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      きっちり最後まで人の話は聞け

 中央街の大通りと言われる道からそれた、それよりも少し道幅の狭い道があった。 けれど、人通りは少ないとは言いがたいその通りの電柱の影に、海斗とアイナ、バルの三人は、正面のほとんどをガラス張りにされた店を見つめていた。 この角度からは店の内容のほとんどが、光の反射で見えず、初めてみる海斗は、なんとも言えぬ気持ち悪さを抱いていて、とうとう耐えきれなくなって口をひらいた。


「本当にあんなところにアイツがいんのか」


 つい数十分前、追っていたベリアルを見失った海斗とアイナは、あきらめて海斗の部屋に戻ったものの、胸の中には関わりたいという気持ちがくすぶったままだった。 だって、事件をたった1人で解決しに行くなんて、心配するではないか。 それを、ほとんどの情報を開示することなくいってしまった。 しかし、「1人で行く」と言われたこともあり、諦めかけたその時、バルが扉を叩いた。 なんだ、という目つきの海斗に、「ベリアルを追いたいので護衛お願いします」と言ってきて、しばらくかたまってしまうほど驚いた。 聞けば、バルも同じ気持ちだったらしく、理由を話さず外出許可をとってきたのを不審に思ったという。 それから海斗は翼を広げたアイナにかつがれ、ベリアルは中央街に店を構えていると聞き、彼女の外出理由をバルに話し終えたところで、店の前にまでついたのだ。


「いますよ。 ちゃんとここはあの子のお店ですから」


 バルはそう言うと、「ふーん」と海斗の声がへの字になった口から漏れると、また言葉をついだ。


「見失ってからそこまで時間はたっていないのですから、まだここで準備なりなんなりしてるでしょう。 あそこに木の札が見えるでしょう?」


 目をこらすと、たしかに、両開きの自動ドアの横に、木の札が見える。 小さく突き出ている杭のようなものに、ぶらさがっている。


「あれにはCLOSEって書いてあって、店を閉めているときに、あの子はあれをかけるんです。 で、ちょっとだけかたむいてるでしょう?」


「……うん、まぁ」


 バルの言うとおり、少しだけかたむいているように見えた。 決して大きくではないが、確かに。

 ただ、それがどうかしたのか、なんて思っていると、その疑問の回答をバルは言う。


「あぁやって傾いてる時は、中に自分がいるって知らせる時なんですよ」


 海斗の口は、いつの間にかあいていた。 なるほど、自分がそこにいると、知り合い以外に知られたくない時に、その手段を使ったりするのか。──だが、そうなるといまの状況としてはそぐわなくないだろうか。


「1人で行くとか言っときながらそうすんのか……」


「ひょうひょうとしてますが、根は真面目ですからね。 もしもの時に対処できるよう、ああしてるのでしょう」


 そう説明されても、海斗の眉根はひそみ、どこか気に入らない気持ちが顔に出てしまっていた。 アイナは、うんうんと頷いたが、どこか信じられないでいた。

 そう思ったら、次の行動に移るまでははやかった。


「いーや、きっとツンデレなだけだねアイツは」


 海斗は言って、バルの手をはらいのけると、ゆっくりと立った。 彼の背中は、2人の視線を集めた。


「1人でいいとか言っときながら、そんな態度とるなんて、きっとツンツンしてるだけ。 花音でツンデレキャラは終わりかとおもってたら、ようやくまともなツンデレが出てきたよ。 シャッター下ろさないのも、そういうところがあるからなんだよ」


「い、いや、シャッター下ろさないのも、ガラスも防弾で、中でアンドロイドが守ってるからであって……」


 海斗は、ないない、と言わんばかりに手をひらひらとふった。


「そんなんじゃないね、きっと手助けしてほしいからにきまってらァ」


 そして海斗は、ガラスにべったりとへばりつき、手でバンバン叩いてみせた。

 ほんとだ、中にロボットがいる。

 身体は棒のように細く、足はない。 円盤状になった台が滑っている──きっと車輪かなにかで移動しているんだろう。 それが三体いて、一斉にこちらを見た。 そのうちの一体がこちらにやってきてガラス越しに、表情のない顔にぽっかりとあいたようになっている、まっ黒い目があった。

 海斗はにやっと笑みを浮かべた。


「ほらほら、わざわざ来てやったぞ。 お前らのご主人を呼んできな、すぐに手伝ってやっからよー」


 バルは守ってるとかいってたが、微動だにもしないじゃないか。 守るっていうか、見守るというのが正確な表現だ。

 そしてこのまま叩いていれば、こいつたちは扉を開けてくれるのではないだろうか? なんていう気持ちが生まれ、叩く手が拳に変わった直後、アンドロイドの目の奥に、青白い光がともった。 なんだ、と身構えるとすぐに、アンドロイドは胸の黄色いスイッチを押した。

