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      見えないところまで見ようとする気持ちが大事

三十九話目:その3


火が上がる銭湯を見て、ベリアルはスマホを取り出し、どこかに電話をかけた。「火が上がっていて」と言っているから、おそらく消防局だろう。そのあいだに、慌てて服を着た秀正が出てきた。髪が濡れそぼっていて、風呂から上がって間もないとわかる。

「し、消火活動をしなければ……」と困惑する彼の腕を掴んだ海斗は走り出した。


「消火活動は本業に頼んださ!それよりも、あんたは早く逃げなくちゃいけない!」


 電話し終えたベリアルも追いついてきた。 5人の髪が、服が向かい風によってなびく。

 すぐうしろには、犬型ロボットが迫り来る姿が見える。 その中には、謎の中年の男が、馬形ロボットにまたがりっているのだ。 それを振り向いた海斗は、思わず険しい顔をした。


「あいつら何体いんだよ!! いけませんよ!! 散歩だけで人様に迷惑かけるほど飼っちゃあ!!」


 バルたちも同じような顔をしていた。 なんであんなやつらに追われないといけないのか、理解に苦しんだ。

 そんな中アイナは覚悟を決めた。 どんな理由があれど、追われるのはバルによくない。 これ以上、変な状況に置かれてはますます立場が悪くなるかもしれない。 ここは中央街──多数の目があると。 ならばそれを自分に集めればいいと、剣の柄を握った。

 その時、秀正が口をあけた。


「85体だ」


 海斗ははじかれたように秀正を見た。


「はぁッ!?」


「だから、85体、犬がいる」


「なんでそんな正確にわかんだよ!! でたらめ言ってねェで走れやニートォッ!!」


 なぜそんなことがわかるのか、わけがわからなかった。 振り返れば、数えるのもおっくうになるくらい砂埃をまきあげているのが見えるのに。 そんな冷静に数えられるものか?

 しかし、秀正を見ると、いたって真面目な横顔が目に入ってきたのだ。 嘘は、ついていないのだろうか。

 柄から手を離したアイナを、横目で見たベリアルは、「ちょっとごめんね」と言って、横に分かれた小さな道に走っていった。 すると何匹かの犬が彼女を追いかけていったのだ。

 海斗は痛そうに目を細め、彼女の消える背中を見た。 まさか、少しでもこちらから数をひきはがしてくれたのだろうか。 だとしたらば、必ずやこれらから逃げ延びねばならぬと思った。


「絶対にあいつらの近くにいっちゃあいけないぞ」


 すると、秀正がそんなことを言った。

 海斗は横目で彼の顔を見た。


「そりゃ近くになんていかねェよ」


「違う、ここから少しでもうしろにいっちゃいけないってことだ」


 バルにも、アイナにも、不思議な色が顔に浮かんだ。 もはや、前を歩く者たちが多くの犬を見て傍にそれていく。

 襲われるのはわかる。 間近によってしまうと一斉に襲い掛かられて命を落としてしまうかもしれない。 誰が作ったのかもわからぬ機械に近づくのは悪手である。

 しかし、この想いと少し違うそれを抱いているのか、秀正は険しい顔から戻さなかった。


「あいつらの身体が赤い……高温の熱源がある証拠だ。 きっと爆弾でも隠し持ってるんだろう。 銭湯での爆発も、あいつらのせいだってわけだ」


「赤ァ? 赤くねェよ、グレーとブルーの外装だよ」


 秀正は海斗を見た。


「え? どう考えても、胸らへんが赤く光ってるだろ?」


 バルとアイナは一度、犬を振り返った。 しかし秀正が言うような赤など見えず、海斗の言う通りグレーとブルーの身体があるばかりだった。


「いや、やっぱりグレーとブルーだけですよ。 大丈夫ですか? 灰色な生活をしすぎて、真っ青な視線を浴びるのが嫌になって、ついに別の色が見えるようになりましたか?」


「そういうんじゃなくて……」


「姫、それも彼にとってはブルーな気分になる発言です、ニートでクソみたいな人生を這いずり回っている方には、もう少しほんのりあたたかな言葉を投げつけてやるほうがよろしいかと」


