ。
王宮に用意された彼の部屋の明かりは落とさているが、こちらに気配があったため屋敷に帰っている訳でもないようだ。
クークたんの部屋はいつみても整然と整っており、暗いブラウンの家具で揃えられている。
クークリオンらしい部屋に最初は大変興奮したものだった。
「クークたんは、と」
ベッドの中に意識を向ける。クークたんが寝ているらしい布団が膨れていた。ビンゴである。
健やかなクークたんの寝顔をーーとした所で、クークリオンの部屋のドアがノックされた。
私が寝顔を見る前にクークたんは目覚め、「なんだ」と部屋の外へ問いかけた。
悔しい、後一歩遅かった。入室の許可を求めた声は聞いたことが無いものだった。
クークたんは許可を与えーーー中に入ってきた人物に私は目を見開いた。
「クークリオン、夜更けにすまない」
「いいえ、殿下」
プラチナブロンドに、金の瞳。猫目の少年に、クークリオンの『殿下』という呼び方。
間違いない。
「エルネスト・・・・・!」
攻略対象に興奮を覚える。
特に攻略できるキャラの中でイチオシだった相手である。芸能人に会ったくらいには喜ばしがった。
エルネストは慣れた様子でクークリオンの部屋に入り、ドアを後ろ手に閉めた。
彼の自室は王宮も屋敷もよく覗いているが、エルネストと会っているのは初めて見た。
ゲームの設定で彼らに親交があるのは知っていたし、部屋を訪れたらしいことがわかる台詞もあった。
だがどれもゲーム本編の中の話だ。
「ゲーム前から部屋に入り慣れているくらいの仲って訳ね」
クークリオンは椅子を進めると戸棚からティーセットを取り出した。普通メイドを使うため、自室にティーセットは非常に違和感を覚える。
恐らくはエルネストの来訪を隠すためか?
「殿下、先触れもなく抜け出してきては周りが可愛そうです」
「誰も気にしたりしない。俺はな」
卑屈そうに笑う彼は、既に兄に対する劣等感に苛まれているようだった。
クークたんは軽く息をつくと、目を細めた。
「何度も言うようで恐縮ですが、私はそういう負け惜しみのようなことを仰るのは無意味だと思います。結局あなたは努力なさっている」
「・・・・・お前も日々遠慮がなくなるな」
「私は忠実な臣下、時には苦言も申しましょう」
大きなため息をついたエルネストは笑った。
「お前といると気が晴れるようだ」
「ではいつなりと。ただし先触れをいただきたいところでございます」
「お前・・・・・・」
「さあ、無意味な話はやめて、意味のある話をしましょう」
「うん?帰れではなく、話だと?」
クークたんが入れたお茶を口に運んでエルネストは首をかしげた。そこをぜひ変わってほしい、推しの入れた紅茶なんて一体いくら出せば飲めるんだ。いやいくらでも出そう言い値で買おう。
「ええ。実は有益な情報が」
「有益?父にではなく俺に伝える事が?」
「陛下へは私の身分で謁見できるタイミングは限られますし、公にしたいことでもありませんので」
ふうん、と頷いたエルネストにクークたんは言った。
「実は、巻き戻し魔法の使い手を見つけました」