 すると、屋根から小さな穴があき、小さな鉄球が先端についた、太めの糸がひゅっと顔を出し、海斗の体を巻き取り始めた。 身をよじらせようとしたが遅く、瞬く間に、縄でしばられた泥棒のようになってしまい、吊るされた。

 目を白黒させた海斗は、「あー」というアイナの声がする方を見ると、2人は「そら言わんこっちゃない」の言葉を貼り付けた視線と、目があった。 なんだかすごく恥ずかしい気持ちがせり上がってきて、目を、通り側にそらした。 母親らしき女性にしがみつく子どもの、純粋なはてなを浮かべた顔が見えて、店側に目をそらすと、無機質なアンドロイドの目とあって、しまいに瞼を静かに、ぎゅっと閉じた。

 自動ドアがあいた音がした。

「なにやってんだい……」 と、足音まじりの声が聞こえた。 「なんでついてくるかなぁー」と続くそれは、間違いなくベリアルの声で、目をあけた海斗の視界のはしで彼女の腹らへんが見えた。

 バルとアイナも彼女につられるように近寄ってきた。


「姿、ハ、タカムラカイト。 デスガ、行動に若干ノ難アリ。 ニセモノ、デアルト判断シマスカ?」


 電子音のような声が聞こえた。 海斗は、店の中に視線をやったら、アンドロイドは2体しかいなかった。 1体は、ベリアルの後ろにいることが想像できた。

 ベリアルは、ため息が混じったような声をだした。


「いんや、いいよ。 正真正銘の、我らが魔王様だよ。 ルシファーから聞いた通り、この、みっともない姿が本物の証拠さ」


 ベリアルは、海斗を逆さ吊りにさせた糸をつかみ揺らした。 アンドロイドは、「ワカリマシタ」と、シューという音をたてながら店に戻っていった。

 それからすぐに、海斗はアイナの剣によって切り放たれ、自由に身になった。 それでも続く、数多の視線に耐えられずに、肩をすくめてなにも言わなくなってしまった。 忠告を無視した結果の恥が、身体中を駆け巡っていることが、容易に想像できた。 ベリアルは、ほんとうにめんどくさかったが、バルも足を運んでくれた故に無下にはできず、海斗たちを最上階の3階にあがらせ、布団をはさませていないこたつ机を囲ませ、茶を置いた。

 そのあとベリアルはあぐらをかき、誰よりも早く茶を飲んだ。

 彼女の、複雑そうな顔を見て、バルは口をあけた。


「まぁ確かに、魔王様の行動に文句があるのはわかりますが、思いもわかります。 目的だけ言って、理由を言わないのは、やはりこちらとしては気になりますから」


 バルはそう言って、コップに手をかけたが、言い終わっても飲もうとはせず、ベリアルを見つめたままだった。

 その視線をチラチラと見て、いづらくなったのか、ベリアルはしょうがなしと、言葉を紡いだ。


「……連日報道される爆発事件。 ありゃあ私の知り合いが犯人なんだよ」


 海斗たちの目は僅かながらに膨らんだが、ベリアルは気にしない様子で、頬杖をついて、コップに視線を落としていた。


「エンジニアの巨匠と呼ばれたジジイがいてね。 名は、ラカリ。 姫さんやアイナは知ってるだろう。 そいつはテレビとか電子レンジとかの、日常的に使われる機器を作るのがとにかくうまかった。 私もいつか追い抜いてやろうってー目標にもしてた」


 そう言い終わると同時に、眉間にしわを刻んで、さらについだ。


「でも……あいつは晩年、トチ狂ったように、機械に命を吹き込もうとしたのさ。 ようするに人工知能を使った機器だな、それを必死に作り始めた」


 バルとアイナの目の奥に、疑問の色がともった。 海斗は事情を知らぬ故に、興味なさげに一応聞いてはいたが、彼の名を知る2人は一気に興味を抱いた。

 爪が汚れていないかを確認し始めた海斗を一瞥して、ベリアルはまた言葉を紡いだ。


「しかも、人の害をなす方向に作っていった。 それからくらいかな、テレビとかに加えて、ペットロボットの作成にも力を注ぎ始めたのは。 前々から作ってたんだけどね。 そいつは飛ぶように売れた。 人工知能で、主人の言葉を覚えたり、外に連れ出せるように頑丈に作ってあったりと、とにかく超手軽にペットが飼えるって流行したもんさ。