「あんたが一番ブルーな気持ちになる発言してるよ? 青通り越して顔面蒼白だよ?」


 海斗は少しばかり、バカにした目を向けた。


「爆発って……ラカリの機械じゃねェんだから。 あのおっさんはラカリじゃねェんだろ? じゃあ爆発なんて……」


 そう言ったすぐに、はるかこの大通りをそれた後方で、大きな爆発が起こった。 離れたここの地面さえも震えさせるその爆発は、容易に周囲のビルの背丈を越えた黒煙をあがらせた。

 海斗たちは絶句した。 なぜならば、そこはベリアルがそれた道の先なように感じたからだ。


「あれ……あいつが向かったところ……」


 本当に爆発した。見た感じラカリの機械には見えないのに、なぜ。 いまだに海斗たち三人は、秀正の言う赤色は見えないが、爆発物があるのはわかった。

 しかし、ベリアルがどうなってしまったのかが気になった。 ただただ「ありがたい」という感情を抱いてばかりだったのに、あの瞬間から心配の色に心はぬりたくられた。

 すると、右側のビルをぶちぬいて巨大な犬型ロボットが現れた。 見上げるくらい大きな顔をぎこちなく海斗たちに向けたと思えば、サングラスのように黒い帯の目が、赤く光ったのだ。 海斗たちはたじろいだ。 なにをやってくるのかと身構えたものの、うしろからは距離を潰し来る犬の足音がすぐそこに聞こえる。

 海斗とアイナは柄を、バルは短剣をするりと袖の中から抜き取り、秀正は懐の水鉄砲をにぎりしめた。 無理なのかもしれない。 わけもわからず捕まって、なにかしらの最悪な結末をむかえてしまうのかもしれない。

 そう思った時、大型の犬の顔に、火に包まれた大きな何かが激突した。 倒れた犬は地面と頭がぶつかるとともに爆発し、間も無く火の塊もふき広がった煙から抜け出て、宙で円を描いたと思えば、海斗たちの横について止まった。


「間に合ってよかったよ、こいつもちゃーんと動いてくれたしね」


 火の塊になっているのは、リヤカーのような乗り物だった。 長方形の板をはさむように大きな車輪をつけて、高くなった前側に、つけられたハンドルを握るベリアルがいた。 後ろ側は誰かが乗れるようにスペースが広く取られてあるのだ。

目を白黒させている海斗に、ベリアルは「話はあとだ、乗んな」と言う。 海斗は、何の気なしにサッと乗ったバルとアイナにますます驚きつつも、男二人も乗った。 その直後に勢いよく走り出し、よろめいた海斗は、つかんだ手すりにもっと驚いた。

 この戦車、木でできているのだ。 燃えていると言うのに、この茶色は銅かなにかの金属だと思ったのに。 神話の類で聞いた、ベリアルの、「火が燃え上がる戦車」とは、木で作られていたのだ。


「あの男……さっきやっと思い出した。 あいつ、ラカリと仲良くしてたエンジニアだ」


 ベリアルはボソッと言った。 ごうごうと燃える車輪の音にまぎれて聞こえてきた。

 アイナは口をあけた。


「知っていらっしゃるのですか」


 ベリアルは頷いた。


「カイキ、それがあいつの名前だ。 すっかり忘れてた」


 海斗は、その名前を聞いて、1つの記憶をたぐりよせた。 カイキ……あのときの、秀正の一っ風呂を待っていた時のニュースで聞いた名だ。 確か、秀正が今回の騒動の主犯格であると明らかにしたという男だ。

 バルもアイナも、ちょうどその同じ記憶を掴み取った。

 すると秀正も言葉を紡いだ。


「確かに……カイキで間違い無いですね」


「はぁ?」


 なにを言い出すのかと思いきや、へんなことを言うもんだと横顔を見た海斗。 彼はまたしても、いたって真面目な顔だった。

 あのテレビは見ていないはずだ。 それとも初めから知っていたのだろうか、ならば言ってくれればいいのに。 カイキという男が、今回関わっているとは思わなかったのだろうか。


「お前、なんで知ってんだよ。 教えてくれてもよかったのに」


「いま、ちょうど……なんか、ふわって浮かんできたんだ。 箱に閉じ込められた記憶が解放されたようだった。 いや、え、なんて言うんだろうな……」


 しばらく秀正が唸っていたが、それを断ち切るように、ベリアルが声を出した。


「あんた、こっち向きな」


 言われた通り、「うん?」とベリアルに向いた秀正の額に、ものすごい勢いでレンチがぶちあたった。 ベリアルが、後ろ手で投げたレンチだった。 秀正は倒れこみ、レンチが床にカランと落ちた。

