リーシャと千草色。
私は狂喜乱舞していた。喜び勇んでいた。興奮していた。こうなっては今から全裸待機も辞さない構えだ。
この喜びに足る言葉が、どのように表現しても出てこない。
そのくらいには、私は喜んでいた。
勿論なにかはあると踏んでいた。しかし、それは「ついで」として、定期のお茶会で話されるものか、手紙で済んでしまうかと思っていた。
けれど。
「ま、ま、まさかクークたんから会いたいなんて文面が届くなんて!!」
手紙が来た。内容はおそらくは例のスタンピードについて。
けれど、きっと手紙には書きにくかったためだろうがはっきりと目的は触れられず、ただ会いたいので都合のいい日を伺いたいとだけ。
会いたい。その文字が、推しの手書きで届く。なんていい人生だろうか。今すぐ生涯を終えたいくらいの気持ちだ。
「いいえ!クークたんに会わずして死ぬのか、いや死ねない!」
ガバッと立ち上がって叫ぶ。防音魔法をかけ忘れていた為か外でガタガタ揺れる音がした。
メイドか誰かがびっくりしたようだったが、正直どうでもいいので、無視。
そんなことよりも、と真顔で椅子に腰を下ろした。
私はとんでもないことに気づいていた。
ーー私、ここ2ヶ月で4回推しの顔を拝んでるわけ?4回生の声を聞いて、会話して?恵まれすぎてない?
「やっぱりそろそろ死ぬのかもしれない・・・・・」
でないと幸運のバランスがおかしい。世の中の人間と私で幸福度が違いすぎるだろう。
とりあえず拝んでおくか、と手を合わせて幸福を感謝してから、私は思いついた。
「・・・・・うちに呼べば、もしかしなくてもカップを割って手に入れる手法が使えるのでは・・・・・?」
前回の失敗からなにも学んでいなかった。
私は欲望に忠実な人間だった。
前回思いついた事だけはしっかり覚えていて、我が家でカップを割るというおそらく非常に馬鹿な思いつきに垂れかかったよだれを拭った。
ーーーどうせ前回痴女っぽいとは思われてるでしょ。
ここまで来たらもうひとつ何かが増えても変わらないさ。なによりバレなきゃいいんだから。
「へへへ・・・・・」
手紙を慎重に汚さないように仕舞って、指紋がつかないように付けていた手袋を脱いた。
と、その直後後ろに気配を感じた。
「ん?何か用?」
「機嫌良さそうだから、今がいいかなって!」
ノックもなく現れたのは、そんなことが出来る相手はわかりやすく、振り返りもせず声を掛けると明るい返事が返ってきた。
首だけ振り返ると居たのは予想通り、いつもの水精霊。
私の姿をしてニコニコわらっている。
「私の機嫌?なにか欲しいものでもあるの?それかお給料・・、魔力の増加のお願いとか」
「それも魅力的。まあお願いっていうのは、当たらずしも遠からず・・・・・」
スタスタ歩いて私の前に回り込んだ彼女は手を差し伸べた。
「名前をくれませんか?」
名前。瞬きをひとつして、意味を理解した。
精霊が名前を求める。私が名付ける。
「それって、本契約しようってこと?」
「ええ!だってご主人って楽しいし、これだけ頻繁に呼んでくれて魔力も贅沢に貰ってるし、充分理由にはなるでしょ。ダメ?」
「別に・・・・・ダメではないけど」
水精霊は可愛らしく小首を傾げる。
本契約。主の寿命まで他に浮気しない宣言だ。しかもその約束は死を持って以外破ることが出来ない。
私も水属性をとなった場合基本的には彼女しか使えなくはなってしまう、が。彼女の実力も折り紙付きだし、私に不利なことは殆どない、というか今のところ思いつかない。
少し考えて、考えた所でよく分からないことだけを理解して頷いた。
「ま、いっか。いいよ、契約しようか」
「やった!名前は?」
なるようになる。
楽観主義が今世の私のトレードマークだ。
となれば、と名前を考える。
水精霊。私になりきっている仮装を解いてしまえば、水色の小さな、それこそ妖精のような姿をする彼女。
ふさわしい名前、と考えてひとつ思い当たった。
前世で一時ハマっていた万年筆。色んな色のインクを買って、気に入っていた青色のその名前。
「千草、でどう?」
千草色。ほんのり緑がかった、綺麗な青。本来の彼女の髪の色にとても近かった、気がする。
遠い前世の記憶なので絶対と言えないあたりが私のクオリティだが、凛に馴染み深い名前で、リーシャからしても素敵に感じた。
「チグサ・・・・・?」
「うん。青色・・・・千草の青い髪の色の名前なんだよ」
笑ってみせると、千草はちょっと考えてから頷いた。
「いい名前だと思う。ありがとうリーシャ。そうしたら、はい」
千草は自分の魔力を纏わせた手でそっと私に触れた。
私の体の中にそれが違和感なく流れ込む。
すこし体が暖かいような気がする。魔力がサラリと体の中を巡って、私の魔力とまじったそれが、今度は千草の方へ流れ込んでいくのがわかった。
千草の魔力がふわりと体から香り立つように出てきて部屋を満たした。
私の目にはその魔力こそが千草色に見えた。
「これからよろしくね、ご主人」
にっこり笑った千草は、いつも通り私の形をしていたけれど、どこか私とは違う笑い方をしていた。
いつもありがとうございます。
欲望に忠実なリーシャをご覧くださいませ。