 でも晩年、一定の条件を満たせば爆発したり、炎上したり……言わば兵器としての役目を、そいつらに与え始めた。 当然、電気屋に並べられてたからね、いっときニュースで騒がれたこともあった

 一緒に作ってた研究員もいたんだが、そいつらもドン引くほどだったらしい」


 バルたちは、その事件を覚えていた。 中央街の大型家電量販店で、店で一番大きな薄型テレビが次々と火をふき、爆発した。 一番近くの窓でも相当歩くのに、そこからもうもうと黒煙がふきあがっている映像が、当時ニュース番組で流れていた。 死者は十五人にものぼった。 確かに、そのテレビの製作者はラカリだった。


「なにかやりたいことがあったんだろうけどね、多分、その道半ばにして死んだんだろう、それからは目立った事件は起こらなかった。 だが最近、妙な動きをする機械を見てね……硬い素材でできてるのに小さく身体をくねらせながら、路地を進むテレビだった。 向かってる先にゃあ小さな電気屋があったことに気づいてね。 観察したら、左下に、アイツのマークである、不安定に重ねられた3本のネジが描かれてあった」


 目的見たさに最後まで手ェ出さずにいたら、電気屋の前で爆発したんだけどね。 そう言って、ベリアルはほくそ笑んだ。

 バルの閉じた口の奥から、「うー……」という、疑問混ざりの理解の声が漏れた。 ベリアルの言う通り、目的が見えなかった。 そんなことをするまっとうな理由を見つけることができずに、代わりに、ただの狂人になりさがったという、どうしようもなく陳腐な答えが脳裏をかする。

 その少ない材料でなんとかしようと、バルとアイナは考えてみるが、そんなのもめんどくさいと思った海斗は、言葉がとぎれたのを良いことに、「目的ねェ……」と漏らしながら、ひらけた窓に寄り、外を見た。


「そんなもんわかんねェけどよ」


 海斗は見下ろした通りの、すぐ向こう側にある店の前に目をやった。 そこには、飲食店があって、その周りを半円状に囲む人だかりがあった。 彼はそこに指をさした。


「その機械って、あれ?」


 なにげなしに、ベリアルは海斗の横に立って、さされた場所を見ると、確かに、自分が見た、真っ赤で小さな薄型テレビが、距離をとって興味深そうに見る野次馬に囲まれていた。

 あー……確かにあれと同じだなー。


「まぁ、そうだね。 ちょうどあれと同じだったよ」


 心に思った時、自然と口をあいていた。

 するとその刹那、テレビが微小の光を放ったと思えばすぐさま爆発した。 ふき広がった黒煙があっという間に野次馬を呑みこんだ。 轟いた音に、バルとアイナも駆け寄り見、4人の顔に騒然たる影が降りた途端、海斗が先陣切って、バルとアイナも窓から飛び降りた。

 3階にいたときよりも、喉の底を焼くようなくぐもった煙のにおいがする。 広がった煙の先から、焦げる臭いもすると思えば、店を燃やす炎がちらほら顔を出していた。 大体の野次馬は逃げていたが、煙の中から男のうなりなどが聞こえてきて、海斗はたっぷりと息を吸って、煙に走りこもうとした。 すると一気に背中を押されて、走る足を止め、風にあらがった。 するとすぐに大量の水が放たれる音が頭を打ち、しぶきが頭と背中を濡らした。


「まさかウチん前で爆発させられるたぁー……次の被害者はウチかい? イヤなもん見ちまったねェ、ねェ? 魔王さん」


 後ろを振り返ると、気だるい顔で細い放水ポンプを持つベリアルと、横で、両手をプロペラにさせて風を送る2体のアンドロイドがいた。

 店めがけて放たれる水は、まだ表面にしか広がっていない炎をたやすく鎮火させた。 よく晴れていたこともあり、まだ舞うしぶきの中に小さな虹がかかっていた。

 野次馬の中には、怪我を負うものもいたが軽傷らしく、すぐに走ってこの場を離れていった。

 海斗は少し目を尖らせた。 こんなことが多く起こるようであれば、すぐにでもラカリの拠点を見つけ出さねばならんと決心した。 と、その時であった──まだ爆音が鼓膜に余韻をあたえおわらぬここで、声が後ろ高くで聞こえた。


「あぁ遅かったかぁ……手柄を取られてしまった。 いやしかし、こうして、ことの解決策を持つヤツに出会えるとは嬉しい」


 ベリアルの店の上だ。 海斗たちはそこを振り返ると、茶色いコートに赤い着物のような衣服を着た、中年の男が立っていた。 彼は視線を集めたとわかるやいなや、すぐに4人の前に飛び降りた。