 死んだ──三人はそう思った。 とんでもない速さだったのを目撃したから、あれで生きているとは思えなかった。

 しかし、穿たれた額からは血はおろか、はがれた皮膚から真っ赤な肉が見えることもなかった。 それらの代わりに、なんと、灰色や黒の金属に、カラフルな小さなランプが見えたのだ。

 それに絶句する海斗たちを機にすることなく、ちらっと振り返ったベリアルは言う。


「やっぱりね……生きてんだろう? さっさと起きなよ」


 その言葉通りに、秀正はのっそりと起き上がった。

 こいつはロボットだったのか? ずっとひた隠しにしてきて、自分たちを襲おうとしてきたのか? カイキが明かした情報は、本当だったのか?

 しかし当の本人は、自分の状況を飲み込めていないように、額を触りながら目を揺らしていたのだ。


「ど、どういうことだよ」


 海斗が呟いたら、ベリアルは言葉をついだ。


「あの犬っころが赤く見えるだの、いまふわっと思い出しただの、変だと思ったんだよ。 そんなことできるのは、機械しかいねぇってね」


 そして、「それにあんた……」と続けようとしたとき、戦車は急に横から出てきた犬をひいて、爆発で宙に浮いた。 海斗は、手すりを掴み損ねたバルの腰を抱き寄せ、手すりにすがった。 アイナも横でへばりついていたが、秀正はどこもつかめず戦車から離れてしまった。

 そこを逃さんと、同じカラーリングのワシ型のロボット3匹が距離を潰し、2匹は肩を貫き、1匹は首を鷲掴んで去っていった。 よくやったと言わんばかりに、カイキは指笛鳴らしたと思えば、3匹は旋回した。 カイキは犬を半数程残して、横の道にそれていった。

 なにもできずに墜落した戦車は、火を絶やすことなく、部品を散らすこともなかったが、海斗たちは衝撃で投げ出されてしまった。

 そしてベリアルは痛む腰をおさえながら、見た。 身体が人型で、顔が犬のロボットが海斗を押し倒しているのを。 なんとか海斗はそれの手を掴み、潰されないようにしているが、それも時間の問題だと感じたときにはもうすでに身体が動いていた。 獲物を持たぬ身だが、修理に使う道具ならば持っている。 力一杯投げつければ、この状況だけはどうにかなるだろうと踏んだ。

 しかし、彼女は目を丸くすることになった。 背中を地面に押し付けられていた海斗は、ロボットの腹を蹴り上げ、手を離し、その刹那、真剣を抜いて真っ二つにしたのだ。 そして爆発する前に地面を蹴って抜け出した。

 ベリアルの脳裏に、サタンの言葉がかすった。

──不気味さがどうしてもぬぐえない。 あいつは、大量の加護がついてるだけで、勝ったんだぞ。

 彼女の眉間にシワが刻まれた。

──おかしいと思わないか? いくら大量の加護つきだと言え、ただの人間が魔王に勝てるか?

 多分、アイツが抱いてる不気味さを、いま、自分も抱いたんだろう。 確かに、ただの人間が、魔力どころか膂力すら他の世界の人間に負ける世界で生まれたただの男が、あんなことができるはずがない。 多くの加護をもらい、それが体内に残留しているのだろうか──そんなのはありえない。 もうあれからかなり経っている。 たとえ残ったとしても、もう全部放出されているはずだし、いまの行動に驚きもせず、ただ当たり前のようにロボットに眼差しを向けているのも妙だ。 あれは……昔から、あの動きをしている顔だ。

 あの戦いで、加護をさずかる前から……。

 しかし、いまここでは大きな戦力となるのは明らか。 うまくやれば、ここを切り抜けられる……。 そして、自分の考えがあっていればだが、秀正を奪われたままでは絶対によくない。


「絶対にアイツを奪い返さなくちゃいけない!多分、アイツの身体ン中のアレを使うつもりなんだ!」


ベリアルがそう叫んだら、跳びかかってきた犬をまとめてぶった斬ったアイナが振り返り、カイキが去っていった方へと走り出した。


「ならば私が追います!!ラカリのラボは任せました!!」


 1つの跳躍で犬の群れを超えると、着地する前に翼を広げてビルの群れに消えた。

 すれば犬たちもそちらに向かい、この通りに、海斗たちは残された。


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