「いやぁ、爆発がしたからすぐに、おれも向かっていたんだけどね、先を越されてしまうとは〜。 なぁ、悔しいなリヴァイアサン! 次はもっと頑張ろうな!!」


 懐から緑のカラーリングがまぶしい水鉄砲を取り出し、笑い始めた。

 その姿に4人は複雑な感情を持ち、無表情になって固まった。 バルが一番乗りにそれを打破し、海斗を見上げた。


「え、もしかしてあれで火事をおさえようとしてたんですかね」


「そうなんじゃね? あんだけ自信満々そうに言えるってことはそうなんじゃね?」


 そう言うと、男はなおも笑顔で海斗を見た。


「そうだとも! このリヴァイアサンと、おれは幾度となく、このにっくき機械たちが引き起こす火災を止めたんだ!! 大きな被害がでるまでに間に合わなかったことなんて一度もない!」


「ほんとかよ」


 海斗とバル、シウニーの眉間に疑いのシワがよった。


「そうだ! そして横から、 こいつの働きに感化されて消防車が横から水をぶっかけに来るんだ!」


「間に合ってないよねそれ。 絶対火の勢い増してるよね、拡大してるよね」


 なんでこの男は自信満々に、胸を張れるのだろう。 よほどの精神状態ではなさそうである、早く距離をとりたい、と思った海斗であったが、そういうわけにもいかず、男はガッと海斗の手を握った。


「おれの名前は長宗我部秀正ちょうそかべひでまさという! もう1つの名はニアン・アート」


「やたら日本チックな名前だし古風だし! しかももう1つのなってなに、いや痛い、そんな振んな! わかったから、なんもわかってないけどわかったから!!」


「いややっぱりそんなことはどうでもいい! 一緒にこの悪しき機械たちの隠れる野望を止めてくれないか!?」


 海斗は無理やり手をひっぺがして、それでもなお笑顔でいる秀正を見つめた。


「協力って、さっきの火災止めたのこいつだし、俺よりこいつに……」


 後ろにいるベリアルに、海斗は親指で指し示したが、その言葉の壁をぶち破るように、秀正が顔を思い切り寄せてきて、固まった。


「おそらく君をスカウトしたら、周りの女性もついてきてくれるのだろう? だって、さっき君のことを魔王さんと呼んでいたからね!」


 海斗は、苦笑しかできなかった。



 少しだけ日は傾いたが、やはり中央街の活気は衰えることなく、行き交う人の数はむしろ増えているような気さえした。 混雑する場所でも、情報を集めるために足を止めてはならず、そのあいだにベリアルは、わかっていることを秀正に話そうとしたが、彼はすでに同じレベルの情報を持っていた。

 人間性というか悪魔性というか、それを疑うくらい、極めて不愉快に自信で顔を塗る程度の資格はあったのだと思った。

 そして、ラカリのラボ、はどこかのビルの下にあるのだという。


「おれは見たことがあるんだ、一瞬だけね。 なぜだか記憶にあるんだよ。 どんな構造かはよく知らないけど、雰囲気は知ってる。 薄暗い中で、ボロい照明の光をおぎなうように、カラフルな画面がいっぱいあった」


 しかし、それ以上の情報を持っていなかった。 具体的にどのビルの下にあるのか、知ってくれていればこのあとの行動が楽になったのに。

 海斗は顔をしかめた。 ラボの雰囲気は知っているのに、それまでの道を知らないというのはどういうことか。 彼の正体をますます疑ってしまうが、それよりも彼には気になることがあった。


「まぁ情報いっぱい知ってくれてるのはありがたいんだけどさ……お前、くさくね?」


 とてもくさい。 火災のにおいがあったから、さっきまで気にならなかったが、かなりくさめ。 においがクリアにわかる通りに出てきた途端、ダイレクトに鼻をえぐりとってくるように濃いスメルが漂ってきたのだ。

 秀正は、海斗と同じように顔をしかめている女性陣を見て、これは本当なのだと思った。 そして袖をにおったあと、向こうの、ビルの上の空をあおいだ。


「そう言えば、一週間くらい風呂に入ってないような……」


「うぇぇだからたまに酸っぱいにおいがただよってたんですね……」


 バルは顔を強くしかめそらした。


「一週間はさすがにマズくないか」


「身体中オイルまみれと変わんないじゃん、最低」


 アイナとベリアルからも飛ぶ非難の声に、秀正は無表情で立ち尽くした。 彼女たちから目を背けたくなったが、なぜだか首がそれを許さなかった。

 そのままだとダメだろ、という海斗のうしろで、女三人は寄り集まり、ひそひそ話を開始した。

「暑苦しいけど優しい方なのかもと期待してましたが、まさか体臭がキツイ方だとは」とか「いや性格面もキツイかもしれません。 ほら見てください、目つきも身体と同じくギトッとしてるし」とか、よくない会話が聞こえてきて、流石に心がめいった。

 すると海斗は口をひらいた。


「なんで風呂入んねェんだよ」


 秀正は、つかのま口ごもって言葉を紡いだ。


「い、いや、だって風呂、というか家ないし……」


 当然海斗は驚いたが、後ろの三人はもっと驚いて肩を跳ねさせた。


「えぇっ!! ホームレス!!? 聞きましたか姫! 性格とか体臭だけではなく、金銭的にもキツイヤツだったんだあいつ!!」


「ウチらに近づいてきたのも機械を止めるためじゃなくて、家に泊めてもらうためだよきっと!! あわよくば、いそうろうになる気だったんだよ!!」


 そして凄まじい勢いで話が勝手に発展していって、秀正は目を白黒させた。


「なんかすごい尾ひれつき始めてない? そんなことないから、懸命にラカリの野望を止めるため動いてるから」


「で、泊まれたらウチらのベッドに忍び込んで……!!」


「いやァァァァッ!! 私、金銭的に余裕ない人と子どもなんて作りたくないです!! 姫だからといってヒモ生活させてやれるほど金銭感覚狂ってないので!!」


「尾ひれつきまくって、もうそれ魚じゃなくない? 内容がモンスターと化してない?」


 特大級にふくれあがった誤解を、秀正はどうしたらいいのか分からなかった。 

 そしたら、海斗は秀正のうしろを指差した。


「ほら、ちょうどよく銭湯があんじゃねェか。 早く行ってこいよ」


「確かそこの銭湯、コインランドリーも併設されてるので、洗ってきたらいいかと」


 すましたバルの言葉が消える前に振り向いてみると、紺色の下地に、白で太く「ゆ」と書いてあるのれんが、ふわりと揺れた。 確かに、相棒が海斗だけならまだしも、女性もいるのだ、この体臭のままでは流石によくないだろう。

 しかし、体臭もキツイと、金銭的にもやはりキツイ。 手持ちがない。


「でも、お金が……」


 そう言うと、海斗はめんどくさそうにズボンのポケットから財布を取り出し、千円札を手渡してきた。


「それで足りんだろ。 早くいってこい、風呂浸かる前に5回くらい頭から足先まで洗えよ。 じゃねェと絶対湯が暗黒に染まるからな」


 海斗たちは、さきほどの熱意がどこ吹く風となった秀正のしょんぼりした後ろ姿を見送った。 扉の向こう側に消える前、小さな風に乗って酸っぱいにおいが鼻をさした。 が、もうこの匂いとおさらばできると思うと、いくらか気分が楽になった。

 そして、ここから劇的にことが進むのだろうかと、不安も襲ってきた。 もしかすれば、規模が拡大して、中央街以外で被害が出るかもしれない。 それはだめだ。 そうなる前に、どうにかしてラボの場所を見つけならない。

 そうするには、まず、どうしたらいいのか。 海斗は目を閉じた。

 すると、「あの〜」と、秀正の声が聞こえた。


「タオルも洗剤もお金入って、これじゃ足りないんだけど〜……」


 太陽は覆っていた雲を脱ぎ、温かな光をたっぷり振りまいた。


 突然暇になった海斗たちは、どこかにいくこともできず、それからは近くの電気屋の、ショーケース越しに見えるテレビをずっと眺めていた。 ガラスにあいた小さな穴から、ニュース原稿を読み上げる女の声が聞こえる。 海斗とバルは、ぼうっと見ていて、シウニーとベリアルは、姫を守るため、周囲に視線をさりげなく走らせていた。


「速報です。 電化製品爆破事件の犯人が特定されました」


 4人の目は膨れ上がった。

 女の横のモニターに、犯人の顔が映し出され、目を白黒させた。


「犯人の男の名は、長宗我部秀正といい、ラカリのあとをついだあと、電気機器をテロに用いているとのことです。 これは、カイキ氏により伝えられたことであり……」


 犯人の名前も、顔も、銭湯に向かわせたあの男であった。

どうするか──真偽わからぬこの状況下で、四人はいっせいに後ろの銭湯を振り向いた。

突然、建物内で爆発が起こり、火が噴き出始め、両側の背の低い建物の屋根から、おびただしい数の犬型ロボットと、大きな馬型ロボットにまたがった1人の中年の男が顔を出した。


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